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18 憧れと憎しみ
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結晶から流れ込む黒騎士の記憶に、意識がもっていかれた。
『あら、剣術の試合をするの?』
『はい、母上!ぼく、もう真剣をもてるようになったんですよ!』
(あれは……)
小さな男の子と若い女性が話している。きっと黒騎士の幼いころの記憶だろう。自慢げに言っている姿は、幼くても今の黒騎士の片鱗がある。
『そうなのね。それなら、ディアクロス様のようになりなさい』
『ディアクロス様?』
『そうよ。あの方はあなたと二つしか変わらないのに、もう騎士学校に受かったそうよ』
『………』
『あなたも、あの方のように頑張るのよ』
『はい、母上……』
褒められたかっただけの子どもは、寂しそうな横顔をしていた。
思わずその子のほうへ一歩踏み出すと、場面が切り替わった。
目の前には、少年に成長した黒騎士がいた。そして、その周りには同年代の少年たちがいた。
『ケイドリック様はすごいですね!』
『主席で騎士学校に入学だなんて!』
褒め称えている少年たちには見向きもせず、黒騎士は本を読んでいた。
『でも、ディアクロス様は主席どころか飛び級して今年に卒業するんだろ……?』
『しーっ!お前、ケイドリック様の前でそのことは言うなってあれほど……!』
ガタッ
『用事を思い出したので、失礼する』
彼は私の真横を通り過ぎる。本を持っている手は、白くなるほど強く握られていた。
彼の握りしめたその手に触れようとした瞬間、私は王城にいた。私が一度行ったことのある王座の間だ。その王座の前で、王様から勲章を授けられている一人の騎士がいた。黒騎士だ。年齢は、現実の彼と近そうだ。
『今後も、この国のために励んでおくれ』
『御意』
勲章を受け取った彼は王様に一礼し、王座に背をむけた。彼はこちらに向かって歩いてくる。赤いカーペットを堂々と歩く彼の周りには、大勢の貴族たちがいた。彼が歩いている姿をみていると、貴族たちの言葉が耳に入った。
『ケイドリック様はすごいですわ』
『まあ、あのアスガルト家の令息ですから』
『そうですな、至極当然のことでしょう』
『それに比べて、ディアクロス様は飛び抜けておりますな』
『あの魔獣の王を倒したんですって?』
『ケイドリック様よりディアクロス様のほうを先に表彰すべきでは?』
彼はその言葉に反応しなかった。真っ直ぐに前を見据え、周囲を見ることなくその場から去った。
感情を感じられない彼の顔が頭にこびりつく。幼かった彼の無邪気な顔が忘れられない。私はもう、彼を追いかけるようなことはしなかった。できなかった、のほうが正しいかもしれない。
(私では、何もできない……)
彼の記憶と感情を知った私は、彼の心に踏み込むことはできないとわかった。
「貴様に僕の気持ちがわかるか!!」
(はっ!)
簡素な控え室に黒騎士の叫び声が響く。その反響した声に意識が現実へと引き戻される。相変わらず結晶は黒ずんでいるし、キリルさんの目は死んでいる。テディさんは何を考えているのかわからない無表情だ。
「………」
「はは、そうだったな。僕は貴様にとって何の価値もないんだったな」
黒騎士の乾いた笑いに、私は苦しくなる。記憶をみているから尚更苦しく思う。
「だから貴様のものを奪ってやろうと思ったんだ」
急に腕をひっぱられる。気がつくと、私は黒騎士とテディさんの間にいた。黒騎士が私をひっぱったようだ。彼らの喧嘩に、突然巻き込まれた私は困惑する。そんなことはお構いなく、黒騎士はそんな私に笑顔を向けた。
「僕との友人ごっこは楽しかったか?」
「えっ」
「なんだ、僕と本当に友人になれたとでも勘違いしてたんだな」
歪んだ笑みを浮かべる黒騎士に、私は固まる。
「お前みたいに平凡な人間が、この僕と対等な存在になれるとでも思っていたのか?」
「おい、ケイ。なにを――」
「その言葉を取り消せ」
ずっと黙っていたテディさんが言葉を発した。それを待っていたかのように、黒騎士は口の端を吊り上げる。部屋の空気は最悪だ。黒騎士が何かを言おうとする前に、私は口を開いた。
「知ってました」
「「え?」」「……」
