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そして終戦へ
とある分隊と親衛隊の奮闘
しおりを挟む首都の地上戦では通りという通りにバリケードが築き上げられ、まるで迷宮かのように塹壕や地下壕が張り巡らされていた。街の至る所で戦闘が始まっていて街全体が戦闘状態に入っていた。
首都攻防戦に従軍していたのは、一般の軍人だけでは無かった。皇室親衛隊も戦火の渦中にいた。彼らは首都の中心にある宮殿付近の防衛に従事している。敵の地上部隊は戦車などの機甲師団を先頭にして建物を丸ごと打ち壊しながら宮殿に向けて直進し始めた。伝統的な建物も、人々の住まいをも突破し、砲弾を撃ち込んだ。
「親衛隊!突破して行った戦車が3両、そっちに向かったぞ。」
「了解だ。」
親衛隊総隊長は右手を上げた。
「第1番隊。構えー!」
親衛1番隊の隊員らが対戦車武器を民家に向けて構えた。他の隊員も銃器を構える。建物が倒壊する音と、戦車の駆動音が近づいてきた。すると狙いをつけていた民家が煙を上げながら崩れ落ちた。煙の中から一台の戦車が飛び出して来た。
「撃てー!」
その瞬間、かねてより狙いを定めていた部隊が一斉に撃ち込んだ。同時攻撃を受けた戦車はたちまち炎上して、戦闘不能に陥った。
「次弾装填!」
「急げ!」
装填し終えて再度来襲に備える。すると今度は2両同時に現れた。だが親衛隊は動じることなく慣れた手つきで分散して各個撃破した。
「戦車を撃破した。どうぞ。」
「了解だ。だが、まだ敵の戦車や装甲車はいるぞ。気をつけてくれ。」
「わかった。」
親衛隊が戦車を破壊した頃、最前線は激しい戦闘が繰り広げられていた。セグワの部隊は建物や地下壕などを巧みに利用してゲリラ戦術を取り敵を寄せ付けなかった。
「おい、次はこっちだ。」
とある分隊が壊れかかった集合住宅を突き進んで次の襲撃ポイントに向かっている。しかし予め決められていたルートは建物の崩壊によって閉ざされていたため、分隊は新たなルートに切り替えた。それがこの分隊の命取りだった。
急遽変更したルートを進んでいると、意図せずジェネッサ軍が多数いる敷地前の十字路に飛び出してしまったのだ。それに気づいたジェネッサはすぐさま攻撃を開始し、慌てて分隊は来た道を戻ろうとした。
「隊長!」
「分かってる!他にルートは無いのか!?」
至る所で銃声と煙が上がっている街で右往左往する分隊はやがて孤立した。分隊はそれでも必死に逃げ続け、遂に倒壊しかかったショッピングモールの専門店に逃げ込めた。だがジェネッサはすぐさま部隊をそこに送り込んでいた。
「隊長、敵が.....」
「クソ.....弾丸を確認しよう。」
隊員は皆息が上がり完全に疲れ切っていてそれに負傷者も少なくなかった。その様子を隊長は冷静に見渡した。
「ロッジ、お前は今から分隊長だ。」
工兵だったロッジが驚いた顔で隊長を見た。
「どういう事ですか、おやっさん!」
分隊内に動揺が広がった。
「お前ら騒ぐんじゃない。」
「ですが、急にどうして。」
分隊長はそのままSIGを持ち直して起き上がり、出入り口付近で立ち止まった。
「ここから宮殿まで、そう遠くない。あそこに行けば親衛隊や防衛隊本部がある。俺が死んで散り散りになってたどり着いたと言えば、お前らはここよりかは後方に行けるんだ。」
ロッジがすぐさま反発した。
「そんな、だったら俺も行かせてください!」
他の隊員も賛同して立ち上がった。
「ダメだ!死にに行くのは俺だけでいい!」
「俺は、あんたのために戦いたいんだ!スチュアート分隊長!」
