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2章
不器用が二人 *
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あの後どうしようか散々っぱら悩んだ挙げ句、駅前でケーキを購入した。
それが葵の好きなモンブランだったことに、少しでも許してもらえたらという下心がないわけでもない。
「そしてモンブランも、お値段そこそこ…」
別に、葵が食べたがってた行列のできるケーキ屋さんのモンブランを選んだのも…。
さり、と少しざらついた高級紙のような質感のケーキの箱をそっと撫でる。昔だったら、絶対にチョコレートケーキを買っていた。好みも特に聞かず、好きだろうだけで買っていたその味に、嫌いな人はいないという謎の自信を持ちながら。
金文字のロゴのそれを買うのに、女性に混じって1時間。頭一つ分でかい男が並んだ珍妙な光景を、葵に見られていたら羞恥で挙動不審になっていたかもしれない。
チョコレートもすきだけど、モンブランが一番好き。思いを受け入れてくれた葵が最初におしえてくれた、自分のこと。あの頃はガキだった。カフェラテに砂糖も入れていたくらい。
「ううむ…」
思い立ったが吉日とばかりに行動したが、喧嘩をしてからすでに2日。丸1日連絡は愚か、顔も見に行っていなかったことを思い出した。少しだけ気まずい。
思えば好きなやつがいても、こんなふうに喧嘩をしたことなんてなかったなぁ。
自分で、だいぶ大人になったとは思っていたけど、無計画なのはまだまだ治らない。
歩き慣れた道は、金色ロゴのケーキの箱をランタンのように持ちながら、まるで誘導するように葵の家へと向かわせる。帰巣本能のようなそれは、心とは裏腹に素直な歩みだった。
見慣れたドアを目の前にして、もう一度勇気づけるためにケーキの箱を撫でる。
藁にもすがるとはこのことで、どうか葵のご機嫌も治っていますように。そう祈るほか手立てはない。
ガチャリと合鍵で扉を開けると、見慣れたドアマットが出迎えてくれる。
いつもならぱたぱたと葵がかけてくる。寝ているのだろうか、今日はそのお迎えがなくて少しだけ残念だった。
「…、葵?」
靴を揃えて上がると、勝手知ったる廊下を進んでリビングの扉に手をかけた。恐る恐る開いてもそこには誰もいない。スリッパがなかったのでどこかに入るはずなのだが、見当たらない。ひとまず買ってきたケーキの箱を冷蔵庫に入れると、かばんと制服のジャケットをソファーに引っ掛けてて寝室に向かった。
「おーい?」
そっと扉を開けると室内はひどく暗かった。カーテンは締め切られ、換気をしていないせいか空気はよどんている。
ベッドの上にはこんもりと盛り上がった巣があり、そこにいるのか、かすかにそこ布団は上下に動いていた。
そっと中に入ると、つま先になにかあたった。
床に落ちていたそれを拾い上げると、アルコールの空の缶だった。それが3つも。
たしか葵は酒が得意ではなかったはずだ。ひとまずその缶をそっと机に置くと、穏やかな寝息がかすかに聞こえるその布団をそっと覗き込む。
「……、かっ、」
かっわいい。
思わず声を出しそうになったのを、慌ててこらえた。葵が俺のスウェットを枕に着せて抱きしめて寝ていたのだ。目元が赤く、ひと目見て泣いたのだろうとわかる。1日連絡も取らなかったのだ、頭を冷やすためとはいえ、やりすぎた自覚はある。
愚図ったのだろう、くしゃくしゃに丸められた俺のジャージやタオル、そしてきつく抱きしめられたお手製のだきまくらが、まるで自身の居場所はここだと言わんばかりに葵の腕に収まっていた。
それがなんとなく癪で、そっとそのだきまくらを腕から外す。
そしてまさか葵が俺のシャツを着ていたという事実と、素肌にそれ一枚という据え膳のような光景に思わず吹き出しそうになる。
「おいおい…ちょっと、無防備なんじゃねえの…」
布団をまくると、シャツのはだけた部分からは薄紅色の乳首が見え、裾からは艶めかしい細い足が重なってシーツにシワを作っていた。
裸にシャツ一枚という格好で胎児のように身体をまるめ、柔らかそうな尻が少しだけ見えていた。
ぎゅるりと下肢に血が集まる。お預けを食らったまま2日、健康な男子である俺の息子さんもすでにやる気を見せている。
しかしここで寝込みを襲ったら二度と口を利いてもらえない気もするのだ。
