記憶。

ひとしずく

文字の大きさ
上 下
1 / 11
1章「出会い」

1話「似た感情」

しおりを挟む
第1話 『似た感情』

 

 

 

「"炎の大合唱"」

 

 

 

 

 

 

 

目の前の相手に手をかざし魔法名を小さく唱える。 
持ち前の冷静さで。
 

 

 

すると、大きな炎が相手の横へ発生した。

 

 

 

 

 

 

 

「"炎の大合唱"!?あれは……1流魔法使い《アリナ》しか使えないはずじゃ……!」

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、一体何者!?」

 

 

 

 

 

 

 

周りからそう声が上がる。
もう、こんな声は慣れて、飽きてきた頃。
 

 

 

"炎の大合唱"とは、簡単に言えば火属性の魔法だ。その火属性の中でも上級のものと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

だから、炎の大合唱は、"1流魔法使いが唯一使えるもの"とも言われている。そして、狙いが上手く行けば相手を容易く丸焦げにもできるのだ。私は、姉さんにこの魔法を教えてもらい使えるようになった。

 

 

 

私にも姉さんにも苗字がないし、考えれば3流魔法使いだと思う。姉さんは私よりも強かったから分からないけど…

 

 

 

つまり、1流魔法使いじゃなくても使えるということだ。




「クソッ……テメェ、何者だ………ッ!?」

 

 

 

先程の魔法で既にボロボロな相手が私を睨む。

 

私はそんな相手を嘲笑うように見下ろし言った。

 

 

 

「私はただの探偵よ。年齢は15。名をユキ=イリス。もし私が1流魔法使い《アリナ》だったらこの苗字くらい知っているはずでしょう?」

 

 

 

「じゃあ、さっきの魔法はなんだ!?あんなの、そこらの2流3流の魔法使いじゃ」

 

 

 

話を聞いていなかったのか訳の分からないことを言う。

 

1流魔法使い《アリナ》じゃないって言っているのに。

 

 

 

私はため息をついて、相手の言葉を遮る。

 

 

 

「"炎の大合唱"のことかしら?確かにそうね。あれは元々1流魔法使いが唯一使えるって言われている魔法。けど、1流でもない私が使えるってことは……分かるわよね?」

 

 

 

ああ、年下の私にやられるくらいだし、馬鹿だから分からないか。

 

なんて見下し発言を吐き出しそうになったが、やめておいた。これで自分の印象が悪くなって依頼が来なくなったら困る。依頼が来なくなったら、私の使命が……

 

 

 

「……まぁ、少しは自分の頭で考えてみたらどうかしら?そしたら、1流魔法使いだとか、2流や3流魔法使いだとかは気にならないはずよ」

 

 

 

口の端を吊り上げ、相手を見つめた。

 

相手は悔しそうに唇を噛み、また私を睨んだ。

 

その目を乾いた笑いで返しておく。

 

 

 

相手の向こう…遠くを見つめた。

 

 

 

「そろそろ、かしらね。」




小さく呟いた。私はもう一度倒れる相手を見る。

 

そして相手に指を指し口を開く。

 

 

 

「今回の脅迫事件は……貴方が犯人よ。警察もそこまで来てる。観念なさい」

 

 

 

探偵や警察ならではのセリフだ。なぜ今言ったのかは……ただ私が生きてる内に一度は言ってみたかった、それだけである。

 

 

 

「探偵の方……ですよね?ありがとうこざいました」

 

 

 

いつの間に来たのか警察が私にそう話しかけた。

 

私は「ええ。そちらもいつもお疲れ様です」と言って頷く。

 

すると1分もかからず、犯人は警察に連行されて行った。

 

 

 

はぁ……ここでも、姉さんの手がかりは掴めなかった、か……

 

 

 

今日の依頼はお終い。今日もお疲れ様、私。

 

そう自分に言い聞かせる。そしてそのまま帰る場所はないが、どこかへ足を進めようとすると、

 

 

 

「あ、あのっ……探偵さん!今日は、本当にありがとうこざいました…!」

 

 

 

私よりも2つほど年上の女性が話しかけた。

 

この人は私に依頼をしてきた張本人。

 

脅迫状が来たから犯人をつきとめて欲しい、そんなような依頼だった気がする。




内容は確か……

 

 

 

"× × ×年× × 月× × 日。お前を殺す。お前だけは絶対に許さない"

 

 

 

みたいな感じだったと思う。結局、女性は何も悪くはなく、ただの逆恨みだったのだが。
そして、筆跡でバレることを恐れたのか、ご丁寧に字もフォントで変更されている。

 

にしても……こんな感情はどこかで………

 

 

 

ああ、そうだ。姉さんを殺した犯人に対しての殺意だ。



許せないという気持ちは、私にもわかる。殺してしまいたいと思うのも。 

 

……でも、1番殺してやりたいのは、無力な"自分自身"だ。

 

 

 

私はオドオドする女性に、

 

 

 

「__いいえ。依頼人の貴方が無事でよかった。またの依頼、お待ちしてるわね。」

 

 

笑みを浮かべて言った。 

もう、誰かを失いたくはないから。
しおりを挟む

処理中です...