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トヨの戦い
君が見たもの.1
しおりを挟むさっさと支度を整え四人揃って表広場に出る。カロンとリストも俺と同じで酷い顔つきだったが、カールといえば、まるで疲れも感じさせないハツラツとした顔つきだった。当の本人に尋ねてみても
「体質かな?」
と、まぁいつものふざけた笑みで言ってくるもんだ。
指示を受けた列に並ばされる。列といっても俺たち四人しか列にはいない。本来ならこの場で他の部隊と再編されるはずだが中々指示がなかった。しばらく待っていると広場の前に見覚えのある士官が出てきた。
ケインだった。
最後に俺があったのは北東沿岸部だったか、記憶が曖昧だったが、彼の今の階級は大尉となっていた。この短期間で一曹からの大尉だ。異例の昇進速度は、浮き彫りとなった人手不足を補うためだなとすぐにわかった。
慣れない。あのケインもとい大尉殿が正式に皆の前に立って指示を出している。その大尉が言うには俺たち四人は斥候隊として編成された。俺たちの任務は昨夜の警官のいた検問にて警備活動を行いつつ、指令があればトヨの都心部にいるであろう敵軍を山より偵察する事だった。
任務を言い渡されるとさっそく移動を開始した。車両に乗り込み検問所へ向けて出発した。距離はそんなに無く、すぐに到着した。
坂道を登りきったところにある検問所からは都心部と郊外を見下ろす事ができた。
昨夜の軽装だった警官とは打って変わって今日の警官はケプラーヘルメットに防弾ベストと俺たちと大差ない装備でガッチリ決め込んでいる者が大半だった。警察装甲車も全面に出ているしパトカーも道路に横どめされていたりと完璧に迎撃体制を完成させていた。あまりの体制に俺は付近にいた警官に尋ねてみた。
「すごい体制ですね。これは助かります。」
「いえいえ、我々としてもこれ以上侵攻させるわけにも行きませんし、なによりも治安と市民のためですから。」
誠意のある警官だった。トヨ市警の警官は根こそぎ動員され郊外に集まっていた。どうやら検問所の警備を担当しているのは彼でエリートの警視正だった。警視正自ら現場とは...たいそう立派だなと感服した。
任務に就き1時間後ぐらいの時だった。どこからともなく轟音が聞こえてきた。検問所には緊張がはしる。詰所やプレハブからは続々と警官や軍人が飛び出てきて配置に着く。窓のフレームを揺らし、体に直接響く音が段々近づいてくる。
その瞬間ー
山の稜線の向こう側から数機の中型機がかなりの速度で頭上スレスレを飛んでいった。衝撃波でプレハブの窓が割れてしまった。
すぐにカロンが無線で本部と確認をとった。
「検問3からHQ、今の航空機はなんだ。敵か?」
「HQから検問3、味方の航空機隊だ。安心せよ。」
「了解。」
カロンは無線をきって配置についていた連中に伝えた。
りょうかーい
口々に言いながら元の場所へと彼らは戻り始めた。その時、カロンの元に一通の指令が入ってきた。
「伍長。偵察任務を下す。隊を率いて丘陵地より都心部を偵察せよ。」
「了解。」
カロンは無線を切って俺たちを呼ぶ。
「さっきHQから任務の命令がきた。偵察任務だ。この検問所の坂を下って左手の丘で偵察任務を遂行するぞ。装備を確認しろ5分後には出発する。」
「了解。」
さぁ任務だ。俺は意気込み検問所付近の即席の武器庫へ向かった。担当の者に任務内容を告げて装備品を調達した。消音器に双眼鏡と単眼鏡を持ち合わせて準備を終えた。消音器と双眼鏡はとにかく必需品だろう。
「任務時間は?」
俺はカロンに尋ねた。
「詳細は聞かされていないが夜までには帰還できるはずだ。交代で次の部隊と入れ替わるからな。」
