平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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20 友

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 部屋の前にいた黒騎士とキリルさんを迎え入れた。
 お菓子が大量にある机を、三名の騎士と一般人が囲むという異質な空間になった。しいて気になることは、テディさんが私の隣を確保したことくらいだ。ついでにいうと、こちらを睨み付けてくる黒騎士が向かいにいる。

「その……ご用件は」

 お菓子のほうをさり気なく見ながら、こちらを睨んでくる黒騎士に問う。彼がいくら天邪鬼仲間だと言っても、すでに結晶をひっつけてない状態では彼の心情を理解することができない。あの円滑な意思疎通も、結晶によって成り立っていたのだ。今の黒騎士は未知だといっていい。

「……食べながらでいいぞ」

「あっ、ありがとうございます」

 そんなにお菓子を見ていただろうかと思いながらも、ありがたい申し出だったため素直に従う。シフォンケーキのようなものを食べながら、眉間にしわを寄せている黒騎士を見る。

「ディアクロス、お前は席をはずせ」

「断る」

「……空気の読めない奴だな」

 黒騎士の額に血管が浮き出た。やはり、テディさんとの相性は最悪らしい。「混ぜるな危険」の二人が揃っている。持っていたお皿をそっと置き、キリルさんのほうを見る。

「はあ、喧嘩は外でやれ。俺はシロちゃんとお茶会してるから」

「「駄目だ」」

「そこは息が合うんだよなー」

 キリルさんは呆れたように首を振っている。
 私は変なところで仲が良い二人をちらっと見た後、キリルさんのほうを見て言った。

「薬作りは魔女祭が終わるまで休みですよね?何か別の仕事がはいりましたか?」

「いやシロちゃん、仕事のことじゃないから」

「そうですか……」

「そうなんです」

 私とキリルさんは揃って黒騎士の顔を見た。そこにはしかめっ面とも、拗ねているともつかない顔の黒騎士がいた。

「……なんだ」

「いや、それはこっちのセリフ……」

 なかなか話が進まないため、手っ取り早く用件を伺うことにした。

「キリルさん!」

「えっ、なに?」

「ちょっと面を貸してください」

「どこでそんなガラの悪い言葉おぼえたの」


 キリルさんを部屋の外へ連れ出し、単刀直入に尋ねた。

「もしかして、黒騎士さんはまだ私と友人になろうとしてますか?」

「う~ん、そうだね」

「そうですか……」

 歩み寄りをみせている黒騎士に、とてつもない罪悪感を抱く。ズボンのポケットの中にある結晶をそっと触った。固く冷たい質感は相変わらずで、砕けそうな雰囲気は全くない。

「どうした?何かあった?」

 顔を伏せた私をキリルさんは心配する。そんな彼を見て、以前彼の目の前であの能力をみせたことを思い出した。結晶をあやつる様を見たことがある彼になら話が早い。

「キリルさん、実は―――」



「なるほどね、ケイから結晶がでたと」

「はい、それも捨てた方がいい結晶です」

「前回みたいに体へ戻すのはダメってことか」

 レイラさんの時のようにはいかないとわかってくれたようだ。結晶の実物をみせようとポケットに手を入れると、突然のめまいに襲われた。

(あれっ)

「おっと」

 キリルさんはふらついた私を抱き寄せた。彼の胸板に両手をつき、頭のなかにうごめいている何かをやり過ごす。キリルさんの少し甘くスパイシーな香りに、気分が少し落ち着く。

「すみません、もう大丈夫です」

 片手で頭を押えながら、キリルさんの胸を押す。落ち着いて今の状況を考えてみると、結構恥ずかしい態勢だったことに気が付く。しかし、キリルさんの腕が腰に回り身動きがとれなくなる。

「……キリルさん」

「まあまあ、役得ってことで」

 いたずらっぽく笑う彼に、こちらを笑わせようとしているのがわかる。急にふらついた私を心配していることが伝わってきて、彼の腕を無理やり振り払うことはためらわれた。

「はあ、……あっ」

 軽くため息をついた私は、やり返す方法を思いついた。
 私はキリルさんを抱きしめ返した。

「えっ?」

 抱きしめ返されるとは思わなかったのだろう。目が皿のようにまん丸になっている。してやったりと思っているとポケットに違和感を感じた。違和感の正体はあの黒い結晶だった。ヤバそうな光を放つ結晶を手のひらにだし、私とキリルさんはそれを凝視した。

「あれ?」

「ねえシロちゃん、これヤバそうじゃない?」

 バキッ!