虚を突かれた黒騎士とキリルさん、そして無言のテディさんたちを笑顔で見る。
「黒騎士さんがテディさんへの当てつけのために、私と交流していたことはわかってました」
「な、なんで」
言葉につまっている黒騎士は、「わかっていたのにどうして交流を続けていたのか」と言いたいのだろう。
「私があなたと友人になれると思っていたからです」
「……先程、無理だと言っただろう」
「まあ、そうですね」
彼の心が満たされるほど、私の市場価値は高くない。私が世間にでれば、容姿も平凡、目をひくほどの功績も能力もないと判断されるだろう。彼が求めるのは、テディさんレベルの存在だ。そばに置いておくだけで、自身も価値があるように感じられる存在を必要としている。
「でも、私が友人になりたいと思ったので」
「……は?」
「そう!あなたほど素直じゃない人は滅多にいません!ぜひとも、友人になりたかったんです!」
「褒めてないだろ」
思わずツッコんでしまっている黒騎士。ぶすくれた感じを醸し出す彼に、笑みがこぼれた。それにしても、友人として価値がないはずの私に褒められたいと思っているこの矛盾を、彼はいつ気づくだろうか。
「私はあなたの友人だったと、胸をはって言えますよ」
目の前にいる黒騎士の頬へ、自然に手を伸ばす。彼にそっと触れた後、私はすぐにその手をしまう。そして、ケロッとした顔で言った。
「じゃあ、あとは二人で話し合ってくださいね」
私は突っ立っていたキリルさんを回収し、控え室から出ていった。
「……よし、回収成功」
物言いたげなキリルさんを煙に巻き、ひとりで宿まで帰ってきた。そして、部屋に入るやいなや手の中にあるモノを確認した。
「それにしても、ほんとに黒ずんでるなー」
黒騎士の頬に触れるフリをして、さり気なく回収していた結晶を見る。よくよく見てみると、表面に薄くヒビがはいっている。
(あと少しで砕けそう)
この結晶が砕けるほどの精神的衝撃を、どうやって黒騎士に与えようか悩む。
「『愛』が転じて『憎しみ』になる……」
黒騎士の場合、憧れという『愛』が『憎しみ』になったのだろう。『憎しみ』を消す方法は人それぞれだ。イザベラさんのように『愛』を捨てる方法もあるし、レイラさんのように『愛』をもう一度取り戻す方法もある。
「黒騎士さんはどうするんだろう」
本当は友人という立場で彼を導いてあげたかったが、拒絶されてしまったから仕方ない。遠くで援護する方向に転換する。
「様子見か~」
答えがでない問題を放り投げ、今日はもう寝ることにした。夕日が綺麗だが、私はロングスリーパーだから明日の朝まで目を覚まさないはずだ。
「え”、もうお昼ですか?」
「はい、そうですよ」
目覚めたばかりでバキバキする体を動かし、宿の人に朝ごはんを頼みに行くとそう言われる。とりあえずお昼ごはんを頼み、私は部屋に戻った。
のんびりとお昼ごはんを食べていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
(お昼ごはんは届いているけど)
宿の人がやってきたのかと思い、ドアを開けると思わぬ人が立っていた。
「………」
「やっほ~、シロちゃん」
「あっ、間に合ってます」
「何が?!」
静かにドアを閉じようとすると、ドアと部屋の間に足を入れてきた。悪質な宗教勧誘のひとがやるやつみたいだ。帰る気がさなそうな彼らをみて、私はため息をついた。
「わかりました。キリルさんはいいですけど、そちらの方はちょっと……」
「ほら、ケイ。シロちゃんに謝るんだろ」
キリルさんにそう促された黒騎士は、さっきからずっとそっぽを向いている。昨日の今日で会いに来るとは思わなかった。なぜかこっちのほうが気まずい。
「……ふん、しけた顔をしているな」
「帰ってもらえませんか」
「待って待って!」
『お前、ディアクロスと約束しただろ!』
『僕は別に……』
(う~ん、丸聞こえ)
こそこそ話している内容から鑑みるに、黒騎士はテディさんに約束させられて謝りにきたようだ。正直、黒騎士には謝ってもらうことより結晶をどうにかしてもらいたい。
「黒騎士さん」
「……!なんだ」
ソワソワした様子の彼に、私は優しい声で言った。
「私はもうあなたを友人と思ってないので大丈夫ですよ」
「!?」
「えっ」
黒騎士とキリルさんの様子がおかしいため、詳しく話すことにした。
