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しとどに降るは哀傷の雨
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ちんまい四肢を精一杯伸ばしながら、平次は己の蟠りを振り払うようにメチャクチャに走り回った。
途中、仲間の狸から止まるようにと名を呼ばれたが、今はただ一人にして欲しかった。
わかっていた。平次とてわかっていたのだ。一生は恨み続けられないということくらい。しかし、平次が何よりも腹の中で燻っていたのは、天嘉によって、過去に囚われ続ける自分を間接的に咎められたような気になってしまったのだ。
無論、天嘉がそのようなつもりで宣ったわけではないというのは承知している。しかし、妥協しろだと。そんなもの、出来ていればとうに楽になっている。
「義骸さま、」
あなたが、あなたが俺を恨んでくれればどれだけ楽か。平次は暗雲が空を覆うのを見上げると、今にも振り出しそうな雨の気配に足を止めた。濡れた枯葉の臭いは嫌いだ、あの日を思い出してしまうから。平次は小さく丸い体を縮こませると、寂しげに鼻を鳴らす。
芝桜殿、ああ、ああ…
ぽつりと降ってきた雨粒が、茶色い毛並みにそって地面に吸い込まれていく。この胸の疼痛のような悲しみも、洗い流してくれたらいいのに。
人間の住処を増やすために、九瞞山を人が操る鉄の化け物によって削り下ろされた。その日は丁度総大将会議で義骸が不在の日で、留守を任されていた平次は、義骸の嫁でもある芝桜を守る義務があった。
「平次、新たな住処へは居場所を追われた仲間たちもつれていきます。野生のものは言葉は通じないかもしれませんが、心細い思いをさせてはなりませんよ。」
芝桜は実に聡明で心根の優しい狸であった。人間の宅地開発のせいで跋扈するようになった鉄の化け物に親を殺されたものも受け入れ、群れの皆で育てていた。義骸率いる八百八狸は、みな芝桜によって導かれ、そして義骸によって新たな居場所を与えられてものたちばかりであった。そんな家族同然の仲間たちが、はぐれぬように、身を寄せあいながら芝桜を挟むようにして藪を駆け上がる。
「芝桜さま、この道を渡り切って仕舞えば境界まで間も無くです。平次は後ろを守ります。芝桜殿は、どうかお早く。」
小柄な芝桜を守るように、体躯の大きな狸どもが肉の壁となって囲む。
小回りのきく平次の言葉に頷くと、夜の闇に紛れるようにして群れは藪を飛び出した。小雨が降る中、芝桜を守るようにと任されていた平次たちは、まるで責め立てられるように人の手で追い出され、人の作り上げた冷たいコンクリートの道を横切った。
間も無くだ、境界に入って仕舞えば義骸様の力が及ぶ。何も怖いことなんてない。雨に濡れそぼった身を叱咤する。希望を捨てず、そして諦めぬ心意気は芝桜から教わった。仲間達のその目は真っ直ぐに先を見据え、山の頂に付近にある九瞞山裏面へと続く境界へと向かう最中であった。
雨足は次第に強まり、目に雨水が入り込む。見えづらい視界の中、草をかき分けて藪から飛び出し、先陣を切って走り抜けた狸たちに挟まれるようにして芝桜もまた続いた。しかし、それがいけなかった。
まるで猿が悲鳴をあげるかのようなけたたましい摩擦音の後、どんという鈍い音がした。
きゃいんという短い悲鳴がし、殿を務めていた平次が慌てて藪から飛び出した。降り続く雨の濡れた匂いに混じり、血の匂いが混じる。雨でさえ流されぬほどのその強き香りは、平次の身をすくませるのには十分すぎるものだった。
芝桜が、そして囲んでいた仲間の狸どもが散り散りに跳ね飛ばされて、濡れたコンクリートの上を散らばっている。荷重がかかり、破裂したものもいる。そして、まるで居場所を知らしめるかのように、白い光で照らされた先に横たわっていた芝桜の腹は、微かに動いていた。
何が、一体何があったんだ。激しい光のその先を辿るように目をすべらせる。カラカラと車輪を二つつけた妙なカラクリに跨った人間が、ノロノロと起き上がった。
あの、熊よりも細い二輪のカラクリと接触しただけで、群れの先陣は潰された。
よろけながら起き上がった人間は、まるで目の前の獣の肉を気にしてはおらず、己の騎乗していたものの動作を確認するだけであった。
「あ、あ、あ…」
