平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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16 剣武大会

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 祭りの準備で賑わう町。
 皆が明るい顔をしている中、ひとり浮かない顔をする者がいた。

「テディさんの贈り物、まだ決まってない……」

 はい、私です。贈り物ひとつできない奴です……。
 なぜこんなに焦っているのかというと、祭りが始まる前にテディさんに贈っておきたいからだ。実は、魔女祭にはこんな迷信があると聞いたのだ。

『思い残していることがある者は、魔女に呪われる』

 そのため、人々は多くのことを清算してからこの魔女祭を迎えるそうだ。

(思い残すことしかないんだけど)

 まず一つ、家に帰りたい。これは無理。王様に王都に滞在するよう命令されているから。
 次に、テディさんへの贈り物。これはなんとかできる。でも難航中。
 最後に、【『愛』を結晶化する】この魔女の能力。

「いや、最後のは思い残すもなにもないか……」

 結局、清算できるのはテディさんへの贈り物だけだった。歩きながら考え込んでいると、ふと出店にあったものに目がいった。

(これは……)

「すみません、これは売り物ですか?」

「ああ!嬢ちゃん買ってくか?」

 テディさんへの贈り物が決まった。













 騎士たちしかいない鍛練場。
 多くの者が熱心に剣の稽古をしている。

 ヒュン ヒュン

「あの、キリル隊長。なんでディアクロス隊長はあんなに無心で素振りしてるんですか……?」

 休憩していたキリルのもとに、ひとりの騎士がそう尋ねてきた。周囲にいた騎士たちも気になっていたのか、耳を傾けている。

(さて、なんと言えばいいか)

 少し目を閉じ、キリルは口を開いた。

「明日の剣武大会のためじゃないか?」

「とぼけないでくださいよ!去年の剣武大会ではあんなんじゃなかったですよ?!あんな鬼気迫る雰囲気は絶対になにかあったんですって!」

 怯えたようにディアクロスのほうを見る騎士たちに、キリルはため息をついた。

(シロちゃんに会えてないから、とか流石に言えないよなぁ)

 そう実は、ケイドリック(黒騎士)とシロの仲が良いという話を聞いたディアクロスは行動を起こしてはいたのだ。ただその行動が実らなかった。シロに会いに行こうとするたびに、ディアクロスは何らかの用事ができてしまうのだ。

(人為的かと思うくらいの邪魔が入った時には、あいつを不憫に思ったな)

「キリル隊長!あの人をどうにかしてください!オレたち怖くて稽古ができません!」

 ウンウンと頷く騎士たちに、キリルははっきりと言った。

「無理」

「隊長!」

 押し問答を繰り返していると、遠くから走ってくる人影が見えた。

「テディさん!」

 一つに結んだ黒髪を揺らめかせ、黒い瞳は陽の光をうけてキラキラしている。とても成人しているようには見えない幼さ。あれはまごうことなき……。

「シロちゃんだ!」

 救世主が現れたとはしゃいだキリルに迎えられ、シロは鍛練場の中に入っていった。











「あれ、テディさんはいないんですか?」

 なぜか熱烈な歓迎をしてくるキリルさんに、目的の人物の所在を聞く。周囲にいる騎士さんたちは、私をじっと見てくるから何だか気まずい。

「いや、いるよ!さあさあ、こっちにどうぞ!」

 やけに安堵した様子のキリルさんに首を傾げながら、私は鍛練場の奥まった所に案内された。するとそこには、鬼気迫る様子で木刀を振っているテディさんがいた。

「すみません、やっぱ帰ります」

「待て待て」

「無理ですよ!あんな雰囲気の人に話しかけられませんって!」

 あまりにも怖い空気をまとっていたテディさんに尻込みする。しかし、私の退路を塞ぐのはキリルさん。一体どういう了見なのか。

「どいてください」

「お願い!あいつどうにかして!」

「無理ですって!」

「……なにをしているんだ」

「「!!」」

 背後からテディさんの声が聞こえる。彼を真正面からみているキリルさんの顔を見ると、……固まっている。振り返りたくない気持ちが十割だ。

「お納めください!」

 覚悟を決め、顔を下にむけたまま包装された物を差し出した。しばらくすると、手からその重みが消える。

「……これは」

「えっと、今までお世話になった分の……お礼です」

 テディさんの反応をこわくて、俯いたまま時間が過ぎるのを待つ。テディさんが動く気配がしたと思ったら、頭を撫でられる感触がした。驚いて前を向くと、そこには少し口角を上げたテディさんがいた。

「ありがとう」

「い、いや、こちらこそ」

 珍しい彼の姿に動揺し、よくわからないことを口走ってしまう。困った私はキリルさんに助けを求めた。しかし、フリーズ状態で使い物にならなかったため、私だけ脱出することにした。