「無理に友人になろうとしなくていいんです。人の合う合わないはありますから」
キリルさんは目を手で覆い、黒騎士は俯いたまま動かない。目の前の異様な雰囲気な彼らに、不安を感じながらも言葉を紡いだ。
「今までは価値の有無で人付き合いをしていたのかもしれませんが、これからは自分の心に耳を傾けるのもいいかもしれません」
激励する気持ちをこめて黒騎士に微笑んだ。まあ、彼は俯いているからこっちの顔を見てないけど。けっこう真面目なことを言っているのに……。
「……僕にそうしろと」
「自分の望む通りにやってください」
反応が返ってきたことが嬉しくて、弾んだ声で返事をする。すると黒騎士は急に私をほうを向き、真剣な顔で言った。
「友人になってくれ」
「……ん?」
「だから、僕の友人になってくれといってるんだ!」
キレ気味に言われた言葉に、思考がフリーズする。黒騎士が素直になったことは喜ばしいことだが、この要望には応えられない。
(結晶の問題を解決しないと親しい仲になれないんだよ~)
『魔女の理』の一条。結晶の主と親しくなることを禁ずる。
これは魔女が結晶の主に手心を加えることを防ぐためだ。つまり、親しくなっても冷徹な判断を下せるのなら別に問題ない条件だ。しかし、私はそこまで心が強くない。よって、黒騎士と友人になれないのだ。
(………いや、それは言い訳か)
本当は黒騎士に「友人ごっこ」だと言われたことが心に引っかかっているだけだ。
ただただ自分が傷つくのが嫌なだけなのに、『魔女の理』を言い訳に誤魔化している。
(とにかく、彼とはもう友人に……)
熟考した私は、ゆっくりと口を開いた。
『あら、剣術の試合をするの?』
『はい、母上!ぼく、もう真剣をもてるようになったんですよ!』
(あれは……)
小さな男の子と若い女性が話している。きっと黒騎士の幼いころの記憶だろう。自慢げに言っている姿は、幼くても今の黒騎士の片鱗がある。
『そうなのね。それなら、ディアクロス様のようになりなさい』
『ディアクロス様?』
『そうよ。あの方はあなたと二つしか変わらないのに、もう騎士学校に受かったそうよ』
『………』
『あなたも、あの方のように頑張るのよ』
『はい、母上……』
褒められたかっただけの子どもは、寂しそうな横顔をしていた。
思わずその子のほうへ一歩踏み出すと、場面が切り替わった。
目の前には、少年に成長した黒騎士がいた。そして、その周りには同年代の少年たちがいた。
『ケイドリック様はすごいですね!』
『主席で騎士学校に入学だなんて!』
褒め称えている少年たちには見向きもせず、黒騎士は本を読んでいた。
『でも、ディアクロス様は主席どころか飛び級して今年に卒業するんだろ……?』
『しーっ!お前、ケイドリック様の前でそのことは言うなってあれほど……!』
ガタッ
『用事を思い出したので、失礼する』
彼は私の真横を通り過ぎる。本を持っている手は、白くなるほど強く握られていた。
彼の握りしめたその手に触れようとした瞬間、私は王城にいた。私が一度行ったことのある王座の間だ。その王座の前で、王様から勲章を授けられている一人の騎士がいた。黒騎士だ。年齢は、現実の彼と近そうだ。
『今後も、この国のために励んでおくれ』
『御意』
勲章を受け取った彼は王様に一礼し、王座に背をむけた。彼はこちらに向かって歩いてくる。赤いカーペットを堂々と歩く彼の周りには、大勢の貴族たちがいた。彼が歩いている姿をみていると、貴族たちの言葉が耳に入った。
『ケイドリック様はすごいですわ』
『まあ、あのアスガルト家の令息ですから』
『そうですな、至極当然のことでしょう』
『それに比べて、ディアクロス様は飛び抜けておりますな』
『あの魔獣の王を倒したんですって?』
『ケイドリック様よりディアクロス様のほうを先に表彰すべきでは?』
彼はその言葉に反応しなかった。真っ直ぐに前を見据え、周囲を見ることなくその場から去った。
感情を感じられない彼の顔が頭にこびりつく。幼かった彼の無邪気な顔が忘れられない。私はもう、彼を追いかけるようなことはしなかった。できなかった、のほうが正しいかもしれない。
(私では、何もできない……)
彼の記憶と感情を知った私は、彼の心に踏み込むことはできないとわかった。
「貴様に僕の気持ちがわかるか!!」
(はっ!)
