平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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17 黒騎士の因縁

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 剣武大会は大盛り上がりだった。
 初戦から白熱した勝負を見ることができた。観客たちも立ち上がって応援するほどだった。

(でも、迫力ありすぎて心臓が痛い……)

 剣に馴染みがない身としては、それなりに刺激の強い大会だ。気分転換しようと、会場内にあった出店へと向かった。



「うわぁ、人が多い……」

 気分転換とほど遠い光景に、席に戻ろうとかなという思いが強くなる。

(いや、私だって祭りを楽しんでみせる……!)

「キャーー!騎士様たちよ!」

 大会の出場者である騎士たちも、会場の出入りは自由なようだ。しかし、多くの人に群がられて身動きがとれないみたいだから不自由ともいえるかもしれない。

(うん、この人混みは無理)

 そう結論を出し、すぐに席に戻ろうとする。だがちょうどその時、近くから声が聞こえた。

「シロ殿……?」

「え?……テディさん?」

 真っ黒な外套をまといフードを深くかぶった不審人物から、テディさんの声が聞こえた。











 とりあえず、疲労した様子のテディさんを私の席に避難させた。

「一体なにがあったんですか」

 花形の騎士であるテディさんをこんな姿にしたものの正体が気になる。

「人が……」

「人が?」

「襲い掛かってくる」

「こわすぎませんか!?」

「ああ……」

 彼の口からとんでもないワードが飛び出たことに面食らう。ひとまず、詳しい話を聞くことにした。



(う~ん、話を聞いた感じ、テディさんが人気過ぎるのが原因のような……)

 テディさんを一目見たい、あわよくば触れたくて押し掛ける人々。彼らが自分を襲ってくると認識しているテディさん。微妙にすれ違っている。まあ、襲われているという認識は間違っていないのか……。

「とりあえずここでゆっくりしてください。まあ、この席は私がとったわけじゃないんですけど……」

 彼を座らせようと席に促すと、腕を掴まれた。

「誰だ」

「ん?」

「誰がここを用意したんだ」

 やけに真剣な顔で聞いてくるテディさん。もしかして、あの黒騎士やばい方法でここをとったんじゃ……。

「黒騎士さんです」

 はきはきと答える。私は身内だろうが友人だろうが法の下にさらす。庇うことはしない。罪はきちんと償いましょう。

「そうか」

 短い返事がとても恐ろしい。

「……なんかダメでしたか?」

 堪えきれず、テディさんに思い切って聞く。

「いや、そんなことはない」

(よかった……)

 安堵をしたが、テディさんは沈黙している。しばらく沈黙が続いた後、彼は動き出した。

「すまない、用事ができた」

「あ、はい、わかりました」

 颯爽と去っていくテディさんの後ろ姿に、なぜか般若がみえた。なにが彼の機嫌を損ねたんだろうか。疑問に思いながらも、ちょうど始まった試合を見ることにした。













~会場の裏側~

「ここの警備は赤の騎士団にさせるんだ」

「ケイドリック隊長、こちらはどうしましょうか」

「ああ、それは――」

「黒の騎士団4番隊隊長」

 その呼びかけにゆっくりと振り返る。

「ディアクロス、貴様から僕に会いに来るのは珍しいな」

 そこには今日の対戦相手がいた。
 手に持っていた書類を部下に任せ、目の前にいる因縁の相手に相対する。

「何の用だ」

 試合まで時間がある。こいつが自分のところに自発的にくるはずがない。絶対になにか用件があってきたはずだ。

「貴殿がシロ殿に『アイビーの間』を用意したというのは事実か」

「事実だが、それが貴様になんの関係がある」

 嫌な予感が的中する。こいつがシロとそれなりの仲だと知ってはいたが、ここまで気にかけているとは想定していなかった。こいつがシロのことをなんとも思っていないなら、『アイビーの間』にここまで敏感に反応はしなかっただろう。

「貴殿は『アイビーの間』の意味を知った上で、彼女にそれを用意したのか」 

「そうだが?」

(知ってるに決まっているだろう)
 
 『アイビーの間』は有名だ。
 その間で共に過ごせば、永遠に結ばれるという迷信が囁かれているから。

(僕は迷信など信じないが、そんなもので彼女を自分につなぎとめられるというのなら別に構わない)

「貴殿は、シロ殿をどうする気だ」

「それを知ってどうする。貴様には関係ないことだろう」

 黙り込むやつに、苛立ちを覚える。どうしてよりにもよってあいつなんだ。他のやつに興味を持てばいいのに、わざわざあいつを……!

