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トヨの戦い
君が見たもの.3
しおりを挟む俺はがっくりとパトカーにもたれ掛かった。
辺りは暗くなって投光車の照明が検問所を照らした。血と雪の混ざり合ったアスファルトが反射していた。足元には無数の空薬莢が転がっていて足を動かすたびに鈴のような音を立てた。
敵はいつ来るだろうか?
これだけ敵を倒してもまた来るだろう。次はまたヘリコプターか?そういえば、敵のヘリコプターはまだ3機しか現れてないな。不幸中の幸いか。
味方の数も大分減ったな。
俺は見回して思った。だが意外にも負傷している兵士の数は少なかった。ただ"負傷"している兵士が少ないだけでゲート付近は味方の遺体で溢れかえっていた。遺体袋など無いから、そのままにしてあった。その光景がどれだけ苦痛だったか。
俺は思い出したかのように隣の若い警官に目をやった。隣の警官も俺と同じようにもたれ掛かって下を向いていた。
「おい、大丈夫か?」
巡査はカスカスの声で答えた。
「はい....大丈夫です.....」
無理もない。いきなり仲間の多数がこんなに死ぬんだ。放心状態にならない方が逆に異常だ。苦しさに押し潰されそうになった時、1人の兵士がオーシアの軍人を引きずって来た。
「1人生きてる奴がいたぞ!」
俺は立ち上がって、カロンと共にそいつの元へ向かった。
オーシアの軍人は生きているのだが死んだ顔をしていた。
するとジャミル大佐がのこのことやって来た。
「どうしますか大佐」
引き連れて来た兵士が尋ねた。するとジャミル大佐は連れてきた兵士を奥へ引き連れて、数十秒後また出てきた。
するとその兵士はホルスターからおもむろに拳銃を抜きオーシアの軍人に向けて構えた。
予測はしていた。だが味方の兵士は中々引き金を引かない。彼の顔見る。葛藤と戦っている顔だ。俺も初戦で経験した。
数分間経っても引けない彼を見かねて大佐は俺の隣のカロンの肩を3回叩いた。
カロンは味方兵の肩を叩き後ろに下がらせてオーシアの軍人の目の前にたった。オーシアの兵士は仰向けに倒れ込んで顔だけこちらを見ている。カロンは右手でピストルを構え照準を額に合わせた。
トリガーを引くのに5秒もいらなかった。
乾いた銃声。
ピストルをしまった。先程の味方兵がカロンの顔を凝視していた。まともな人間にはこの光景が異常なんだろう。
さっさと戻ろうと思った矢先、追い討ちを掛けるかのように次々に負傷したオーシア兵がゲートに運び込まれてきた。
大佐がカロンの名を呼んだ。振り返ると大佐は腕を組み目配りだけで指示をした。運ばれてきたのは6人のオーシア兵士だった。
全員を殺すのか.........
察したのは俺だけでは無かった。付近の味方兵らは大佐を止めようと声をかけるが、聞き入れなかった。カールを治療しようとした衛生兵がカロンに近づき、声を掛けてきた。
「賢明な判断をしろよ。憎しみだけじゃ殺す理由にはならないぞ!」
すぐにその衛生兵は引き下げられた。
少し間が空いたと思った。
だが、即座にカロンは発砲した。1人2発ずつだった。
全員射殺。現場は狂気に満ち溢れていたと思う。戻ってくるカロンの顔を見る事も出来ず、容易に声を掛けることすら出来なかった。
真夜中の1時を回った頃、ヘリのプロペラ音が響いてきた。
またか
生き残った兵士は銃を構えた。今度はMH6リトルバードがやって来た。両サイドに兵士を乗せている。リトルバードは頭上を通り過ぎ、郊外側の坂道に強行着陸した。慌てて俺たちは後方へ回り、攻撃を加える。敵のミニガンの攻撃がすぐ近くに着弾して、中々敵を狙えなかった。敵はその場に伏せて、攻撃を加えて来た。郊外側は遮蔽物が無いから狙いやすいのだが、リトルバードが完全にそれを妨害していて思いのほか手こずった。後方に展開した敵の対処中に今度は都心部側から地上部隊が攻撃を仕掛けて来た。挟撃作戦だ。
さらにそれに加えて、郊外の街へ向かうヘリ群も見えた。
防衛任務に就く全部隊の無線が混雑した。
兵員を降ろしたリトルバードは攻撃をしながら撤退して行き、また新たなリトルバードが着陸して、兵士を降ろしていった。
「耐えろ!耐えるんだ!」
敵の攻撃は激しさを増していく。地雷がほぼ作動しきっていた都心部側では装甲車の攻撃が激しかった。砲兵隊が応射するが、それだけでは間に合わない。敵車両が土嚢を吹き飛ばし、フェンスを破壊した。窮地に立たされた。俺は昨日、検問所に味方の戦車がいたのを思い出し、辺りを見回した。
「味方戦車は!?」
怒鳴りつける。
「戦車は武装ヘリの攻撃で大破した!」
万事休すか........
