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ICICLE
4 codename ビンテージ
しおりを挟む爆破事件の衝撃は世界中を駆け巡った。連日のようにワイドショーを賑わし、報道は過熱していった。そして事件は思わぬ方向へと向かい始めた。
「小型の船が爆発して橋が落ちたと言われて来ましたが、港湾のカメラが捉えたこの潜水艇こそ真の証拠だと思うんですがね?どう思われますかミラさん。」
中年のMCが少し強めに発言した。
「そうですね。たしかにあの小型船に爆弾を積んで爆発させるだけでは、橋が落ちる事など考えられません。ですが仮に小型潜水艇が何らかの武力攻撃をした場合、話に筋が通ってしまいますね。」
「という事はミラさん、これは意図的な行いだったという事でしょうか?」
「意図的だったとは少し考えづらいですね。オーシア政府は現在、反政府勢力と対峙している状態です。ここで自らこのような行動に出るとは私は思いませんね。」
「そうですね。まだ不明確な事が多いですが、ミラさん本日はありがとうございます。それでは次のニュースです。」
特警の課員らもほとんどが庁舎ないのテレビに釘付けだった。シャロンとケインも隊長室で見ていた。
「シャロンさん。現場に居たんでしょ?その潜水艦?潜水艇?見てないの?」
「見えるわけないでしょ。」
シャロンが不機嫌そうにいった。
「まぁそーだよね。
んじゃ、ちょっと整備班とこ行ってくるわ。」
「わかったわ。それとケインさん、16時以降射撃訓練はしないでちょうだい。やっと復活した課をまた潰す気かしら?」
「ごめんて」
それだけ言うとケインはそそくさと整備班のいる倉庫へと向かった。庁舎の外に出て、四年前に課員らで作り上げた簡易な農園を見た。
「あ、隊長ー!」
隊員がケインに気づき手を振ってきた。
「お前たち!ちゃんと世話やってるかー!」
「もちろんですよ!」
「なんか4年前より規模がでかくなった?
「そうなんですよ。活動停止中に暇だったんで大きくしちゃいました。」
「良くやるね~。ま、程々にね。」
隊員たちが笑いながら返事した。ケインは再び歩き始めて、目的地の倉庫に向かった。入ってみるとロッジが古くなった拡声器を持って声高らかに指示をしていた。
「お前ら!今日から特警は臨戦態勢に入った!お前らは銃という銃は片っ端から整備しろ!そしてお前らは防弾装備を片っ端から整備!んでお前らは装甲車両を点検しろ!ボルト一本の締め忘れも許さん!分かったらさっさと行け!」
「ロッジさん。」
「ほら行け!いつ出動になるか分からねんだぞ!」
すっかり熱くなったロッジは声だけでなく身振り手振りで檄を飛ばし始めた。
「ロッジさん。」
2回目でやっとロッジはケインに気がついた。
「ケインさん。どうかしたのかい。」
「そんなに飛ばさなくても俺たち特警はそんなにすぐ出動にはならないよ。」
「そんなの分からないじゃないか。」
「まずは州警が対応するよ。それでダメなら保安庁の一般警備部隊。それでダメなら保安庁の特車隊。それでもダメならやっと俺たち特警の出番なんだよ。」
「州警や一般の奴ら、盾かピストルだけじゃねーか。武力攻撃されたらどうすんだよ!」
「彼らもサブマシンガンくらい持ってるさ。」
「そうかも知れんが、最悪の事態を想定して準備するんだよ!」
「まぁ、ロッジさんらしいか。んじゃ装備とか頼んだよー。」
「任しとけ!」
ロッジはまた拡声器を使って檄を飛ばし始めた。ケインはやれやれと思い隊長室に戻った。
日が沈み辺りが暗くなった時、隊長室に第2小隊の隊員がやって来た。
「失礼します。今、隊長に会いたいといういうお客さんが来まして。」
シャロンとケインが顔を見合わせた。
「どっちの?」
ケインが聞いた。
「さあ?」
「何の要件?」
「さあ?」
もう一度ケインはシャロンの顔を見た。
「会わないと伝えないって事ね。いいよ呼び入れちゃって。」
ケインとシャロンは隣の応接室に移動してその人物を待った。しばらくすると扉が開かれ奥から渋い中年の男が入って来た。その男は座って名刺を取り出してケインに渡した。
