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第一章
3.サバイバル実習 その⑥:ヘレナの立てた作戦は無視する!
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それからの私たち落ちこぼれコンビは、クラスから与えられた役割を完璧にこなした。
二日目~四日目までは何度か『空き巣』を成功させて、いくつかの『拠点』を戦闘なしで奪うことに成功したし、少人数対少人数の戦闘にも一度だけ勝利を収めている。
しかし、五日目以降は流石に対策を打たれたのか、必ず誰かが防衛戦力として出張ってくるようになり、なかなか思うように『空き巣』ができなくなった。唯でさえ能動的な活躍ができていないというのに数少ない貢献の機会まで封じられてしまい、次第に焦りが募ってゆく。
そして、そんな状況が変わらぬまま遂に『サバイバル実習』は最終日を迎えた。
〔図7.最終日 開始前〕
現在のポイント状況は以下の通り。
一位:二組――1582
二位:三組――1575
三位:一組――1571
取って取られての一進一退を繰り返し、ポイントはほぼ横並びで拮抗していた。
そう、拮抗である。
我々三組は『ポイント重視』の方針を立てたにも関わらず、他クラスの決死の守備に阻まれ、ポイント的に抜きん出ることは叶わなかった。
一組はいち早く斥候を取り入れたことで初日こそイニシアチブを握ったものの、二組・三組も斥候を取り入れるようになった二日目以降、これといった采配を見せることはなく、ただただ『クラス拠点重視』の戦略を愚直に貫き、気付けば最下位に沈んでいた。
その結果、我々三組の本陣まで後一歩のところまで迫っているが、これはヘレナが敢えてポイントの少ないところへ引き込んでいるだけである。恐らく最終日の攻防の最中に押し戻されることだろう。これほどまでに戦線が細長くなってしまうと、どこの『拠点』にも孤立による一挙喪失の可能性が出来てしまい、結果として守りが難しくなってしまうからだ。
そして、我々三組と一組がもつれあいになっている間に、どっちつかずの戦略だった二組が僅差でトップに立った。戦術的な話し合いからハブられ続けていた私の客観的な総評としては、一組・三組が双方とも初期に打ち立てた固執し過ぎたように思えた。
しかし、言うは易し行うは難し。結果論を言うのであれば、流れを変えた方が良いと分かっていながら、全体の修正をできなかった己をこそ恥じるべきである。
最終日、一回戦。
ここでヘレナの采配が光る。一組の伸び切った戦線を見事分断することに成功し、最高到達点を1-2(3)から1-6(3)の圧倒的安全圏にまで一気に押し戻した。
これにより、ようやく一組は『クラス拠点重視』に見切りを付けたのか、続く二回戦では中央付近の『拠点』を取りに来た。すると、それに呼応するように二組の主戦場もまた中央付近へ移る。
そして、三回戦第3セクション目を迎える頃には、三勢力の版図がアメーバのように入り乱れるような形になっていた。
〔図8.最終日 三回戦 第3セクション前〕
この急変する戦況に対し、我々三組は十分に対応できたとは言い難く、多くの『拠点』を失ってしまった。
このまま終了した場合、次のようなポイントで終わってしてしまう。
一位:二組――1865
二位:一組――1843
三位:三組――1808
三組は、ぶっちぎりの大差を付けられて最下位フィニッシュだ。
しかし、まだ三回戦・第3セクション――つまり、私たちの最後の攻撃はこれから始まるところだ。逆転の芽はある。
例えば、アメーバ状に入り乱れた戦線の随所に生まれた『急所』を突き、分断によって孤立した『拠点』の一挙獲得を狙う方法だ。
〔図9.急所〕
一組・二組の抱える『急所』は2-6(1), 2-7(1),2-6(1),4-6(1),6-6(2),6-7(2),1-6(3),1-7(3),2-5(3)……この辺りの『拠点』を一つ二つ落とせれば、ほぼ確実に逆転できる。
