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第一章 スキルと従者と本の世界
四
しおりを挟む「ですから、エンド様。あなたは何にでもなれます。強く願えば、きっと何でもできるんです。私はそう信じていますよ」
「レイカさん……」
ぼんやりとレイカさんを見つめていると、彼女はそっと僕に近づいてくる。
なんだろう、と思っているとふわりと彼女の香りが漂ってきた。
甘く、むせかえるようなその色香にめまいを感じていると、そっと指を伸ばしてくる。
そして、その指で僕の鼻をぐいっと押すと、満面の笑みで口を開いた。
「レイカです」
「ふぇ?」
「レイカさん、じゃなくてレイカです。私はエンド様の従者ですよ? どこの世界に従者に対してさん付けする人がいるんですか」
「で、でも! 僕は孤児だから――」
そう言いかけた僕の鼻は、レイカさんの指でさらに歪んでいく。
い、痛い。
な、なにをするんだ、と文句を言おうとして僕は口を噤んだ。
なぜって、レイカさんの顔が笑っているはずなのに怖い。
とってもきれいな笑顔には、どこかよどんだ影を感じる。
僕は、逆らっちゃいけないことを悟り、すばやくうなづいた。
「う、うん、わかったよ、レ……レイカ」
僕がそう言うと、ようやくレイカさんの指からは力が抜けた。そして、笑顔もキラキラと輝くものになっていく。
「はい! 自信を持ってください。あなたは私の主なんですから」
そういって、レイカさん……いや違う。レイカはこの世のものとは思えないくらい可愛い笑顔で笑ったのだ。
◆
僕はその日、本の中で一夜を過ごした。
気候は温暖で、野宿でもまったく問題はない。僕が広げたらしい森の中にはたくさんの果物があって、それを食べればおなかは膨れた。
そんなこんなで、僕は次の日の朝。ようやく現実の世界に戻ってきたのだ。
「出てきたはいいけど……さっきまでいた場所が本の中の世界とは本当に思えないなぁ」
「エンド様が作った世界ですから。むしろこっちの世界よりもいいに決まってます」
「……あんまり期待をかけられても困るんだけどな」
僕はそうぼやきながらあたりを見回す。
その場所は、僕が叫び疲れて寝てしまった場所だ。
つまり、孤児院があった場所である。
僕が立っているところから少し目線を遠くにやれば、そこには黒焦げに燃え朽ちた孤児院らしき残骸があった。
もうすっかり冷たくなっており、近づくと焦げ臭い。
瓦礫を拾おうとするも、ボロリと灰になって崩れ落ちる。
僕が育った故郷ともいえる場所はもうないのだ。
「……エンド様」
僕と一緒に本の世界から出てきたレイカは、そっと僕の手を握ってくれる。
気を使ってくれているのだろう。その優しさが今はうれしい。
「大丈夫だよ。昨日までの僕が持っていたものはすべて失われたけど……今日からの僕には本の世界がある。レイカもいる。だから、大丈夫さ」
残骸をみていると、頭の中に孤児院での思い出があふれ出してきた。
それは、どちらかというといい思い出ばかり。
自分のスキルが何か、知る前までの彩り豊かな世界。
とうになくなっていたものだけど、跡形もなくなったという現状は物悲しいものがある。
けれど、立ち止まってはいられない。
僕は生きていかなきゃならないんだ。そして、強くならないと。
せめて、僕が生み出した世界と、レイカを守れるように。
「じゃあ、行こうか! 今日から僕らの物語は始まるんだから!」
「ええ……そうですね! エンド様!」
僕とレイカは視線を合わせ、街の中央へと向かっていった。
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