愛されてアブノーマル(旧題:ヒーローも犯罪者)

柳月ほたる

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番外編

番外編・魅惑の生パンツ

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奈津がまだ片思い中だった頃のエピソード。


平日の午前10時前、奈津が所属する営業二課内はみな出払っていて閑散としている。
課内に残っているのは、もうすぐ始まる会議に出なければならない営業二課長・真山と、内勤である営業事務の面々だけ。しかもその営業事務も、ちょうど有給を取っていたり、トイレに行くために席を外していたりで、席についているのは奈津ともう一人だけである。
真山が声を掛けて来たのはそんな時だった。

「ちょっといいか?下の資料室で探し物があるんだが、手伝ってくれないかな」
「……!」
思いもよらない大チャンスに、奈津は反射的に隣の席の高橋を見る。
彼女は既婚子持ちのベテランで、他の女子社員と違って真山にキャーキャーと黄色い声を上げない人だ。
だから、頼めばこの仕事は奈津に譲ってくれる気がする。
密かに片思いをしている真山と2人きりで資料室に行けるチャンスなんて滅多にない。行きたい、すごく行きたい!
「あの、高橋さん……」
奈津が今作っている請求書は至急の案件ではないからちょっとくらい席を外しても問題はない。それに真山と2人で密室(!)に籠もった後なら仕事の能率は何倍にもなるだろう。
私が行きたいんですけどいいですよね?!という目で高橋に訴えると、奈津の片思い事情をよく知っている高橋は苦笑しながら、
「すみません、私はちょっと手が外せないので……」
と断ってくれた。
「じゃあ悪いが、結城いいか?」
「は、はい……っ!」
憧れの真山から直々に指名されて胸がどきんと飛び跳ねる。嬉しくて嬉しくて、ついつい勢いよすぎる返事をしてしまい、こんなんじゃ変な奴だと思われると慌ててしまった。

「俺は手前から探すから、結城は奥から頼む」
「分かりました」
地階にある資料室にやって来てから、真山の持っていたリストを元に必要な書類を探し始めた。資料室に収められている紙の量は膨大で、きっちりと整理してあるとはいえなかなか骨の折れる作業である。
だがそれが大変であればあるほど真山と過ごす時間が増えるため、奈津は非常に幸せな気分だ。別々に探しているから交わす言葉は多くはないが、密室に2人きりという思わせぶりなシチュエーションがまたいい。

「85~90年の資料だからあの辺だな」
「あ、はいっ。……ありますね」
真山が指差す棚を見上げて、奈津はこくこくと頷いた。
もしもこれがドラマだったら、何かのはずみに資料室に閉じ込められてしまい、2人きりで一夜を明かすというロマンティックな展開になるんだろう。
だがそんな美味しいトラブルは起きないうちに求めている書類が入っているだろうファイルは見つかった。
ちょっと残念だが、こうやって真山と2人きりになれただけでもありがたいと思おう。少し手を伸ばせば触れられるような距離に彼がいるなんて、さっきからずっとドキドキしている。

探していたファイルは棚の一番高いところに置いてあったため、すぐに真山が脚立を持ってきてくれた。
「じゃあ俺が上るから結城は受け取ってくれるか?」
「えっ!いえ、私が上がりますよ!」
真山を脚立に手を掛けるのを見て、奈津は慌ててそれを制止した。
目当てのファイルはどれも薄くて、あまり重そうではない。上司に脚立を持って来させるという失態を犯してしまったし、だったら部下の自分が上がるべきだと思ったのだ。
「いや、しかし女性にこんな事をさせる訳には……」
「男とか女とか関係ないです。こういう時は部下の私が上がるべきだと思います」
そう主張すると真山は渋々手を引いた。
「危ないと思ったら代わるから言うんだぞ」
「大丈夫ですよ。課長って意外と心配性なんですね」
ふふふと笑って軽口を叩きながらも、奈津は内心どきどきバクバクしていた。なにしろあの真山とこんなに至近距離で会話をして、しかも過保護に女の子扱いしてもらっているのだ。
脚立に上るくらいでこんなに心配してもらえるなんて、今日はなんていい日なんだろうか。
「じゃあ私が取るので、下で受け取りお願いしますね」
「おう。任せとけ」
奈津は脚立に足を掛けた。



奈津が棚からファイルを取り出し、次々に下にいる恭介に渡す。それを受け取りながら恭介は、白か、と心の中で呟いた。
小柄な奈津が棚の一番上にあるファイルを取るためには、脚立の一番上に上らなければならない。スカート姿の奈津がそれをすると、当然その下からは覗き放題になる。
まともな男ならば、最低限のマナーとして出来るだけ上は見ないのかもしれない。
だが生憎恭介はそういう遠慮はしない主義である。思いっきり覗き込んで、心ゆくまでストッキング越しに激レア生パンツを目に焼き付けさせてもらう。

