ヤンキー、お山の総大将に拾われる。-理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について-

だいきち

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おいでませ、獄都

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 天嘉のイメージする地獄とは、山から溶岩が吹き出し、川は赤くどろどろしており、そこかしこに生臭い匂いが漂って、働く妖かしはすべて牛頭馬頭のような大柄な体躯の骨の被り物をした奴らか獣の顔をした者、そしてトゲトゲの金棒に青白い顔をした亡者ばかりだ。
 ちなみに空はきっと紫で、噴き出る湯気は硫黄の黄色なんだろうなあというところまで語り終えると、蘇芳は顔が忙しくなるほど大笑いをして蛇行飛行になったので、お陰様で天嘉の顔からも水分がでた。

「お前の想像しているところは、俺たちにとっても地獄だなあ。空が紫で毒の霧を吹き出すのは良かった。今年いっとう笑った。」
「安全飛行でおねがいじまず…」
「血の川も実に良い。それも水喰が悲鳴を上げそうで愉快だが、残念ながら無いな。」
「俺の話を聞けよ。」

 ぐじゅぐじゅになった顔でしがみつく天嘉の背を宥めるようにして撫でながら、蘇芳は二回目の休憩に入ることにした。
 怖すぎて漏らすかと思ったと天嘉が言ったからである。

「俺は愛おしいと思うぞ。お前の下半身も泣き虫なのは。」
「解釈違いなんですけど。それにまだ漏らしてねえもの。」

 ギリッギリだった。と涙目で言われると、捗るものがある。蘇芳は早くしてしまいなさいと促すと、天嘉はこっち来んなよと言ってから、カサコソと音を立てて藪の中へと消えていった。

 数分後、ひょこひょこと戻ってきた天嘉が頬を染めながらむんずと蘇芳の髪の毛を掴むと、嫁から漂う甘い匂いに反応した蘇芳がキョトンとした顔で見下ろした。

「なんだ、甘やかな香りがするなあ。お前の下は甘露であるが、やはり漏らしたのか?」
「甘露とか言うな。漏らしてねえもん。…でも、」
「なんだ、口ごもっていてもわからぬぞ。何かあるなら早く言ってしまいなさい。」

 胸元を抑えた天嘉が、じわわっと首筋まで赤く染まる。まるで周りの景色である紅葉に染まってしまったかのようだ。
 蘇芳はその腰に腕を回して抱き寄せると、天嘉がぎょっとした顔で見上げてきた。

「なに!?」
「すまん、お前が美味そうだったからつい。」
「…あ、あのさ」
「なんだ。」

 蘇芳の着物をきゅうっと握りしめる。天嘉によって掴まれたのは、蘇芳の心臓もだ。先程から甘く締め付けてどうしようもない。
 天嘉の手が蘇芳の手を握ると、そっと着物の合わせ目から胸元に差し込まれる。
 その大胆な行為に、蘇芳の目は大きく見開かれた。嫁がいやらしくて大変によろしい。これは明確なお誘いに違いないだろう。しかしまて、蜜月の道中であるからして、このような薄ら寒い空の下で組み敷くのは不便を強いる。ならば獄都までその熱を持て余させるかというのも、

「なんか、なんかでた…これ、なに」
「………………うむ」

 というとこまでせわしなく思考を回転させていた蘇芳だったが、手のひらの内側に触れたふくりとした乳首からぬるつくものを感じて、思考が徐々に戻ってきた。

「朝から、なんかむずぃなあとは思ってたんだけどさ…」
「乳だ」
「…デリカシーねえなまじで!」
「でり、なんだそれは。」

 手のひらを確認するようにして見ると、突起の当たっていたところに艷やかな湿り気を感じた。
 天嘉の目の前でそれをべろりと舐め取ると、なるほど先程感じた甘さの出どころはこれらしいということを理解した。

「なんで舐めんの!?」
「舐めないのか?舐めるだろう普通は。」
「うっそでしょ俺が変なの?」

 ぺしょぺしょと手についたそれを舐め取ると、天嘉の着物の合わせ目をつかんで豪快に広げる。
 ぴしりと固まった天嘉に気づかず、蘇芳の目の前に、ふくりといやらしく朱く膨れて光沢を帯びた胸の頂きが晒される。
 先端から玉のように小さく滲む母乳に誘われるように、蘇芳が天嘉の胸元を引き寄せると、止めるまもなくパクンと口に含んだ。

「あたおか!!!」

 天嘉の悲鳴混じりの声が森を騒がせる。蘇芳の柔らかな唇が己の突起を含んだのもそうだが、まずこんな外で何を如くさるのだというのが言い分である。

「む、誰だそれは。」
「頭おかしいってことだよばか!!」
「いたい!」

 聞き慣れぬ珍妙な言葉に蘇芳がむすりと顔を上げる。嫁の口から人の名ような言葉が飛んできたのだ。まさかそれが頭がおかしいなど言う言葉の略などついぞ思わぬ蘇芳は、天嘉の平手とともにそれを頭に叩き込んだ。

 どしゃりと崩れた蘇芳をよそに、天嘉は着物を慌てて引き寄せ肌を隠すと、その場にしゃがみこんで毛を逆立てた。

「ばあか!!ばああか!!おまえっ、ほん、ほんとにばああか!!じじい!えろ!ドスケベ天狗!!」
「助平なのは認めるが爺は認めぬ。ほら、乳にあて布をすれば良いだろう。全く、お転婆がすぎるなお前は。」
「ここで吸うなっつってんだボケナス!」

