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その身体に溶け込みたい

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きいちが目を覚ましたのは、一度目の寝起きを襲われてから二時間後。益子も葵の気配もなく、まるで脳みそがマシュマロに変わってしまったのではないかと思えるほどのふわふわとした思考の中、きいちが馬鹿になってしまう魅力的な香りの充満する部屋で、自分の体が動かないことに気がついた。

「ッ、んぇ…ぁに、こぇ…」

体はまるでヒートを起こしたときのようにポカポカとあたたかく、鼻腔をくすぐる番のフェロモンの香りに唾液があふれる。もじりと膝を摺り合わせ、内壁から零れ出たぬめりを確かめるように指で触れると、それは確かに精液だった。

そうか、マーキングか。

拙い思考の中で導き出した答えは、アルファによる所有痕にくわえ、匂い付けという誰のものかをわからせる為のマウント行為だ。

俊くんにそんなことをさせてしまうほどの何かをしたのかもしれない。全身がまるで甘美な熱で包まれるくらいの充足感。この癖になってしまうような感覚はまるで麻薬だ。
己の番に求められて愛された証拠でもあるこの感覚は、番であるアルファに好きなようにされて喜んでしまうはしたない性を如実に反映していた。

オメガは甘く啼く。なんで一人にするの、どこにいるの。アルファが喜ぶ執着を、オメガが甘えるという行為によって満たしてもらうために。

オメガはマウントやマーキングによって本質を暴かれる。自分の隠している部分を差し出すことですべてを捧げるのだ。本来なら恥ずかしくてたまらないような行為も、求められるがままに行う。
そうすることでより愛してもらえるということをわかっているからだ。

「しゅん、…しゅん?」

今のきいちは、完全にすべてを出していた。寂しがりで、甘えたがりで、幼児のようにすぐに泣く。番そばにいないだけで、こんなにも胸に穴が開く。もっと愛してわからせてほしいという貪欲な本能のまま、蕾から垂れる精液すらも気にせずふらふらとベッドから起きあがる。
ぺたぺたと足音をさせながら、番のかすかな香りがするリビングに向かって歩く。
酷使された股関節で足元は覚束ない。それでも気にせず歩くのは、俊くんが出すフェロモンの香りで感覚が鈍くなっているからだ。

カラリと開いたリビングの扉。キッチンで遅くなった朝飯の支度をしようとしていた俊くんは、真っ裸でふらふらと歩いてきたきいちにきがつくと、自制が効かずに垂れ流したままだった自分のフェロモンに誘われてきたのだと気がついて、苦笑いをした。
嫉妬のままに荒く抱いたというのに、自分の姿が見えないことに不安になって探しに来る姿が愛しく、そのまま目元をこすって愚図る様子に、きいちも本能に振り回されているのだと理解した。

「おいで、」
「うぅ、っ…」

そんな子供のように泣くきいちを迎えるように手を広げると、ふらふらかけより抱き着いてくる。ぐすぐす泣く番をあやしながら抱き上げると、汚れるのも気にせずそのままリビングのソファーに腰掛ける。尻から伝った精液の跡が残る内腿は厭らしくひかり、せっかく着ていたスウェットも、きいちのわがままにより上半身だけ脱がされると、待てないと言わんばかりに首に腕を絡めて体をくっつけた。

自分のだらしなく垂れ流していたフェロモンに酔わされたとはいえ、こうも素直に甘えてくれるなら、いつまでもこのままでいいなと思う。

ただ体力を考えるとそろそろ辞めなければ熱を出すだろう。甘えるように唇を舐めるきいちの舌に応えながら、宥めるように背筋をなでた。

「どうした?なんで泣いてる、俺がいなくて驚いたのか。」
「わかんない、けど…なんかいやだった…。」

口から生まれてきたみたいにおしゃべりが得意なはずなのに、番の前だとこんなにも口下手だ。
寂しかったら寂しかったと言えばいいのに、言ったら重いと思われるんじゃないだろうかと、余計な心配が邪魔をして素直になりきれない。
だからこそ下手な愛情確認でわがままを装い体温を確かめる。

まるで自分の前で服を着るなんて野暮なことはするなと、口よりもわかりやすく態度で示してくる。
不器用で可愛い番は、証を残してからより求めてくることが多くなった。それが何よりも喜ばせるということを、まだ理解していない。

首筋に鼻先を埋めてほう、と安堵の呼気を漏らす。ソファーにあぐらをかく俊くんの足に横向きですわったきいちは、男らしい腕に抱かれながらその華奢な体を委ねていた。

着ていたスウェットはもういらない。先程からボトムスのウエストの紐でさえ不満げに抜き取られて放り投げられたのだ。あれが無いと何かと不便なのになぁ、と頭の片隅で思ったが、投げ捨てた本人がご機嫌でスウェットのウエストを引っ張り遊んでいるので、恐らく下も脱ぐことになるだろう。

あんなに激しく抱き潰したというのに、服を着ることを許さないという。
脱がして満足して終わり、という思いがあるのだろうが、残念ながらこっちはそのつもりは無いのである。
腕の中ですりすりと甘えていた番が、尻に感じた小さな違和感を片手間に確かめる。
そのまま手をスウェットの中に誘導して握り込ませると、顔を一気に染め上げたきいちがびくりと身を震わした。

「足りないなら言ってくれればいいのにな?」
「たりてますけども…」

握りしめたまま離す気配もない。クスクスと笑いながら蟀谷に口づけを一つ。そのままひょいと抱き上げると、きいちのせいでスウェットのボトムスは下に落ちた。
そのことを本人以上にきにするきいちの瞳は、戸惑いと期待が少しだけ入り混じった色をしている。
足元に落とされたそれには見向きもせず、下着のみでも見栄えがする俊くんに擦り寄った。
きいちのおかげで先程から性器は張り詰めている。握ったのなら、ちゃんと責任をとってもらわないと。

爛れた休日だとおもう。だけど、求めずにはいられないのだから仕方ない。
結局作りかけの味噌汁に気がつくのは、夕方近くになってからだった。
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