問題は、相手もそういう『急所』は厳重に守ってくるだろうということだ。実際、三回戦第1・第2セクションの時にはそういう分断狙いの攻防が各所で起こっていたが、どこもその一つとして陥とすことは叶わなかった。そして、その結果としてこのようなアメーバ状の版図が生まれたのである。
難しくはあるだろうが、やはり考えれば考えるほどに三組の勝機はここにしかないように思えた。そして、私の活躍が見込めそうな場も。
私は、覚悟を決めた。
三回戦・第3セクション。泣いても笑っても最後の移動時間が始まった。
上空には飛行できる使い魔が飛び交い、各所で視覚確保のための小競り合いが始まった。戦闘時間前の戦闘行為は禁止されているので使い魔同士が、さも自然にぶつかった風を装って熾烈な椅子取りゲームを繰り広げている。水源や木々の間にも姿の見えぬ何者かが絶えず行き交い、その上に聞き馴染みのある声が乗る。
「予定通りに行く――諸君、健闘を祈る」
風魔法によりヘレナの最終指示が伝達され、三組の生徒が揃って動き出す。
ヘレナの立てた作戦では、途中まで分断のための『急所』狙いに見せかけて、移動時間終了ギリギリに反転し、その周辺の『拠点』を狙うことになっている。相手は奇手を打つ必要がないから堅実に『急所』を守ってくると見て、こっちから奇襲をしかける訳だ。
私に割り振られた動きも頭に入っている。まず私とルゥは二組の『急所』である6-7(3)の『拠点』へ行き、そこを攻めると見せかけた後、移動時間終了ギリギリで同じく二組の5-6(3)か7-7(3)、どちらか人の少なそうな方に移動して『空き巣』を狙う。
だが、私はそんなケチな作戦に従ってやるつもりはこれっぽっちもなかった。
確かにこの作戦が完全に成功すれば『急所』を攻めずとも逆転できる。だが、これは追い詰められた末に一か八かの賭けに出たようなもの。正直、成功する確率は低いと私は見ていた。
「リ、リンさん。そろそろ私たちも作戦通りに移動を……」
「いいえ、作戦は変更よ」
「えっ?」
驚いたようにこちらを振り向くルゥとメリアス。そうして並んでいると、二人は本当の姉妹のように見えた。
「分からない? 私たちは軽んじられているわ! このままだと、何の成果も挙げられないままクラスの結果を背負うことになる。――それだけは絶対に嫌!」
ハッキリ言い切ると、ルゥも私の意図を半ば察したようで顔を青くする。
「つ、つまり……?」
「ヘレナの立てた作戦は無視する!」
「え、え、えぇ~!?」
面食らうルゥの手を無理矢理に引っ張り、6-7(3)とは全く違う方角へ歩き出す。
「ど、どこへ行くんですかぁ~?」
「二組の占領する2-6(1)」
「そ、それって……思いっきり二組の『急所』じゃないですかぁ~!」
〔図10.狙う急所とそれにより孤立する拠点〕
もし二組が2-6(1)を失った場合、二組の所持する『拠点』3-5(1),4-4(1),4-6(1),4-7(1),5-6(1)に加え、『中央拠点』までもが孤立してしまう。当然、それだけの損失を被れば最終的なポイントは逆転し、三組の優勝が決まると同時に二組は最下位へ転落する。
私が二組の生徒でも、絶対に2-6(1)だけは全力で守るだろう。
しかし、それでも行く。
その時、正面の方から怒号が響き渡り、次いでドタドタと生徒の集団がこっちへ走ってきた。その集団の先頭を走っていたマチルダが、手を繋いで歩く私たちを見て驚きの声を上げた。
「ア……アナタたち! どうして、こんなところにいるのよ!」
「道に迷ったのよ。ねえ、グィネヴィアはこっちに居た?」
「アナタ――っ! くっ、もう移動時間が……勝手になさいな!」
どうやら、分断狙いの偽装が終わって移動を始めたところにちょうど居合わせたようだ。狙った訳じゃないが、うだうだ説明を求められずに助かった。
すれ違うマチルダ隊を見送りつつ2-6(1)に到着すると、散開した三組の面々を追いかけたのか、そこには誰もいなかった。隣のルゥが露骨にほっと息をつく。
だが、向こうがそう簡単に『空き巣』をさせてくれるとは思えない。
