平凡な魔女は「愛」を捨てるのが仕事です

晶迦

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21 魔女祭

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 黒騎士、いやケイと仲直りができた翌日。
 私は外へと引きずり出された。

「朝から人混みに突っ込むなんて正気じゃない……」

「文句を言うな、ひきこもり」

「黒騎……じゃなくて、ケイは陽の者だからでしょう……」

 陽、それすなわち陽気で社交的な者のこと。私とは対極の存在だということは明白だ。こんなにすれ違う人たちに見られているのに、全く意に介していない。彼とは感性が違うことだけはわかる。

「陽……?そんなことより黒騎士って呼ぶな。僕の名はケイだ」

「分かってますよ!言い直したじゃないですか!」

 こんな朝から外でケイと言い争いをしているのには訳があった。
 昨日仲直りをしたことはよかったものの、この目の前で偉そうにしているケイという人物が「魔女祭というものを教えてやる」とありがた迷惑なことを言い出したのだ。懸命に抵抗したが、結果はお察しの通りだ。強行突破されて現在この人に連れまわされている。 

「あっ、なんだか曇ってきた気がする。それじゃあ帰りましょうか」

「ただの通り雲だ。いいから行くぞ」

「やだー!」

 





「―――という歴史が魔女祭には……おい、聞いているのか」

 赤や黄色のリボンに彩られたカフェで、私はケイから魔女祭の歴史について聞かされていた。まさか祭りで授業が開講されるとは思わなかった。唯一の救いは、魔女をモチーフにしたケーキを食べながら聞くことが許されていることくらいだ。

「はいはい、聞いてます」

「返事は一回だ。なら、僕が今まで言ったことを復唱してみろ」

「魔女祭は、魔女たちに感謝すると同時に彼女らをおだてて機嫌とるためのものです」

「……結構省いたな」

「要点はおさえてます!」

 ドヤ顔をしている私に、ケイはため息をついた。この様子は及第点のようだ。まあ、祭りの主旨なんて知っている人の方が少ないんじゃないかと思う。前世の祭りは、とにかく騒ぐことが目的だったし。

「とにかく、僕が言いたいのは魔女は崇高かつ恐ろしい存在だということだ」

「へえ~」

(私も曲がりなりにも魔女なんだけどな……)

「君は魔女の力の継承者なんだろう?それなのに、魔女の存在をこんなにも知らないとは……」

 頭を押さえているケイには申し訳ないが、私は他の魔女と交流がないのだ。昔、一度だけ魔女たちの会合に行ったことがあるが、その時の記憶は雲がかかったように曖昧で頼りにならない。だから、魔女の生態を知る機会はないのである。私も魔女ではあるが、平凡すぎて異質な魔女だから例外だろう。

「継承者なんて他にゴロゴロいるじゃないですか。それに、この力はいつ消えるとも知らないものですよ?」

(そんなものは継承というよりも、魔女からの気まぐれな加護と呼ぶべきだろう)

「こんなもの、通り魔のように付与された爆弾です」

(まあ、私は本物の魔女だからこの力とずっと向き合わないといけないけど……)

「シロ、君ってやつは……。そんな不敬なこと言ってると呪われるぞ」

「そんなことより、私が継承者だって知ってたんですね」

「こいつ、呪いのことをそんなことって言った……?」

 愕然としたケイの顔の前で手を振る。意識を取り戻した彼は、やっと私の質問に答えてくれる。疲れたような顔をしているのは、なんだか釈然としない。

「まあ、僕は騎士だからな。そのくらい容易い」

「プライバシーの侵害ですね」

「なっ!情報収集も仕事の内だ!」

 私が彼をジト目で見ると、目をウロウロと彷徨わせた。めちゃくちゃ動揺しているのがわかる。
 それにしても、彼は以前よりもはるかに素直になったと思う。おそらく、あの結晶が消滅したことが要因としてあげられるだろう。なぜか最近、魔女の力が求められる場面が多いように感じる。今まで役にも立たなかった能力であるだけに、戸惑いを隠すことができない。

「それなら私の能力も知ってるんですか?」

「ああ、精神に作用する能力だろう?」

「うん、まあ、そうですね」

 たいぶアバウトに知られていることに安堵する。詳しく知られるほど、その能力を利用されやすくなる。知られないことが一番いい。

「精神に作用するといっても微々たるものですからね?」

「ああ、それはそうだろう。魔女でない限り、強力な力を人間が使えるはずないからな」

 当然のことだと頷く彼に、私が全力を出して能力を使っても魔女だってバレない気がしてきた。改めて、私は魔女として異質なほど平凡な存在なんだなぁと思った。このまま魔女だと言わなければ、普通の人として生きられると胸をなでおろす。

