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消えゆく存在と国家
40 真の正義と偽りの平和
しおりを挟むある日の午後、ビンテージは特殊警備課の埋立地に訪れていた。ビンテージはケインを隊舎の裏手、だだっ広い海が広がっている所に呼び寄せた。
「今、情報を文書にまとめさせているよ。課員や事務員にやらせている。」
ケインがビンテージに言った。
「あんたは行かなくていいのか?」
「いいよ。彼らなら責任を持ってやってくれる。」
「シャロンにも同じ事は言えるのか?」
ビンテージは少し笑みを浮かべて言った。
「シャロンさんは明日本庁から帰ってくるよ。」
「あれからどうなんだ?」
「どうって、うーん。まぁここ最近えらく元気が無かったからな。」
ケインはそう言いながら、パイプ椅子を2つ置いて腰掛けた。ビンテージも同様にした。ビンテージは海を見渡しながらケインにこう言った。
「ケインさん。あんた一連の事件についてどう思う?」
「この島はマクロスに良いように利用されているだけだ。こりゃ後世までひこずられる問題になるな。」
するとビンテージは少し笑った。
「全く同感だ。そこでだケインさん。俺たち公務員、いや保安庁職員として、国防総省職員として、俺たちが守る平和ってのは何なんだろうな。」
「平和か...」
「あんたこの言葉を知ってるか?『勝てば官軍、負ければ賊軍』言ってしまえば、戦勝国のオーシア、つまりマクロスは官軍だ。反対にセグワや中央諸島国家、ICICLEは賊軍ってわけだ。前の戦争からもう5年。俺もあんたもあの戦争を経験して生きている。ならこの言葉の重みは常人よりいくらかは理解しているはずだ。」
「『勝てば官軍、負ければ賊軍』、それは今のこの島を見れば誰でも分かることだ。自らの財閥の利益を上げるために、この島の住民を用いて島内を混乱させ、それに乗じて武器を売りさばく。それに反対して蜂起するICICLE始め反政府勢力は力をもってねじ伏せられる。ここまで顕著に現れているんだからな。」
「歴史なんてものは戦争に勝った者が自ら描けるんだ。あの戦争だってオーシアやジェネッサの都合のいいように伝えられていき、そうしてそんな彼らが主導で平和が保たれていく。」
「それが戦争、世界史ってやつだ。」
そしてビンテージが一呼吸置いて言った。
「だがこの島の平和、正義とは一体なんだ?オーシアの経済を支える大財閥たちは、よその国の民族紛争や宗教戦争を利用して武器を売り、資金を集めて自国内に富をもたらす。そしてそれを享受して生活する。そしてそれが俺たちの平和の最たる部分だ。そしてICICLEのような、自分たちに武力、言論関わらず非を唱える者を正義の名の下で排除していく。それは俺たちの正義の最たる部分だ。世界にはこれに類似した事が蔓延しきっている。」
「そんなクソな平和や正義でも、逆に正義のため、平和のための戦争をするよりマシだ。」
「ケインさんがそれらを嫌う理由はよく分かるよ。露骨に平和正義を謳う連中ほどろくな奴はいないし、その口車に乗せられて使い捨てられる人間で社会は溢れかえっているからな。連中は真実を知ろうとしないんだ。本当の平和が何なのか、本当の正義が何なのか。それは間違いなく恐ろしいエゴの塊で、それを知ってしまえば本当の平和正義が分からなくなってしまうからな。」
「平和ねぇ。」
「そうさ、だから民衆は盲目的な平和を唱えるんだよ。理想論ってやつだ。建前は立派な平和主義、そしてまともな知識もないのに平和主義を豪語する連中。そしてそれに感化される民衆。気がつく頃にはもう遅い。理想の平和と現実の平和とのギャップに耐えられず、結局また目をつむる。そしてその反動でまた虚空の平和啓発が行われる。結局すがりたいだけなんだ。」
するとビンテージは不敵な笑みを浮かべて続けた。
