Defense 2 完結

パンチマン

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消えゆく存在と国家

39 愛国の代償

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 数日後


「じゃあ、お願いしますね。」

「全く、自分で渡せばいいじゃないか?」

「俺はもう行かなきゃいけないんです。お願いしますよ。」

「そもそも、お前どこから嗅ぎつけてきたんだ?」

「俺の所に通ってる現地州警の警察官がいましてね。その同僚経由で知ったんです。」

「全くお前ってやつは。」

「それじゃあお願いします。ケイン隊長。」




ケインは医者から諸々連絡や報告を受けて、リスト達が搬送された病院へやって来た。ケインはエレベーターに乗り込みリストたちのいる階に上がった。病室にはいると、リストはケインに気づいて上半身を起こした。

「調子はどうよ?」

ケインは聞きながら丸イスを出して座った。

「右腕はもう大丈夫です。情報はどうなりましたか?」

「大当たりだよ。」

「それは良かった。」

そしてケインは一呼吸置いて本題に入った。

「レイの事は聞いたか?」

「まだ何も聞いてません。それにブリュメールの事も。」

「そうか、じゃあ先にレイの事なんだが、彼女.....左目が盲目になったそうだ。右目は何とか見えるらしいが。あと、左腕も切断したらしい。」

リストは一瞬動揺したが、自ら落ち着かせようと何度か頷いて、言った。

「でも死ななくて良かったです。」

「ああ。あとブリュメールだが、彼も何とか一命は取り留めた。」

それを聞いてリストは大きく息を吐いた。

「安心しました。ありがとうございます。」

そしてケインはリストのベットに近づいて丸イスに座りなおして言った。

「それでだ、レイを今後どうするかで考えてたんだが、お前に介抱してもらいたいんだが、大丈夫か?」

「分かりました。任せてください。」

リストは少し笑って頷いた。ケインはリストが落ち着いたのを見て続けた。

「お前のことは色々と聞いたよ。大変だったな。」

「ええ、その件なんですが、もう警官から身を引こうと思うんです。」

「辞めるのか?」

「はい。」

リストに迷いは無さそうだった。ケインはそれを見て悟ったようだった。

「これからどうするんだ?」

「何も考えてないですね。運任せです。」

「そうか、まぁ困ったら頼ってくれよ。パイプだけはあるからな。」

リストは笑って頷いた。それからケインは思い出したかのように紙袋を取り出した。

「ええ、わざわざありがとうございます。」

それを見たリストは謙遜した。するとケインは笑いながらこう言った。

「いやこれは俺からじゃないんだ。」

「え?」

「アイツだ。アンディーからだよ。」

それを聞いたリストは意外な相手に少々驚いたようだった。

「アンディーらしいですね。」

リストは笑って言った。

「全く有り得んわな。戦時中の隊長をパシるなんてな。」

「ところでアイツ今何してるんだですか?」

「何だっけな、確か...戦時中の衛生隊が立ち上げた医療施設で働いてたんだっけか、まぁ忘れたわ。」

「意外ですね。」

ケインが、全くだ、とほざいていると携帯が鳴った。出てみると特警からで、忙しいから戻ってきてくれとの内容だった。それだけ言うと電話は終わり、ケインはポケットにしまった。

「ああ、俺はちょっと帰らなきゃいけないから、じゃあな。」

ケインがそういうとリストはお辞儀をした。ケインが病室を出ると、すぐにスーツ姿の男2人がケインを呼び止めた。

「失礼します。先程リスト巡査部長の病室から出られたようですが、どのような事で?」

ケインはとっさの質問に身構えた。

「先におたくらの名を明かしてもらおうか?」

するとスーツの男は胸ポケットから手帳を取り出してみせた。

「失礼しました。我々は警察庁監察部の者です。」

それを見たケインは力を抜いた。

「ああ、警察庁の方でしたか。私は保安庁の人間です。彼とは前からの付き合いでして、まあお見舞いってとこです。」

「分かりました。ありがとうございました。」

そう言うと監察官は病室に向かって行った。ケインはそのまま病院を出て、埋立地へと帰った。
 監察官たちはリストの病室に入ると、手帳を取り出しながらリストのすぐ横まで行った。

「警察庁監察部の者です。」

リストはそれだけ聞いて察した。退職勧告か。リストはちょうどいいやと思い、淡々と喋り続ける監察官を遮って淡白に言った。

「警察、辞めます。」

すると監察官は驚いたようだった。

「ま、待ってください。辞めるなんてもったいないです。」

だが意外にも男は残念がっているようだった。リストは鼻で笑って言った。

「退職させるよう指示を受けてきたんでしょう?」

「それは何とも言えませんが....」

「もう決めた事です。辞めます。」

リストの固まった思いを感じ取った監察官は持参した鞄から紙を取り出してリストの前のテーブルに置いた。監察官の言われるがままに淡々と記入していった。書き終えると、監察官は少し暗い声でリストに話しかけた。