「それで?私は今度どこに連行されるんですか」

「よくわかっているな。今度は王都の歴史的な名所に案内しよう」

「……帰りたい」

「駄目だ」

 私はカフェから引きずり出され、そのまま彼の観光ルートを巡らされた。














「あれ?今日ってお祭りですよね?どうして歴史のフィールドワークをしているんですか?」

「何を言ってるんだ。どれも魔女に関連する名所をまわっただろう」

「いや、お祭りは出店とかを楽しんだり催し物を見たりするんですよ。まかり間違っても歴史を学ぶことじゃないです」

 死んだ目をして虚空を眺めていると、遠くに見知った人影が見えた。

「あれは……!」

 この授業地獄から解放される糸口を見つける。私はケイをその場に残し、その人影に向かって走った。

「あっ、どこに行くんだ!」

 こちらに気が付いていたその人影は、走ってきた私に戸惑ったような顔をして言った。

「……シロ殿?」

「テディさん!」

 そう、ケイの天敵であるテディさんがいたのだ。










「なぜこいつと……」

「……シロ殿」

「お二人とも、そんなしかめっ顔をしないでください!」

 私はニコニコとしながら、出店が立ち並んでいる通りを歩く。そんな私の後ろには仏頂面のテディさんとケイがいる。声がギリギリ届く距離にいる彼らに、前を向いたまま声をかける。

「それと、もう少し私から離れていただけると嬉しいです」

「なんでだよ!」

「……離れると危ない」

 抗議の意を表す彼らに、苦笑を浮かべる。ただでさえ二人は単体でも目立つのに、セットでハッピーセットになれば結果は明白だ。あの見目麗しい騎士たちを引き連れている人間は誰なんだと注目される。さらに、私の容姿が普通だから火に油を注いでいる状態だ。刺すような視線を肌で感じる。

「うーん、あなた方のそばにいる方が命の危険を感じます」

 目で周囲を示すと、ケイは私の言いたいことがわかったようだ。渋々といった様子で、彼はテディさんの方を見た。そのテディさんは、私の方をじっと見つめている。こっちをあまり見ないでほしい。

「ディアクロス、こっちに来い」

「断る」

「いいから来い!」

 こちらの意見を求めるようなテディさんの顔に、私は満面の笑みで答えた。

「いってらっしゃい!」











 目立ちすぎる彼らと離れた後、私はせっかくの祭りを満喫することにした。人が多いのは相変わらずだが、すれ違う人々の顔に笑顔が溢れていることは気分がいい。
 走り回る子どもたち、お昼なのにすでにお酒を飲んでいる大人たち、派手な芸を披露している大道芸人たち。誰もが陽気にこの魔女祭を楽しんでいる。

「ん?」

 色とりどりな出店は立ち並ぶ通りに似つかわしくない黒いテントがある。立てかけられている看板によると、どうやら占いをしているところらしい。人々のスルースキルがすごいのか、誰もこのテントに入らない。同情と好奇心が同時に刺激された私は、その怪しげなテントに入ることにした。

 中はとても簡素だった。黒い布に覆われたこの空間には、椅子と机が中央にあるだけだ。椅子は向かい合うように置かれていて、その椅子の間にある机には水晶玉がひとつあった。黒いテーブルクロスがかけられている机にポツンと置かれている水晶玉。いかにも「占い」っぽい。

「誰もいない……?」

「いらっしゃい~」

「うわあ!」

 真後ろから聞こえてきた声に驚き、勢いよく振り返る。そこには黒いローブに身をつつんだ人物がいた。顔はフードを深く被っていて見えない。いかにも怪しい人が現れた。

「お邪魔しました」

「まってまって」

 急いでテントの出口に向かうが、その怪しい人物が道を塞いできた。背が高いとは思っていたが、両手を広げているその姿は威圧感がある。

「すみません、そこを通してもらえませんか」

「そんなに警戒しないでよ~」

 のんびりとした声は、明らかに男性の声だ。威圧感がなく毒気を抜かれるその声は、不思議と安心感を抱く。そのことが、私をさらに警戒させた。

「占いに来たんでしょ~?占ってあげるよ~」

 嬉しそうな声色に、とりあえず相手に敵対の意思がないことを悟る。しかし、この怪しすぎる人物に従っていいものか悩む。顔をこわばらせているであろう私に、彼は動作だけで椅子に座るよう促してきた。椅子を引いたまま動かない彼に、私は諦めてそこに座ることにした。彼のその姿が、懐かしい人を思い出させたから。











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