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ICICLE
10 水面下
しおりを挟む訪問日を数日後に控えた秋の日。
特警は、埋立地で一般警備隊や州警の機動隊員らと合同演習に明け暮れていた。当日予想される反対勢力への対処、突発的な事案対処、雑踏警備、その他にも数多くの対処訓練をひたすらに繰り返していた。
シャロンは積極的に指導していたが、ケインは正反対で彼女や他の部署とリーダーに任せっきりだった。機動隊の隊長が度々大きな声で指導したり、指揮棒を大きく振って指示を飛ばしたりとまるで本当の現場かのような臨場感すら感じられるが、ケインはそれでも車両にもたれ掛かって見ているだけだった。訓練の様子を外から見ていたロッジがケインを見つけて側にやって来た。
「ケインさんは指示を出さなくていいのかい?」
「シャロンさんに任せてるからね。俺はこういうのは向いてないんだよ。」
「何言ってんだケインさん。あんた元軍人だろ?だったらこういうのは経験してるだろ?」
「別に訓練するのは良いよ。けど、ああやって大声で大勢を動かすのは苦手でね。」
「軍人の時は大尉で指示ぐらい出してたんじゃないの?」
「そりゃ出したさ。けどあの時はあの時だよ。戦時中にワガママなんて言えないからね。懐かしいもんだ。」
演習は制圧訓練へと移行して機動隊員らが盾を持ち叫びながら一斉に走り始めた。
「若かりし時は、あんたも俺も訓練してたよな。」
ロッジがその光景を見て言った。それを聴くとケインが鼻で笑って言った。
「若かりし頃って、まだまだ現役じゃないか。」
「俺たちももう中年だろ。そんな事思う年頃なんだよ。」
「ロッジさんは何歳でもそんな事言ってそうだけどね。」
ケインがそう言うとロッジが大きな声で笑ったが、すぐにシャロンの目にとまり駆け寄って来た。
「ケインさん!」
「ご、ごめんって。」
シャロンはそれだけ言うとまた元の場所に戻って行った。
「おっかねえな、課長は。」
ロッジがシャロンの後ろ姿を見ながら言った。
「俺たちがおかしいだけだよ。あの人真面目だからな。」
「ケインさんはあの人の事どう思ってるんだ?」
「どうって....」
「ほらアレだよ1年前あっただろ?」
「流石にやり過ぎだったけどねぇ。」
「ねぇって、あんた同情してるつもりじゃないだろうね?」
「別に同情って訳じゃないけど、あの事件絶対裏があると思うんだよね。」
「裏?」
ケインが答えようとすると後ろの倉庫から整備班員が電話を持ったまま、ケインを呼んだ。ケインはすぐに電話相手を聞いたが整備班員は首を傾げたため、ケインはロッジと共に倉庫に向かった。
『代わりました。』
『俺だ。ビンテージだ。』
それを聞いてケインはロッジを凝視した。察したロッジは頷いて電話を手渡した班員を連れて、その場を去った。
『ビンテージさんどしたの?』
『ちょっと厄介な事が起きてね。報告しに掛けたのさ。』
『厄介な事?』
『ああ昨日、警察庁、防衛庁、保安庁の情報が何者かによって抜き取られた。』
『なに?本当か?』
『ああ。』
『にしては俺には連絡が入ってないぞ?』
『そりゃそうさ。今回の件は上層部の人間しか知らない。いや、下に知らせないようにしてるとでも言う方が良いかもな。』
『それはいつ起きたんだ?』
『午前2時頃だ。何者かがネットワークに侵入し情報の入ったファイルを数個、それもどれも機密情報のだ。』
『偶然盗んだのが機密情報ってのは有り得ないよね。』
『当たり前だ。』
『内部からじゃなくて、外部からの侵入?』
『そうだな。情報が管理されているネットワークに接続すると、内部からの場合その記録が残るようになっている。だが犯行時は内部の接続記録はなかったんだ。』
『何か対策は施して無かったの?』
『もちろん対策はしてある。外部からの侵入は最初はバレなくても侵入から1分半も経てば自己診断プログラムで異常は検知されるようになっている。それに各ファイルには8桁のパスワードが掛けられているしな。』
『犯行は1分半以内で、それにパスワードを解いたってこと?』
『ああ、それに同時に3つの官庁をだ。』
『そんな事できる訳?』
『凄腕のハッカーなら行けるだろうな。』
『ハッカーね....ICICLEはサイバー面でも脅威なわけ?』
「いや、今回の件はICICLEの関与は低いと考えられている。』
『じゃあ他の反政府勢力?』
『いや、それよりももっと大きな組織だ。』
『根拠はあるの?』
『今回侵入を受けた3つのネットワークは桁違いに巨大で構造も複雑だ。その複雑な壁の内部にある容量の大きなデータを高速で取り入れる事が出来るのは、ジェネッサ圏内で広く普及してる新型CPUを搭載しているパソコン類だけだ。そしてそのタイプの機械は、この島内において官公庁内部にしか設置されてなく、民間にはまだ出回っていない物だ。ここまで言えば分かるな。』
『その経緯は分かったけど、今この時にそんな事して得する人がいるのか?』
『分からんが、オーシアの直接統治に反対する勢力であることに間違いは無い。』
『話を聞く限りではそこらの反政府勢力とは一線を引いてる気がするな。』
『公安調査庁や本国の警察はジェネッサ圏内からの犯行も視野に入れて捜査してる。そこは何か分かったらまた連絡しよう。』
『ちょっと待った。その盗まれた情報ってのはなんだい?』
『申し訳ないがそれは俺にも分からない。今回も政府は公表しない方針で決定したよ。ただ外に漏れたら少しばかり厄介な情報である事には間違いない。』
『また黙り込みか。』
『仕方ないさ。時期が時期だけに公表しても不用な混乱を招くだけだからな。ただ政府は自らに向かってくる批判世論をあんた達保安庁や警察庁に流しているぞ、治安管理がなってないってな。』
『こりゃまた騒がしくなりそうだ。知りたかったなその情報が。』
『きっとすぐに分かるさ。それじゃこっちも忙しいからこの辺で切るぞ。』
ビンテージがそう言うと電話を切った。ケインはそのままファレスの番号にかけて、事態のおおよその内容を伝えた。
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