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消えゆく存在と国家
34 情報の在りか
しおりを挟む武器商人ことロベスピエールは拘束された日から独房にぶち込まれていた。以前ICICLEが襲撃した際に回収した情報は実は欺くための虚偽なもので、本当は暗証番号と共に存在する事が判明したのだ。
「もっと過激な拷問をすれば楽に吐くのにな。」
見張り担当の隊員はロベスピエールに聞こえるように言ってみせた。事実過度な拷問はされておらず、あざ1つ出来てないほどだった。ロベスピエールは眼鏡を外して窓から差し込んでくる日をみつめる。
今日で何日目だろうか。私を拘束してもさほど得なことは無いのに。彼らがもう少し早く見つけ出せば変わっていたかもしれない。
ロベスピエールはそう思っていた。すると1人の隊員がやってきて独房の鍵を開けた。「来い」そう言ってロベスピエールを連れ出して取り調べ用の部屋に入れられ座らされた。ICICLEの諜報隊員が部屋に入ってきた。それをみたロベスピエールは面倒くさそうな表情をした。
また何時間も査問されるのか
あの日からリストとレイはめっきり会話をしなくなっていたが、レイは誰にも言わずにいた。リストは思い出す。まだまともに捜査本部と連絡していた時の事を。捜査の一環でレイの心情を聞き出した時、その内情は治安を守る警察組織より健全で汚れのない粋な正義心があった。何が潜入捜査だ。リストは少し後ろめたい気持ちになって屋外に置かれた椅子に腰掛けた。そんな時、拠点内放送がなった。
「レイ、リスト第3室に向かえ。」
リストは立ち上がって向かい始めた。いつもならレイが一緒に行こうと声を掛けて来たのだろうに。今回は着くまで1人だった。部屋に入ってみるとレイは既に到着していた。室内ではロベスピエールが暗い顔をして話していた。
「スカイラインは元々この島の独立を保障する立場だった。だが君たちが私を拘束したあの日に事は変わった。スカイラインはオーシア側に回ってしまった。本当の情報が詰まった記憶媒体と、その暗証番号は以前から話していた通り、ロレーヌ州内の西部、ウェールズ地方に部下が持って行ったんだ。私が手渡した。だがその情報もスカイラインに手渡ってしまえば、潰えてしまうだろう。」
ロベスピエールは暗い顔をして続けた。
「情報の中身はオーシアを撤退させる、いや、オーシアの裏にいるマクロス財閥という組織に大打撃を与える事が出来るものだ。だがそれ故にこれ以上事を混乱させたくないスカイライン政府も私を追いかけ回していた。しかしここまで来るとその必要性も無さそうだ。部下に連絡が出来れば暗証番号と情報の行方が分かるのだが、あれから何日も経ったのだから不確定要素は増えてしまったな。私は保身ためにマクロスという巨大権力を利用しようとした。戦後すぐにマクロスに取り込んでもらい、財閥の指示で武器を色々な組織に売りさばいた。この島は絶好の売り場だった。けどその情報を覗いた時後悔したよ。私だって悪魔じゃない、襲撃して来た君たちがICICLEだと分かっていたらすぐに受け渡したさ。」
その後も諜報員とのやりくりを2人は側から見ていた。すると急に慌てた様子でイスビッシュが、数人の部下を連れて部屋に入って来た。イスビッシュは勢いよくドアを開けるなり、ロベスピエールが羽織る上着の内側に手を突っ込み、中から小物ケースを取り出した。手荒に中を探って黒い物体を出し、そして室内にいる人間に向かって張り詰めた声で言った。
「先程活動中の諜報員から連絡が入った。コイツがGPSとなってやがったんだ。スカイライン政府はこの事をオーシアに垂れ込み、展開中の軍隊をここに向かわせている。すぐに撤退するぞ。」
イスビッシュは部下に、他の者にも知らせるよう隊舎内に向かわせた。それを知ったロベスピエールは室内の人間を見渡して言った。
