なんだか泣きたくなってきた

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番外編

閑話休題 出られない部屋益子と俊くん編

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俊くんと益子は『どちらかが羞恥心を感じないと出られない部屋』に入ってしまいました。
180分以内に実行してください。

「まさかの!?!?」

きいちが素っ頓狂な声を上げたかと思うと、急に部屋を隔てるように壁が現れる。ガシャンと音を立ててまさかの番二人と離されるハメになってしまった。

壁の向こう側では、きいちが大笑いしている声が聞こえる。たのしそうで何よりなのだが、俊くんも益子もモニターをみてげんなりした。

「どちらかが羞恥心…」
「おいおい、モラルに反するやつは出ねぇんじゃねえのか…」

どっちかが番だったら、簡単に出られたであろうそのお題に二人は頭の痛い思いをする。どちらかって、どっちだ。羞恥心ってあれか。

「お前、とりあえず俺に股間見せてみろ。」
「そらかまわねーけどさ、カメラで取ってたら一発アウトだぜ?」

俊くんは、俺にちんこ見せるのは恥ずかしくないのかと思ったが、たしかにモニターで監視されているなら駄目である。俊くんの中で羞恥心というのは恥部を晒すことだと思っていたので、もうすでに案がない。益子はおし黙ってしまった俊くんを見て、意外と思考が小学生なんだよなぁと少しだけほのぼのした気持ちになった。

「自分がやらかした恥ずかしいこととか言えばいんじゃね?」
「…?」
「おいうそだろなんもねえのか?」
「自分の行動を恥ずかしいと思ったことはないな。」
「佐藤さーん!?この組み合わせ終わりがないんですけどぉ!?!?」

益子は投げなりな気持ちで叫んだ。きいちといい俊くんといい、なんでこの二人はこうも周りを振り回す…というか俺を振り回すのか、まったくもっていい迷惑である。
益子の諦観を含んだ瞳はそう物語っていた。

「お前の羞恥心ってなんだ。いってみろ」
「うんこしてんとき見られたら恥ずかしいじゃん?」
「いやお前、それは誰だってそうだろ。というかそれもアウトだわ。」
「葵の恥ずかしいことならいーーっぱい言えるんだけどなぁ。」

まったくもって思い浮かばない。羞恥心、羞恥心。ドキドキするのとはまた意味が違いそうである。ならばと片っ端から葵が恥ずかしがることをしていけばいいのではと思いつき、徐に益子は俊くんの胸を鷲掴む。

「…………。」
「は?なにこれ筋肉?やば。」
「力入れてるからな。」
「えいっ、いっでぇ!!!!!」
「お前はさっきから何をしてるんだ。」

しばらくもにもにと揉んでみても全く微動だにしない俊くんにしびれを切らし、そいやっと乳首を当てようとしたら横っ面をぶっ叩かれた。
もしや、と思ってそのまま益子がモニターをみても何も変わらない。

「なんだよこれ叩かれ損じゃね!?胸揉まれて乳首当てられそうになって照れたんじゃねえの!?」
「怖気が走っただけだったわ!」
「きゃんっていうの期待したのにー!!!」
「ほーーーう、なるほどよく理解した。」

益子の期待とは裏腹に、俊くんのやる気スイッチを推してしまったようである。

「は?え?ちょ、まっ」
「きゃんっていうの期待していいのか。」
「ああああああだだだだだとれるとれるぅうう!!!優しく摘んでええあいてええええ!!」
「絵面最悪だなおい。」

俊くんが仕返しに益子の甘納豆をピンポイントで当てると、そのままみょんっと結構な力で引っ張ってみたのだが、羞恥心で顔を染めるというよりも、痛みで顔を真っ赤にしていて何かが違う。
結局益子の情けない声も聞き飽きたので解放すると、べしょりと床に崩れたあと、あわてて自分の乳首を確認した。

