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14 黒騎士
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「―――で?君の望みは」
「ん?」
「だから望みだよ」
芝生に座り込み、さあ話し合いだと思った矢先にこの質問だ。黒騎士はだいぶ拗らせている。もしくは、周囲の環境が彼をそうさせたのかもしれない。いずれにせよ、面倒なことであるのは変わらない。
こういう場合は下手に否定をすると対話が続かなくなるので、まずは彼の出方をみよう。
「あなたは、私がどんなことを望むと思っているんですか?」
私の質問返しに、黒騎士は真面目に考え込む。この姿から想像するに、きっと彼は根は素直な人なのだろう。ただちょっと天邪鬼なだけで……。
「ふむ、僕とデートをしたいとか」
「え”」
「僕の恋人になりたいとか」
「………」
どうやら黒騎士は苦労したようだ。彼へ労いをこめた眼差しをおくる。同情を感じ取ったのか、彼は嫌そうな顔をした。
「どうしてそんな目で見てくるんだ」
「いや、なんでもないです」
不審そうにこちらを見てくる彼を躱し、話をもどす。
「私があなたに恋しているように見えますか……」
「……いや、見えないな」
それはそうだろう、渾身の死んだ目をしているのだから。なお、いま脳裏に浮かんでいるのはあの王様との謁見だ。家に帰れないと知ったときの絶望は今でも思い出せる。
「黒騎士さん……、とりあえず私たちは親交から深めましょうか」
こうして、お互いを知るための交流をすることになった。
「シロ!聞いてくれ!」
「黒騎士さん……今は忙しいから、ちょっと待ってください」
「ケイでいいと言ってるだろ……」
黒騎士がぼそぼそとなにかを言っているが、薬窯は煮立つのを待ってはくれない。申し訳ないと思うが、薬作りを優先させてもらう。
黒騎士との交流だが、なかなか順調にいった。天邪鬼仲間だったから、気持ちを把握しやすかったというのが大きい。しかし誤算だったのが、順調すぎて私の仕事場まで突入してくるようになったことだ。難解な気質の彼には、それを理解してくれる友達が少なかったのかもしれない。そう思うと、追い出すことができない。
(ぼっち仲間は貴重だからなぁ)
テディさんはなんかジャンルが違うし、キリルさんは真性の陽気な人だ。この世界の人たちは、基本的に人に物怖じしない。羨ましい気質だ。
「よし、今日のノルマ達成」
完成した薬をビンへつめようとすると、隣からヒョイとそれを奪われた。黒騎士だ。ぶすくれた顔をしているのは、相手するのを後回しにしたからだろう。
「やっと終わったのか、まったくとろいな」
この憎まれ口は、彼が甘えている証拠だ。素直に寂しかったと言えないことが伝わってくる。きっとこれをただの嫌味だと誤解してしまう人がほとんどだったのだろう……。
「手伝ってくれてありがとうございます」
「ふんっ」
彼は私を鼻で笑いながらも、ちゃんと薬をビンにつめる作業を手伝ってくれる。ここが彼の良い所だ。なんだか弟ができたようで嬉しくなる。
「なにを笑っているんだ、手を動かせ」
「はーい」
「返事は短く」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「ぷっ、ははは!」
時々お母さんのようなことを言う黒騎士に、私は声をあげて笑った。
~another side~
「……キリル」
「はいはい、キリルさんですよー」
「お前は侮辱されたらどうする」
「う~ん、二度とそうしてこないように『教育』するかなー」
キリルらしい答えに、ディアクロスは考え込む。二人しかいない鍛練場は、しんと静まり返る。日も傾いており、日没がちかい。
「……最近のシロ殿を知っているか」
「まあな、『あの二人仲良くね?』って噂になってるし」
そう、あろうことか彼女は侮辱してきた相手と仲良くなっていた。急な魔獣討伐がはいらなければ、そんなことは決してさせなかったのに。
「………」
「落ち込むなよ~」
「落ち込んでない」