「夜までだな。了解だ。」
俺はカロンと共に武器庫を出て検問所の前で2人を待った。すぐにカールとリストが出てきた。リストは珍しく556のDMR型を装備していたから冗談めかしくからかってみた。
「お前、使いこなせるのか?」
「馬鹿野郎、俺はこう見えても選抜射手の資格は持ってるんだぞ?」
リストは笑いながら言ってきた。
「そいつは期待できるな。よし、出撃だ。行くぞ!」
カロンの一声で俺たち四人は検問所を出て都心部を見下ろせる丘へと向かった。
下り坂は風がとにかく吹き荒れていた。標高が中々高いから仕方がない事だが。下り坂をしばらく駆け足で下って行くとすぐに目的の丘へとたどり着いた。木が何本か生えている所だった。
比較的雪の積もっていない木陰にシートをひいてうつ伏せになる。リストは二脚を立てて反射を防ぐためにスコープにメッシュの布をかけて準備をしていた。光り物は偵察任務や狙撃任務には危険だからな。だから俺は腕時計をしていなかったしゴーグルにもカバーを装着していた。もちろん他の3人も。
あらかた準備も終えたところで早速双眼鏡を覗き込んだ。
最初は気づかなかった。だが、それを把握するのにそう時間はいらなかった。
「おい......」
言葉が出てこない。
「あぁ......」
どうやら俺だけではないらしい。単眼鏡を覗き込むカロンも険しい顔つきだ。
俺たちのいた中央駅付近の広場や空きスペースにジェネッサの兵士やら戦車などがぎっしりと集結していた。注意深く見てみると戦闘ヘリや輸送ヘリがプロペラを回し始めているではないか。
カロンが急いで無線機をとって本部へ連絡した。
「HQ聞こえるか?」
「こちらHQ、どうした?」
「敵の兵力は強大だ。歩兵や戦車、装甲車も数え切れないほどいる。加えてヘリコプターも多数存在、プロペラを回し始めている。オーバー」
「HQ了解。直ちに部隊を展開し、防衛体制を整えさせる。HQアウト。」
カロンが無線で連絡を取っている間もずっと双眼鏡を覗き込んでいた。
ヘリコプターの機種はおそらくAH1Z。重武装の戦闘ヘリだ。その集団の隣には高機動が売りのMH6か....ミニガンとロケット弾を装備してるのが分かる。それでその集団の隣にはブラックバード輸送ヘリか........
「短期決戦で決めにくるな。」
リストが556を構え、スコープを覗き込みながら言った。
「まずいな....あれだけ戦力があれば総崩れだぞ」
カロンがささやくような小声でしゃべったと思うと、また慌ただしく無線機を取り出した。
「HQ、敵は航空戦力を用いての攻撃の可能性が高い。戦闘・偵察・輸送の3つの機種が揃っている。オーバー」
「HQ了解した。また動きがあれば逐一報告せよ。アウト。」
今度はそのまま無線機を持って砲兵隊に繋げた。
「砲兵隊聞こえるか?こちら113偵察隊だ。」
「感度良好だ、113。現在砲兵隊は全員配置についたぞ。どうした?」
「敵のヘリコプターが腐る程いやがる。対空兵器は充実しているか?」
「SAMが4基。対空戦車が3両。あとは対空砲が数基だ。あとは俺たち以外の歩兵隊に、地対空誘導のミサイル弾が配備されてるらしいぞ。」
「そうか.......言うのもなんだが、厳しい戦いになるぞ......」
「あぁ分かってる。だがやるしかないんだ。」
「頼りにしてるぞ。113アウト。」
カロンと砲兵隊とのやりとりは無線機から漏れた音で聞こえた。砲兵隊の言う通りだった。やらなきゃいけないんだ。ここで撤退してもいずれ戦う運命だからな。
そこからしばらくの間は目立った動きが無かった。
敵の集団を見つけて30分程度たった頃だろうか、一斉に敵車両が動き出し郊外へ繋がる道を走り始めた。それと同時にヘリ部隊に歩兵らが乗り込み始める。