「平和主義を掲げておきながら、裏では誰かが死に、悲しみ、それすらも理解しようともせず、自分達だけの平和を主張して生きて行く。なんとも身勝手な平和主義だ。だがそんな事を続けて行ればやがてツケが回って来るだろう。」
「ツケ?誰がやるんだ?運任せか?」
「運なんてものは実は簡単に動くもんさ。仮に俺が今ピストルを取り出してあんたを撃ち殺したとしても、それも運命だ。運命なんて偶然神様が運んでくるもんなんかじゃない。人が運んで来るもんなんだ。」
「さらに、それからも目を背けて知ろうとしない。って事か。」
「平和や正義ってのはかなり抽象的だ。だがなこれだけは確実に言える。行き過ぎた正義は悪となり、行き過ぎた平和はいずれ音を立てて崩れ去る。マクロスがやっている事は正にそれだ。」
それを聞いたケインが眉を細めてもたれかかって言った。
「今日に至るまでに死んでいった旧セグワ軍兵士、ICICLE隊員や、片目片腕を失ったレイ、彼らもまた全体的に見ればマクロスの利益養分にしか値しなかったわけだ。だがこの事は世界はおろか、この島の住民すら知りはしないだろう。そうして今後ともずっと永遠に歴史の闇に埋もれていくに決まってるんだ。」
大海の波打つ音が響いた。するとビンテージは立ち上がって言い放った。
「正義や平和が権力者たちの嘘つきになってどれくらい経ったんだろうな。」
ケインは何も言わずにいて、ただ大海を見渡していた。しばらくするとビンテージが、ふと思い出したかのように一枚の航空写真を取り出した。それをケインに渡して言った。
「旧セグワ領の最北端の島だ。」
するとケインは反応して言った。
「.....ノーザンライト州がどうかしたの?」
「アルフォンスが教えてくれた事だ。あそこにイーベルがいるらしい。」
「イーベルが?」
「ああ、ICICLEの本拠点が襲撃され、幹部員らが追撃で命を落としていく中、なんとか生き残って行き着いたらしい。」
「そのアルフォンスからの情報なら、急いだ方が良いんじゃないのか?内偵を進めていた組織はマクロスだったんだろ?」
「ああ。」
それを聞くとケインは立ち上がってタバコを取り出し、吸い始めた。
「吸う?」
ケインはタバコの箱をビンテージに差し向けて聞いた。
「禁煙してるんでな。若い頃はよく吸ってたよ。」
ケインは頷きながら箱を胸ポケットにしまった。一息吸って吐き出して、言った。
「すぐに情報を世界に公表してしまったらイーベルさん出頭してくるかな。」
「そうなるのがベストなんだろうが、俺はあくまでも仕事でここに来ている。せめてイーベルだけは確保させてもらうぞ。奴には聞きたいことが山ほどある。」
それを聞いたケインは笑って言った。
「やっぱりね。そんなつもりだと思ってたよ。」
「なんだ見越してたのか。で、どうするんだ?また越権出動するのか?」
「いやこれ以上部下達に責任は負わせないよ。背負うのは俺だけで充分さ。」
「だが公表するには俺やあんたはノーザンライト州には行けないぞ?」
「それは知ってるよ。だから既に戦時中の部下だった奴らに声を掛けてる。それにノーザンライト州の警察特殊部隊の力も借りれば大丈夫さ。なにせあそこは戒厳令の範囲外、つまり警察が機能しているところだしな。それにあそこの警備部長とは親交もあるから。」
「それで事足りるのか?」
「そこは信じるしかないよ。けどやらなきゃいつまでたっても、混乱が生まれるだけだ。それに、この島がオーシアの小汚い政治家の手中にあるままで老いて死にたくないしね。」
ビンテージが鼻で笑った。
「分かったよ。ケインさん、あんたを信じよう。」
「ああ、この混乱もそろそろ終止符を打たなきゃな。」
そう言って立ち上がり大海を見渡していた。
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