「上からは辞めさせるよう言われてたんです。けど、私自身としてはあなたには辞めて欲しくないんです。」

「辞めて欲しくない?監察官が何を言うかと思えば。」

「ええ、滑稽な事でしょう。ですが上層部の決定で行われた辞職勧告は先月だけで10数人にも及ぶんです。それもほとんどがセグワ系職員なんです。こんな異常事態を止めたくて...」

「だったら尚更です。」

すると監察官は残念がりながら新たな紙を取り出して、またテーブルの上に置いた。

「そちらに書いてある通り、退院してから改めて警察署に出頭命令が出されます。そこで正式な手続きを行い、辞職したことが認められて退職金も支払われます。では、これにて失礼します。」

監察官は一礼して病室から出ようとした。するとリストは監察官を呼び止めた。

「1つだけ教えて下さい。ICICLEはどうなったんですか?」

「ああ、私が聞いた限りでは壊滅したそうですよ。なんでもICICLEの幹部員の一掃も出来たとも聞きました。」

「わかりました。ありがとうございます。」

監察官は病室を出ていった。

壊滅かぁ

どこか虚しさが感じられた。
 リストは三角巾で右腕を吊った状態で起き上がって病室を出た。向かいのすぐ目の前の病室。リストは数回ノックして中に入った。

「レイ。」

そこにはベットに横たわるレイがいた。だが左目には包帯がグルリと巻かれ、右目だけで、リストの方を見た。長袖の左腕はヒラヒラとエアコンの風にすら吹かれていた。

「あ....リストか。」

「もう大丈夫なのか?」

リストが椅子に座って言った。

「うん。もう大丈夫。それと助けてくれてありがとう。」

「いいや、俺こそ感謝しなきゃいけない。信じてくれてありがとうな。」

レイは穏やかに笑ってみせた。

「初めて分かった時はショックだった。けど、今思えば信じてて良かったと思ってるよ。」

リストはほんの少し笑みを浮かべて何回か頷いていた。しばらくして本題に入ろうとした。リストは少し悩んだが、真実を伝えようと思い話し始めた。

「あのな、ICICLEは壊滅したんだ。」

「え?」

「さっき聞いたんだ。それにイスビッシュ司令も多分やられてる。」

「そ、そんな。ブリュメールは?」

「彼は何とか生きてるよ。」

「そうなんだ.....でもみんなやられたんだよね.....」

そう言うとレイは少し起こしたベットにもたれて、天井の方を見上げた。そして彼女は下唇を噛み締め、目を閉じて喋り始めた。

「......もう、皆んなの顔どころか声すらも聞けないんだ.........ねぇ、何で?何で皆んなあんなにこの国のことを思って戦ってたのに......あんまりだよ.......」

レイは右手で強くシーツを握りしめて続けた。

「.........守れなかった。今こうして病院で治療を受けて......それで生きながらえているのに.....みんなは....!」

終始声を震わせていた。

「レイ.....」

リストは何も言えなかった。数分間沈黙が続いたのち、萎れた声でレイはリストに尋ねた。

「情報は....?」

「今ケイン隊長に任せてる。それにあっちにはロベスピエールもいるから大丈夫だよ。」

「良かった」

するとレイはリストの方を見て言った。

「リストはこれからどうするの?」

「俺はもう警察から身を引く事にしたんだ。」

「そうなんだ。」

「逆にレイはどうするんだ?」

レイはすぐに答えようとした。だが口ごもってリストの顔を見た後、悲しい顔をしてうつむいた。

「私は....私はどうしたら....」

落胆して抑うつ的にになるレイを見かねてリストは立ち上がって言った。

「お前、似てるんだよな。」

「似てるって誰に?」

「俺の戦時中の戦友。お前みたいなお人好しで、真面目で、まっすぐでいて、それで何かあるごとに、全く関係のない自分を責めて苦しむ。そっくりだよ。」

「でも.....」

「けどそいつは俺の事、頼ってくれた。」

そしてリストは言い続けた。

「レイ、君はセグワの平和を取り戻すために戦っていたんだろ?ここで終わりなのか?こんな所で終わっても良いのか?あれだけこの国の事を思って戦って来たお前が、簡単に諦めてどうするんだ?」

レイは右目を潤わせて立ち上がったリストを見つめた。リストはそのまま続けた。

「苦しいのはお前だけじゃない。それに個人だけで抱えきれるような問題じゃねぇ。だから生き残った者は、死んだ者のためにも生きていく他無いんだ。目が見えなかったら何だ、腕が無かったら何だ、そんなもん俺がお前の目にもなってやる。そんなもん俺がお前の左腕になってやる。」

「.....リスト」

「ここからが本当の戦いじゃないのか?果たせなかったICICLEの思いは、別の形になってでも果たすことは出来るんだ。だから諦めちゃダメだ。俺たちには与えられた責務がある。この島を取り返すためにも、まだくたばっちゃダメなんだ。」

それを聞いたレイは右目から大量の涙を流し始めた。
 そんな時リストの携帯が鳴った。電話に出てみるとケインだった。電話越しのケインはもったいぶるように溜めてこう言った。


『リスト....分隊復活だ。』



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