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そして終戦へ
ロストウィング.2
しおりを挟む<.......管制....応答せよ.....>
ソリュードは激しく息を切らしながら繰り返し管制との通信を試みていた。なんとか多数の爆撃機と護衛機を追い返すことに成功した彼らであったが、損害は大きかった。
<テレナイス大丈夫か?>
ソリュードが左手を飛ぶテレナイスを案じた。彼の機体は煙を吹き出していて、さらにテレナイス自身被弾していた。
<ソリュード....俺はもうダメだ。血が止まらん。>
無線越しに機体の警告音が聞こえてきた。
<踏ん張れ、あと少しで基地に帰れるぞ。>
ソリュードはかすれた声で返事したが、実際もつかどうかは分からなかった。損害を受けたのはテレナイスだけでなく他の列機も激しいダメージを負っていた。
<ソリュード、基地との通信は?>
加藤が言った。
<いや、ダメだ。だがあと少しで目視できるはずだ。>
そう言うと、オレンジ色に染まった雲を抜けてロレーヌ飛行場が下に見えるようになった。だが、飛行場からは煙が上がっていた。
<馬鹿な!>
ライが、信じられないといった様子で前傾して覗き込んだ。
<クソ....テレナイス....>
ソリュードはテレナイスを見た。
<大丈夫だよ。隊長。もう痛くなくなったから。>
誰もが察したが、誰1人として口に出すものはいなかった。すると前傾して基地を見ていたライが何か発見した。
<隊長!敵機!>
すぐにソリュードは我に帰った。
<どこだ!?>
<下方!F22とA10が編隊飛行中!>
それを聞いてソリュードは何か感じ取った。
<あ!敵機急上昇中!こっちにきます!>
ソリュードはすぐに機体を反転させようとしたが、一瞬ためらった。
<テレナイス....>
<さぁ、やってやろうぜ隊長。>
テレナイスは損傷で鈍くなった機体を反転させ、降下し始めた。ソリュードも続くように反転させて一気に迎え撃つ体制へと変わった。
機体がグングン加速していき、ヘッドオンの状態で両機機銃を撃ちながらすれ違った。すぐさま操縦桿を引き機体の体制を立て直し後ろを振り向いた。
<シエラだ。>
ソリュードが列機に警告した。
<お前達の帰る場所はないぞ?ソリュード。>
ヤングがシエラ隊を率いて、一群となって向かってきていた。
<散れ!散れ!>
危機を感じたソリュードはすぐさま列機に伝えて散開させた。だが1人だけ散り遅れた者が居た。
<テレナイス!何してるんだ.....>
加藤がGに耐えながら言った。予想は的中した。集中攻撃を受けたテレナイスは凄まじい火花を撒き散らした後、爆散した。さっきまでいた機体は黒い煙となって何も無くなる。そこには虚しさだけが漂った。
<ちくしょう!>
加藤が損傷した機体を無理に捻らせてシエラ隊の列機の後ろに食い込んだ。凄まじい挙動で位置取った加藤は、敵機が加藤を認識する前に敵キャノピー目掛けて機関砲を撃ち込んだ。奇襲を受けた敵は声を出す間もなく、キャノピーをぶち破って来た弾丸に頭を吹き飛ばされた。加藤の勢いは止まらず、そのまま2機目の後ろを取った。単機突っ込む加藤を援護しようとソリュードはライを後ろに従えてシエラ隊を追った。
<日の丸のF15.....>
ヤングが無線を介して言った。
<黙れ!>
躍起になった加藤は2機目を飛び越し隊長機であるヤングのコックピットに狙いを定めようとした。
<お前らが強かったのは一昔前だ!>
ヤングは加藤をギリギリに引きつけ、その瞬間にスロットルを一気に絞り、操縦桿を強く引いた。ヤングの操るF22は上空を僅かな円を描いただけで回転し終え、加藤の後ろに位置取った。
<なっ>
<ZEROはもう飛べない!>
ヤングは加藤をロックオンして至近距離でミサイルを放った。加藤は反射的にフレアを出そうとしたが、その前に着弾した。機体に衝撃が走った。片方の尾翼が吹き飛び制御を失った機体は錐揉み状態となった。
<加藤!>
ソリュードがヤングを捉えようとした時、ヤングの放ったトドメのミサイルで加藤の機体も爆発した。接近してくるソリュードに気づいたヤングは残った3機を従えて急旋回し始めた。それを追いかけてソリュードはドックファイトに持ち込もうとした。だがそれを見越していたヤングは旋回途中で強引に機体をひねらして降下し始めた。ソリュードはそれを見逃さずに降下した。ヤングはそのまま機体を起こして回避運動を取り始め、列機の攻撃を待っていた。
<隊長!敵が後ろ上空から来てます!>
