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トヨの戦い
戦火のクローバー.5
しおりを挟む「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん!」
あの声に起こされるようにハッと目を覚ました。勢いよく息を吸い込んだお陰で咳き込んでしまった。かなり時間が経ったんだろうか、煙の間から朝日が差し込んできていた。
一晩中気を失っていたのか?
だとすれば一晩中煙が消えなかったのだろう。爆撃直後と変わらぬ程、煙の濃度が濃くて空気が淀んでいた。
なんとか立ち上がって歩けるようになるまで体力は回復していた。俺はフラつきながら、真っ先に崩れた教会へと向かった。
俺は崩れた瓦礫の前で脚を止めた。壮大な教会はグチャグチャに倒れていて、何から手をつければいいのか分からなかった。とりあえず俺は必死になって、木材やレンガなどをどかし続けた。
休んで、どかして、また休んで、またどかす。
何度も何度も繰り返して行った。
「おい!何者だ!」
後ろから声がしたから振り返ってみた。煙で顔どころか、体もハッキリ見えない。ただその声主のフラッシュライトが、彼の位置を記していた。
「動くなよ。」
そう言われて、段々近づいてきた。近づくにつれて彼の姿が見えるようになってくる。
森林迷彩の日国兵だった。
「お前、セグワ兵か。」
その日国兵はそのままライトを降ろして近づいてきた。
「助けてください!お願いします!この瓦礫の下に民間人や子供が埋まっているんです!」
俺はその人に、すがりついて助けを乞いた。
「だ、だか、これを見てみろ。」
その日国兵は後ろを振り返ってライトを照らした。俺は一瞬ここが地獄のように感じられた。
ライトで照らされた場所は重傷を負いながら歩き続ける味方兵がゾロゾロといた。比較的軽傷の者が重傷者を連れ、無傷の者が通りを先導する形だった。
「君たちのセグワ司令部は数時間前にトヨから撤退するよう命令した。今から郊外のトンネルを抜ける。そこに緊急の前線基地が構築されているんだ。ヘリ部隊や医療隊もそこで待機している。行こう。」
「出来ません!俺は、俺は!ここに埋まった人々を助けないといけないんです!」
俺は瓦礫の方を指差して涙ながらに訴えていたと思う。日国兵は戸惑いながら何度も後ろの列を確認している。するとひとりのセグワ兵が走ってやって来た。
「ソイツは俺の同僚なんです。任してください。」
リストだ。彼も生き残ったんだ。
「リスト!手伝ってくれ!お前なら分かるだろ!」
「仕方ない。あまり時間は掛けられないが、手短にするぞ。急げ。」
リストはライフルを置き。瓦礫をどかし始めた。俺も行なった。二人で必死になって続けていた。
「時間がないぞー急げー」
後ろから拡声器の声がした。聞き覚えのある声だった。拡声器の持ち主は徐々に近づいて来た。その人は、ケイン大尉だった。ただ無傷ではないのだろう。左腕に包帯がグルグル巻きにされていた。
「やはりか、こういう馬鹿みたいなことはお前しかやらねーからな。」
ケイン大尉は俺を見るや、鼻で笑って小馬鹿にして来た。正直そんな事はどうでも良かった。ただ、目の前の事にしか目が行かなかった。
俺が1つの大きな石をどかした時、手が瓦礫の隙間から現れた。
「ライトを!!」
リストがライトの代わりにハンドフレアを手渡してくれて、それで瓦礫の中を照らした。
少女だった。
「待ってろ今、出してやる!」
組み重なった木材を力任せに引っ張り出してスペースを作った。
「お兄ちゃ.....ん?」
かすかな声だったが俺は見逃さなかった。
「大丈夫だ!今すぐ助け出すから。友達も一緒にな!」
俺は無理して笑って安心させようとした。
「お兄ちゃん。コレ......」
少女は反対の手で握り拳を作って俺の方まで伸ばして来た。そして俺の目の前にきた。俺は不思議に思ったが、俺は両手で彼女の手をとった。手を開いて見てみると
四つ葉のクローバーだった。
瓦礫の暗闇越しだったが、少女は薄汚れた顔で満足そうにニンマリ笑っている。
「どうしたの?やっと見つけたんだよ?なんで泣いてるの?」
俺は俺自身が泣いているのに気づいていなかった。俺は言葉が出てこずに、ただ頷きながら両手で彼女の手を握り続けていた。
「ありがとう。今出すからね。」