簡素な控え室に黒騎士の叫び声が響く。その反響した声に意識が現実へと引き戻される。相変わらず結晶は黒ずんでいるし、キリルさんの目は死んでいる。テディさんは何を考えているのかわからない無表情だ。
「………」
「はは、そうだったな。僕は貴様にとって何の価値もないんだったな」
黒騎士の乾いた笑いに、私は苦しくなる。記憶をみているから尚更苦しく思う。
「だから貴様のものを奪ってやろうと思ったんだ」
急に腕をひっぱられる。気がつくと、私は黒騎士とテディさんの間にいた。黒騎士が私をひっぱったようだ。彼らの喧嘩に、突然巻き込まれた私は困惑する。そんなことはお構いなく、黒騎士はそんな私に笑顔を向けた。
「僕との友人ごっこは楽しかったか?」
「えっ」
「なんだ、僕と本当に友人になれたとでも勘違いしてたんだな」
歪んだ笑みを浮かべる黒騎士に、私は固まる。
「お前みたいに平凡な人間が、この僕と対等な存在になれるとでも思っていたのか?」
「おい、ケイ。なにを――」
「その言葉を取り消せ」
ずっと黙っていたテディさんが言葉を発した。それを待っていたかのように、黒騎士は口の端を吊り上げる。部屋の空気は最悪だ。黒騎士が何かを言おうとする前に、私は口を開いた。
「知ってました」
「「え?」」「……」
虚を突かれた黒騎士とキリルさん、そして無言のテディさんたちを笑顔で見る。
「黒騎士さんがテディさんへの当てつけのために、私と交流していたことはわかってました」
「な、なんで」
言葉につまっている黒騎士は、「わかっていたのにどうして交流を続けていたのか」と言いたいのだろう。
「私があなたと友人になれると思っていたからです」
「……先程、無理だと言っただろう」
「まあ、そうですね」
彼の心が満たされるほど、私の市場価値は高くない。私が世間にでれば、容姿も平凡、目をひくほどの功績も能力もないと判断されるだろう。彼が求めるのは、テディさんレベルの存在だ。そばに置いておくだけで、自身も価値があるように感じられる存在を必要としている。
「でも、私が友人になりたいと思ったので」
「……は?」
「そう!あなたほど素直じゃない人は滅多にいません!ぜひとも、友人になりたかったんです!」
「褒めてないだろ」
思わずツッコんでしまっている黒騎士。ぶすくれた感じを醸し出す彼に、笑みがこぼれた。それにしても、友人として価値がないはずの私に褒められたいと思っているこの矛盾を、彼はいつ気づくだろうか。
「私はあなたの友人だったと、胸をはって言えますよ」
目の前にいる黒騎士の頬へ、自然に手を伸ばす。彼にそっと触れた後、私はすぐにその手をしまう。そして、ケロッとした顔で言った。
「じゃあ、あとは二人で話し合ってくださいね」
私は突っ立っていたキリルさんを回収し、控え室から出ていった。
「……よし、回収成功」
物言いたげなキリルさんを煙に巻き、ひとりで宿まで帰ってきた。そして、部屋に入るやいなや手の中にあるモノを確認した。
「それにしても、ほんとに黒ずんでるなー」
黒騎士の頬に触れるフリをして、さり気なく回収していた結晶を見る。よくよく見てみると、表面に薄くヒビがはいっている。
(あと少しで砕けそう)
この結晶が砕けるほどの精神的衝撃を、どうやって黒騎士に与えようか悩む。
「『愛』が転じて『憎しみ』になる……」
黒騎士の場合、憧れという『愛』が『憎しみ』になったのだろう。『憎しみ』を消す方法は人それぞれだ。イザベラさんのように『愛』を捨てる方法もあるし、レイラさんのように『愛』をもう一度取り戻す方法もある。
「黒騎士さんはどうするんだろう」
本当は友人という立場で彼を導いてあげたかったが、拒絶されてしまったから仕方ない。遠くで援護する方向に転換する。