そう言うディアクロスの顔は沈んでいる。きっと一番最初に出会ったはずなのに、違うやつと仲良くなっていることが複雑なんだろうなと思いながらも、キリルはそれを口に出すことはなかった。今のこいつはそのことに気づいていないから。
(こういうのは、自分で気づくのが筋だよなー)
「でも不思議だよな。女性からの評判はまだしも、騎士たちからの評判は悪いのにシロちゃんと仲良くなるなんてな」
「………」
どんよりとした空気を出すディアクロスに、キリルはしまったという顔をした。評判の悪い相手に負けたのだから、そうなるのも無理はない。キリルはなんとか鼓舞しようとしたが、いい方法がまったく思いつかなかった。
「ま、元気だせよ。シロちゃんはお前のことを頼りにしてると思うぜ?」
「ここ数日俺がいなかったことも気づいてなかったようだが?」
「………」
今度はキリルが黙り込む。口数が多い彼が黙るほどだ。よっぽど救いようがないのだとディアクロスは察した。今の気分は、自分に懐いていたはずの猫が一時会っていなかったら、他の人間に懐いてたという感覚だ。
「……ケイドリックを消すか」
「いや、ケイを消しても変わらないぞ~」
数日前、シロを侮辱した黒騎士のケイドリックを思い浮かべる。どうして彼女は、あんな失礼な者を許したのだろうか。
「……それが庇護欲なのか、そうじゃない欲か。見ものだな」
目の前で眉間にしわをよせて考え込む友人に、キリルは愉快そうな笑みを浮かべた。
~同時刻~
「はっくしゅん!」
「どうした、風邪か?」
「いや、多分違いますね」
盛大なくしゃみを黒騎士に心配される。多分、ただの埃のせいだと思う。薬が完成しひと段落したところだった。日はもう沈んできていて、空気が赤く染まっている。
「それで、話したいことってなんですか?」
「ああ、それはな」
言葉には表れていないが、嬉しそうなことが声色と頬をかく仕草でわかる。彼にとってよっぽど嬉しいことがあったようだ。
「剣武大会の開催が決定したんだ」
「剣武大会?」
「へえ、トーナメント戦なんですね」
彼の説明によると、各ブロックは抽選で決まるらしい。さらにシード枠もあるようで、黒騎士はそれに選ばれているとのこと。
「すごいですね~」
「ふんっ、まあ僕ほどの実力者なら当たり前だ」
褒められて嬉しいのを必死に誤魔化している姿は、私にとってとても馴染み深い。親しい間柄の人に、私はその姿をよく見せていたなぁと懐かしむ。
「他にもシードの騎士はいるんですか?」
「……ディアクロスだ」
「う~ん、なるほど」
因縁の相手かと思っていると、ふと疑問が浮かんだ。
「黒騎士さん、昔テディさんとなにかあったんですか?」
「テディさん?……ああ、ディアクロスのことか」
黒騎士は最初理解できていない顔をしていたが、しばらくしてから納得したようだった。そして、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「あいつは、あいつは……」
(あっ、なんか鬱憤たまってた)
「この僕のことを!冒涜したんだ!」
憤りがおさまらない黒騎士から、なんとか情報を引き出す。それらを整理した。まずは、黒騎士が騎士になる前まで遡ることになる。騎士になる前はただの令息(この人、貴族だった)だった黒騎士は、家で剣術を習っていたらしい。そこで、当時から剣術が頭一つ飛び抜けていたテディさんと手合わせする機会があった。高名な家に呼ばれるほどの剣術をもつテディさんを、その頃から黒騎士は敵視していたそうだ。そして、昔からテディさんにコテンパンにされていたが、これは別によかったとのことだ。許せなかったことは、テディさんの忘れっぽさだった。
「何度も何度も何度も勝負をしても、負けた僕のことはすぐ忘れる……」
「はい……」
「ライバルとみなしている相手に忘れられる、この屈辱が!君にわかるか……?」
「………」
なんか、この人が可哀そうになってきた。あれほどテディさんに執着していた理由が、いま初めて判明した。でも、その鬱憤を他人にぶつけるのはよくない。けどまあ、そうしたくなる気持ちもわかるから責められない。
「すまない、取り乱した」