俺はいち早く救い出そうと無意識のうちに思って瓦礫を撤去する速度を早めた。だが、努力もむなしく、瓦礫は徐々に下がっていき、必然的に少女に圧をかけて行く形になった。
「お兄ちゃん.....痛いよぉ。」
俺は幼い悲痛の叫びを敏感に察知してすぐに左腕を突っ込み、腕全体で瓦礫を支えた。瓦礫はところどころ突起が出ているため、左腕にひどく痛みが襲って来た。
「リスト!腰裏のパックからバンテージを出してくれ!」
リストはパックから取り出して、適当な長さに切ってくれて右手に握らしてくれた。
俺はバンテージを口内に入れて、思いっきり噛んだ。痛みに耐えるためだ。
「アンディ!大丈夫か!?」
リストが心配そうに声をかけて来た。
「構うな!早く瓦礫をどかして救い出すんだ!」
リストは今まで以上に必死に瓦礫をどかすが、どかしてもどかしても瓦礫の山は減る事なくキリがないのは一目瞭然だった。
「オイ、二人とも。」
ケインが空を見上げて言った。
リストの手が止まった。
「何やってんだ!早く助けないと!」
「あれを見ろ。」
リストの指差した方をみた。ヘリの駆動音。ライトが数個上空を飛行してこちらに向かって来ている。
「郊外に残っているセグワ兵に伝える!大人しく武器を捨てて投降せよ!さもなくば射殺する。繰り返す。武器を捨てて投降せよ。さもなくば射殺する!」
郊外にややノイズの混じった声が響き続けた。
「クソ、アレこっちに近づいてくるぞ。全員隠れろ!急げ!」
ケインが通りにいた兵士らに伝えると同時に俺たちにも逃げるよう催促した。
「おい、お前らも退避するぞ。」
「待ってください!まだ、この中に助けを必要としてる人がいるんです!」
「やむを得ないだろ!お前撃たれるぞ!」
「置いていけません!」
ケインは顔をグッと近づけてきた。
「お前が撃たれて死ねば、瓦礫を支えきれなくなって少女も死ぬ。どっちみちその少女は助からないんだよ。たしかにお前の志は立派だ。だが、その少女の命と全体の兵士の命だと全体の兵士の方が大切なんだよ。お前がチマチマここでやってると全体の犠牲者数が増えるかもしれないんだぞ?」
「だったら、だったら見捨てろと言うんですか!?」
「死を間近で見てきたお前なら分かるだろ!ここで死んでいいのか?ここで死んでその女の子とあの世に行くのか?最期まで戦うんじゃないのか?」
「銃を撃って殺しだけするのが軍人じゃありません!」
「いいか!ここは戦場だ!綺麗事じゃ済まないんだよ!」
ケインは俺の肩をガッツリと掴んで続けた。
「行くぞ........」
今まで以上の目力に返す言葉が見当たらなかった。左腕の感覚が徐々に鈍くなっていく。
「お兄ちゃん。私は大丈夫だよ。」
「嘘、言わなくていいよ?」
「大丈夫だもん。ちょっと痛いけど、友達も一緒にいるもん。それにクローバー、お兄ちゃんにあげれたから嬉しい。」
頭から出血し始めてる少女は似合わない笑顔を見せてきた。
「絶対、絶対、クローバー大切にするからね。一生だよ?絶対に離さないから。」
「うん!ありがとう!」
ヘリが、ハンドフレアの光に気付いて急接近してくる。俺は溢れ出る涙を痛みのせいにして左腕を抜いた。
「ハンドフレアを消せ!それか放置しろ!」
ハンドフレアを地面に叩きつけて強引に火を消して倒壊した民家の陰に隠れた。教会が正面に見える。ヘリのライトが先ほどのスペース付近を照らして入念に捜索している。不自然に開けられたスペースが気になったのかヘリはずっと上空でホバリングしていた。
「今すぐ出てこい!さもなくば攻撃するぞ!」
「最終通告だ!今すぐ出て来い!撃つぞ!」
数分間ライトに照らされ続ける教会を目前で見ていた。ただ傍観するだけだった。
つらい。
次の瞬間、ヘリのガンナーが崩れた教会に向けてミニガンをぶっ放した。
バリバリバリ
紙を裂くような音がする。数秒間撃った後に瓦礫のスペースめがけて焼夷弾が撃ち込まれた。真っ赤な炎が瓦礫を燃やした。
「あぁ。」
俺は膝から崩れ落ちた。
今まで大勢の仲間を失って、俺は暗い底に突き落とされていた。ほんのひと時だったがそんな俺に日常の幸せを君は感じさせてくれた。
四つ葉のクローバーをまじまじと見つめた。
そこで俺の心の中のなにかが、吹っ切れた感じがした。
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