仕方なくスラックスやシャツを脱ぎ、下着一枚になると、そっと抱きしめるようにして葵の隣に寝転んだ。
布団を引き寄せ体にかけてやると、すん、と鼻をひくつかせ、もぞもぞと自ら胸元に顔を埋めるようにして腕の中に収まった。
小さい頭を撫でながらそっと目を閉じる。この細い体の中に溜めた不安や戸惑いを、全て取り除いてやりたかった。
こんなにも腕の中の体温が愛おしい。力加減を間違えないように、そっと抱きすくめながら、葵の寝息に引きずられるようにして、俺もつかの間の惰眠を
貪ることにした。
ぱちり、と長いまつげを震わせながら目を冷ました葵は、泣いたせいで詰まり気味の鼻をひくつかせながら、体を包む布団を足に絡めた。寝ぼけたまますりすりといい香りがする抱き枕に擦り寄り、抱きつこうと腕を回したとき、クッション性がまったくないことに気がついた。
「…?」
すんすん、と眼の前のだきまくらの香りを確かめる。自分が着せ付けていたスウェットよりも遥かに匂いが強い。ほわほわした思考で顔を上げると、番が包み込むようにその細い身体を抱きすくめるようにして眠っていた。
「っ…、」
ぱちぱちと、何度もまばたきをして思考を覚醒させる。目を擦っても、それは間違いなく益子だった。
些細なことで喧嘩して一日ほっておかれた葵は、その大きな瞳に水の被膜をまとわせて、そっと、その番の唇を指先で触れた。
帰ってきてくれた。
喉に何かが詰まるような、胸の内側から溢れた葵の弱く脆い部分がじわじわと顔を出す。
ひぐ、と喉が鳴る。初めて、苛つかたことが凄くショックだった。そして、まるで知らないというようにほって置かれたことも。
「ふ、…ぇ、う…っ…」
ぼろりと一粒涙が溢れると駄目だった。
両手で口元を抑え、必死で深呼吸をする。とめどなくあふれる涙は止まる気配がなく、その番の腕の中で小さく震えながら嗚咽を漏らさないように堪える。
もぞり、と番が動いた気がして慌てて目をつむる。寝た振りを決め込もうとするも、無駄な抵抗はあっけなく終わった。
「…葵」
ちゅ、とリップ音をたてて、髪に口付けをされる。
そのまま顔を覆っていた手を離されると、頬をなでながら顔を持ち上げられた。
「…泣かせてごめんな。」
弱ったという顔で眉を下げながら見つめてくる。この若い番は猪のように突っ走る癖に、こんなにも葵の涙に弱かった。
「っ、ぅ…う…」
「あ、あー‥ご、ごめん。ほんとに…なぁ、もう泣かないで…ね?」
ぶわりと目から溢れる涙が安堵の意味を持つことを、果たして伝わるのかどうかはわからない。
けれど、必死でその涙を拭おうとする不器用な指先はひどくガサついていて、少しだけ痛い。
それでもよかった、子供の頃もこうして拭ってくれた手だったからだ。
「うぅ、っ…ゆ、や…」
「うん、ごめん…」
「おおきく、なったなぁ…」
「…違うところが大きくなりそう。」
えぐえぐ泣く顔が可愛くて、困りながら、弱りながら、それでも寂しいと泣いてくれたことが嬉しくてニヤつく口元をばれないようにと抱きすくめる。
酔ってるのかわからないが、葵の口からはなぜか成長を喜ぶ言葉をもらったが、そんなわけのわからない情緒も含めて愛しさがこみ上げる。
そのまま抱きしめた状態で仰向けになり、その小柄な体を腹の上に乗せる。
寝乱れた髪の毛が涙で頬に張り付く様子は酷く扇情的だった。
「許してくれる?」
「うん…っ、」
「へへ、…ん。」
むに、と下手くそな押し付けるような口付けに笑う。歳上なのに拙いそれは、益子しか知らないからだろう。
その葵のうす茶の琥珀のような虹彩の奥に、ほのかに熱が灯った気がした。
「ふぁ、…」
「ん、…」
葵の薄い口を割り開いて舌を絡める。チュ、と吸い付き、丸みを帯びたふかふかとした尻をそっと揉み込む。
かすかに兆した葵の性器が下腹部に当たっていた。
「なんで脱いでたの?」
「…自棄酒して、…っその、」
「ん?」
きゅ、と口を紡ぎ迷うような顔をしたかと思うと、その細い指で益子の無骨な手をそっと握ると、まるで誘導するかのように蕩けた蕾へとあてがった。
「葵の、ここ…シた?」
「した…」
「一人で?」
「っン…、」
ツプリと、中指を侵入させると、とろけたそこが嬉しそうに吸い付いた。小さく身を震わし熱い吐息を漏らす様子に、益子の性器はずくりと脈を打つ。血管を通して興奮が全身を慌ただしく駆け抜け、獣のようにぐる、と喉が鳴る。