「しんじらんねえ、赤くなってんじゃん!?!?おれの甘納豆が小豆みたいになってんじゃん!?!?」
「よかったじゃないか、わかりやすくなって。」
「もうお婿にいけねえ!葵によしよしせっくすしてもらわないと俺ぁ立ち直れねーよ!!」
「その乳首出か。」
「おめーのせいだろうがァ!!」

むきぃ!と益子が立ち上がると、自分ばっかなんでこんな目に合わにゃいかんのだと、ばっと俊くんに飛びついた。ここまでされたらヤケである。絶対にこの男を辱めてやる、今決めた、そう決めたと言わんばかりになりふりかまっていられなかった。

「おわ、っばかやめろ!」
「うるせー!!こうなりゃヤケだ!!俊くんの耳舐めてやる!寄越せー!!」
「うわやめろうるさ、シンプルに無理だからこっちくん、」
「あ。」
「あ。」

飛びついた益子を振り払いきれず、そのまま二人してべしょりと床に崩れた。ガツンとお互いの前歯がぶつかるような事故的な口付けをしてしまい、お互いがお互いに痛みと嫌悪感でのたうち回る。

「おえっマジでねぇわ、ほんと、お前マジでねぇわ。」
「血でてない!?俺の前歯から血でてない!?」
「俺の心はお前のせいで血だらけだけどな。」
「やかましいわ!!」

のたうち回るのをやめた二人は謎に距離を取りながら口元を拭う。とにもかくにも一旦冷静になりたかった。ぶにっとした益子の唇の感触に背筋を悪寒で震わす。益子も口をゴシゴシと拭ったおかげでほんのりと唇が赤らんでいる。

「ちょ、一回落ち着こう。まずさ、まじで開かねぇのか試してみようや。」
「今更だな、」
「はいはいせーのっ、」

よっ、とドアの持ち手を握り締めて思い切り引く。どんなに力を込めても開く気配はなく、その様子を見ていた俊くんが飽きたのかぽちぽちとスマホできいちに連絡をする。

すまん、事故で益子と口が当たったと送ると、指差しで爆笑するスタンプが返ってくる。
何ともおおらかな返しである。まあ、きいちもクリスマスのときにさんざん葵と唇を重ねていたのでノーカンか。

「俺がこんなに頑張ってんのにきいちといちゃついてんじゃねーぞ!!」
「っ、」

背後から益子がむきになって突撃してくる。さんざん叩いたりけったりしても開かず、ならば隔てた壁を持ち上げるかと俊くんに協力を仰ごうとしたらこれだ。

益子はぷんすこしながら呑気な俊くんに後ろから声をかけたのだが、思いの他びっくりしたらしく、手からスマホが落ちてしまった。

「ったくよお、そんなびびんなくても良くね?嫁とラインしてて二人の世界でーすってか。お、」

落ちてしまった俊くんのスマホを拾った弾みでやり取りが見えてしまう。


ー益子と俊くんがキスしたっていったら忽那さん爆笑してる。
ーさっき口拭いた。後できいちで消毒させて。
ー誰も見てないとこならいいよ。


「けっ、人のことバイ菌あつか、」
「返せ。」

まったく人を踏み台にイチャイチャしやがって。益子は呆れ気味にスマホを俊くんに返そうとしたのだが、それよりも早く手元から消えた。
ぽかんと俊くんを見つめると、眉間にしわを寄せながら面白い位顔を赤らめている。うそだろ、まじかよ。

「おま、」

益子がなにかいいかけた瞬間、ガチャンと扉が開く音がして、二人のゲームは終了した。

「むふ、まっさか俊くんの羞恥心で扉が開いちゃうとはねぇ!?だれだでしたっけぇ、さっき恥ずかしいとか思ってないとか大口叩いた男はぁ!!」
「千切るぞ。」
「どこを!?」

結局益子は、このゲームについて感想を求められたとしても、楽しめるかどうかと言われたら閉じ込められた人による、としか言いようがなかった。

千切るぞ、と一言残した俊くんはというと、次やるなら絶対に益子だけは嫌だと言った。


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