平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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11 魔女で一般人

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「うああ、頭が……頭が割れそう……」

「動くな、安静にしていろ」

 現在、私は宿のベッドでテディさんに看病されている。
 レイラさんに『愛』をかえした後、どうやら私は気を失ってしまったらしい。ここまで運んできてくれたキリルさんは、仕事があったようでお礼を言えていない。今度会えたら、なにかお礼をしようと思う。

「面倒をかけてしまってすみません……」

 テディさんの仕事を増やしてばかりいるような気がする。もう王都での「おもてなし」は、これでおしまいにしてくれたりしないかな……。家に帰りたい。

「そう思うのなら、これからはどこに行くにしても俺を連れて行ってくれ」

 おでこに置かれたタオルをかえてくれながら、テディさんは真面目な声でそう言った。私はその言葉でふと気になったことを聞いた。

「善処します……。あとまったく関係ないんですけど、テディさんの一人称って『私』じゃなかったんですか?」

 初めて会った時は、たしか『私』だったような……。

「公私をわけている」

 短くそう答えた彼は、少しずれてしまっていた布団をかけ直してくれた。

「なるほど、私的な場だと『俺』になるんですね」

 なんとか話題をそらせたと安堵していると、彼はじっとこちらを見つめて言った。

「今後は、俺を同行させるように」

「……はい」

 まったく話題をそらせてなかった。一緒にいることをしっかりと約束させられ、私はテディさんに、かいがいしくお世話された。














 それから数日がたった。


「体調はどう~?」

 そう言って部屋に入ってきたのは、ここ最近見かけてなかったキリルさんだ。
 私は心配性になってしまったテディさんによって、いまだにベッドの上にいる。ダラダラするのは好きだが、他人に強要されてベッドの上にいるのは苦痛になると学んだ。

「体調は万全なのに、なぜかベッドから出ることが許されてません」

「あはは!かわそー」

「絶対そんなこと思ってないでしょう」

 そばまで来ていたキリルさんに詰め寄ろうと、ベッドから身を乗り出す。

「シロ殿、そんなに動いてはベッドから落ちる」

「……こんなので落ちてたら、それはただの阿呆です」

「そうか」

「そうです」

「ブハッ!」

 キリルさんは堪えきれなかったのか、お腹を抱えながら笑っている。そのままお腹がよじれてしまうことを願う。

「ディアクロス、お前ここ最近どうしたんだ?面白すぎるぞ」

 笑顔のキリルさんと仏頂面のテディさんを見比べながら、ふと思ったことがあった。

「そうだ、聞き忘れてたんですけど」

「どうした」

 キリルさんを相手にもしてなかったテディさんは、私の声に瞬時に答える。その様子を見て、キリルさんはさらに笑っている。キリルさん、そろそろ腹筋が筋肉痛になるんじゃないかな。 

「テディさんの名前ってディアクロスだったんですね」

「そうだが」

 不思議そうにするテディさんに、本題をぶつける。

「いや、なんでテディにしたんですか?」

「………」

「ゲホッゴホッ!」

 沈黙するテディさんを見る。あと、笑いすぎてむせているキリルさんは無視だ。

「ほら、ディアクロスっていうカッコイイ名前だったらディアスとかクロスとかのほうが……」

「いや、テディがいい」

「う、うん、なるほど」

 本人の趣向であるなら、なにも言うまいと口を閉じる。しかし、もはや立っていられず、地面に伏せているキリルさんには言いたいことしかない。

「汚れますよ、地面が」

「いや、そこは俺がじゃない?」

 やっと復活したキリルさんが、立ち上がりながらそう言う。その顔には笑いの余韻が残っていて、少々癪に感じる。

「ディアクロス、俺もテ」

「呼ぶな」

「えー!」

「そりゃそうでしょ……」

 からかってくる気満々の人に、どうして呼ばせてあげると思ったのか……。ブーブー言っているキリルさんに、そろそろ本題に入ってもらう。

「それでキリルさん、ご用件は?」

 テディさんにじゃれついていキリルさんは、それを聞いてこちらを向く。その顔には、とてもいい笑顔がはりついていた。

「あ、やっぱりいいで」

「よくぞ聞いてくれた!」

 失敗した……。用件聞くんじゃなくて、そのまま帰ってもらえばよかった……。後悔は先に立たないとはこういうことか。あとテディさん、我関せずみたいな顔やめて。

「シロちゃん、ちょっと王城に来て王様と会ってくれない?」

「は?」

 絶対に嫌だという思いを、これでもかとこめた「は」だった。今なら、キリルさんを闇に葬ることもやぶさかではない。かかげた握り拳を、標的へと振り下ろさんとする。

「ちょちょ待って!」

 暴力に魂を売った私に、キリルさんは事の経緯を説明した。












「つまり、魔女の能力をもつ私に会いたいということですね」

「そうそう」

「でも、魔女の能力を引き継いだ一般人ですよ?そんな人なら、他にもいますけど」

 魔女の能力を引き継ぐことは珍しいことではあるが、ないわけじゃない。魔女が気に入った者に自身の能力を分け与えたり、引き継がせたりすることは、実際あることなのだ。加えて、魔女の能力を引き継いだからといって魔女になれるわけじゃない。普通の人間は、引き継いだ能力を保持できる『器』がないため、次第にその能力を失う。まあ結局、ひと時の夢を見たようなものなのだ。

「いや~、それが今回はわけあってね……」

 歯切れの悪いキリルさんに、一抹の不安を抱く。これは、しばらく家に帰れないのではないかという悪い予感だ。

「実は―――」

















「あり得ない……」

「普通にしていれば問題ない」

「いや、そういう問題じゃないです……」

 現在、私とテディさんは立派な扉の前にいる。そう、玉座に続く門の前に、だ。近くにいる衛兵の人の顔なんて見ることすらできない。こわすぎて。

 こうなった経緯は、とても簡単だ。
 王様たちはなにか目的があって、魔女を集めようとしたらしい。しかし、魔女は気まぐれで神出鬼没。なかなか見つけられない上、捕まえることは至難の業だ。そこに、都合よくいた魔女の能力を引き継いだ一般人。「もうこいつでいいや」ということで、魔女の代理にされたというわけだ。

「魔女の代理じゃなくて、魔女のかわりに生贄になっただけなんじゃ……」

「行くぞ」

 嘆く私を気にもせず、テディさんは門を開けるよう衛兵に命令した。
 扉が開く。これから私はとんでもなく面倒なことに巻き込まれるのだろう。

「……帰りたい」

「謁見がすめば帰れる」

 こちらの心情を一切くんでくれないテディさんにつれられて、王様と会うことになった。
















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