「来るぞ、リン」
「ええ、分かってるわ」
案の定、移動時間終了間際に空から白っぽい塊が墜落してきた。
「――セーフ!」
二日目~四日目までは何度か『空き巣』を成功させて、いくつかの『拠点』を戦闘なしで奪うことに成功したし、少人数対少人数の戦闘にも一度だけ勝利を収めている。
しかし、五日目以降は流石に対策を打たれたのか、必ず誰かが防衛戦力として出張ってくるようになり、なかなか思うように『空き巣』ができなくなった。唯でさえ能動的な活躍ができていないというのに数少ない貢献の機会まで封じられてしまい、次第に焦りが募ってゆく。
そして、そんな状況が変わらぬまま遂に『サバイバル実習』は最終日を迎えた。
〔図7.最終日 開始前〕
現在のポイント状況は以下の通り。
一位:二組――1582
二位:三組――1575
三位:一組――1571
取って取られての一進一退を繰り返し、ポイントはほぼ横並びで拮抗していた。
そう、拮抗である。
我々三組は『ポイント重視』の方針を立てたにも関わらず、他クラスの決死の守備に阻まれ、ポイント的に抜きん出ることは叶わなかった。
一組はいち早く斥候を取り入れたことで初日こそイニシアチブを握ったものの、二組・三組も斥候を取り入れるようになった二日目以降、これといった采配を見せることはなく、ただただ『クラス拠点重視』の戦略を愚直に貫き、気付けば最下位に沈んでいた。
その結果、我々三組の本陣まで後一歩のところまで迫っているが、これはヘレナが敢えてポイントの少ないところへ引き込んでいるだけである。恐らく最終日の攻防の最中に押し戻されることだろう。これほどまでに戦線が細長くなってしまうと、どこの『拠点』にも孤立による一挙喪失の可能性が出来てしまい、結果として守りが難しくなってしまうからだ。
そして、我々三組と一組がもつれあいになっている間に、どっちつかずの戦略だった二組が僅差でトップに立った。戦術的な話し合いからハブられ続けていた私の客観的な総評としては、一組・三組が双方とも初期に打ち立てた固執し過ぎたように思えた。
しかし、言うは易し行うは難し。結果論を言うのであれば、流れを変えた方が良いと分かっていながら、全体の修正をできなかった己をこそ恥じるべきである。
最終日、一回戦。
ここでヘレナの采配が光る。一組の伸び切った戦線を見事分断することに成功し、最高到達点を1-2(3)から1-6(3)の圧倒的安全圏にまで一気に押し戻した。
これにより、ようやく一組は『クラス拠点重視』に見切りを付けたのか、続く二回戦では中央付近の『拠点』を取りに来た。すると、それに呼応するように二組の主戦場もまた中央付近へ移る。
そして、三回戦第3セクション目を迎える頃には、三勢力の版図がアメーバのように入り乱れるような形になっていた。
〔図8.最終日 三回戦 第3セクション前〕
この急変する戦況に対し、我々三組は十分に対応できたとは言い難く、多くの『拠点』を失ってしまった。
このまま終了した場合、次のようなポイントで終わってしてしまう。
一位:二組――1865
二位:一組――1843
三位:三組――1808
三組は、ぶっちぎりの大差を付けられて最下位フィニッシュだ。
しかし、まだ三回戦・第3セクション――つまり、私たちの最後の攻撃はこれから始まるところだ。逆転の芽はある。
例えば、アメーバ状に入り乱れた戦線の随所に生まれた『急所』を突き、分断によって孤立した『拠点』の一挙獲得を狙う方法だ。
〔図9.急所〕
一組・二組の抱える『急所』は2-6(1), 2-7(1),2-6(1),4-6(1),6-6(2),6-7(2),1-6(3),1-7(3),2-5(3)……この辺りの『拠点』を一つ二つ落とせれば、ほぼ確実に逆転できる。
問題は、相手もそういう『急所』は厳重に守ってくるだろうということだ。実際、三回戦第1・第2セクションの時にはそういう分断狙いの攻防が各所で起こっていたが、どこもその一つとして陥とすことは叶わなかった。そして、その結果としてこのようなアメーバ状の版図が生まれたのである。