「逃げるなら早くした方がいい。君たちはオーシアやマクロスから見ればもはやガン細胞だ。最近まで、マクロスは自分たちの利益を上げるために君たちを利用していた。けど、もう用済みとなったんだろう。あとは消すだけだ。」
緊張が走った。だがレイは違った。
重い空気が溜まった室内で、レイはロベスピエールに近づいてこう言った。
「あなたはそれでいいの?」
ロベスピエールは困惑した顔をしていたが、レイは真剣な眼差しだった。
「このままオーシアやマクロスに利用されたままで終わって事が過ぎていくのを見つめるだけなの?オーシアのため?スカイラインのため?財閥のため?ふざけないで!たかが一国の国益のため、たかが一財閥の利益のために私たちの島は奪われたのよ?あなたの故郷はスカイライン、けど私たちは今国を失っている。先祖たちが築き上げてきた歴史や文化、伝統は今全て失われてしまっているのよ!それにこの島に元から暮らす人はどんな思いで生きているか、あなたには分からないの?」
レイは感情をあらわにして訴えた。その直後警報が鳴り渡り、建物内が揺れた。そんな中レイはリストの顔を見た。これが私の思いだ。そう言わんばかりの顔つきだった。
「攻撃を受けてます!撤退を!主力軍が来る前に撤退して下さい!」
隊員が放送して避難を促した。
「あなたはこの島の運命を握っているも同然、この島を、この島を救ってください。」
レイはロベスピエールになお訴えかけた。それを受けたロベスピエールは立ち上がって、イスビッシュの方に向き直した。
建物に次々と軍隊の放ったロケット弾が命中し、展開していたオーシア本軍はICICLE本拠点の目の前まで迫ってきていて、銃撃戦になっていた。その中でイスビッシュは無線機を取って各隊につなげた。
<全隊聞こえているか、総帥を始め、将校はすぐさま撤退を開始せよ。他の部隊は全力で時間を稼ぎ、撤退せよ。>
ICICLEの将校級隊員はすぐに避難を開始した。実働隊員は表に出て、オーシア歩兵と戦闘を開始した。
「レイ、リスト!ロベスピエールを頼んだぞ。そして倉庫にブリュメールがいる。あいつが目的地まで連れて行ってくれるだろう。」
イスビッシュは退却間近、後ろにいた2人とロベスピエールに向かって言った。
「時間がない、急ごう!」
ロベスピエールは2人に向かって言った。リストは返事をして駆け出そうとしたが、すぐに立ち止まったままのレイに気づいた。
「レイ.....」
するとレイはリストをじっと見つめた。何か言おうとしている様子だったが彼女は不意に駆け出した。そしてリストとすれ違いざま言った。
「私は、信じるから。」
リストも遅れをとらまいとすぐに後を追って駆け出す。3人は銃撃戦の真っ只中を駆け抜けて、倉庫にたどり着いた。倉庫内のセダンにはICICLE隊員のブリュメールが待機していた。ブリュメールは3人を見つけて手を上げた。
「こっちだ!急げ!」
運転席にブリュメールが乗ってエンジンを掛けた。後部座席にロベスピエールとレイが乗り、リストは倉庫のシャッターを開けるボタン装置の前にいた。リストはブリュメールの方を見る。
「行くぞ?」
リストがブリュメールを見て言った。ブリュメールは頷く。リストは勢いよくボタンを押して、セダンの助手席に乗り込んだ。シャッターが開くとうつ伏せになって射撃するオーシア軍兵が目の前に現れた。彼はセダンに気づき銃を構えた。リストは反射的にピストルを構えてフロントガラス越しに連発した。数発命中して、兵士は雪上に倒れた。
セダンは急発進して、兵士を交わして雪を撒き散らしながら目的地のロレーヌ西方を目指して進んだ。異変に気づいたオーシア兵たちがセダンに向けて銃撃し始めた。鈍い金属音を鳴らしながらもブリュメールは巧みなハンドルさばきで本拠点から抜け出した。
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