なんだか泣きたくなってきた

金大吉珠9/12商業商業bL発売

文字の大きさ
133 / 273

その身体に溶け込みたい

しおりを挟む
きいちが目を覚ましたのは、一度目の寝起きを襲われてから二時間後。益子も葵の気配もなく、まるで脳みそがマシュマロに変わってしまったのではないかと思えるほどのふわふわとした思考の中、きいちが馬鹿になってしまう魅力的な香りの充満する部屋で、自分の体が動かないことに気がついた。

「ッ、んぇ…ぁに、こぇ…」

体はまるでヒートを起こしたときのようにポカポカとあたたかく、鼻腔をくすぐる番のフェロモンの香りに唾液があふれる。もじりと膝を摺り合わせ、内壁から零れ出たぬめりを確かめるように指で触れると、それは確かに精液だった。

そうか、マーキングか。

拙い思考の中で導き出した答えは、アルファによる所有痕にくわえ、匂い付けという誰のものかをわからせる為のマウント行為だ。

俊くんにそんなことをさせてしまうほどの何かをしたのかもしれない。全身がまるで甘美な熱で包まれるくらいの充足感。この癖になってしまうような感覚はまるで麻薬だ。
己の番に求められて愛された証拠でもあるこの感覚は、番であるアルファに好きなようにされて喜んでしまうはしたない性を如実に反映していた。

オメガは甘く啼く。なんで一人にするの、どこにいるの。アルファが喜ぶ執着を、オメガが甘えるという行為によって満たしてもらうために。

オメガはマウントやマーキングによって本質を暴かれる。自分の隠している部分を差し出すことですべてを捧げるのだ。本来なら恥ずかしくてたまらないような行為も、求められるがままに行う。
そうすることでより愛してもらえるということをわかっているからだ。

「しゅん、…しゅん?」

今のきいちは、完全にすべてを出していた。寂しがりで、甘えたがりで、幼児のようにすぐに泣く。番そばにいないだけで、こんなにも胸に穴が開く。もっと愛してわからせてほしいという貪欲な本能のまま、蕾から垂れる精液すらも気にせずふらふらとベッドから起きあがる。
ぺたぺたと足音をさせながら、番のかすかな香りがするリビングに向かって歩く。
酷使された股関節で足元は覚束ない。それでも気にせず歩くのは、俊くんが出すフェロモンの香りで感覚が鈍くなっているからだ。

カラリと開いたリビングの扉。キッチンで遅くなった朝飯の支度をしようとしていた俊くんは、真っ裸でふらふらと歩いてきたきいちにきがつくと、自制が効かずに垂れ流したままだった自分のフェロモンに誘われてきたのだと気がついて、苦笑いをした。
嫉妬のままに荒く抱いたというのに、自分の姿が見えないことに不安になって探しに来る姿が愛しく、そのまま目元をこすって愚図る様子に、きいちも本能に振り回されているのだと理解した。

「おいで、」
「うぅ、っ…」

そんな子供のように泣くきいちを迎えるように手を広げると、ふらふらかけより抱き着いてくる。ぐすぐす泣く番をあやしながら抱き上げると、汚れるのも気にせずそのままリビングのソファーに腰掛ける。尻から伝った精液の跡が残る内腿は厭らしくひかり、せっかく着ていたスウェットも、きいちのわがままにより上半身だけ脱がされると、待てないと言わんばかりに首に腕を絡めて体をくっつけた。

自分のだらしなく垂れ流していたフェロモンに酔わされたとはいえ、こうも素直に甘えてくれるなら、いつまでもこのままでいいなと思う。

ただ体力を考えるとそろそろ辞めなければ熱を出すだろう。甘えるように唇を舐めるきいちの舌に応えながら、宥めるように背筋をなでた。

「どうした?なんで泣いてる、俺がいなくて驚いたのか。」
「わかんない、けど…なんかいやだった…。」

口から生まれてきたみたいにおしゃべりが得意なはずなのに、番の前だとこんなにも口下手だ。
寂しかったら寂しかったと言えばいいのに、言ったら重いと思われるんじゃないだろうかと、余計な心配が邪魔をして素直になりきれない。
だからこそ下手な愛情確認でわがままを装い体温を確かめる。

まるで自分の前で服を着るなんて野暮なことはするなと、口よりもわかりやすく態度で示してくる。
不器用で可愛い番は、証を残してからより求めてくることが多くなった。それが何よりも喜ばせるということを、まだ理解していない。

首筋に鼻先を埋めてほう、と安堵の呼気を漏らす。ソファーにあぐらをかく俊くんの足に横向きですわったきいちは、男らしい腕に抱かれながらその華奢な体を委ねていた。

着ていたスウェットはもういらない。先程からボトムスのウエストの紐でさえ不満げに抜き取られて放り投げられたのだ。あれが無いと何かと不便なのになぁ、と頭の片隅で思ったが、投げ捨てた本人がご機嫌でスウェットのウエストを引っ張り遊んでいるので、恐らく下も脱ぐことになるだろう。

あんなに激しく抱き潰したというのに、服を着ることを許さないという。
脱がして満足して終わり、という思いがあるのだろうが、残念ながらこっちはそのつもりは無いのである。
腕の中ですりすりと甘えていた番が、尻に感じた小さな違和感を片手間に確かめる。
そのまま手をスウェットの中に誘導して握り込ませると、顔を一気に染め上げたきいちがびくりと身を震わした。

「足りないなら言ってくれればいいのにな?」
「たりてますけども…」

握りしめたまま離す気配もない。クスクスと笑いながら蟀谷に口づけを一つ。そのままひょいと抱き上げると、きいちのせいでスウェットのボトムスは下に落ちた。
そのことを本人以上にきにするきいちの瞳は、戸惑いと期待が少しだけ入り混じった色をしている。
足元に落とされたそれには見向きもせず、下着のみでも見栄えがする俊くんに擦り寄った。
きいちのおかげで先程から性器は張り詰めている。握ったのなら、ちゃんと責任をとってもらわないと。

爛れた休日だとおもう。だけど、求めずにはいられないのだから仕方ない。
結局作りかけの味噌汁に気がつくのは、夕方近くになってからだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

処理中です...