まるで許しを請うように、その目を涙で潤ましながら、薄く唇を開く番に誘われる様に乱暴に口付けた。
それが葵の好きなモンブランだったことに、少しでも許してもらえたらという下心がないわけでもない。
「そしてモンブランも、お値段そこそこ…」
別に、葵が食べたがってた行列のできるケーキ屋さんのモンブランを選んだのも…。
さり、と少しざらついた高級紙のような質感のケーキの箱をそっと撫でる。昔だったら、絶対にチョコレートケーキを買っていた。好みも特に聞かず、好きだろうだけで買っていたその味に、嫌いな人はいないという謎の自信を持ちながら。
金文字のロゴのそれを買うのに、女性に混じって1時間。頭一つ分でかい男が並んだ珍妙な光景を、葵に見られていたら羞恥で挙動不審になっていたかもしれない。
チョコレートもすきだけど、モンブランが一番好き。思いを受け入れてくれた葵が最初におしえてくれた、自分のこと。あの頃はガキだった。カフェラテに砂糖も入れていたくらい。
「ううむ…」
思い立ったが吉日とばかりに行動したが、喧嘩をしてからすでに2日。丸1日連絡は愚か、顔も見に行っていなかったことを思い出した。少しだけ気まずい。
思えば好きなやつがいても、こんなふうに喧嘩をしたことなんてなかったなぁ。
自分で、だいぶ大人になったとは思っていたけど、無計画なのはまだまだ治らない。
歩き慣れた道は、金色ロゴのケーキの箱をランタンのように持ちながら、まるで誘導するように葵の家へと向かわせる。帰巣本能のようなそれは、心とは裏腹に素直な歩みだった。
見慣れたドアを目の前にして、もう一度勇気づけるためにケーキの箱を撫でる。
藁にもすがるとはこのことで、どうか葵のご機嫌も治っていますように。そう祈るほか手立てはない。
ガチャリと合鍵で扉を開けると、見慣れたドアマットが出迎えてくれる。
いつもならぱたぱたと葵がかけてくる。寝ているのだろうか、今日はそのお迎えがなくて少しだけ残念だった。
「…、葵?」
靴を揃えて上がると、勝手知ったる廊下を進んでリビングの扉に手をかけた。恐る恐る開いてもそこには誰もいない。スリッパがなかったのでどこかに入るはずなのだが、見当たらない。ひとまず買ってきたケーキの箱を冷蔵庫に入れると、かばんと制服のジャケットをソファーに引っ掛けてて寝室に向かった。
「おーい?」
そっと扉を開けると室内はひどく暗かった。カーテンは締め切られ、換気をしていないせいか空気はよどんている。
ベッドの上にはこんもりと盛り上がった巣があり、そこにいるのか、かすかにそこ布団は上下に動いていた。
そっと中に入ると、つま先になにかあたった。
床に落ちていたそれを拾い上げると、アルコールの空の缶だった。それが3つも。
たしか葵は酒が得意ではなかったはずだ。ひとまずその缶をそっと机に置くと、穏やかな寝息がかすかに聞こえるその布団をそっと覗き込む。
「……、かっ、」
かっわいい。
思わず声を出しそうになったのを、慌ててこらえた。葵が俺のスウェットを枕に着せて抱きしめて寝ていたのだ。目元が赤く、ひと目見て泣いたのだろうとわかる。1日連絡も取らなかったのだ、頭を冷やすためとはいえ、やりすぎた自覚はある。
愚図ったのだろう、くしゃくしゃに丸められた俺のジャージやタオル、そしてきつく抱きしめられたお手製のだきまくらが、まるで自身の居場所はここだと言わんばかりに葵の腕に収まっていた。
それがなんとなく癪で、そっとそのだきまくらを腕から外す。
そしてまさか葵が俺のシャツを着ていたという事実と、素肌にそれ一枚という据え膳のような光景に思わず吹き出しそうになる。
「おいおい…ちょっと、無防備なんじゃねえの…」
布団をまくると、シャツのはだけた部分からは薄紅色の乳首が見え、裾からは艶めかしい細い足が重なってシーツにシワを作っていた。
裸にシャツ一枚という格好で胎児のように身体をまるめ、柔らかそうな尻が少しだけ見えていた。
ぎゅるりと下肢に血が集まる。お預けを食らったまま2日、健康な男子である俺の息子さんもすでにやる気を見せている。
しかしここで寝込みを襲ったら二度と口を利いてもらえない気もするのだ。
仕方なくスラックスやシャツを脱ぎ、下着一枚になると、そっと抱きしめるようにして葵の隣に寝転んだ。
布団を引き寄せ体にかけてやると、すん、と鼻をひくつかせ、もぞもぞと自ら胸元に顔を埋めるようにして腕の中に収まった。
