俺の主人公補正の99%が幼馴染なので、世間からはテロリスト扱いです。

火祓聖究

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第1章

『こころやさしい村娘』は結構ロクな目にあわない

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「……うん。はは、有言実行。蹴散らせましたね、お見事です」

「ぜぇ……ぜぇ……い、イヤミな妖精だ…………くそったれぃ……!」

 小川の畔は、夜山らしい静けさを取り戻していた。

 あ、いや違う。正確には穏やかな水のせせらぎに、男のクッソ荒い呼吸音が混じっている。つーか、男ってのは俺のことなんだけど。

「カムイ……だいじょうぶ?」

「大丈夫なモンかっ。お前、こんな満身創痍なの……高校ん時のバスケ部以来だぜ? バカバカしくなって二日で辞めてやったけどな!」

「こうこう? ばすけ?」

「あぁ、いや……ともかく、メッチャ疲れたってことだよ!」

 ナイトハウンドの群れは、全滅していた。結局のところ、俺がやっつけたのは全部で七体。ほかにも自警団の皆が撃退したのが数体。おおよそ十体程度の規模だったようだ。

 俺の残りHPは『65』。MPは『1』。もう一歩攻め込まれていたら危険だった。っていうか、途中でレベル上がってなけりゃかなり際どかったぞ。


 レベル:6
 最大HP:100
 最大MP:30
 攻撃力:10
 防御力:11
 素早さ:11
 精神力:10
 運:8


 これが俺の現在のステータスだ。いやはや、この『素早さ』と『防御力』上昇にどれだけ救われたことか。お陰で最終的には、ナイトハウンドの攻撃をかなりの割合で避けられるようになっていたし、ダメージも軽くなっていた。

 とは言うものの、このステータス強化の鈍さはなんなんだよ。レベル上昇の恩恵が防御力と素早さ+1ポイントだけとは……雀の涙に猫の額とウサギ小屋がこぞって土下座するレベルだぞ。っつーか『運』に至っては2ポイントも下がってるじゃねーか!? 平均してプラマイゼロじゃねーかよ!

 ひょっとしてアレか? 己の行動によって成長値が変動するタイプか? 無駄にリアルな仕様にしてんじゃねーよ! リアルに寄せ過ぎるとユーザー離れるって知ってんのか!?

 勝利の美酒にも酔いしれず、ひたすら奥歯をギリギリする俺。

 そんな俺の汗ばんだ頬に、そっと触れる温かいもの。

「――おつかれさま、カムイ」

 それは、ナトゥーラの手だった。

「あんまし格好良くはなかったけど……。でもちゃーんと約束は守ってくれたし、今日はトクベツに褒めてあげる」

 にひひ。と悪戯っぽく微笑むナトゥーラ。その疲れたチュニックの胸元には、ピンク色に光輝く大きな『妖精の花』があった。

「…………お前、いつの間に」

「みんな狼騒ぎで大慌てだったから。隙だらけ……っていうの?」

「はー、たくましい奴だな」

「しっかりしてる、と言って欲しいですぅ。……どう? かわいい?」

 くるんと回って見せるナトゥーラ。キラキラとした夜の花畑で、妖精の花が残像を描くかのように一際大きく輝く。それはもう、思わず胸が高鳴ってしまうくらいに幻想的な姿だった。

「ぅ、ぐぬっ」

「ほらほらカムイ、素直になっちゃえって」

「…………まぁ、いいんじゃね」

「じゃなくて! 可愛いか、可愛くないか! ちゃんと!」

「…………………………ゎぃぃ……です」

 くす。と、どこかでどっかの妖精かなにかがハナで笑う音がした。

「やったぁ! これで今年の優勝はもらったね! ぃぇいっ!」

 満面の笑みでブイサインを繰り出すナトゥーラ。その姿はいやに明るくて、俺は皮肉の一つも言い返すことが出来なかった。

 そんなこんなで皆の呼吸が整うのを待った後。俺達は通り魔騒ぎがあった後の小学校よろしく、集団で村へと戻ることになった。村の女連中はともかく、自警団の面々は事の異常さをひしひしと感じ取っているようだった。

 普段見ないような獣。目が四つもあり、それが赤く光る獣。さらには倒してもその場で消失し死体の残らない獣の出現。それを『魔物』と呼ばないまでも、何かおかしな事が起こっているのではないか。そんな不安が彼等をより緊張させていた。

『……で、実際どうなのよ? まだ襲ってくんのか? あの魔物どもは。もう一回エンカウントしやがったらシャレになんねぇぞ』

 俺は何故か上機嫌なナトゥーラを横目にしながら、頭の上に乗るピリカへと問う。今はMP残量が少なく、HP回復は使えない。さっきのをまたやれといっても、それはもう無理な話だった。

『まぁここでは襲って来ない……んじゃないでしょうか』

『なんだよ、ハッキリしねぇなぁオイ』

 しかし、今はその曖昧な見解を信じるしかない。……というよりは寧ろ信じなきゃやってられないというのが正直なところだ。

『ともかく、ここまではまだ私が知っている通りに進んでいますね。違うのは、貴方が主人公補正を得ていない点だけです』

『……まだ言うか』

『事実ですから』

 とはいえここまでピリカの知っている通りだとすると、その先を知りたくなってしまうのが人情というものだ。

『で、この後はどうなるのよ?』

『……その通りになるとは限りませんよ?』

『そりゃ分かってるっつーの。でも一応予定通り来てるってんだったら、心構えってモンがあったって良いだろうに。死なれたら困るんだろ? 俺に』

『むむ。貴方にしてはまともな意見じゃないですか』

 この野郎。人を常時マト外れ人間みたいに言いやがって。常時一発必中だぜ? こちとら。伊達に二十余年もの間、女子から避けられ続けてきてねぇってぇの。

『この先、起こることはですね……』

 しかし、途中で口籠ってしまう。

『――いえ。でもその通りになるとは』

『ぁんだよ勿体ぶりやがって。チューボーのラブレターじゃねぇんだぞ? テメーがクセー下駄箱の前で勝手に悶えてた所為で人生台無しとかゴメンだね俺は』

 ツンと唇を尖らせるものの、ピリカはすぐには反応しない。貴方の人生はもう結構台無しじゃないですか。とか言われる心の準備してたんだけど。

『……聞いたら、後悔するかもしれませんよ?』

『しつけぇなぁ。既にこれ以上ねぇくらい後悔してる俺に限って、そんなことはないと断言するね』

『確かにそうですね。じゃなきゃあんなものに応募なんてしませんものね』

『そんな、鼻つまむような場所で受付嬢やってたヤツだけには言われたくねぇ』

『……ま、冗談はさて置いて。私が一人手を拱いていたところで、結果が良くなることはありませんね。悔しいですが貴方の言う通りです、この場合は』

 ちらり。と、横目でナトゥーラを見遣るピリカ。そして数秒。いや十秒程の沈黙の後に。

『この後、彼女に深刻な事態が訪れます。より分かりやすく言うと――』

 ――――――死にます。ナトゥーラさんは。

「え」

「……どうしたのカムイ?」

 ずい、とナトゥーラはこちらの顔を覗きこむ。

「あ、いや。別に……」

「ふぅん……へんなのー」

 死ぬ。この娘が、ナトゥーラが……死ぬ!?

 いくら何でも、流石にそれは想定外でした。…………あぁもうクソッ、聞かなきゃ良かった。



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