「オーシア国防総省情報調査部。名前はビンテージさんって言うんだ。住所も電話番号も無いんだね。」
「そこは色々な事情がありましてね。ビンテージっていう名前も簡単に言えばコードネームみたいな物です。」
「それでビンテージさん、なんでウチに?」
ビンテージは鞄から2枚のDVDを取り出した。
「ちょっとこれらを見てもらいたく思いましてね。」
ビンテージが振り向いてプレイヤーを見つめた。シャロンが少し悪態をつきながら手荒にプレイヤーを操作し始め、ビンテージがDVDを入れた。すると画面にロレーヌ湾の港公園で海を背にしながら遊ぶ子供達が映し出された。
「僕たちに子どもを見ろって事?」
「心が癒されないか?」
「あいにく、そんな物で僕は癒されないからね。」
「ただのジョークさ。見てもらいたい場面まで飛ばそう。」
画面が早送りに変わってそしてビンテージはある場面で一時停止させた。
「ここだ。この海面を見てみろ。」
画面上部を指差した。
「うん?どこだ?」
「どこ?私には見えないわ。」
「ここだよ。ここ、ほらゴミみたいな点。」
そう言われてホコリのような物体を全員が把握した。
「ここまで言えばケインさん、あんたなら分かるはずだ。」
「この直後にブリッジが吹き飛んだ訳か。」
ビンテージが鼻で笑った。
「その通り。それを踏まえた上でもう一方を見てもらいたい。」
ビンテージが新たなDVDを入れて再生させた。
「公安調査庁の人間はさっきのDVDに映り込んだ物体に気づかずに我々に回して来たのさ。そしてこのDVDはさっきのDVDを我々で独自に解析した物だ。改ざんの余地が無いように過程まで収録してある。」
画面では先ほどのカスのような物体にズームアップし、高解像度化して不明瞭だった物体がハッキリとした機体になった。
「あんまり、こういうの詳しくないんだけど報道された物とは形が若干違うな。」
「その通り。これをご覧なさい。この魚雷発射管は昨年開発されたばかりの新型タイプ。そして機体上部に付けられたソナー、これも新型だ。報道された画像ではこれらは全て修正されていた。ここからが本題なのだが、オーシア軍はこのタイプの小型潜水艇を装備していない。」
「ちょっ、ちょっと待った。どうしてウチにそんな情報を?」
「無論、真相解明に向けて協力してもらいたいからさ。我々は仕事柄、この手の捜査活動に不慣れでね。そこで超法規的活動を行って来たあんた達とパイプを持っておこうと思って来たわけさ。」
「捜査活動なら州警や警察庁の方がノウハウはあると思うんだけどね?」
「もちろん州警や警察庁にも行ったさ。だが連中よそ者を嫌ってな、何も得られずに追い返された訳さ。」
「保安庁も変わらんと思うけどね。まあいいや。」
「現場レベルでのパイプを持つには頼りになる方が良いだろうと思ってな。ところで、どうです?ドライブでも行きませんか?高速をぐるりと。」
ビンテージが2人を見た。
「私は遠慮するわ。」
シャロンは即答で答えた。
「あんたは?」
「お、俺?じゃあ行こうかな?」
ケインはシャロンの顔色を伺いながら言った。特段悪い表情をしていなかったからケインはそのまま庁舎を出て彼の車に乗った。
「昔から動く物の中にいると落ち着く性分でね。考えがよくまとまるのさ。」
「それに移動中の車内なら盗聴される危険性も低いしねー。そろそろ仕事の話、しません?教えてよ、さっきの小型潜水艇のやつ。」
「あの小型潜水艇、実はスカイライン軍の物なんだ。」
「なに、スカイライン?確証はあるのか?」
「ああ。向こう側が認めて謝罪して来た。もちろん非公式だがな。」
「なぜスカイラインなんだ?」
「元々あの戦争が終わってオーシアがこの島を全面併合するのに、スカイラインは主張はしなかったものの反対派の立場を取っていた。民族自決の遵守さ。だがオーシアは強引に併合して統治した。もちろんスカイラインも黙って見てるわけには行かなかった。そこでスカイライン政府はオーシアには秘密にしてセグワ島内の政治を監視し始める事にした。その一環として領海パトロール計画があった。」
