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トヨの戦い
君が見たもの.2
しおりを挟む思ったより沈黙の緊張は長かった。
冬の風の乾燥は辛くドットサイトを覗く間はしきりに瞬きをしていた。
もうすこしで夕暮れ時、日が段々と西に傾き始め、俺たちの背中に沈んでいく。
時間が経つにつれて静寂の緊張が高まり、無線の声と銃器の金属音だけが鳴る殺伐とした空気が漂った。
体が震えてくる。特にグリップを握る手が。
単純に恐怖があった。鼓動も高鳴り脈打つ重低音が体の中に響く。
そしてその時は来た。
なんとも大胆に稜線の向こう側からM1が一台乗り出してきた。不意を突かれ、一瞬間が空いた。
「う、撃て!!」
砲兵隊の対戦車砲が火を吹き、その爆音と共に俺たち歩兵隊も一斉に撃ち始めた。
北東沿岸部での戦いと同じだった。砲兵隊の放った砲弾は敵戦車の砲塔に当たったが、高音の金切り音を鳴らして、あさっての方向へ弾き返してしまった。敵戦車はハッチに設置されていた機関銃を連発しながら前進してきた。その後ろに敵歩兵もみえた。
「撃て!撃て!近づけるな!」
無線が絶叫する。
敵の歩兵を撃とうと狙いをつけるが戦車の装甲に当たり、命中しない。それでも怯まずに撃ち続けた。敵戦車の距離が詰められるのと同時に敵弾の精度も上がってくる。俺の隠れているパトカーにも数発命中し、火花を散らした。すぐに身を屈めて、ヘッドライトのあたりから頭を出して敵の位置を確認した。思ってたより近い。俺はそのまま伏せ、狙いを付けようとした。
その時ー
一瞬、敵戦車の下部から火が吹かれたと思うと、けたたましい爆音と共に履帯を吹き飛ばし、装甲を貫いて、ハッチから勢いよく火が噴き出した。
地雷だ。
地雷の爆発によって敵戦車は爆散した。同時に後ろにいた歩兵らも勢いよく吹き飛ばされ、アスファルトに倒れこんだ。天高く黒煙が噴き出し、爆散した戦車の上空には巨大な黒い渦が出来上がっていた。
「死ね!このクソやろう!」
爆散した戦車を見て皆口々に怒鳴り散らした。爆散した戦車が障害となり敵部隊は立ち往生していた。そこに歩兵隊は機関銃を撃ち込み、砲兵隊は砲弾を撃ち込んだ。後方にいた敵部隊は次々に稜線の向こう側に引き下がって行った。次の攻撃に備え、設営隊などが土嚢を積み直したり有刺鉄線の再配置などを行なっていた。その間に俺も弾倉を入れ直し再度構えた。ここまでまだ負傷者は出ていない。
だがそれも束の間だった。
戦車上空一帯を覆う煙幕のようになっていた黒煙の中から、敵戦闘ヘリAH1Zが3機飛び出してきた。
まずい
すぐに撃ち始めるが、火力の差は火を見るより明らかだった。戦闘ヘリの機関砲が味方兵を襲った。敵の放った機関砲弾は着弾すると炸裂し、周りの兵士を一掃した。
「砲兵!!」
必然的にその怒号が増えた。砲兵隊は対空砲で反撃し始める。だが、敵ヘリは意外にも俊敏で攻撃をかわしつつ味方に攻撃を加えた。20㎜の機関砲は人に当たればひとたまりもないのに、敵ヘリは味方陣地内を無慈悲に攻撃した。弾よけのパトカーには無数のデカイ弾痕ができ、プレハブや櫓は倒壊しそこで機関銃を撃っていた兵士はそれらもろとも崩れ去っていった。目の前で蜂の巣にされ、そのまま動かなくなった兵士、体の一部が吹き飛び泣き叫ぶ警官。砲兵隊の反撃も虚しく敵の武装ヘリは短時間で味方兵を次々と葬っていった。
だが、しばらくすると砲兵隊の反撃も徐々に効いてきて、敵ヘリから煙が噴き出し始めた。敵機は俺のすぐ真上をホバリングしていた。
砲兵隊が狙われる!
すぐに俺はそう感じて、俺は敵のヘリのコクピットを撃ち抜こうと思いつき、とっさに走り出した。ヘリから真横に移動して銃を構えた。幸いにもまだホバリングしている。
俺はセミに切り替え、ドットサイトで狙いを付けてトリガーを数回引いた。
タン タン タン
ためらいは無かった。数発撃った中で一発だけコクピットを貫通した。コクピットの後方のガラスが返り血で赤くなった。サイトから敵のパイロットが左肩を抑えているのがみえた。
俺はそのままサイトのレティクルを敵パイロットの頭に合わせた。数発撃ち込めば貫通するはず。そう思い再度トリガーを数回引いた。すると先程と同じように1発貫通し、敵のヘリコプターは大きく後ろに傾き、そのまま稜線の向こう側へ堕ちていった。苦では無かった。
あと2機!
