平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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15 二つの祭り

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「シロちゃ~ん」

 いつものように薬作りに励んでいると、最近みかけてなかった人がやってきた。

「キリルさん」

 今日は珍しく私服で調合室にやってきたようだ。黒いズボンに白いシャツというシンプルな恰好。それらが彼の赤い髪を際立たせている。

「最近どうだった?」

「どうと言われても……」

 今日までの数日間を振り返ってみる。変わったことといったら黒騎士のことしか思いつかないが、これは個人的なことだからキリルさんには関係ないだろう。

「仕事は順調ですよ」

「そっかそっか~、じゃあプライベートではどう?」

「問題ないですよ」

 キリルさんは気遣ってくれているのだろう。よくよく考えると彼は私の上司のような立場だし、職場環境の改善に努めているのかもしれない。いい上司だ。

「いや、そうじゃなくて……」

「他になにか聞きたいことがあるんですか?」

 釈然としていないキリルさんの顔を見て、ずれた答え方をしてしまったのだろうかと不安になる。彼は頭をかいた後、なにかを諦めるように肩を落とした。

「ケイのやつと最近仲良すぎない?」

「ケイ……?」

「ほら、シロちゃんを馬鹿にしてきた騎士のことだよ」

「ああ!」

 そういえば黒騎士の名前はそんな感じだったと思い出す。でも、どうしてキリルさんがそんなことを気にしているのだろうか。

「最近、ディアクロスがうるさいんだよ。『シロちゃんが構ってくれない~』ってね」

「テディさんはそんなこと言いません」

「え~、ほんとなのに……」

 でも、キリルさんの言うことは一理あるかもしれない。ここ数日の間、テディさんをみかけてなかったのにも気づかなかったし、その間に彼が魔獣討伐に行ったのも人伝から聞いた。一方、テディさんは私を気にかけてくれていた……。

(魔女探しに巻き込まれたとはいえ、テディさんはいろいろと面倒を見てくれた。なのに、私はそれらのお礼をしていない……)

「あれ、私って恩知らず……?」

「急にどうしたの?」

「キリルさん!」

「はい、なんですか」

 私の様子が理解できていないにも関わらず、キリルさんは私に菩薩のような顔を向ける。きっと理解するのを諦めたがゆえの、この顔なのだろう。

「今までの給料分を渡してくれませんか」

「え?」












「もう、驚かせないでよ~」

「すみません、気がせいてしまって……」

 私とキリルさんは、現在王都の町を散策している。その目的は、テディさんへのお礼の品を買うためだ。そのために、キリルさんから今までの給料を渡してもらった。

「今までの分の給料渡せって言うから、てっきり仕事を辞める気なのかと思っちゃったよ」

「まあ、仕事を辞めても王都から出させてはもらえませんからね……」

 遠い目をする私に、キリルさんはそっと話題をそらした。

「あっ、あの店とかどう?」

「……テディさんはドレスなんて着ませんけど?」

「やだなー、あいつに着させたら俺が笑いしんじゃうよ」

 笑いながらそのお店に入ろうとする彼を掴み、道の端に引き戻す。

「これはテディさんへお礼の品を買おう大作戦ですよ?」

「分かってるよ?だから、シロちゃんがおめかしした姿を見せたらあいつも大喜びするさ」

「う~ん、やっぱり剣に関する物がいいかな……」

「無視?!」

 いい加減なことしか言わないキリルさんは放っておいて、真剣にテディさんへの贈り物を考える。テディさんの印象は「騎士」ということしかない。それに、物欲もなさそう。

「お~い!そっちはこれを置いてくれ!」
「飾りが足りないぞ!誰かこっちに持ってきてくれ!」
「こっちに梯子をくれー!」

「それよりキリルさん、あれはなんですか?」

 賑やかな声のほうをみると、大勢の人たちが町を飾り付けていた。今まで人ごみにまぎれていたため、気が付かなかった。何かの祭りかイベントがあるんだろうか。

「ああ、あれは来週にある魔女祭にむけてだね」

「魔女祭……」

 ここ最近、魔女に関することでいいことがなかったことを思い出す。祭りといえども、私にとっては素直にめでたく感じることができない。

「ちなみに、魔女祭と剣武大会は同時に開かれるんだ」

「え、イベントが目白押しじゃないですか」

「だよね~。わけてやればいいのに、この二つは一緒にやらなければならないんだーってお年寄りがうるさくてね……」

「なにか意味があるのかもしれませんね」

(それにしても、剣武大会か)

