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四通目 おまけの話
6、恨みはお届けできません
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僕が「配達人」になって早半年。
楓がマンションの地下室を貸してくれて。そこに書いてもらった手紙を入れてもらって、依頼人の想いを届けるという形式が出来上がった。
その間に何人かの手紙を届けたのだけど。
それがいつの間にか「どんな手紙でも届けてもらえる」という噂になって。
地下室には常に手紙が溢れるようになった。真剣な思いや、噂を確かめたいってだけの人、ただ愚痴を連ねただけのもの、住所や氏名がしっかり書いてあって、切手まで貼ってあったもの。
最初は全部届けようと思っていたよ。
でも……ある手紙に触れた時、僕は倒れてしまった。
『死ね』
触れた瞬間の頭を殴られたような強い衝撃。
分厚い封筒びっしりに入った便箋を黒く塗り潰す勢いで書かれた「死ね」という字。
それは、婚約者を部下に取られたOLさんがその部下に宛てたもので。
(あの女さえいなければ)
手紙に込められた、全ての人を呪うほどの強い怒りと悲しみ。
手紙から流れ込んでくる記憶。恋人を奪った相手が浮かべる嫌な笑い。職場にいられなくなり、全てを奪われた悔しさ。
「これはだめだ。届けちゃいけない」
僕の話を聞いた要がそう言った。楓もこの件はもう触れないほうが良いと言った。
一見特徴のない封筒だけど、その分厚さで見分けがつくのでもう触らないと決めた。
けれど、その手紙は毎日続いた。そしてある日。
「ねぇ、何で届けてくれないの?」
「うわっ!?」
手紙の山に伸ばした手を、机の下から掴まれた。
その手から流れ込んでくるのは、強い殺意。それも、手紙を届けない僕に向けての。
「貴女の手紙は呪いそのものになっていました。だから届けないんです」
「その子の手を放してやってくれ。指示したのは俺だ」
向けられた悪意があまりにも痛くて、また意識を失いかけた時、要と楓が割って入ってくれた。女の人から引き剥がして、守るように要が抱きしめてくれる。ほぅっ、と安心して溜息が漏れる。
人をここまで怖いと思ったのは初めてだった。
「何よ。どんな手紙でも届けてくれるんじゃないの?」
「それはあんたらが勝手に言ってるだけだ」
「散々綴っても晴れない想いなら、この子じゃなくて直接手紙の相手にぶつけてください」
鬼のような形相で睨む女の人から僕を隠すように二人が立つ。
さすがに分が悪いと思ったのか、それとも要の言葉に納得したのか。それは触れてない僕にはわからないけど。
「もう頼まないわよ! 役立たず!」
そう怒鳴り散らして女の人は去っていった。
「こっわ~。何だあの女」
「香月、大丈夫かい?」
心が読めないはずの二人もあの女の人には恐怖を感じたみたい。
そんな事があって、ちゃんとルールを作って、それを守れる人のだけ届けようってなった。
まず、配達人について詮索しないこと。そして、お届け物を回収に来るところを見ないこと。
これは、今回のように待ち伏せされないためのもの。逆恨みなどから僕を守るためのもの。
次に、この部屋を荒らさないこと。これは設備の管理の問題。上の階みたく机を壊されたり手紙を散らかされたりしたら片付けが大変だし、怪我の心配もあるからね。
そして、郵便局など一般の配送業者が請け負ってくれるものについてはそちらを利用すること。
これは当然だろう。住所や宛名、切手まで貼ってあって何でポストじゃなくて僕なんだ。
まぁそこまでちゃんとしてあるのはたいてい楓が近くの郵便ポストに突っ込んでるから厳密には拒否していない。
届ける【想い】は真摯なものであること。真摯っていうのは、心からってことらしい。
お試しとかふざけてとかの軽い気持ちで書かれた手紙からは僕は何も読み取ることはできない。そこには届けたい相手への何の想いも込められていないのだから当然だ。
触れただけで相手の状況や顔など色々な情報が読み取れるほど強い想い。そこまで重く抱え込んだ想いならきちんと相手を特定して届けられる。それに、書く事で心の整理もつくでしょう?