都心部側では装甲車の攻撃、郊外側では敵のヘリと歩兵の攻撃。味方死傷者はどんどん増えていった。
「HQ支援を求む!」
防衛隊の隊員がすがりつくように支援をこいた。
「こちらHQ街でも交戦中だが、撤退援護の部隊を既に手配している。踏ん張れ!」
「了解!到着まで残り何分だ!?」
「何分かは不明瞭だが、そう時間はかからないはずだ!」
「了解。全員!味方部隊が増援でやって来るぞ!踏ん張れ!!」
その怒号と共に味方部隊内で互いに励まし合うような声が増えていった。
士気は一気に高まったと思う。
数十分粘り、戦い続け、ようやくこちらに向かって坂を登ってくる車両が見えた。その車両は坂に伏せている敵を機関銃でなぎ倒し、撃ち漏らした敵を跳ね飛ばして到着した。
味方の車両からケイン大尉が降りて来た。
「大佐はどこだ!?」
俺はケイン大尉を大佐の元まで連れて行った。
「大佐殿、撤退の命令です。援護しに参りました。」
ケインが大佐に敬礼した。
「やっとか。大尉、街はどうなっている?」
「今のところ善戦しています。」
「そうか。」
「撤退に取り掛かりましょう。」
大佐はうなづいた。
大佐はすぐに撤退の号令をかけた。すると防衛隊員らは地雷などを取り出して路面に設置し、上から雪を被せていった。砲兵隊も数発撃ち込んだのち、撤退の準備に取り掛かった。射撃しながら後方の車両へと向かう。
「撤退だー!急げ!」
口々に叫びながら走る。幸いにも敵は気づいていない。俺は隣の若い警官を先に行かせ、その後にカロンとリストと合流した。
「撤退しよう。」
俺は2人に声を掛ける。リストは返事をしたが、カロンは無表情で反応しなかった。
「.........け。」
「は?」
俺は聞き返した。
「行け。」
カロンは俺の肩を押して言った。
俺はすぐにカロンに詰め寄った。
「何言ってんだ!お前!」
「行けって言ってんだよ.......」
カロンは小さい声で、うざがるように突き放した。
「カロン........」
俺は何も言い返す事が出来なかった。
「おい!早くしろ!!」
後方の車両からケイン大尉が怒鳴り散らして来た。時間がない。
「お前!カールの分まで戦うって言ったじゃないか!?」
「忘れろ」
そう言うとカロンはゲートに向かって走り出そうとした。
「よせ!」
リストがすぐに止めた。
「お前まで失うわけにはいかねんだよ!」
珍しくリストがカロンにキレる。それと同時にケインがやって来て、俺の肩を掴んだ。
「馬鹿野郎!何をグダグダやってんだ!?置いていくぞバカ!」
酷い罵りだ。カロンはその隙にリストを振りほどいて走り出した。俺とリストはケイン大尉と味方兵に連れて行かれる。
「お前は人でいろよ。」
カロンが去り際に俺に放った。
無性に悔しさが込み上げてきた。
「大尉!離してください!彼を、彼を置いて行けません!」
大尉は俺の声を聞き入れてくれるはずもなく車両の後部ドアから乱暴に俺たちを放り込んだ。窓越しにゲートを見たが、カロンは見えなかった。
車両はどんどんゲートから離れて行った。
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