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群青のハジヒロコウ
ハーグス草原の前哨戦
しおりを挟む「これからブリーフィングを始めます。」
ロレーヌの総司令本部でイーベルが多数の軍士官やパイロット達の前に立っていた。
「先日、トヨの郊外で敵による絨毯爆撃によって我々は多数の死傷者を出しました。それに、トヨを越えられてしまい、ロレーヌに敵は迫りつつあります。陸軍隊はハーグス付近に防衛線を築き上げており、迎撃体制を完了し終えています。しかしハーグス一帯は障害物が少なく、敵の機甲隊や航空機隊の総攻撃が予測されるわけです。先日のトヨの爆撃のように物量に物を言わせて押し込んでくるのに対処するためにも、空軍隊には最大限の努力を願いたいです。そこで先日トヨに偵察飛行した第3起動航空団、ナンバーズ隊の写真をお見せします。」
イーベルがボタンを押すとスクリーンに1機のF-22と1人の男が映し出された。
「彼はスカイライン空軍のエースパイロット。名はヤングです。コールサインはシエラ。主翼に黒色のラインが塗られているのが特徴です。既にバンク空軍相手に64機以上落としているジェネッサ屈指のパイロットです。トヨの郊外で迎撃任務に当たったカデナ隊の隊長を落としたのも彼だと考えられています。ここ最近シエラ隊の活動が活発になってきています。よって次の戦闘でも主軸となる可能性も高いです。全員心して掛かってください。」
イーベルがそう言い終えると、軍士官らは退出して行き、会場には4人のパイロットらが映し出されたスクリーンの前に立っていた。
「コイツは......」
右手の握りこぶしを力強く握る男はライだ。先日の迎撃任務に就いていたカデナ隊の2番機だった。
「すごい挙動の持ち主だった。気をつけた方が良いぞ。」
力強く睨みつけるのは、偵察飛行していたナンバーズ隊の1番機ソリュードだ。ナンバーズ隊はシエラと対等にやり合えると考えられているエース部隊だ。
「戦前、合同演習でコイツとよく飛んでいた。」
その隣、腕を組み虎視眈々と見つめる男。右腕に日の丸をつけているパイロット、加藤だ。
「コイツも俺たちと同じ人間さ!気楽にガッツで行こうぜ。」
イーランカスの能天気パイロット、テレナイスだ。
4人は互いに目を合わせ頷き、彼らの元の部隊へ戻って行った。
ソリュードは会場を後にしてすぐに基地に戻ってナンバーズ隊を集めた。
「全員集まれ、資料に目を通せ。」
そう言ってナンバーズ隊4人に配った。その資料を見るとすぐさま2番機のシェルンが言った。
「コイツはこの前の!」
「そうだ。ハーグスでもコイツは、ほぼ間違いなく現れると予測されている。全員気を抜くなよ。」
解散の号令でナンバーズ隊は解散する。各々機体の整備に明け暮れていた。
雪解け期に入りつつあった3月初旬のある日
<プリースト、こちらナンバーズ1現在高度32000。応答せよ。>
<ナンバーズ1、こちらプリースト。これより誘導を開始します。同高度にて方位040へ>
<了解。>
ハーグス上空に敵機接近との一報があり、ナンバーズ隊はスクランブル発進をしていた。
ソリュードは部隊を率いて操縦桿を右に倒して旋回した。
その様子は総司令本部の大型のモニターに映し出され、イーベルはオペレーターらと共に見守っていた。
<ナンバーズ1、目標方位030。距離90、高度32000>
「総長。ストレンジャーはシエラでしょうか?」
「どちらにせよ彼らに任すしかない。」
顔の前で手を組み、冷静にモニターを見つめる。
<ナンバーズ1。目標正面。レーダー探知どうか?>
<コンタクト。機影3つ。正面下方。>
<プリースト了解。同高度にて待機。指示を待て。>
「ストレンジャーは3機....シエラでは無いのでしょうか?」
しばらくイーベルは無言だった。だが、次には口を開けた。
「プリースト。ナンバーズに撃墜命令をだせ。」
<ナンバーズリーダー。こちらプリースト。武器の使用を許可する。ストレンジャーを撃墜せよ。>
<プリースト。もう一度頼む。>
<クリアファイア。ストレンジャーを撃墜せよ。>
<了解。>