「うわっ!」

「……砕けた」

 驚く私と冷静なキリルさん。二人とも砕け散った結晶を見た後、互いに顔を見合わせた。そして、キリルさんは何かに気づいたように私の背後を見た。

(彼の視線の先には、私の部屋しかないはずだけど……)

 振り返ってキリルさんの視線の先を追うが、とくになんの変哲もない私の部屋のドアがあった。そのドアが少し開いているくらいしか、変わったところはない。

「キリルさん、なにか気づいたんですか?」

「……いや、何も?」

 明らかに何かを知っている顔で、私の質問に答えてくれるつもりはないようだ。仕方なく砕けた結晶のほうに意識を戻す。

「……あれ、この結晶が砕けたってことは黒騎士さんと友人になっても大丈夫ってこと?」

「確かに。さっき結晶さえどうにかなったら、ケイと親密になっても問題ないって言ってたね」

「「……」」

 異様な沈黙の中、口火を切ったのはキリルさんだ。

「ちなみにシロちゃん、ケイは優秀な人材だけど」

「私は友人に優秀さとかを求めてませんから」

「性悪だけど、いい子だから!」

「矛盾の嵐じゃないですか!」

 キリルさんによる黒騎士アピールが始まってしまった。そんなことをされても、この王都で親密なつながりをもちたくないから意味ないのに……。


「おい、勝手に僕のことを話すな」

「あっ」

「お~、やっと来たのか」

 黒騎士の声が背後から聞こえてきた。気まずい思いをしている私とは対照的に、キリルさんはのんきに手を振っている。

「キリル、後で話がある」

「やっぱりかー」

 恐ろしいほど冷たい声なのに、キリルさんは普通に私の部屋に戻っていった。私は黒騎士のほうを向いたはいいものの、足元しか見れていない。彼の顔を見る勇気はない。

「シロ」

「はい……」

 多少やわらかくなった声だが、気まずさは変わらない。一体さっきの会話をどこからどこまで聞いていたのか気が気じゃない。あんなに堂々としていたキリルさんの神経がおかしい。

「キリルのやつはやめておけ」

「ん?」

 黒騎士の話がみえない。キリルさんの何をやめておけと言っているのかわからない。困惑して彼の顔を見ると、真面目な表情をしていた。

「あいつは女好きだ」

「でしょうね」

「わかっていながら、どうしてあいつと……!」

(まって……もしかして、さっきキリルさんに抱き着いたの見られてた……!?)

 焦って目をせわしく泳がせる。黒騎士の顔がどんどん厳しくなっていく。マズいと思った私は、とにかく話すことにした。

「あれは冗談です」

「君は冗談で抱き着くのか?」

 苛立った様子の黒騎士に委縮する。一方で、どうしてここまで私は怒られているのかと疑問に思った。彼の様子が不純異性交遊を咎める親みたいにみえる。そう思うと、なんだかおかしく思ってしまった。

「おい、なにを笑っているんだ」

「その、なんだか異性交遊を咎めてる親みたいだなって」

「な、僕が父親に見えるのか?!」

「いや、どちらかと言えば母親かも」

「なんでだよ!」

 顔を見合わせた私たちは、互いの顔を見て笑った。以前と同じような掛け合いが、あの頃の思い出を鮮やかに思い起こさせた。しばらく、私と黒騎士は笑いあった。


「なあ、僕はもう君と友になることはできないのだろうか」

 ひとしきり笑い合った後、黒騎士は静かにそう言った。彼の顔には後悔と寂しさがないまぜになっていた。そんな顔をさせている自分を責めながら、私は正直に言った。

「私は……仲直りの仕方がわからないんです」

「仲直り?」

「そうです」

 困惑している黒騎士に、私の抱えている思いを伝えることにした。それが、せめてもの礼儀だと思った。

「私は一度ダメになった関係を修復できたことがないんです」

 ―――もう一度つながることが怖くて


 目を閉じると、思い出したくない記憶が脳裏にフラッシュバックする。

 ―――そんな人とは思わなかった

(ちがう、ちがう)

 ―――期待はずれだ

(まって、そうじゃない)

 ―――なんというか、平凡な子ね

(やめて、もうやめて!)

「おい!大丈夫か?」

 はっとして目を開けると、心配そうな顔の黒騎士がいた。彼はこちらに伸ばしかけていた手をさっとおろした。こちらに心を傾けてくれている彼に、少しだけ期待してしまう。

「黒騎士さん、あなたは平凡でなんの役にも立たない人間を友人にしたいんですか?」

 私の発した自虐的な言葉に、彼は目を見開く。そしてすぐに、怒ったような顔をして言った。

「僕が友になりたいと思った者を馬鹿にするな」

 思わず目を伏せた私の頭を、彼はそっと撫でた。彼の珍しいデレた行動に驚き、気づいたら言葉を紡いでいた。

「もう一度、友達になれますか……?」

 こぼれでた言葉を塞ぐように口をおさえたが、彼の耳にすでに届いてしまっていた。

「ああ、君が望んでくれるなら」

「望んでないので、無理ですね」

「今のは『はい』って言うとこだろ!?」

「いやですー」

「あ、こら!どこ行くんだ!」

 湿っぽくなってしまった空気に堪えきれなくなり、私は返答をわざと茶化した。いい反応を返してくれる黒騎士に、私は少し潤んだ目元を緩めた。









「よかったな、仲直りできたみたいだ」

 ドアの隙間から様子を覗っていたキリルは、横にいるディアクロスにそう声をかけた。

「……そうだな」

 ディアクロスは腕を組んで目をすがめた。

「でも、シロちゃんのあのネガティブな言葉はひっかかるな」

「ああ」

 あの様子は過去になにかあったことは間違いないと確信していた。それを打ち明けてくれるかは彼女次第であることも、二人は理解していた。

「もしかすると、お前じゃなくてケイに打ち明けちゃうかもな~」

「………」

「ごめん!謝るから!その拳はしまって!」

 拳をおろしたディアクロスは、廊下を駆け回るシロたちをじっと見つめた。



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