 顔に平手を食らっても、蘇芳にとっては子猫の戯れである。やれやれといった顔で予備の包帯をとりだすと、布巾片手にこちらへ来いと手招きする。ここでなければいくらでも吸っていいということだろうかと、天嘉の言葉を逆手に解釈をしたので気分が上がったのもあるが、なによりも新たに褥での楽しみが増えたのが大変によろしい。

 毛を逆立てたままの天嘉が警戒しながら蘇芳に近づく。胸の位置ということもあり、流石に自分では包帯は巻けぬのでここは蘇芳に頼るしかないのだが。

「うむ、やはり俺の妖力がただしくお前に馴染んだということだろうなあ。実に良い。」
「お前ちょっと黙ってくんねえまじでさあ!」
「はっはっは。戯れるな戯れるな、動くと上手く巻けぬ。少し止まっていろ。」

 うう、と悔しそうに天嘉が大人しくする。言われるがままに布巾を胸元で押さえると、蘇芳がその上から丁寧に包帯を巻く。着物を濡らさぬためのものであるが、天嘉は既に首と腹に包帯を巻いているので、まるで戦い抜いた戦士のような風貌になってしまった。

「強そう。」
「お前が雌なのは俺だけが知っていれば良いさ。さて、そろそろ行くぞ。」
「まじに一言多い。」

 バサリと大きな音を立てて、蘇芳が鳶に転じる。突然獣の姿になった旦那をぽかんとした顔で見上げると、蘇芳はきょとりとした顔で見下ろした後、何事もなかったかのように再びの人型に転じた。

「それでいいじゃん!!」
「む、俺としたことが。」

 気を抜いたことで、天嘉へ道中の飛行の選択肢を増やしてしまった。前から抱っこ紐で抱えられるよりもずっと恥ずかしくない。こうしてツルバミの読み通りに、わざと人型で飛んでいたことがバレた蘇芳は、残りの道筋は大きな鳶になって向かうこととなったのである。

 安全性を保つために、蘇芳の首と羽の間におぶさるように跨った天嘉の腿に挟まれて、これはこれで宜しい。と真面目な顔で思っていたのだが、体と首をしっかりと紐で固定されたおかげで、蘇芳はニ度ほど窒息しかけたことは余談である。




「手形はあるかい?」

 緑色のきゅうりの妖怪のような着物を着た妖かしが言った。

「手形?」
「通行手形だ。角笛があるだろう。それでも平気だ。」
「あ、なるほど。」

 はい、と天嘉は首からかけた紐を引きずり出すと、その1つ目のきゅうりの妖怪に角笛をみせる。

「たしかに。衆生の者はこれを首から下げるように。」

 牛頭馬頭の客人かあと呟かれたが、特に問題はなさそうであった。手渡された絵馬のような木の札を蘇芳と共に首から下げると、角笛も見えるところに出しておけと言われたので言われたとおりにする。
 
 促されるように大きな門をくぐると、ここが噂の獄都かあと天嘉は呆けたように辺りを見回した。

 獄都に入る手前の大きな入口は櫺星門れいせいもんのような作りになっており、見上げてしまうほど大きい。
 あのあと暫くして綺麗な川辺に降り立ったかと思うと、蘇芳は天嘉の手を握ってざばざばと横切って渡ったのだ。どうやら川を横切るというのがトリガーらしく、ぽかんとしたままの天嘉は言われたとおり親指だけを内側に握り込んで渡り切ると、見上げた空が夕焼けのように赤く染まり、自分の足元が石畳に変わっていることに驚いた。

 そこから櫺星門を潜って足を踏み入れた獄都は、天嘉の想像をはるかに超えていた。

「賑やか…」

 町並みは妓楼のようなものが犇めき合い、空が暗いせいかギラギラしている。三階建ての赤い格子窓が特徴的な建物には、三つ目の美人がこちらに向けて手招きをする遊郭のようなものがあったり、一本入ると夜市のように屋台が連なっている場所もある。
 その建物の前に止まっている牛車には般若の面のような顔がついており、牛車に悪戯をしようとした人面犬にキレている。

 町並みの主な彩りは朱色だ。朱色に黒い屋根。天嘉の想像していたおどろおどろしい雰囲気ではなく、なんとも賑々しい。
 雑多でごちゃごちゃしており、外界のクリスマスイルミネーションも怖気づいて逃げ出す具合にゴテゴテギラギラ。
 しかし下品ということもなく、どちらかというと異国の観光地に来たような胸の高鳴りも相まって、ド派手な建造物がごちゃごちゃと連なる獄都の中は、天嘉の興味を引くものばかりであった。

 どこからかドラの音がなっている。上を見上げればペラペラの狐のようなものもひらひらと空を回遊しているわ、大きな骨のような妖かしが看板を持って呼び込みまでしている。

「餓者髑髏…牛鍋屋の店員なんだ…。」
「おや、よく知ってるなあ。まあここは繁華街だからな、湯治場はこの先だが、少し見ていくか?」
「いく。」

 頬を染めた天嘉の手が蘇芳の手と絡まる。ここは獄都。一大観光地である。
 天嘉の想像する地獄とはまた違う一面を見せるこの街で稼ぐ金が、八大地獄の稼働資金となっていると言ったら野暮だろうか。




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