分隊長は、しばらくの間何も言わなかった。散乱した店内が静かになりかかった時、分隊長は聞こえるか聞こえないかの声で言った。
「お前らは、俺の愛しいお前らであってくれないか?」
ロッジは急に全身の血が熱く感じられ、言葉が出てこなかった。その言葉に他の隊員達も何も言い返す事すら出来なかった。
「そんな....そんなキナ臭い言葉」
ロッジが吐き捨てるように言った言葉が終わらないうちに分隊長は言った。
「この戦争は、じきに終わる。戦後のこの国のために尽くしてくれ。それと....娘によろしく伝えといとくれ。俺からの頼みだ。」
「.......分かりました。」
「ありがとう。さぁ、部下を連れて行けロッジ分隊長。」
ロッジはまだ納得の行かない部下を強引に連れ出して宮殿に向かうよう指示を出し、先に他の隊員を行かせた。そして去り際。
「ロッジ、感謝してるよ。」
「スチュアート隊長......」
何か言いかけたが肝心な言葉が出てこずに、ロッジはそのまま他の隊員と宮殿に向かった。
スチュアートは弾数の少なくなった銃を構え敵を待った。彼が最期に目にしたのは、一台の戦車と何人もの随伴歩兵たちだった。
ロッジは部下を引き連れて必死に走り宮殿前の防衛隊本部にたどり着いた。そこでロッジは敬礼し、部隊名と名前、残存した隊員数を言い、どうして本部に来たのかを言おうとした。敬礼した手が震えていた。
「どうしたんだ?早く言いたまえ。」
相手している士官は急かしてきた。
「隊長は....スチュアート隊長が戦死し、部隊の大半が負傷。戦線も突破されたため撤退しに参りました。」
「そうか.....」
それを聞いた士官は肩を落として都内の地図を広げた。それには何箇所にも赤いバツ印がつけられていた。そして士官は新たなにバツ印を付け加えた。
「臨時の分隊長は誰だ?」
ロッジが自分だと伝える。
「分かった。お前達は人数も小規模だし負傷者数も多いしな......ロレーヌの西方の部隊と合流してくれ。」
「宮殿付近を離れるのですか?」
「そうだが。」
「それだけは!ここで戦わしてください!お願いします!」
「伍長。君の気持ちは分かるが、これは命令だ。それに西の方に行くからといって戦闘が無いわけじゃない。それは分かってるだろう?」
そう言われるとロッジは黙りこくって、慣れない一声で隊員を集めた。伝えられた事を皆に言うと、1人の隊員がヘルメットを地面に叩きつけ、ロッジの胸ぐらを勢いよく掴みかかった。
「隊長は、隊長はまだ生きてるかもしれないんだぞ!なぜ助けに行こうとしないんだ!」
すぐに周りの隊員がその兵士を抑えた。
「俺だってそうしたいさ!けど、きっと隊長はそんな事望んでなんか無いはずだ。」
「お前の勝手な推測だろ!俺は行く!1人でも行ってやるんだ!」
制止を振り解こうとして暴れだした。
「お前は隊長がどうして俺たちを逃したのか分からないのか?去り際にあの人が俺たちに言ったことをもう忘れたのか?」
「俺たちよりあの人の方が生き残るべきだ!だから、だから俺が.....」
「お前の気持ちも痛いほど分かる。だがお前が代わりに行って死に、隊長が生きたとしても、隊長はどう思うか分かるだろ?」
ロッジが地面に転がった少し汚れたヘルメットを取り、その兵士に手渡した。
「お前が隊長の事を思うように、隊長もまた俺たちの事を思っていてくれたんだ。だったら残された俺たちに出来ることはその思いに応える事じゃないのか?」
そう言うとその兵士には堪えたらしく、そのままトラックの方へゆったりと歩いて行った。ロッジもトラックに乗り込み、小さくなっていく街をいつまでも見ていた。
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