「じゃあ、鍛練がんばってください!」

 そう言って、後ろを振り返ることなく逃げ出した。
















 次の日。
 魔女祭と剣武大会が開催される日になった。

「ここが剣武大会の会場……」

 剣武大会は今日だけだが、魔女祭はこれから一週間ほど開催されるそうだ。そのため、私は最初に剣武大会の会場にきた。魔女祭は、気分次第で行こうか決めようと思う。

「あの……」

「ああ、お客様ですね。チケットはお持ちですか、それとも購入なさいますか?」

「あ、このチケットを持ってるんですが」

「かしこまりました」

 受付に行き、黒騎士から事前に渡されていたチケットを使う。渡されるときに「迷子にだけはなるな」と口酸っぱく言われたことを思い出し、真顔になる。

「こちらにどうぞ」

 受付の人とは別の人に案内される。その人の後ろをついていった。


「いや、え”」

「では、失礼いたします」

「あ、ありがとうございました」

 案内してくれた人がいなくなり、席というよりもプライベートな部屋のような空間を見渡す。
 明らかに豪華で広々とした席が用意されていたことに驚きが隠せない。ここは絶対に私のような一般人がくる場所じゃない。貴族とか王族の人が使う場所だ。

「防音と空調が完璧なのが、ちょっとヤダ……」

 整いすぎている環境に、黒騎士はなんて場所を用意してくれたんだと思う。魔法の無駄使いをしているような気がする……。でも、周囲に人がいないのは安心する。人目を気にしなくていいのは最高だ。

 バーン

「あ、始まった」

 空砲が鳴り響き、会場に騎士たちが入場してきた。まず赤と青の制服の騎士たち、そして白と黒の制服の騎士たちが続いて現れた。テディさんと黒騎士もその中にいた。
 この大会は王族が仕切っているようで、その王族の誰かが宣誓をすませて試合の準備にはいった。

 それにしても、ここの防音はすごい。会場からの音ははっきり聞こえるのに、観客席からの音は一切聞こえない。集中して試合を見られるようになっている。

「う~ん、しばらく暇だなぁ」

 テディさんと黒騎士の試合は大会の締めにある。それまで何かをして待っていないといけない。どうしようかと悩んでいると、人の気配を感じた。そちらに視線を向けると、ついさっき会場にいたはずの人物がいた。

「……黒騎士さん、あなた出場者ですよ」

「いや、その、君がここに来ているか心配で……」

「流石にあんなに言われたら、迷子になんてなりませんよ」

 腕を組んでそっぽをむく黒騎士の姿を観察する。黒い制服はいつもより刺しゅうや装飾が豪華なものになっている。眩しい金髪も普段とは異なり、半分だけ髪を上げている。

「おお、ザ・騎士っていう感じがしますね!」

「そ、そうか」

 彼は照れたようにはにかむ。天邪鬼な彼がここまで素直に反応するのは珍しい。これがお祭りパワーなのかもしれない。雰囲気に流されて、彼の感情表現が素直になってるとか。

「おい、なにか失礼なこと考えてないか」

「いや、黒騎士さんが今日はなんか素直すぎて調子が狂うとか思ってないです」

「普段は素直じゃないってことか?」

「ノーコメントで」

「はぐらかすな!」

 いつもの調子にもどった彼に安堵する。普段と違う姿に動揺したとかバレたら、絶対に今後のからかいのネタにされる。このことは隠し通さないと。 

「ケイドリック様、少しよろしいでしょうか」

 雑談していると、黒騎士と同じ服装の騎士がやってきた。きっと彼の部下なのかもしれない。でも、どうして私は初対面の彼女に睨まれないといけないのだろうか……。

(まさか……!上司を誑かす悪い女とか思われてる?)

 自分の容姿をみる。特に色気を感じない体型。顔は今日の朝みたが、普段通りの平凡な顔立ちだった。つまり、人を誑かすほどの魅力はないということだ。

(ちょっとだけ、魅惑の悪女と思われたのかと勘違いてしまった……)

 敗北感に沈んでいると、黒騎士は女性の騎士と話が終わったようだ。彼女はそのまま去っていったが、去り際に睨まれてしまった。黒い制服の騎士たちには気をつけた方がいいかもしれない。知らず知らずのうちに、私がなにかをやらかしてしまっていた可能性がある。

「用事が入った。残念だろうが、君の相手ができなくなった」

 横柄にそう言うが、しょんぼりしているのは黒騎士のようにみえるのは気のせいだろうか。まあ、彼も忙しい身であるから、気にせず行ってほしい。

「大丈夫ですよ」

「……あっさりしすぎてないか」

「さみしいな~!」

「……君に期待した僕が悪かった」

「意向に添おうと努力したのに失望しないでくれます?」

 ぶすくれた私の顔をみて満足したのか、彼は笑った。

「じゃあな、僕の勇姿を見逃すなよ」

 彼はそう言うと、私の手の甲にキスをして去っていった。とんでもなくキザな行動に、私は笑みがこぼれた。彼は応援してくれる友人がいることに舞い上がっているのだろう。

(この大会が終わったら、友人との適切な距離を教えないと)

 そう思いながら、大会の初戦を観戦することにした。












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