 黒騎士とテディさんの因縁の対決があると小耳にはさんだ。他の騎士の人たちもそれに注目しているようで、騎士団の建物を歩いているとそのことが聞こえてくる。二人ともシード枠だから、大会の最後の目玉として戦うようだ。

「キリルさんは剣武大会でないんですか?」

「俺は疲れるのパス」

 爽やかな顔で言っているが、内容は爽やかじゃない。この人、結構めんどくさがりだったのか。こうして王都を案内かつエスコートしてくれる騎士様だけど、剣を交えるのは好きじゃないようだ。

「俺は剣よりも、女の子と一緒にいる方が好きだからね」

 パチンッとウィンクしてくるが、粉をかける相手を間違えている。その魅了はぜひ、今こちらをガン見してくる女性方に発揮してほしい。

「その大好きな女の子たちが周りにいっぱいいるので、どうぞそちらに行ってください」

「やめて!厄介払いしないで!」

「自分が厄介だと思われてる自覚あるんですね……」

 妙に自分を客観視できているキリルさんと一緒に、王都の店を見て回った。















「で?昨日の王都散策はどうだったんだ?」

 昼休憩をしていると、黒騎士が訪ねてきた。来て早々にそんな質問をしてくるけど、この人暇なのかな。頻繫にここに来すぎじゃない?ほぼ毎日、彼の顔を見ている気がするんだけど。

「なんで出掛けたこと知ってるんですか」

 昨日は急に思い立って出掛けたから、黒騎士にはそのことを言ってもいないのに。

「君のことなら知らないはずないだろ」

 キョトンとした顔でそう言われる。黒騎士はこういうところがあると、交流しだしてから知った。ナチュラルにストーカーじみているのだ。私の情報を隅々まで把握している時がある。おそらく、今までまともに友人がいなくて関わり方がわかっていないのだろう。彼の昔話を聞いていると、節々にそのことが伝わってきて涙がでそうだった。

(ぼっちだと気づいてない姿が、さらに涙を誘ってくる……)

「ちょっとずつ関わり方を学んでいこうね……」

「……?何の話だ?」

 彼の数少ない友人として、人との関わり方を教えたいと思った。



「―――そうか、ディアクロスへの贈り物を見繕っていたのか」

「まあ、いいのが見つからなくて収穫はなかったんですけどね」

 話を戻して、黒騎士に昨日の出来事を話した。冷静な彼を少し意外に思った。彼のことだから、テディさんの名前を聞いただけで牙を剥き出すかと内心びくびくしていた。

「テディさんのことなら、なんでも激昂するわけじゃないんですね」

「君は僕をなんだと思ってるんだ……」

 呆れたような顔の黒騎士に、私は素直に言った。

「テディさん過激派」

「やめろ、その言い方はなにか癇に障る」

 まあ、過激なアンチなのか過激なファンなのか、この言い方ではわからないからね。よくこのニュアンスに気付いたなぁと思う。やっぱり彼は頭がいいのだろう。

「あ、そういえば、そろそろ剣武大会ですね」

 黒騎士にとっては一大イベントだろう。なにせ因縁のテディさんとの対決だ。

「応援してますよ、ここで」

 指で調合室の床をさし、にっこりと微笑む。黒騎士は半眼になる。

「いや、普通は会場で応援するだろ」

「人が多い所に行ったらしんでしまいます」

「僕の友人なんだろ?!それくらい我慢してくれよ!」

「それとこれは別です」

「なんなんだよ!」

 反応のいい黒騎士をいじりながら、心の中でそっと言った。

(会場の端で応援しますよ)

 この人のことだから、隅でかがんでいても私のことを察知しそうだが。















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