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トヨの戦い
戦火のクローバー.1
しおりを挟む市庁舎に帰り着く頃には、町に展開していた敵は、撤退していったらしい。俺は市庁舎の広場に置いてあったケースの上に座り指示を待っていた。
朝には4人並んだ列の場所も今や俺とリストしかいない。
しばらくすると続々と広場に負傷兵が運び込まれてきた。中には黒い袋に詰められ、担架で運ばれてくるのもあった。運び込まれた兵士らは衛生兵や軍医らの治療を受けていた。駅と同じ光景だった。うめき声、叫び声。必死に励ます衛生兵の大きな声。
不思議だったのは駅の時ほどその光景が不快には思わなかったことだ。まるでその光景が日常であるかのように俺はそれを見続けていた。別に興味があったわけではない。ただ、吸い込まれるように見つめていた。
カールもここに運び込まれていたら助かったのか?
不意にアイツの顔が浮かんだ。
死ぬのは一瞬なんだな。
不思議で不思議で仕方がなかった。朝、その日のうちにカールやカロンを失うなんて思ってもいなかった。ずっと4人で戦えると勝手に思ってたのかもしれない。考えれば考えるほど不思議で、そして辛かった。
明日はわが身か?いや、明日では無いかもしれない。数時間後?それとも数十分後か?戦争って敵以前に迫り来る死との戦いかもしれないなぁ。
まるで哲学者のように深々と考え込んでいた。
すると後ろからケイン大尉が話しかけてきた。
「おい。お前とリストは俺の部隊に再編だ。今から町の中心にある教会付近に行くぞ。準備しろ。」
「了解です。」
俺はリスト共に補給所へ向かい、弾丸などを補給した。一行動、一行動ごとに数時間前のことがフラッシュバックしてきた。
装備点検と補給を終え、俺たち2人はケインの部隊20数人と合流した。
市庁舎から徒歩15分ほどで町の中心部にある教会についた。教会の付近にはテントが建てられてあった。どうやら逃げ遅れた避難民らがここに退避しているらしい。
教会に到着してから準備を終え、空いた時間に俺はリストと共に教会内部へと足を運んでみた。
扉を開けると、驚いたことに子供が沢山いた。それも小学生の低学年くらいの。
予想外の光景に立ち尽くしていたら、子供達が笑いながら駆け寄ってきた。俺は血で汚れたクローブを外し、セーフティを掛けた銃を壁に立てかけ、子供たちの相手をしてやった。夜明前の5時だというのに子供たちは元気だった。子供達は口々に自慢話しをしてきた。
「俺!あそこにいるおばさんをここまで走って連れてきたんだぜ!」
「俺なんか、母さんをここに連れてきたんだから!」
少しばかり、人として本来の感情を持てた気がした。すると元気ハツラツな男子の後ろに大人しそうな女の子がこちらを見ていた。ガキンチョどもがリストの方に行った間にその女の子が俺に近づいてきた。
「お兄ちゃん、これあげる。」
そう言って渡されたのは三つ葉のクローバーだった。四つ葉では無かったのが俺にとっては微笑ましかった。
「向こうにクローバーがいっぱいあるから!お兄ちゃんの仕事終わったらあげる!」
その女の子は白い歯を輝かせていた。
落ち着いた頃に、手渡されたそのクローバーを見てみたのだが、普通のより一回り大きかった。大きな葉が三つ。
「クローバーか。」
リストが俺の横の壁にもたれ掛けた。
「あぁ。さっきの子供らがな。」
少し心が安らいだ感じがした。俺はクローバをポーチに入れようとしたが、ポーチは戦友たちのドックタグで膨れ上がっていたから止むを得ずポケットに入れた。グローブを着け直し、銃を持って教会を後にした。
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