平次は見ていることしかできなかった。脚をもつれさせながら、のそのそと近づく平次に気がついた人間が、まるで汚いものを見るかのようにして平次たちを避けて走り去る。
こんな、こんな理不尽が許されるのか。
平次はその体を芝桜に寄り添わせ、体温を移すようにして縮こまる。
早く、早く逃げなくては、血肉の匂いを嗅ぎつけて熊がやってきてしまう。
震えた、怖かった。守るはずの芝桜がどんどんと冷たくなっていくのだ。鼻先でそっと頬を撫でる、あの柔らかで耳障りの良い声は、掠れた呼吸で聞き取れない。
震える平次の身を、弱い力で芝桜が押した。行け。逃げなさい。瞳は姿を探すように揺らめきながら、熊が来るまえに逃げなさい。そう訴えかけるように平次を押す。
ごめんなさい、ごめんなさい。平次は間抜けな音を立てて人型を取ると、虫の吐息の芝桜をその腕で抱き上げた。この場で散った仲間は救えない、置いていってごめんなさい。芝桜は、せめて義骸の唯一だけはとフラフラと腕に抱いて駆け出した。下手くそな変化で、慣れぬ二足歩行に苦戦しながら、その場から逃げるように駆けていった。
そこからのことは、あまり覚えていない。
気がつけば芝桜の墓が立っていて、義骸はただ静かにそれを眺めて酒を飲んでいただけだった。
平次はそれから番を取ることもなく。こうして今も生き汚く生を汚している。あの時、この九瞞山の未来を考えるのであれば、死ぬべきは芝桜ではなかった。
こんな雨だから、哀傷の念に囚われてしまったのだろうか。水を吸った枯葉は肉球に張り付く。平次は気付け己がどこに向かっていったのか分からずにいた。
あたりは木々に囲まれた平地で、秋の様相を呈している不可思議な場所である。ふんふんと鼻を引くつかせ、気配を窺う。どうやらここは山に住まう妖かしの領域のようであった。
縄張り意識が強いものなら、たちまちつまみ出されてしまうだろう。そう思い至って、ようやく平次はここが九瞞山ではないことを思い出した。
「無様な、己が庭でもあるまいに、我が物顔で荒らしてしまった…。」
ふかりとした尾で地面をなぞる。ゆっくりと体を元きた道に向けようとして、平次の動きがぴたりと止まった。猛々しい大きな気配が、枯れ葉を踏み締めやってきたのだ。
「不躾な狸め、貴様。この甚雨の縄張りを荒らすとは黙過できぬ。何用があって踏み込んだ。」
甚雨と名乗った山犬は、一際体躯が大きく、豊かな灰色の毛並みを雨で銀色に染めていた。榛色の鋭い瞳は、闖入者を鋭く射抜く。身を縮こませながら後退りをする平次に、甚雨は牙を見せつけるようにして唸る。
「この先は一歩も通さぬ。死にたくなければどこへでも去れ。この牙が届かぬところへな。」
じゅくりとした水分を含んだ葉の上を、小さな足が踏みつける。足から伝わる不快感を感じながら、平次は早鐘を打つ己の警鐘音を頭に響かせた。
あの牙にやられたら、恐らく死ぬだろう。しかし、それもいいかもしれない。平次は償えぬままここまできてしまった。ならば、この身を芝桜の元へと誘ってもらえないだろうか。
後退りをしていた平次が、その脚を止めた。顔つきが変わった様子を見て、再び甚雨が怒気を表す。見事な毛を逆立てた甚雨の後ろの小さな小屋から、獣の耳をはやした幼な子が顔を出す。ああ、このものは家族を守ろうとしているのだ。平次はそれを見とめると、この山犬になら、殺されてもいいだろうと思った。
体躯を低くした甚雨が飛びかかろうと踏み込む。平次はまるで断罪を待つかのように頭を下げてその時を待った。葉が弾かれ、散らされる音がしたあと、平次の小柄な体は強い衝撃によって弾き飛ばされた、はずだった。
「甚雨ストップ!!」
「なん、天嘉殿…!?」
横から大きな衝撃を感じたのち、平次はその身を強く抱き込まれていた。
雌の匂いがする胸元に、その鼻先を押し付けられるようにして抱き込まれると、ついで感じたのはほのかな義骸の匂いが混じった天嘉とかいう人間のものだった。
「ーーーーーっ、!」
「いってぇーーー!!」
あまりの動揺と嫌悪感に、思わずその細腕にガブリと噛み付いた。柔らかな肉に小さな犬歯を突き刺すと、じゅわりとした甘やかな天嘉の血の味がした。酩酊感を覚えながら、情けなく悲鳴をあげる天嘉の腕に強く歯を立て続けていると、首の後ろの肉を捕まれて持ち上げられる。
「平次、貴様童の様な事をするでない。」
「っ、義骸さま…」
平次を持ち上げたのは義骸その人であった。渋顔をしながら、腕を押さえてうずくまる天嘉を一瞥すると、やってくれたなと溜め息を吐いた。チラリと視線を天嘉に向ける。そこには腕から血を流しながら蹲る天嘉に、甚雨が寄り添っている姿があった。
