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ICICLE
8 越権コンビ
しおりを挟む「まったく。シャロンさんにはどう伝えるんだ?」
「いいの、いいの。一応俺準待機だからさ。」
ケインはファレスを呼び出して以前行けなかったMOX社に行こうと企んでいた。
「ったく。こんな時に保安庁職員が州警の刑事と放送会社を訪れるなんてな。」
「マズかった?」
「俺は別に問題ないさ。ちゃんと許可もとったし書類も出したからな。」
「堅っくるしいね~。」
「警察ってのは書類主義な所あるからね。けど保安庁も同じじゃないのか?」
「あんまり知らないんだよね。」
ケインが少し間を空けて笑いながら言った。ファレスは苦笑して車を出した。
「で?今日は何でMOX社に?」
「社員の顔を見ときたいんだよ。」
「社員の顔?それだけ?」
「そうだけど?」
「勘弁してくれよ。たったそんな事のためだけに何枚もの文書と課長に頼み込んだのか?俺は?」
「いいじゃない。その後コーヒーでも行こうよ。」
「あんたって男は.....」
ファレスは呆れを通り越して馬鹿馬鹿しく感じられ、少し笑ってしまった。
そうこうしている内にMOX社の少し小さめのビルについた。2人は車から降りてビル内に入った。
「ようこそMOX社へ。」
自動ドアを抜けるとすぐに受付の人が2人の対応を始めた。ファレスは慣れた手つきで手帳を出して、わけを伝えた。突然の訪問に対応役は少し慌てていたが受付の電話を取り、しばらくすると少し細身の社長が現れた。社長の案内で応接室に2人は入った。
革張りのシートに腰掛けるやいなや、いきなりケインが訪ねた。
「今社員は全員揃ってますか?」
予想外の質問だったが社長は顔色1つ変えずに応対した。
「はい。本日は1人も欠勤しておりません。」
「てことは、今この会社内には全員揃ってる事ですよね?」
「そうですね。外に出ている者はいません。」
ケインが頷くと本題に入った。
「職員の顔とか見ときたいんですが。いけますかね?」
「顔ですか.....写真ならありますが?」
ケインは少し考えて、結局了承した。社員は奥の引き出しから顔写真付きの職員名簿を取り出してテーブルの上に置いた。ケインとファレスがそれを手に取り深々と読みいった。それを見ながらケインが聞いた。
「約2週間後にライアン長官のインタビューしますよね?」
「ええ、その通りです。」
「インタビューする社員って決まってるんですか?」
「はい、決まってますよ。」
ケインは名簿を机の上に再び置いて社長と共に確認した。社長は予定の社員を指差しながら言っていった。インタビュアー、カメラマン、音響。この3人だった。
「じゃあ、ちょっと。」
ケインが社長とファレスの顔を見た。ファレスはすぐに察してため息ついたが社長は目をまんまると開けて理解しきれてなかった。
「ちょっと、オフィス見させてもらえますかね?」
ファレスが社長に頼んだ。社長は理解したらしく了承した。3人はエレベーターに乗り、職場に向かった。社員がコツコツと働くのを見ながら3人は廊下を歩いた。
「社員の殆どが旧セグワ人なんですね?」
ファレスが社長に聞いた。
「ええ、その通りです。実はこの辺りには我々MOX社と同じように雇用法のお陰で成り立った企業が増えてきているんですよ。」
「そいつは意外ですな。」
「ええ、それに多額の助成金も出されてますので今のところ順調ですね。それにあと少しでビックイベントもありますしね。」
社長が明朗快活に話し続けた。
「さっき見させてもらった3人には特に目をかけてやってくださいね。」
ケインが言った。
「ええもちろんです。社員全員で取り組んで行きたいですね。」
オフィスやスタジオなど一通り見回ったのち2人は訪問を終えた。社長に深々と礼をしてそのままビルを出た。
「どうだった?」
ファレスがケインに尋ねた。
「うん。まぁ良かったんじゃないの?」
「満足したのか?」
「別にした訳じゃ無いけど、なんかあと1つ欲しんだよね。」
「何がだよ?」
ファレスが半笑いで聞き返した。
「いや、OS社は堅実保守的な報道が持ち味で社員教育にも熱心な事で有名じゃん?けどMOX社ってそういうのが無いわけ。」
「1年目の新参だぞ?流石に無理があるだろ?」
「考え過ぎかな?」
「きっとそうさ。報道内容も別に右でも左りでも無いわけだしな。」
「だな。ただ、社員の様子だけは要注意だな。」
「それは誰が注意しておくんだ?」
そう言ったファレスの顔をケインがじっと見つめていた。ファレスがわざとらしいため息をついて、再び車を出した。
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