「彼女の後見人は俺だ。そして、彼女を心身ともに守ると誓っている」

「貴様……僕がシロを弄ぶとでも思っているのか……?」

 いわれのない侮辱をうけたように感じた。あいつを弄ぶはずがない。できることなら自分しか見れない場所に閉じ込めておきたいくらいだ。

「まあ、いい。僕はもう貴様のことはどうでもいいんだ」

「………」

 やつの警戒する目を鼻で笑う。今までこいつに執着していたことがバカらしくなる。

「ただ、シロのことだけはダメだ。貴様、今回の試合で僕が勝ったら金輪際あいつに関わるな」

「……!」

「どうした、負けるのが怖いのか?」

 安い挑発にはのらないだろうが、条件次第でこいつはこの取引に応じるだろう。

「そうだな、僕が負けたらそちらの好きにしていい」

「……いいんだな」

「ああ、どんな条件でも吞んでやる」

 視線で火花を散らし合う二人を、周囲にいた騎士たちは怯えてながら見ていた。













 バーンッ!

「あ、もう最後の試合だ」

 一際大きな空砲がなり、さっきまで戦っていた騎士たちが退場していく。これからテディさんと黒騎士の試合だ。知り合い同士の試合は、どうにも心臓がドキドキする。

(怪我だけはしないでほしい)

 そう願いながら、堂々と入場する二人の騎士を見つめた。



「あれ?」

 黒騎士の様子に違和感を覚える。具体的になんなのかはわからないが、雰囲気に危うさを感じる。対するテディさんも、普段の余裕がないように見えた。

(二人とも何かあったのかな)
 
 私の疑問を残して、試合は始まった。




「すごい……」

 何が起こっているのかさっぱりわからない。しかし、以前鍛練場でみた二人の戦いとは違うことだけはわかった。黒騎士が攻めるのは変わってないが、テディさんも攻めに転じているのがはっきりとわかる。
 背後にまわりこんだ黒騎士がテディさんに切りかかる。テディさんはそれを後ろ手にもった剣で受け流し、瞬時に持ち直した剣で切り込んだ。二つの剣が鍔迫り合い、舞い上がった砂煙が視界を遮った。

(無理、動体視力の限界をこえた)

 これ以上は二人の動きが追えないと思った矢先。
 一本の剣が宙に舞った。一体、どちらの剣なのかと場が騒然とする。砂煙が晴れると、そこには跪く黒騎士と剣を構えたテディさんがいた。勝者はテディさんだ。

「……行こう」

 彼らの健闘をたたえに、事前に黒騎士から教えられていた騎士たちの控え室へと向かった。








 控え室に向かう途中でキリルさんと会い、二人でそこに向かうことにした。

「いや~すごかったね、あいつらの試合」

「そうですね、目が回るかと思いました」

「ははっ、スピードが人外レベルだったからなー」

『黙れ!』

 ほのぼのと会話していると、奥の方から怒鳴り声が聞こえた。

「……シロちゃん」

「……はい、行きましょう」

 私たちは声のする方へ走った。




 声のする部屋のドアをキリルさんが躊躇なく開ける。

「よお!元気そうだな!」

 わざと陽気な声で空気を読まない行動をする。それに気がそれた彼らはこちらを向いた。怒鳴り声の正体は黒騎士だった。そして、それをうけていたのはテディさんだ。

(うわぁ、やっぱり……)

 試合が始まる前から懸念していたことが現実になっていた。気が滅入って、彼らから視線をそらす。一方で、キリルさんは二人の仲裁をしようとがんばっている。

「まあまあ、お二人さん。一旦落ち着こうぜ」

「キリル、貴様には関係ない」

 激情にかられている黒騎士に、キリルさんの言葉は届かないようだ。それでも懸命にキリルさんは言葉をかけている。私は息巻いている黒騎士の顔をそっと見た。

(うん、何度みてもがついてるんだよなぁ……)

 黒騎士の耳に、黒いピアスのように輝いている。鍛練場で初めて会ったときから気になっていたが、それがピアスなんかじゃなくてだと気づいたのは今さっきのことだ。さらに、それは『愛』ではなく『憎しみ』に変容している結晶だ。 

(めちゃくちゃ黒ずんでる……)

 この黒ずんだ深い憎しみの対象はテディさんだろう。黒騎士がテディさんを睨むたびに、共鳴するように光っているから。

「貴様はいつもそうだ!」

 考え込んでいると、黒騎士が爆発した。キリルさんの説得は失敗したらしい。

「僕の功績を軽々とこえ、みな貴様を称える!」

 怒りに内包される苦しみが、あの結晶をとおして流れ込んでくる。流れ込んでくるのは、こちらが苦しくなるほどの怒りと、絶望だ。

「僕が、僕がどれほどの努力をしても……!みなが貴様に称賛をおくった!」

(うっ……!)

 今度は感情だけではなく、彼の記憶が流れ込んできた。






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