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消えゆく存在と国家
29 戒厳下の密会
しおりを挟む次の日には、昨日まではなかった異常な光景がそこにはあった。通りに止められた装甲車。駅前で立っている迷彩戦闘服をきた兵士。巡回パトロールする軍用車両に上空を飛ぶミニガンを搭載した輸送ヘリ、報道陣が異様な光景に食いつき興奮気味で伝えていた。その日の新聞も大々的に取り上げていた。ある文面に、戦時中を思い起こさせる、と書かれている。全くその通りだろう。実弾の込められたライフルを持つ兵士たちが日常の至る所にいるのだから。朝通勤ラッシュで忙しそうに駅から出てくる人は兵士の鋭い眼差しを受け、昼、ランチがてら入ったレストランの外に戦車が地面を揺らしながら走行して行っている。
その日の報道番組はこの事でもちきりだった。その日特に何もする事なく、いや何も出来ずに時間だけが過ぎ去って行った。
「ケインさん。自宅に帰らせて。」
隊長室でだるまストーブに当たっていたケインにシャロンは言った。ケインは少し驚いた顔をしていた。
「珍しいね。俺がそんな事言ったらいっつも怒ってたのに。」
「今日は特別なの。」
ケインは何かを察した。
「分かったよ。いまから帰るの。」
「ええ。」
ケインは承諾した。シャロンはジャンパーを着て外に出て埋立地から出て行った。隊長室から見送ったケインは携帯を取り出して、ある番号にかけようとした。するとそれより先に携帯がなった。その相手は今から電話をかけようとした相手だった。
『あ、ビンテージさん?ちょうど俺も今掛けようと思ってたんだよ。』
『そいつは奇遇だな。あんたから掛けてくるなんて、一体なんだ?』
『いや、シャロンさんが様子変だからさ。それにシャロンさん、裏でちょっと色々あるじゃん?』
『ああ、あんたも知ってたのか、その件でだよ。』
『なんだ、ビンテージさんも知ってたのか。』
『まあな、お陰で手間が省けたよ。前置きは必要ないな。今日シャロンは俺たちがかねてより探していたイーベルと密会する事が分かった。俺の公安の友人からの情報だ。そこで取り押さえるつもりだ。何時に密会をするかは分からないが、場所はあらかた絞られている。あんたにも協力してもらいたい。20時に合流だ。』
『分かったよ。』
ケインはそう言って電話を切った。保安庁のワッペンのついたジャンパーを着て椅子に座った。
それから数時間後
ケインはビンテージに指定された場所へと向かい、車から降りた。なにやら海辺のプレハブ小屋に入るよう言われて、扉を開けて入ってみた。
「来たな。」
そこにはビンテージと彼の部下と思われる男は数人座っていた。壁にはM16が立て掛けられている。それを見てケインは言った。
「撃つの?」
「イーベルだけには当たらないようにしてやるさ。」
足を組んで座っている男がケインに向かって言った。ケインは無視して椅子に座った。ビンテージもスルーを決め込んでいる。
「なんだよ。公安調査庁の俺はお荷物か?」
アルフォンスもビンテージに呼ばれていた。
「密会のタイミングを見計らって突入する。簡単な事だ。それと、基本的に銃は使うな。不要な混乱を招いては、また面倒な事になりかねない。」
皆了解した。
「今部下の偵察隊が見回っている。動きがあれば無線で入ってくるからその時まで待機だ。」
そこからずっと待機していた。外は雪が降り出していて、相当冷え込んでいた。
その頃シャロンはケイン達が待機するプレハブ小屋とは少し離れた港の方に来ていた。車から降りてしばらく歩いていると、港にニット帽を被った男がシャロンの方を見つめていた。シャロンは気がついて男に近づいた。男はシャロンを小さな漁船に乗せて出発して、狭い水路を奥に奥に進み始めた。
『ビンテージ。動きをとらえた。けど、プレハブから遠いぞ、第2号埋立地に隣接する鉄道用高架下の水路を内陸方面に進んで行ったぞ。』
無線が入ってすぐに外に出た。しかし、車で行くには遠回りしないといけない。するとビンテージが無線機で連絡して、しばらくするとゴムボートが二隻接岸した。
「乗れ。逃げれられるぞ。」
運転手が急かした。一同はすぐに乗り込んで急発進した。
「おい、まっすぐ行くのか?寒すぎるぜ」
アルフォンスが吐き捨てた。
シャロンを乗せた漁船は背の低い橋をくぐり、また一つくぐって狭い水路の真ん中に停められた船が見えた。船首には人らしきシルエットがある。するとその船の前でとまった。
「イーベル.....」
「久しぶりだな。いつ以来だ?」
イーベルは後ろにいたICICLE隊員に聞いた。治安取締り活動前の会合以来です。と答えた。
「シャロン。早くこの島から去れ。上に伝えろ。お前たちマクロスとは、お前達の利益を上げる機会を作るのと引き換えに、独立を政府に進言するという内容で契約したんだぞ、だから俺たちはあの治安活動も黙認した。はやく伝えろ。」
「やってます....伝えているんです。」
「そうか。マクロスはこれからこの島をどうするつもりだ?こんな戒厳令を引かす事も奴らの計画に入っていたのか?」
「これからの予定は分かりません。この戒厳令は想定外でしょう。」
「お前の財閥の総帥はこの島から引く気は無いんだな?」
「分かりません。」
「なんで分からないんだよ。交わした事を守ってないじゃないか。」
イーベルの後ろにいたICICLE隊員が言って、ピストルをホルスターから抜いた。
「待て。」
イーベルが諫めた。
その時奥の方からモーター音が聞こえ始めてきた。波も伝わって船が少し揺れ始めた。
「ここまでか。」
イーベルを乗せた船は方向転換して、内陸の方へと船首を向けた。イーベルは最後部に立ってシャロンの方を黙って見つめていた。そうして逃げるために勢いよく発進した。シャロンは、逃げて行こうとするイーベルに向けて隠し持っていたP226を出して構えた。
「止まりなさい!」
声が水路内に響いた。ビンテージらがその場に到着した。彼の部下がM16を逃げ行くイーベルに向かって構えた。
「やめろ。重要参考人だ。」
ビンテージが止めて銃を降ろさせた。
「どう言うことか教えてもらおうか?」
アルフォンスがシャロンの船に飛び乗った。
「やめろ。」
ケインがアルフォンスを下がらせて船に乗ってシャロンの方へ行った。アルフォンスは不服そうな顔をして、ビンテージのとなりに戻った。
「バカはバカだけで慰め合わせるのが1番か?俺は帰るよ。せっかく大物を期待したのにな。」
アルフォンスは付近に止めてあった他人の漁船に飛び乗って、陸に上がった。
「ケインさん。ごめんなさい。」
シャロンがケインに謝った。だがケインは何も答えず、ゴムボートに乗せた。ビンテージは展開した部下をゴムボートに乗せて、元のプレハブに戻って行った。
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