やっと冷静になった黒騎士は、ゆっくりと呼吸を整えている。その姿をみた私は、彼の肩に手を置いてこう言った。
「剣武大会は、黒騎士さんを応援しますよ」
「ん?」
「だから望みだよ」
芝生に座り込み、さあ話し合いだと思った矢先にこの質問だ。黒騎士はだいぶ拗らせている。もしくは、周囲の環境が彼をそうさせたのかもしれない。いずれにせよ、面倒なことであるのは変わらない。
こういう場合は下手に否定をすると対話が続かなくなるので、まずは彼の出方をみよう。
「あなたは、私がどんなことを望むと思っているんですか?」
私の質問返しに、黒騎士は真面目に考え込む。この姿から想像するに、きっと彼は根は素直な人なのだろう。ただちょっと天邪鬼なだけで……。
「ふむ、僕とデートをしたいとか」
「え”」
「僕の恋人になりたいとか」
「………」
どうやら黒騎士は苦労したようだ。彼へ労いをこめた眼差しをおくる。同情を感じ取ったのか、彼は嫌そうな顔をした。
「どうしてそんな目で見てくるんだ」
「いや、なんでもないです」
不審そうにこちらを見てくる彼を躱し、話をもどす。
「私があなたに恋しているように見えますか……」
「……いや、見えないな」
それはそうだろう、渾身の死んだ目をしているのだから。なお、いま脳裏に浮かんでいるのはあの王様との謁見だ。家に帰れないと知ったときの絶望は今でも思い出せる。
「黒騎士さん……、とりあえず私たちは親交から深めましょうか」
こうして、お互いを知るための交流をすることになった。
「シロ!聞いてくれ!」
「黒騎士さん……今は忙しいから、ちょっと待ってください」
「ケイでいいと言ってるだろ……」
黒騎士がぼそぼそとなにかを言っているが、薬窯は煮立つのを待ってはくれない。申し訳ないと思うが、薬作りを優先させてもらう。
黒騎士との交流だが、なかなか順調にいった。天邪鬼仲間だったから、気持ちを把握しやすかったというのが大きい。しかし誤算だったのが、順調すぎて私の仕事場まで突入してくるようになったことだ。難解な気質の彼には、それを理解してくれる友達が少なかったのかもしれない。そう思うと、追い出すことができない。
(ぼっち仲間は貴重だからなぁ)
テディさんはなんかジャンルが違うし、キリルさんは真性の陽気な人だ。この世界の人たちは、基本的に人に物怖じしない。羨ましい気質だ。
「よし、今日のノルマ達成」
完成した薬をビンへつめようとすると、隣からヒョイとそれを奪われた。黒騎士だ。ぶすくれた顔をしているのは、相手するのを後回しにしたからだろう。
「やっと終わったのか、まったくとろいな」
この憎まれ口は、彼が甘えている証拠だ。素直に寂しかったと言えないことが伝わってくる。きっとこれをただの嫌味だと誤解してしまう人がほとんどだったのだろう……。
「手伝ってくれてありがとうございます」
「ふんっ」
彼は私を鼻で笑いながらも、ちゃんと薬をビンにつめる作業を手伝ってくれる。ここが彼の良い所だ。なんだか弟ができたようで嬉しくなる。
「なにを笑っているんだ、手を動かせ」
「はーい」
「返事は短く」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「ぷっ、ははは!」
時々お母さんのようなことを言う黒騎士に、私は声をあげて笑った。
~another side~
「……キリル」
「はいはい、キリルさんですよー」
「お前は侮辱されたらどうする」
「う~ん、二度とそうしてこないように『教育』するかなー」
キリルらしい答えに、ディアクロスは考え込む。二人しかいない鍛練場は、しんと静まり返る。日も傾いており、日没がちかい。
「……最近のシロ殿を知っているか」
「まあな、『あの二人仲良くね?』って噂になってるし」
そう、あろうことか彼女は侮辱してきた相手と仲良くなっていた。急な魔獣討伐がはいらなければ、そんなことは決してさせなかったのに。
「………」
「落ち込むなよ~」
「落ち込んでない」