白パンツは大人しくて清楚な印象の奈津にぴったりだった。
可愛らしい奈津が意外にも赤の紐パンや黒のガーターベルトをつけている、というシチュエーションにも興奮するが、こうやって期待を裏切らない白というのもいい。
もちろんピンクや水色といったおしゃれパンツもいい。
まぁ言ってしまえば、奈津がつけているパンツならばなんでもいいのだ。

「白か……」
「えっ?ファイルは緑ですよ。課長、あと1冊です」
「分かった」
それにしても奈津の鈍感さには恐れ入るばかりだ。
さっきからかなり分かりやすくパンツを覗いているというのに、彼女は全く気付かない。奈津が恭介のことを信用しきっているからなのか、バレたらバレたで構わないからと堂々としているのが逆に気付かれない原因になっているのか、とにかくパンツを覗き放題なのだ。
日頃、僅かなチャンスを見計らい、満員のエレベーターの中や階段の下から手鏡で覗いていたのがバカみたいだと思った。
出来れば週に1度はこういう機会を儲けたいが、さすがにそこまですると周囲に怪しまれてしまうだろうか。

そんな中で最後のファイルを受け取った恭介は、現在奈津がいる場所よりも50センチほど右を指差した。
「結城、向こうの青いファイルも取れるか?」
奈津がその指の先を見る。
「無理そうなら、一旦降りて脚立を動かそう」
「いえ!大丈夫です!」
ちょっと無茶振りをしてみると、奈津は素直に手を伸ばした。
一旦降りて脚立を動かして…という手間を上司に掛けさせまいとする気遣いなのだろう。だがその優しさが仇となって、手を伸ばした奈津の脇の下はガラ空きだ。カットソーと体の間に不自然な隙間が空き、中のブラジャーが……、
「チッ」
「?課長どうしました?」
「いや、見えそうで見えないんだ」
「は……?ファイルなら見えてるから大丈夫ですよ」
恭介念願のブラジャーがあると思っていた場所には、白くて薄いキャミソールがあった。
これはこれでいいが、やはりブラジャーが見たかったのだ。色は、形は、柄は、と期待を膨らませていた恭介は、落胆から思わず舌打ちする。
もしも恭介が政治家だったら、今すぐキャミソール禁止法案を作っていたと思う。政治家は無理でも、もう少し出世したら社則でキャミソール禁止に出来ないだろうか。

「結城、ありがとう。助かったよ」
「いえっ!この程度でよかったらいつでもお手伝いさせて頂きます!」
資料室から帰る道すがらお礼を言うと、奈津は顔を真っ赤にしてぶんぶんと両手を振った。
ブラジャーが見れなかったのは残念だが、生パンツは脳内に焼き付けたし、こんな可愛い仕草も見ることが出来た。
恭介の計画はまずまずの成功を修めたと言えるだろう。

実は、今回の生パンツは偶然の産物ではない。恭介が綿密に立てた計画による必然の結果だ。
必要だった資料は事前に集めてわざわざ棚の一番上に置いておいておき、ちょうど事務員が少ない時間を見計らって手伝って欲しいと声を掛ける。
もしももう一人残っていた高橋が行くと言ったら、適当に仕事を割り振って忙しくしてやるつもりだった。しかし2人が目配せし合った後に奈津が来てくれることになりほっと一安心した。
もちろん全ては奈津を脚立の上に上がらせるためである。

「……そろそろ手に入れたいところだな」
生ブラジャーも拝みたいことだし。
そう呟くと、小首をかしげた奈津がリスのように丸い目でこちらをじっと見た。いちいち仕草が小動物じみていて可愛い。
「すみません、何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。結城、ありがとな。本当に結城が来てくれてよかったよ」
「い、いえっ!この程度でそんな風に言って頂けて嬉しいです!」
あたふたと赤くなる奈津を見て、恭介はふっと頬を緩めた。
反応もウブで可愛いし、はいてるパンツは白、こんな子が自宅で「おかえりなさい」と言ってくれるような生活が出来たらどんなに癒されるだろう。
毎日べたべたに甘やかして可愛がって、ついでにうまく丸め込んで生パンツを拝ませてもらうのだ。想像しただけで血が滾る。


恭介が奈津のマンションに引っ越し、本格的な下着泥棒を始める少し前のある日の出来事だった。
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