そう思い頭上を見上げると2機とも煙の色が黒くなって機体がふらついていた。砲兵隊は容赦なく反撃を続けやがて敵のヘリの1機は回転しながらまた稜線の向こう側へ堕ちていった。あとの1機も同様にして検問の郊外側の坂に墜落して爆散した。
俺は敵の武装ヘリの脅威が去った後、パトカーの陰から頭を出して辺りを見回した。
つい数分前まで共に戦った仲間の姿.........
路面に倒れ込んだ仲間の体から出来上がった血溜まり。ピストルを握ったままの片腕。
だが、感傷に浸る時間など無かった。敵のヘリを追い払ったと思うとすぐに敵の地上部隊が攻撃を開始してきた。今度は敵兵だけで装甲車両は出てこない。爆散した戦車の瓦礫を盾に攻撃してきた。俺たちも数こそは減ったけれど依然として反撃の手を緩めずに撃ちまくった。だが敵も数に物を言わせて火力を集中させ、俺たちを釘付け状態にした。敵部隊は戦車の陰から飛び出して迅速に展開し距離を一気に詰めようとしてきた。
だが走り出した敵兵らは、次の瞬間には血しぶきをあげながら吹き飛ばされるのだった。
そう、クレイモアだ。罠に罠の連続に敵部隊は侵攻を渋り始めてきた。
今がチャンスだ!
俺はそう思いフルオートに切り替え連射した。中途半端な位置で立ち往生した敵兵らは隠れることもままならず次々に撃ち抜かれていった。苦し紛れに敵兵も反撃して来るが勢いはかなり衰え、やがて味方が押し返し始めた。後退していく敵に対して容赦はしなかった。そして敵部隊は稜線の向こう側へ完全に姿を消し、そこから中々出てこなかった。
「リロード!リロード!」
その声に従って新しい弾倉を入れ替えるが、俺はそれが最後の弾倉だと気づいた。俺はすぐに詰所の方へ行き弾丸を補給しようと陰から離れ走り出し、詰所へたどり着いた。弾倉をマガジンポーチに数個つめて、戻ろうと走り出した時、詰所を出て1時方向の土嚢にもたれかかる兵士に目がついた。
嫌な予感がした。
俺は動かなくなったその兵士に近づき、声をかけてみた。しかし返答はなかった。俺は手を伸ばして恐る恐るがっくりと下がった頭を上げて、顔を覗き込んだ。
俺は一瞬呼吸が出来なくなって胸を誰かにおもいっきり殴られたかのような衝撃を受けた。
ソイツは、ソイツはカールだった。
カールは光を失った目を開けたまま、口から血を垂らしていた。
「........オイ、オイ!カール!カール!」
俺はにわかに信じがたく、コイツは死んだふりをして俺を騙そうと企んでいるんだと思った。
「オイ、カールいい加減にしろよ!ホラ、いつまでも目を開けてたら乾燥して辛いぞ?ほら?」
信じたく無かった。目の前の出来事を。
「なぁカール!カール!」
最初は無理をして笑いながら揺すっていたが今は泣きながら激しく揺すっていた。
どれだけ揺すっても反応はなかった。
「クソ....メディック!メディック!!」
泣きながら叫んだ。その声を聞いて付近の衛生兵がすぐに駆けつけてきた。彼はすぐにデカイ背嚢を下ろして治療に取り掛かった。ベストを剥ぎ、戦闘服を裂いて患部を視認した。そこまで非常に手際が良く進んだが、患部を見るや否や彼は顔を歪ませた。
「20㎜が直接左胸に当たってます........その申し上げづらいんですが、ここでの治療では無理です。」
彼は申し訳なさそうに伝えてきた。
嘘だ.........
「オイ!起きろ!起きろ!」
力強く揺さぶり、そして泣き崩れた。しばらくはそこから動けなかった。衛生兵は次の兵士を看るため走り去って行った。それが意味するもの、つまりコイツはもう助からないと判断したからだ。
「カール?」
カロンが俺の肩に手を当て、倒れたカールを見つめて言った。
「カール.........アンディー。悲しむのはあとだ。俺たちはソイツの分まで戦わなきゃいけない。」
そう言うとカロンは再び持ち場へと戻っていった。
ハルを失った時と同じだった。
俺は涙ぐみながらカールのドックタグを腰のポーチに入れ、目を瞑って簡素ではあるが黙祷した。それを終えると俺は立ち上がって元の配置へと向かった。
道中俺と同じように仲間の死を悲しむ兵士は沢山いた。軍人だけでなく警官らも。
仲間を失った悲しみはやがて憎しみへと変わった。それはきっと敵も同じだろう。
突如、笛のなる音がしたと思うと敵の兵士が個々に叫びながら銃剣を着剣した状態で距離をつめてきた。味方も一斉に射撃を始める。距離を詰める過程で次々とクレイモアが起動して敵の兵士をなぎ倒していった。敵の装甲車も前進してくるが地雷を踏み爆散する。また新しく前進してきて爆散する。それの繰り返しだった。検問所の前はやがて死屍累々の遺体の山が築き上げられた。気づけば日は沈み、照明に照らされた路面は紅く染められていた。
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