そう言うディアクロスの顔は沈んでいる。きっと一番最初に出会ったはずなのに、違うやつと仲良くなっていることが複雑なんだろうなと思いながらも、キリルはそれを口に出すことはなかった。今のこいつはそのことに気づいていないから。
(こういうのは、自分で気づくのが筋だよなー)
「でも不思議だよな。女性からの評判はまだしも、騎士たちからの評判は悪いのにシロちゃんと仲良くなるなんてな」
「………」
どんよりとした空気を出すディアクロスに、キリルはしまったという顔をした。評判の悪い相手に負けたのだから、そうなるのも無理はない。キリルはなんとか鼓舞しようとしたが、いい方法がまったく思いつかなかった。
「ま、元気だせよ。シロちゃんはお前のことを頼りにしてると思うぜ?」
「ここ数日俺がいなかったことも気づいてなかったようだが?」
「………」
今度はキリルが黙り込む。口数が多い彼が黙るほどだ。よっぽど救いようがないのだとディアクロスは察した。今の気分は、自分に懐いていたはずの猫が一時会っていなかったら、他の人間に懐いてたという感覚だ。
「……ケイドリックを消すか」
「いや、ケイを消しても変わらないぞ~」
数日前、シロを侮辱した黒騎士のケイドリックを思い浮かべる。どうして彼女は、あんな失礼な者を許したのだろうか。
「……それが庇護欲なのか、そうじゃない欲か。見ものだな」
目の前で眉間にしわをよせて考え込む友人に、キリルは愉快そうな笑みを浮かべた。
~同時刻~
「はっくしゅん!」
「どうした、風邪か?」
「いや、多分違いますね」
盛大なくしゃみを黒騎士に心配される。多分、ただの埃のせいだと思う。薬が完成しひと段落したところだった。日はもう沈んできていて、空気が赤く染まっている。
「それで、話したいことってなんですか?」
「ああ、それはな」
言葉には表れていないが、嬉しそうなことが声色と頬をかく仕草でわかる。彼にとってよっぽど嬉しいことがあったようだ。
「剣武大会の開催が決定したんだ」
「剣武大会?」
「へえ、トーナメント戦なんですね」
彼の説明によると、各ブロックは抽選で決まるらしい。さらにシード枠もあるようで、黒騎士はそれに選ばれているとのこと。
「すごいですね~」
「ふんっ、まあ僕ほどの実力者なら当たり前だ」
褒められて嬉しいのを必死に誤魔化している姿は、私にとってとても馴染み深い。親しい間柄の人に、私はその姿をよく見せていたなぁと懐かしむ。
「他にもシードの騎士はいるんですか?」
「……ディアクロスだ」
「う~ん、なるほど」
因縁の相手かと思っていると、ふと疑問が浮かんだ。
「黒騎士さん、昔テディさんとなにかあったんですか?」
「テディさん?……ああ、ディアクロスのことか」
黒騎士は最初理解できていない顔をしていたが、しばらくしてから納得したようだった。そして、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「あいつは、あいつは……」
(あっ、なんか鬱憤たまってた)
「この僕のことを!冒涜したんだ!」
憤りがおさまらない黒騎士から、なんとか情報を引き出す。それらを整理した。まずは、黒騎士が騎士になる前まで遡ることになる。騎士になる前はただの令息(この人、貴族だった)だった黒騎士は、家で剣術を習っていたらしい。そこで、当時から剣術が頭一つ飛び抜けていたテディさんと手合わせする機会があった。高名な家に呼ばれるほどの剣術をもつテディさんを、その頃から黒騎士は敵視していたそうだ。そして、昔からテディさんにコテンパンにされていたが、これは別によかったとのことだ。許せなかったことは、テディさんの忘れっぽさだった。
「何度も何度も何度も勝負をしても、負けた僕のことはすぐ忘れる……」
「はい……」
「ライバルとみなしている相手に忘れられる、この屈辱が!君にわかるか……?」
「………」
なんか、この人が可哀そうになってきた。あれほどテディさんに執着していた理由が、いま初めて判明した。でも、その鬱憤を他人にぶつけるのはよくない。けどまあ、そうしたくなる気持ちもわかるから責められない。
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