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消えゆく存在と国家
26 不当警備活動
しおりを挟むこの頃になると本格的な冬に入り、ロレーヌでも雪が降り始めた。すでに北のほうやトヨの方では雪が徐々に積もっているらしい。
次の日の夜。その日の業務を終えて隊長室で旧式のダルマストーブに当たってのんびりしていると電話が鳴った。すぐにシャロンが出た。普通に返事をしていたから、ただの業務連絡かと思ったが、急にシャロンが顔を曇らせて時折語気強めで反論などしたからケインも電話を取って会話内容を聞いてみた。
『しかし、部長!』
『明日州警の第2機動隊と共にロレーヌ空軍駐屯地に出動せよ。これは局長命令でもあり、更にはその上層部で決まった事である。』
『いえ、この場でそのような事をすれば事態はさらに混乱するだけです。』
『意見は求めていない。特殊警備課は明日州警と連携して駐屯地に出動せよ。以上。』
一方的に電話は切られた。途中からしか聞いてなかったケインはシャロンに全容を聞き直した。
「シャロンさん、どしたの?」
「先のブリッジ事件覚えてるでしょ?あの件でカデュエナス州警が、事の実態を説明するためにロレーヌに向かおうとした基地司令を事情聴取のために連行したそうよ。しかも基地ゲート前で。」
「確かに、前の会議でも言ってたけどまさかこんなに早く行動するなんて。防衛庁が焦るのなら分かるけど、何も俺たちや警察が焦る必要なんて無いんだ。」
「事態は悪化してるわ。他の幹部も連行しようとした州警に対して、カデュエナスの海上防衛基地は外部との通信を遮断し事実上の籠城体制に入ったわ。またこの騒動を受けて、他の基地や駐屯地でも同調する動きが多発している。だから私たちは明日ロレーヌの基地に警備活動に出向かないと行けなくなったわ。」
「俺、行かないよ。」
ケインは淡白に言い放った。
「これは命令なのよケインさん。」
すぐにシャロンが強めに注意喚起した。
「考えてみなよ。今立て続けに事件が起きているのに、防衛庁にまでその矛先を向けたら余計に混乱するだけじゃないか。」
「けど、もしもの時に備えて」
「もしもの時ってのはなんだい?」
「......予想だにしない事かしら。」
「結局、今までももしもの時に備えて警戒していた。けどその警戒体制もことごとく破られて事件が発生しているんだ。一回落ち着いて考えないとダメだよ。周りをみて冷静にならなきゃ。だから俺は出動しないから。」
するとシャロンは痺れを切らして机を叩いた。
「結構!では私は今から本庁に出向いて、そこから課を指導します。本日づけで課長命令によりケインを第2小隊隊長の座を剥奪して隊を全て統合します。」
シャロンは荷物をまとめて部屋を出ようとした。
「ちょ、待ってよ。シャロンさん!そんなことしたって俺行かないんだから!」
シャロンは無視して扉を勢いよく閉めて部屋を出た。1人ぼっちになった隊長室にはダルマストーブの音しかなかった。しばらくして、ケインは電話をとってある番号にかけた。
「あ、シャロンさん?気が変わった。うん。俺行くよ。出動するからさ、戻ってきてよ。許してください。」
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