ソリュードは列機に手信号を送りターゲットに向かってゆっくり降下を始めた。雲を抜けるとキラキラと翼を反射させている機体が居た。F-22だ。その機体の後方上部に位置取っていた。コースは完璧。ソリュードは再度手信号を送った。
<ナンバーズ。エンゲージ。FOX2>
ソリュードはミサイル発射ボタンを押した。それと同時に列機も発射する。だが、相手も一筋縄ではなかった。ローリングをしてミサイルを回避して急旋回。
<奴だ......>
ソリュードは、主翼に黒色のラインが入っていたのを見逃さなかった。
<プリースト。ストレンジャーはシエラ。繰り返すストレンジャーはシエラだ。>
<来たな。黒色のグリペン。>
ソリュードがヤングを狙っていたように彼もまたソリュードを狙っていたのだ。
<トレボー。先日の黒のグリペンのお出ましだ。シエラエンゲージ。>
ヤングはそのままスロットルを絞った。急速に作り出された速度差に対応できずにソリュードはオーバーシュートし、ヤングの機体の前に出てしまった。
すぐにドックファイトに発展した。
ソリュードは蛇行飛行を行って追尾を振り解こうする。無理な切り返しの連発で主翼が線をなびかす。ナンバーズ1の後ろをピッタリとつけるシエラ1。その後ろにナンバーズ2。その後ろにシエラ2と一列に並んだ状態のドックファイトになっていた。
<どこまで行くつもりだ?グリペン。Ⅲマークのパイロット>
ヤングは蛇行飛行で的を絞らせないソリュードに言った。
<蛇行飛行は嫌いか?ならこれでどうだ>
ソリュードはスロットルを上げて加速し、一気に機体を左に傾けて旋回を始めた。追尾する後続の機体も左旋回を始めてグルグルと円を描くように回転し始める。
敵とGとの戦いだった。
ソリュードは機体をさらに加速させてGを意図的に増加させる。後続の機体は徐々に旋回半径を緩めて行ったが、ヤングは離れずソリュードにピッタリ合わせる。
<やるな、シエラ。>
<いつまでもつかな?>
8Gを超えた。過重負荷に息が荒くなる。一瞬でも気を抜くと視界が白黒になってしまう程の世界だ。
<終わりにしてやる。>
ソリュードは機体を更に加速させてヤングを離そうとした。
<まだまだ!>
ヤングも追尾してとうとう10Gを超える。視界範囲が狭まり、音が遠くなっていく。腹に力を入れて小刻みに呼吸をする。
その時だった。最初に耐えかねたのはヤングだった。
<もらった。>
ソリュードはすぐさま切り替えして攻勢に転じた。大きく息を吸い込む。頭に血がのぼる感じがした。
ヤングはバレルロールなど操縦術を巧みに繰り出す。速度が落ちがちだが、意識的に左手でスロットルを調整してソリュードは狙いをつける。そんな時、コクピットの燃料計器から赤いランプが点灯した。残量が少なくなって来ている。
<ナンバーズ2から1、燃料が少なくなっています!このままじゃ帰投できなくなりますよ!すぐに帰投しないと!>
<な....くそ!>
<ナンバーズリーダー? 残念だったな。>
<くっ!命拾いしたなヤング。>
ヤングも燃料が少なくなって来ていたのも事実だ。
<つぎは叩き落としてやる。>
<旋回勝負で負けた時点で、お前は劣勢だな>
<あそこから巻き返すことくらい簡単さ。>
ソリュードらナンバーズ隊は3時方向へ。ヤングらシエラ隊は9時方向へ。大きく旋回して編隊を組み帰投した。
<ナンバーズ1からプリースト。>
<プリースト。>
<ナンバーズ隊はシエラ隊との交戦終了。燃料不足だ。RTB(retarn to base)。>
<プリースト了解。基地まで誘導を開始します。>
基地に帰り着き、コクピットを降りて格納庫を出ると廊下にライがいた。
「ソリュードさん。どうでしたか?」
「あいつは中々手強かった。あと一歩で捉えたんだがな」
「そうですか...」
「ただテレナイスの言う通りアイツも人間だ。旋回勝負に持ち込めば、いつかボロを出すぞ。」
「了解です。俺の部隊にも伝えときます。」
ライは廊下を歩いて戻って行った。ソリュードもロッカーに向かって歩き始めた。
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