「領海パトロール計画?」
「武装した小型潜水艇を港湾や沿岸に派遣し、過度に軍需品を流通させようとするオーシア政府を止める計画の事さ。」
「その計画で意図せぬ事故が起きたわけか。」
「事故ではない。むしろ潜水艇の操縦士も被害者に過ぎない。」
ケインは険しい顔つきでビンテージを見て言った。
「その危ない計画が第三者に利用され、誤って魚雷が発射されたという訳か。」
「そうさ。そしてその魚雷がTNTが満載されたボートに命中した.....」
「ちょっと待て、そこまで分かっているなら何故オーシアは公表して濡れ衣を晴らそうとしないんだ?」
「無論、防衛庁や国防省は公表を迫っている。だが政府はまだ迷っている。仮に公表したとしても秘密裏の計画と、その危険な計画が第三者に利用された事なんて、収拾のつかないスキャンダルに発展するだけだからな。馬鹿な連中さ、それこそ利用した奴らの思う壺だ。まだ事件が起きて間もないからこそ真実を公表して捜査すれば良いものを、現場に泥を被せるつもりさ。」
「けど、そんなの推測にしか過ぎないわけだしビンテージさん自身そのDVDにも物的証拠がない事くらい分かってるんじゃないの?」
「さすがはあんただ。だが考えてみろ。仮にそのDVDが虚構だったとしても吹き飛んだブリッジは偽りようのない事実だ。現に魚雷を発射した潜水艇は今に至るまで帰還していない。座席裏を。」
そう言われてケインは後ろを振り返って分厚いファイルを取り出した。
「54ページを見てみろ。」
パラパラとめくってそのページを見てみた。
「イーベル参謀総長?」
「そうさ、元セグワ軍参謀総長のイーベルだ。彼は元々信任統治省管轄の防衛庁職員として勤務していた。だが今から4年前アレア旧皇帝を乗せた航空機が墜落した日から姿を消し、今も行方不明の状態になっている。」
「ああ。あの事件からもう4年にもなるのか。あれって陰謀でしょ?」
「セグワを統治しやすく出来るだろうという浅はかな上層部の考えが事を生んだのさ。」
「そりゃイーベルさんも憎むわな。」
「そこなんだ。我々はその日から消えたイーベルに目をつけた。イーベルが失踪してからしばらく経つと急に反政府活動が計画性や組織性を帯び始めて来てな、その名が浮上したのさ。」
「イーベルが率いているという事か?」
「あくまでも予測だ。だがICICLEの裏にはイーベルがいるという証拠は公安調査庁が掴んでいる。」
「ホントか?」
「ああ。詳しくは公表しないから分からないがな。ICICLEの内情についてはまだまだ謎が多いものだ。」
「なんかシャロンさんの気持ちが分からない事もないな~。」
「どういう事だ?」
「いや、あの1年前の強硬的な治安活動だよ。」
「ああ、あれか。」
「ここまでこじれたんだからな。気弱になる訳にも行かんしな~。」
「あの件のお陰で保安庁の評価はダダ下がりだったな。今も苦しい予算の中でやり繰りしてるんだってな。」
「非常事態に出動して鎮圧する部隊が、そこらの一般警備隊よりも低い予算だと苦労するよ。」
「そいつは気の毒だな。だがレジスタンスの活発化を招いたのは紛れもなく、あの事件からだ。」
「ああ。保安庁内でも囁かれてたよ。当時本庁に居たものなら、誰でも聞いた事はあるさ。俺みたいな男でも知ってるんだしな。」
「あんたシャロンの事について何か知ってるか?」
「同僚の事を調べるなんて、そんなのごめんだ。」
「無知は良いもんだな。シャロンという女、過去にイーベルと繋がっていたぞ?」
ケインが体を起こして食いついた。
「本当か?」
「ああ。戦後間もない頃・・・・」
2時間半ほど車を走らせて特警の庁舎に帰って来た。
「それじゃビンテージさん。ありがとね~。」
ビンテージは窓越しに手を上げてエンジンをふかしながら帰っていった。夜も遅かったからケインはそのまま庁舎の仮眠室に向かった。
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