途中、仲間の狸から止まるようにと名を呼ばれたが、今はただ一人にして欲しかった。
わかっていた。平次とてわかっていたのだ。一生は恨み続けられないということくらい。しかし、平次が何よりも腹の中で燻っていたのは、天嘉によって、過去に囚われ続ける自分を間接的に咎められたような気になってしまったのだ。
無論、天嘉がそのようなつもりで宣ったわけではないというのは承知している。しかし、妥協しろだと。そんなもの、出来ていればとうに楽になっている。
「義骸さま、」
あなたが、あなたが俺を恨んでくれればどれだけ楽か。平次は暗雲が空を覆うのを見上げると、今にも振り出しそうな雨の気配に足を止めた。濡れた枯葉の臭いは嫌いだ、あの日を思い出してしまうから。平次は小さく丸い体を縮こませると、寂しげに鼻を鳴らす。
芝桜殿、ああ、ああ…
ぽつりと降ってきた雨粒が、茶色い毛並みにそって地面に吸い込まれていく。この胸の疼痛のような悲しみも、洗い流してくれたらいいのに。
人間の住処を増やすために、九瞞山を人が操る鉄の化け物によって削り下ろされた。その日は丁度総大将会議で義骸が不在の日で、留守を任されていた平次は、義骸の嫁でもある芝桜を守る義務があった。
「平次、新たな住処へは居場所を追われた仲間たちもつれていきます。野生のものは言葉は通じないかもしれませんが、心細い思いをさせてはなりませんよ。」
芝桜は実に聡明で心根の優しい狸であった。人間の宅地開発のせいで跋扈するようになった鉄の化け物に親を殺されたものも受け入れ、群れの皆で育てていた。義骸率いる八百八狸は、みな芝桜によって導かれ、そして義骸によって新たな居場所を与えられてものたちばかりであった。そんな家族同然の仲間たちが、はぐれぬように、身を寄せあいながら芝桜を挟むようにして藪を駆け上がる。
「芝桜さま、この道を渡り切って仕舞えば境界まで間も無くです。平次は後ろを守ります。芝桜殿は、どうかお早く。」
小柄な芝桜を守るように、体躯の大きな狸どもが肉の壁となって囲む。
小回りのきく平次の言葉に頷くと、夜の闇に紛れるようにして群れは藪を飛び出した。小雨が降る中、芝桜を守るようにと任されていた平次たちは、まるで責め立てられるように人の手で追い出され、人の作り上げた冷たいコンクリートの道を横切った。
間も無くだ、境界に入って仕舞えば義骸様の力が及ぶ。何も怖いことなんてない。雨に濡れそぼった身を叱咤する。希望を捨てず、そして諦めぬ心意気は芝桜から教わった。仲間達のその目は真っ直ぐに先を見据え、山の頂に付近にある九瞞山裏面へと続く境界へと向かう最中であった。
雨足は次第に強まり、目に雨水が入り込む。見えづらい視界の中、草をかき分けて藪から飛び出し、先陣を切って走り抜けた狸たちに挟まれるようにして芝桜もまた続いた。しかし、それがいけなかった。
まるで猿が悲鳴をあげるかのようなけたたましい摩擦音の後、どんという鈍い音がした。
きゃいんという短い悲鳴がし、殿を務めていた平次が慌てて藪から飛び出した。降り続く雨の濡れた匂いに混じり、血の匂いが混じる。雨でさえ流されぬほどのその強き香りは、平次の身をすくませるのには十分すぎるものだった。
芝桜が、そして囲んでいた仲間の狸どもが散り散りに跳ね飛ばされて、濡れたコンクリートの上を散らばっている。荷重がかかり、破裂したものもいる。そして、まるで居場所を知らしめるかのように、白い光で照らされた先に横たわっていた芝桜の腹は、微かに動いていた。
何が、一体何があったんだ。激しい光のその先を辿るように目をすべらせる。カラカラと車輪を二つつけた妙なカラクリに跨った人間が、ノロノロと起き上がった。
あの、熊よりも細い二輪のカラクリと接触しただけで、群れの先陣は潰された。
よろけながら起き上がった人間は、まるで目の前の獣の肉を気にしてはおらず、己の騎乗していたものの動作を確認するだけであった。
「あ、あ、あ…」
平次は見ていることしかできなかった。脚をもつれさせながら、のそのそと近づく平次に気がついた人間が、まるで汚いものを見るかのようにして平次たちを避けて走り去る。
こんな、こんな理不尽が許されるのか。
平次はその体を芝桜に寄り添わせ、体温を移すようにして縮こまる。