ライが言った一言でソリュードは気がついたが追撃をやめなかった。
<ライ>
ソリュードはそれだけ言った。
<仇を討ちます!>
ライはそのままソリュードを狙う片方の機体を襲撃した。緩降下中だった機体は攻撃を受け、大きく右旋回しながら回避した。時間はかけられないと思ったライは、すぐに切り返してもう片方の敵機を狙ってミサイルを発射した。フレアを放出してミサイルを回避したものの、その機体は目立った回避行動をとらずにソリュード目掛けて突き進んでいった。ライはすぐに後ろにつき、機関砲を撃ち続けた。軽やかに回避飛行するヤングに必死に食らいつくソリュードをバックにライは運に任してひたすら敵機を撃って撃って撃ちまくった。すると放った機関砲が敵機に備え付けられたミサイルに当たって、主翼の根元から吹き飛んだ。
<よし!>
ライはバイザーを上げて汗を袖で拭い、再度下ろして先程の逃げた敵機を探した。するとその機体は、今撃墜した敵機よりもさらにソリュードの近くを飛び、まさに攻撃しようとしていた。ライは慌ててスロットルを押し出しアフターバーナーで急加速した。充分に接近したところでHUDが敵機をロックオンした。間髪入れずにボタンを押し込み発射した。だが敵はフレアを放ち、嘲笑うかのように回避した。ミサイルは残り1発。敵機はとうとうソリュードに攻撃をし始めた。ライは残り1発のミサイルに託し、更に敵機との距離をギリギリまで詰めた。かなりの近距離でミサイルを放った。放つと同時にライは勢いよく声を張った。
ミサイルは見事に命中。だが敵機が放った最後の弾丸がソリュードの右主翼とソリュードの右腿に当たった。すると蛇行飛行を追いかけるソリュードの機体は被弾によって右に傾き始め煙を噴き出しながら高度が下がり始め、ソリュードはスロットルを持っていた左手で右腿を抑えた。すぐに機体を立て直そうと反対側にきるがずっしりと重くなった操縦桿は中々言う事を聞かなかった。それを見逃さなかったヤングは加速して上昇し始めた。
<隊長!>
ライはソリュードの近くにつけた。
<ライ.....弾丸は?>
ソリュードは痛みに必死に耐えながら言った。
<ミサイルはありません。機関砲も、もう無くなります。>
<ライ、基地に戻れ。>
<え?なぜですか!?>
予想外の展開にライはすぐに反発した。それと同時にライの脳裏にはトヨ上空での出来事がよぎった。
<ミサイルも無ければ弾丸も少ない、無駄死にするだけだ!基地に戻るんだ。>
<ソリュード隊長。僕はもう.....失いたくないんです。>
ライはそう言うとソリュードの制止を無視して、正面上方から向かってくるヤングに向けて一気に加速、上昇し始めた。
<ライ!よせ!>
ソリュードの声はライには届かなかった。ソリュードは鈍器で殴られたかのような重い痛みを堪えて力の限りで操縦桿を切り替えてライの後を追った。
<ライ!戻れ!無茶だ!>
ライはヤングに立ち向かった。そして、爆散した。ソリュードの目の前で爆散した。残骸からソリュードのパイロットヘルメットがソリュードのキャノピーを破り途中で止まった。ソリュードの目の前に、つい数秒前までライが被っていたメットがあるのだ。血と焦げで、それは赤黒くなっていた。
<ソリュード、お前はもう満身創痍だろう。いい加減諦めろ。お前の部下ももう全員死んだんだ。>
ヤングはボロボロになったソリュードの機体の横を飛び並行する形になった。
<それはお前もだろ。ヤング。>
<お前達の帰るべき基地はもう無い。ついさっきロレーヌ飛行場は襲撃されて機能不全に陥った。だから諦めて投降し、トヨの飛行場に着陸しろ。私自身これ以上無駄な殺生はしたく無い。>
<地上で必死に戦う味方がいるんだ。それに死んでいった仲間もいる。俺はここで投降する訳には行かないんだよ!>
ソリュードは強く叫んだ。力んだせいで右腿が強く疼いた。それを聞いたヤングは大きなため息をついて言った。
<お前のような愛国心に溢れる奴は沢山いた。どの時代にもお前のようなパイロットはいるもんだ。だがな私はその全てをこの手で落として来たんだ。>
そう言うとヤングは後ろに回ってロックオンした。
<地獄で会おう。>
ソリュードは目の前にあるライのヘルメットを両手で触った。左手で触った跡は自分の鮮血で赤く塗られた。ミサイルが放たれた。無機質な警報音が鳴り響いた。着弾する瞬間、ソリュードの目には海に沈む夕陽が映った。
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