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2章
学の苦労
しおりを挟むあれから数日が経ち、期末考査も無事終わった。僕はというと、やはり数学で出鼻をくじかれ追試決定だ。それ以外はなんとか平均を超えることができていただけにやけにくやしい。
「惨☆敗。くそぉ…追試いやだぁあ…」
「俺は葵に教えてもらったから見事追試無しだぜ。」
「やればできるなら最初からそうしろよなぁ!くそぉー、また家庭教師プレイしたのかこんにゃろ!」
「べつに?手とり腰とり、ラブを確かめ合いながらお勉強しましたが?」
益子から、あの後仲直りしましたという連絡が来ていたのだ。僕もおかんも、その連絡が来たときには律儀なやつだなと思ったくらいで、実のところそんなに心配はしていない。というかむしろ益子が忽那さんと離れたら顔色が良くなかった。本人は気づいてないだろうけども。
「数学ホントだめだなお前。」
「俊くん追試!?」
「あるわけないだろ。まあ勉強みてやるから頑張れ。」
「うぐうううう。」
まじ数学無理オブ無理である。ちなみに学は末永くんに教えてもらうようになってからなんとか赤点回避しているらしいが、毎回テスト期間入るたびにげっそりしているので、そこそこスパルタのようだった。
「てかもうすぐ終業式だろ、また同じクラスになれっかな。」
「益子がそんなこというなんて!!何だお前寂しがり屋さんか!?」
「うわうぜえ!!それを言われるとうぜえしか出てこねえ!!」
「元気だなお前ら…」
呆れたような顔で俊くんが言う。そういえば番同士はどうなるのだろうか。同じクラスになるといいけど、成績にばらつきがないようにとかだったらクラスは離れてしまうかもしれない。それは嫌だなぁと顔に出ていたらしい、ニヤニヤした目で益子が見てきたのでしっかりと抗議しておいた。物理で。
「てか生徒会の新任式って3月?」
「そー、まあ中央委員会が繰り上がる感じ?生徒会長は柿畠って子らしい。」
「あー!あの真面目そうな子!」
そういえばレジュメ拾ったことあるわ。柿畠くんは背の高いスラッとした子だった気がする。
「その柿畠なんだがよぉ。」
「うわっ!」
背後から重い雲を背負ったようなどんより顔で学が顔を出す。座っていた僕の頭を抱きしめるようにして後ろからかかえこむと、髪の毛を乱すようにして頬擦りをした。
「学は、なんつーかきいちが好きなの態度に出すようになったなぁ。」
「おう。戯れてるだけだと思ってみてくれ。」
「じゃあマーキングするみたいに擦り付けんな。」
「あいて!」
いってーな。と俊くんにどつかれた額を撫でながらも僕の頭から離れない。全然いいんだけど、なんというか俊くんに動じず、むしろからかっているような気さえしてくる。なんで僕は学が俊くんを好きだと思ったんだろう。
「んで、柿畠くんがなんだって?」
「あいつ仕事はスゲエできるんだよ。何してもそつがないっつーか。ただ、」
「自己肯定感がなくてな。」
ぬるっと気配なく出現した末永くんが学の肩に手を置くようにして、背後に立つ。益子も俊くんも、がたがたっと席を揺らしてビビるくらい突然の登場である。
「うわびっくりした!!」
「うわうるっ、ぉごっ!」
「あ、わり。」
もちろん、学も含めてだ。ぎゅうっと僕の頭を抱きしめたまま身体をはねさせたので、でかい声とともに見事に首がしまった。げほげほと噎せながら開放されると、べしりと末永くんに頭を叩かれていた。お、おう。なんかテスト期間終わってから学の扱いが少し雑になってないか。別に二人がいいならいいけど。
「あー、逝くかとおもった。」
「マゾ気質でもあるのか、片平は。」
「いや、召される方なあ!?」
「ふむ、」
「ふむじゃねーよ!!」
末永くんのチョップが痛かったのか、やりかえす学を片手間に宥めながら、それで柿畠なんだか…と軌道修正をした。よっぽど言いたいらしい。何したの柿畠くん。
「どうやら新任式を前にがちがちに緊張してるらしくてな。お前なら大丈夫だ、期待していると決起付けたのだが全く効果すらない。」
「うわ、うーわ!!」
「あらぁ、それは柿畠君がかわいそうだわ。」
学が末永くんの言葉を聞いて、すべての原因を理解したという顔で見つめる。いやわかる。完璧超人の末永くんから期待しているとか言われたら誰だって死にたくなるだろう。良かれと思って言った一言がとどめを刺しに行ったようなもので笑う。
「なんで背中押された柿畠が可哀想なんだ?」
末永くん同様キョトンとした顔で益子も問う。たまにこういうところでアルファとオメガの考えが違うと垣間見えるのが面白い。
俊くんはむむ、と考え込んでから答え合わせをするかのように聞いてきた。
「憧れの上司に期待されるのと褒められるのは別ってことか?」
「そーーーー!!!!それそれ!!!」
「うわ、俊くん頭いいな。言いたいことまとめやがった。」
「別に、普通だろ。」
ふふん、と得意げになってる顔が可愛い。益子も末永くんもいまいちよくわかっていないようだけど、ようするに期待に答えられなかったときのことを考えてしまっているのだろう。
「それで、その柿畠くんがどうなってんの?」
話題に出すということは、なにか相談事があるのだろう。未だ首を傾げる末永くんに聞くと、解りやすく教えてくれた。
「緊張し過ぎで体調を崩していて、全然来ていないんだ。生徒会に。」
「あと、末永の顔を見ると挨拶してから逃げるよな。」
「ああ、あれは少し面白い。」
「いや面白がってやるなよ。」
それはちょっと僕も思った。
お疲れ様でぇえすとかいいながらフェードアウトしていくらしい。むしろ来年の生徒会長がこんな感じならだいぶ楽しい感じになるのではないだろうか。
「まあ、今日は来るみたいだから。連絡きたし。」
疲れたような顔で見せてくれた学のSNSのやり取りには、提出書類があるので伺いますときていた。いや自分のホームグラウンドなのに伺いますとは謙虚すぎやしないだろうか。
「なんだかわかんないけど、がんばれ。」
ずっと傍観していた俊くんが、にやにやしながら無責任な上司のような言葉を学に投げかける。
末永くんはなんとも思わなかったのか、ありがとう。と返していたが、学は見事に着火した。
「だーれが一番大変だと思ってんだこのバ会長!!!!」
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