相手を害するものは入れないこと。
相手を恨んだり憎んだりといった気持ちは強いから、触れただけで深く読み取っちゃうの。そして、そういう感情はとても「痛い」。下手すると気絶しちゃうほどに。そんなものにはできれば触れたくないし、届けたいなら自分でお願いします。
最後に、この部屋や配達人に関して他言しないこと。
配達人に関して曲がった噂を立てられたら、また逆恨みされちゃうし。興味本位の人も増えて迷惑だから。できれば僕自身が見つけて声をかけた人だけが良いかな。
「こんなもんか」
楓が意外なほど綺麗な字で書いてくれる。
学校の先生をしている時もあるらしくて、そのために習字を習っていたらしい。
「意外過ぎる」
「うるせぇ」
こうして、今の配達人の形が出来上がったんだ。
そのOLさんがどうなったかって? 知らないよ。
手紙の相手のお兄さんと腕を組んで幸せそうに笑いながら歩いているのは見かけたけど。その後ろに、真っ黒の人型に変形して涙を溢す女性っぽいのがぴったりついていくのもね。
関わりたくないし、関わっちゃいけないと要に言われたから、見えないふり、聞こえないふりをしちゃった。
その後そのOLさんがどうなったかは僕は知らない。
楓がマンションの地下室を貸してくれて。そこに書いてもらった手紙を入れてもらって、依頼人の想いを届けるという形式が出来上がった。
その間に何人かの手紙を届けたのだけど。
それがいつの間にか「どんな手紙でも届けてもらえる」という噂になって。
地下室には常に手紙が溢れるようになった。真剣な思いや、噂を確かめたいってだけの人、ただ愚痴を連ねただけのもの、住所や氏名がしっかり書いてあって、切手まで貼ってあったもの。
最初は全部届けようと思っていたよ。
でも……ある手紙に触れた時、僕は倒れてしまった。
『死ね』
触れた瞬間の頭を殴られたような強い衝撃。
分厚い封筒びっしりに入った便箋を黒く塗り潰す勢いで書かれた「死ね」という字。
それは、婚約者を部下に取られたOLさんがその部下に宛てたもので。
(あの女さえいなければ)
手紙に込められた、全ての人を呪うほどの強い怒りと悲しみ。
手紙から流れ込んでくる記憶。恋人を奪った相手が浮かべる嫌な笑い。職場にいられなくなり、全てを奪われた悔しさ。
「これはだめだ。届けちゃいけない」
僕の話を聞いた要がそう言った。楓もこの件はもう触れないほうが良いと言った。
一見特徴のない封筒だけど、その分厚さで見分けがつくのでもう触らないと決めた。
けれど、その手紙は毎日続いた。そしてある日。
「ねぇ、何で届けてくれないの?」
「うわっ!?」
手紙の山に伸ばした手を、机の下から掴まれた。
その手から流れ込んでくるのは、強い殺意。それも、手紙を届けない僕に向けての。
「貴女の手紙は呪いそのものになっていました。だから届けないんです」
「その子の手を放してやってくれ。指示したのは俺だ」
向けられた悪意があまりにも痛くて、また意識を失いかけた時、要と楓が割って入ってくれた。女の人から引き剥がして、守るように要が抱きしめてくれる。ほぅっ、と安心して溜息が漏れる。
人をここまで怖いと思ったのは初めてだった。
「何よ。どんな手紙でも届けてくれるんじゃないの?」
「それはあんたらが勝手に言ってるだけだ」
「散々綴っても晴れない想いなら、この子じゃなくて直接手紙の相手にぶつけてください」
鬼のような形相で睨む女の人から僕を隠すように二人が立つ。
さすがに分が悪いと思ったのか、それとも要の言葉に納得したのか。それは触れてない僕にはわからないけど。
「もう頼まないわよ! 役立たず!」
そう怒鳴り散らして女の人は去っていった。
「こっわ~。何だあの女」
「香月、大丈夫かい?」
心が読めないはずの二人もあの女の人には恐怖を感じたみたい。
そんな事があって、ちゃんとルールを作って、それを守れる人のだけ届けようってなった。
まず、配達人について詮索しないこと。そして、お届け物を回収に来るところを見ないこと。
これは、今回のように待ち伏せされないためのもの。逆恨みなどから僕を守るためのもの。
次に、この部屋を荒らさないこと。これは設備の管理の問題。上の階みたく机を壊されたり手紙を散らかされたりしたら片付けが大変だし、怪我の心配もあるからね。
そして、郵便局など一般の配送業者が請け負ってくれるものについてはそちらを利用すること。
これは当然だろう。住所や宛名、切手まで貼ってあって何でポストじゃなくて僕なんだ。
まぁそこまでちゃんとしてあるのはたいてい楓が近くの郵便ポストに突っ込んでるから厳密には拒否していない。
届ける【想い】は真摯なものであること。真摯っていうのは、心からってことらしい。
お試しとかふざけてとかの軽い気持ちで書かれた手紙からは僕は何も読み取ることはできない。そこには届けたい相手への何の想いも込められていないのだから当然だ。
触れただけで相手の状況や顔など色々な情報が読み取れるほど強い想い。そこまで重く抱え込んだ想いならきちんと相手を特定して届けられる。それに、書く事で心の整理もつくでしょう?
相手を害するものは入れないこと。
相手を恨んだり憎んだりといった気持ちは強いから、触れただけで深く読み取っちゃうの。そして、そういう感情はとても「痛い」。下手すると気絶しちゃうほどに。そんなものにはできれば触れたくないし、届けたいなら自分でお願いします。
最後に、この部屋や配達人に関して他言しないこと。
配達人に関して曲がった噂を立てられたら、また逆恨みされちゃうし。興味本位の人も増えて迷惑だから。できれば僕自身が見つけて声をかけた人だけが良いかな。
「こんなもんか」
楓が意外なほど綺麗な字で書いてくれる。
学校の先生をしている時もあるらしくて、そのために習字を習っていたらしい。
「意外過ぎる」
「うるせぇ」
こうして、今の配達人の形が出来上がったんだ。
そのOLさんがどうなったかって? 知らないよ。
手紙の相手のお兄さんと腕を組んで幸せそうに笑いながら歩いているのは見かけたけど。その後ろに、真っ黒の人型に変形して涙を溢す女性っぽいのがぴったりついていくのもね。
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