早く、早く逃げなくては、血肉の匂いを嗅ぎつけて熊がやってきてしまう。
震えた、怖かった。守るはずの芝桜がどんどんと冷たくなっていくのだ。鼻先でそっと頬を撫でる、あの柔らかで耳障りの良い声は、掠れた呼吸で聞き取れない。
震える平次の身を、弱い力で芝桜が押した。行け。逃げなさい。瞳は姿を探すように揺らめきながら、熊が来るまえに逃げなさい。そう訴えかけるように平次を押す。
ごめんなさい、ごめんなさい。平次は間抜けな音を立てて人型を取ると、虫の吐息の芝桜をその腕で抱き上げた。この場で散った仲間は救えない、置いていってごめんなさい。芝桜は、せめて義骸の唯一だけはとフラフラと腕に抱いて駆け出した。下手くそな変化で、慣れぬ二足歩行に苦戦しながら、その場から逃げるように駆けていった。
そこからのことは、あまり覚えていない。
気がつけば芝桜の墓が立っていて、義骸はただ静かにそれを眺めて酒を飲んでいただけだった。
平次はそれから番を取ることもなく。こうして今も生き汚く生を汚している。あの時、この九瞞山の未来を考えるのであれば、死ぬべきは芝桜ではなかった。
こんな雨だから、哀傷の念に囚われてしまったのだろうか。水を吸った枯葉は肉球に張り付く。平次は気付け己がどこに向かっていったのか分からずにいた。
あたりは木々に囲まれた平地で、秋の様相を呈している不可思議な場所である。ふんふんと鼻を引くつかせ、気配を窺う。どうやらここは山に住まう妖かしの領域のようであった。
縄張り意識が強いものなら、たちまちつまみ出されてしまうだろう。そう思い至って、ようやく平次はここが九瞞山ではないことを思い出した。
「無様な、己が庭でもあるまいに、我が物顔で荒らしてしまった…。」
ふかりとした尾で地面をなぞる。ゆっくりと体を元きた道に向けようとして、平次の動きがぴたりと止まった。猛々しい大きな気配が、枯れ葉を踏み締めやってきたのだ。
「不躾な狸め、貴様。この甚雨の縄張りを荒らすとは黙過できぬ。何用があって踏み込んだ。」
甚雨と名乗った山犬は、一際体躯が大きく、豊かな灰色の毛並みを雨で銀色に染めていた。榛色の鋭い瞳は、闖入者を鋭く射抜く。身を縮こませながら後退りをする平次に、甚雨は牙を見せつけるようにして唸る。
「この先は一歩も通さぬ。死にたくなければどこへでも去れ。この牙が届かぬところへな。」
じゅくりとした水分を含んだ葉の上を、小さな足が踏みつける。足から伝わる不快感を感じながら、平次は早鐘を打つ己の警鐘音を頭に響かせた。
あの牙にやられたら、恐らく死ぬだろう。しかし、それもいいかもしれない。平次は償えぬままここまできてしまった。ならば、この身を芝桜の元へと誘ってもらえないだろうか。
後退りをしていた平次が、その脚を止めた。顔つきが変わった様子を見て、再び甚雨が怒気を表す。見事な毛を逆立てた甚雨の後ろの小さな小屋から、獣の耳をはやした幼な子が顔を出す。ああ、このものは家族を守ろうとしているのだ。平次はそれを見とめると、この山犬になら、殺されてもいいだろうと思った。
体躯を低くした甚雨が飛びかかろうと踏み込む。平次はまるで断罪を待つかのように頭を下げてその時を待った。葉が弾かれ、散らされる音がしたあと、平次の小柄な体は強い衝撃によって弾き飛ばされた、はずだった。
「甚雨ストップ!!」
「なん、天嘉殿…!?」
横から大きな衝撃を感じたのち、平次はその身を強く抱き込まれていた。
雌の匂いがする胸元に、その鼻先を押し付けられるようにして抱き込まれると、ついで感じたのはほのかな義骸の匂いが混じった天嘉とかいう人間のものだった。
「ーーーーーっ、!」
「いってぇーーー!!」
あまりの動揺と嫌悪感に、思わずその細腕にガブリと噛み付いた。柔らかな肉に小さな犬歯を突き刺すと、じゅわりとした甘やかな天嘉の血の味がした。酩酊感を覚えながら、情けなく悲鳴をあげる天嘉の腕に強く歯を立て続けていると、首の後ろの肉を捕まれて持ち上げられる。
「平次、貴様童の様な事をするでない。」
「っ、義骸さま…」
平次を持ち上げたのは義骸その人であった。渋顔をしながら、腕を押さえてうずくまる天嘉を一瞥すると、やってくれたなと溜め息を吐いた。チラリと視線を天嘉に向ける。そこには腕から血を流しながら蹲る天嘉に、甚雨が寄り添っている姿があった。
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