小さい頭を撫でながらそっと目を閉じる。この細い体の中に溜めた不安や戸惑いを、全て取り除いてやりたかった。
こんなにも腕の中の体温が愛おしい。力加減を間違えないように、そっと抱きすくめながら、葵の寝息に引きずられるようにして、俺もつかの間の惰眠を
貪ることにした。
ぱちり、と長いまつげを震わせながら目を冷ました葵は、泣いたせいで詰まり気味の鼻をひくつかせながら、体を包む布団を足に絡めた。寝ぼけたまますりすりといい香りがする抱き枕に擦り寄り、抱きつこうと腕を回したとき、クッション性がまったくないことに気がついた。
「…?」
すんすん、と眼の前のだきまくらの香りを確かめる。自分が着せ付けていたスウェットよりも遥かに匂いが強い。ほわほわした思考で顔を上げると、番が包み込むようにその細い身体を抱きすくめるようにして眠っていた。
「っ…、」
ぱちぱちと、何度もまばたきをして思考を覚醒させる。目を擦っても、それは間違いなく益子だった。
些細なことで喧嘩して一日ほっておかれた葵は、その大きな瞳に水の被膜をまとわせて、そっと、その番の唇を指先で触れた。
帰ってきてくれた。
喉に何かが詰まるような、胸の内側から溢れた葵の弱く脆い部分がじわじわと顔を出す。
ひぐ、と喉が鳴る。初めて、苛つかたことが凄くショックだった。そして、まるで知らないというようにほって置かれたことも。
「ふ、…ぇ、う…っ…」
ぼろりと一粒涙が溢れると駄目だった。
両手で口元を抑え、必死で深呼吸をする。とめどなくあふれる涙は止まる気配がなく、その番の腕の中で小さく震えながら嗚咽を漏らさないように堪える。
もぞり、と番が動いた気がして慌てて目をつむる。寝た振りを決め込もうとするも、無駄な抵抗はあっけなく終わった。
「…葵」
ちゅ、とリップ音をたてて、髪に口付けをされる。
そのまま顔を覆っていた手を離されると、頬をなでながら顔を持ち上げられた。
「…泣かせてごめんな。」
弱ったという顔で眉を下げながら見つめてくる。この若い番は猪のように突っ走る癖に、こんなにも葵の涙に弱かった。
「っ、ぅ…う…」
「あ、あー‥ご、ごめん。ほんとに…なぁ、もう泣かないで…ね?」
ぶわりと目から溢れる涙が安堵の意味を持つことを、果たして伝わるのかどうかはわからない。
けれど、必死でその涙を拭おうとする不器用な指先はひどくガサついていて、少しだけ痛い。
それでもよかった、子供の頃もこうして拭ってくれた手だったからだ。
「うぅ、っ…ゆ、や…」
「うん、ごめん…」
「おおきく、なったなぁ…」
「…違うところが大きくなりそう。」
えぐえぐ泣く顔が可愛くて、困りながら、弱りながら、それでも寂しいと泣いてくれたことが嬉しくてニヤつく口元をばれないようにと抱きすくめる。
酔ってるのかわからないが、葵の口からはなぜか成長を喜ぶ言葉をもらったが、そんなわけのわからない情緒も含めて愛しさがこみ上げる。
そのまま抱きしめた状態で仰向けになり、その小柄な体を腹の上に乗せる。
寝乱れた髪の毛が涙で頬に張り付く様子は酷く扇情的だった。
「許してくれる?」
「うん…っ、」
「へへ、…ん。」
むに、と下手くそな押し付けるような口付けに笑う。歳上なのに拙いそれは、益子しか知らないからだろう。
その葵のうす茶の琥珀のような虹彩の奥に、ほのかに熱が灯った気がした。
「ふぁ、…」
「ん、…」
葵の薄い口を割り開いて舌を絡める。チュ、と吸い付き、丸みを帯びたふかふかとした尻をそっと揉み込む。
かすかに兆した葵の性器が下腹部に当たっていた。
「なんで脱いでたの?」
「…自棄酒して、…っその、」
「ん?」
きゅ、と口を紡ぎ迷うような顔をしたかと思うと、その細い指で益子の無骨な手をそっと握ると、まるで誘導するかのように蕩けた蕾へとあてがった。
「葵の、ここ…シた?」
「した…」
「一人で?」
「っン…、」
ツプリと、中指を侵入させると、とろけたそこが嬉しそうに吸い付いた。小さく身を震わし熱い吐息を漏らす様子に、益子の性器はずくりと脈を打つ。血管を通して興奮が全身を慌ただしく駆け抜け、獣のようにぐる、と喉が鳴る。
まるで許しを請うように、その目を涙で潤ましながら、薄く唇を開く番に誘われる様に乱暴に口付けた。
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