「至急至急、113からHQ!」
「113どうした?」
「敵が一斉に動き始めた。繰り返す敵が動き始めた。車両を戦闘に戦車や装甲車がこちらに向かってきている。加えてヘリ部隊も離陸準備をしているところだ。指示をこう。」
「HQ了解。113、検問所まで撤退せよ。ご苦労だった。予定より随分と早いが、現在検問所にはジャミル大佐が率いる防衛隊がいる。それらに合流し、迎撃せよ。オーバー」
「113了解!直ちに移動する。」
それを聞いてすぐに装備品を片付けを始めた。夜までのはずだったが、ジェネッサの連中は早期に決めたいらしい。30秒もかからないうちに片付けを完了し、移動を開始した。坂道を全力疾走した。その道中でジャミル大佐から無線が入ってきた。
「113よく聞け、坂を登りきって平坦な道になったら、すぐに道路の脇を通れ。道路一面に対戦車地雷やクレイモアなど敷設してある。分かったな?」
「了解しました。」
数分後坂を登りきったところで検問所が見えた。俺たちは指示のあった通り道路の脇を一列になって、慎重に進んだ。道路には使わなくなった乗用車やトラックなどが置かれていた。
検問所に近づく、土嚢が積まれコンクリートには機関銃が据え置きされていた。味方兵士の手招きに従って、やっと検問所をくぐった。
「113の隊長は誰だ?」
濃い髭を生やした男、ジャミル大佐だ。
「はっ!カロンです!伍長であります。」
カロンが敬礼した。慌てて俺たち3人も敬礼した。
「カロン伍長か。偵察任務ご苦労であった.....
守るぞ。」
「サー!」
見た目に合わず温厚な人っぽいな。
とりあえず俺はパトカーの裏へと隠れ、銃を構えて待機した。しばらくすると横に昨夜誘導していた警官がやって来て腰のホルスターからピストルを抜いて構えた。
両手でしっかり握り教科書通りの構え方だ。
「着任何年目だ?」
警官に尋ねた。
「まだ1年と数ヶ月ですよ。」
「という事は巡査さんだな。」
「ええ。」
悲劇の警官だな。それっきり俺は彼の発言にうなづいただけで言葉は発しなかった。いや発することさえ億劫になったんだ。着任1年と数ヶ月目。きっと高卒だろうな、まだ幼さが見て取れる。そんな彼に掛ける言葉なんて無いし、その場で「どうして」なんて声をかけるやつがいたらソイツは、きっと生粋のバカか単なるサイコパスだろう。
彼はどんな思いでここにいるんだろう?
俺は不意に思った。警官なのに軍人と共に銃を抜き犯罪者でもない"敵"と戦う。彼が今守るものは国だ。遠まきに言えば警官の通常勤務もそれに値するかもしれないが、ここまで直接的に関わる事は予想だに出来なかっただろう。
俺は可哀想だと思った。俺やその他の軍人は国のために戦うし、ましてや国防の最前線で死ぬ事は覚悟できている。中には狂信的に国のために死ぬ事を望むやつもいるくらいだ。だが果たして彼を含む警官達はどうだろうか?普段から市民と地域の治安を守るという崇高な使命を抱く彼らにとって、ここはきっと異質な世界に違いない。普段、子供達の注目を集めるパトカーでさえ今は弾を避けるための壁だ。そして彼ら自身でさえ学校で、「容疑者に対する銃器の使用は最終手段」
だとみっちり仕込まれているだろう。なのにここでは重厚なライフルを持たされ、最初から銃器を使う。警官としての有り様は、ここでは一切関係なく、同時に通用しないのだ。
俺はパトカーのボンネット越しに辺りを見回した。するとPOLICEと背中に書かれた紺色のジャケットを見にまとう彼らが余計に視界に入って来た。同時に俺はグリップを握りドットサイトを覗き、銃床を肩に強く押し付けた。
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