「様子見か~」
答えがでない問題を放り投げ、今日はもう寝ることにした。夕日が綺麗だが、私はロングスリーパーだから明日の朝まで目を覚まさないはずだ。
「え”、もうお昼ですか?」
「はい、そうですよ」
目覚めたばかりでバキバキする体を動かし、宿の人に朝ごはんを頼みに行くとそう言われる。とりあえずお昼ごはんを頼み、私は部屋に戻った。
のんびりとお昼ごはんを食べていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
(お昼ごはんは届いているけど)
宿の人がやってきたのかと思い、ドアを開けると思わぬ人が立っていた。
「………」
「やっほ~、シロちゃん」
「あっ、間に合ってます」
「何が?!」
静かにドアを閉じようとすると、ドアと部屋の間に足を入れてきた。悪質な宗教勧誘のひとがやるやつみたいだ。帰る気がさなそうな彼らをみて、私はため息をついた。
「わかりました。キリルさんはいいですけど、そちらの方はちょっと……」
「ほら、ケイ。シロちゃんに謝るんだろ」
キリルさんにそう促された黒騎士は、さっきからずっとそっぽを向いている。昨日の今日で会いに来るとは思わなかった。なぜかこっちのほうが気まずい。
「……ふん、しけた顔をしているな」
「帰ってもらえませんか」
「待って待って!」
『お前、ディアクロスと約束しただろ!』
『僕は別に……』
(う~ん、丸聞こえ)
こそこそ話している内容から鑑みるに、黒騎士はテディさんに約束させられて謝りにきたようだ。正直、黒騎士には謝ってもらうことより結晶をどうにかしてもらいたい。
「黒騎士さん」
「……!なんだ」
ソワソワした様子の彼に、私は優しい声で言った。
「私はもうあなたを友人と思ってないので大丈夫ですよ」
「!?」
「えっ」
黒騎士とキリルさんの様子がおかしいため、詳しく話すことにした。
「無理に友人になろうとしなくていいんです。人の合う合わないはありますから」
キリルさんは目を手で覆い、黒騎士は俯いたまま動かない。目の前の異様な雰囲気な彼らに、不安を感じながらも言葉を紡いだ。
「今までは価値の有無で人付き合いをしていたのかもしれませんが、これからは自分の心に耳を傾けるのもいいかもしれません」
激励する気持ちをこめて黒騎士に微笑んだ。まあ、彼は俯いているからこっちの顔を見てないけど。けっこう真面目なことを言っているのに……。
「……僕にそうしろと」
「自分の望む通りにやってください」
反応が返ってきたことが嬉しくて、弾んだ声で返事をする。すると黒騎士は急に私をほうを向き、真剣な顔で言った。
「友人になってくれ」
「……ん?」
「だから、僕の友人になってくれといってるんだ!」
キレ気味に言われた言葉に、思考がフリーズする。黒騎士が素直になったことは喜ばしいことだが、この要望には応えられない。
(結晶の問題を解決しないと親しい仲になれないんだよ~)
『魔女の理』の一条。結晶の主と親しくなることを禁ずる。
これは魔女が結晶の主に手心を加えることを防ぐためだ。つまり、親しくなっても冷徹な判断を下せるのなら別に問題ない条件だ。しかし、私はそこまで心が強くない。よって、黒騎士と友人になれないのだ。
(………いや、それは言い訳か)
本当は黒騎士に「友人ごっこ」だと言われたことが心に引っかかっているだけだ。
ただただ自分が傷つくのが嫌なだけなのに、『魔女の理』を言い訳に誤魔化している。
(とにかく、彼とはもう友人に……)
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