難しくはあるだろうが、やはり考えれば考えるほどに三組の勝機はここにしかないように思えた。そして、私の活躍が見込めそうな場も。
私は、覚悟を決めた。
三回戦・第3セクション。泣いても笑っても最後の移動時間が始まった。
上空には飛行できる使い魔が飛び交い、各所で視覚確保のための小競り合いが始まった。戦闘時間前の戦闘行為は禁止されているので使い魔同士が、さも自然にぶつかった風を装って熾烈な椅子取りゲームを繰り広げている。水源や木々の間にも姿の見えぬ何者かが絶えず行き交い、その上に聞き馴染みのある声が乗る。
「予定通りに行く――諸君、健闘を祈る」
風魔法によりヘレナの最終指示が伝達され、三組の生徒が揃って動き出す。
ヘレナの立てた作戦では、途中まで分断のための『急所』狙いに見せかけて、移動時間終了ギリギリに反転し、その周辺の『拠点』を狙うことになっている。相手は奇手を打つ必要がないから堅実に『急所』を守ってくると見て、こっちから奇襲をしかける訳だ。
私に割り振られた動きも頭に入っている。まず私とルゥは二組の『急所』である6-7(3)の『拠点』へ行き、そこを攻めると見せかけた後、移動時間終了ギリギリで同じく二組の5-6(3)か7-7(3)、どちらか人の少なそうな方に移動して『空き巣』を狙う。
だが、私はそんなケチな作戦に従ってやるつもりはこれっぽっちもなかった。
確かにこの作戦が完全に成功すれば『急所』を攻めずとも逆転できる。だが、これは追い詰められた末に一か八かの賭けに出たようなもの。正直、成功する確率は低いと私は見ていた。
「リ、リンさん。そろそろ私たちも作戦通りに移動を……」
「いいえ、作戦は変更よ」
「えっ?」
驚いたようにこちらを振り向くルゥとメリアス。そうして並んでいると、二人は本当の姉妹のように見えた。
「分からない? 私たちは軽んじられているわ! このままだと、何の成果も挙げられないままクラスの結果を背負うことになる。――それだけは絶対に嫌!」
ハッキリ言い切ると、ルゥも私の意図を半ば察したようで顔を青くする。
「つ、つまり……?」
「ヘレナの立てた作戦は無視する!」
「え、え、えぇ~!?」
面食らうルゥの手を無理矢理に引っ張り、6-7(3)とは全く違う方角へ歩き出す。
「ど、どこへ行くんですかぁ~?」
「二組の占領する2-6(1)」
「そ、それって……思いっきり二組の『急所』じゃないですかぁ~!」
〔図10.狙う急所とそれにより孤立する拠点〕
もし二組が2-6(1)を失った場合、二組の所持する『拠点』3-5(1),4-4(1),4-6(1),4-7(1),5-6(1)に加え、『中央拠点』までもが孤立してしまう。当然、それだけの損失を被れば最終的なポイントは逆転し、三組の優勝が決まると同時に二組は最下位へ転落する。
私が二組の生徒でも、絶対に2-6(1)だけは全力で守るだろう。
しかし、それでも行く。
その時、正面の方から怒号が響き渡り、次いでドタドタと生徒の集団がこっちへ走ってきた。その集団の先頭を走っていたマチルダが、手を繋いで歩く私たちを見て驚きの声を上げた。
「ア……アナタたち! どうして、こんなところにいるのよ!」
「道に迷ったのよ。ねえ、グィネヴィアはこっちに居た?」
「アナタ――っ! くっ、もう移動時間が……勝手になさいな!」
どうやら、分断狙いの偽装が終わって移動を始めたところにちょうど居合わせたようだ。狙った訳じゃないが、うだうだ説明を求められずに助かった。
すれ違うマチルダ隊を見送りつつ2-6(1)に到着すると、散開した三組の面々を追いかけたのか、そこには誰もいなかった。隣のルゥが露骨にほっと息をつく。
だが、向こうがそう簡単に『空き巣』をさせてくれるとは思えない。
「来るぞ、リン」
「ええ、分かってるわ」
案の定、移動時間終了間際に空から白っぽい塊が墜落してきた。
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