俺の主人公補正の99%が幼馴染なので、世間からはテロリスト扱いです。

火祓聖究

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第1章

みんなそれができれば、せかいはへいわ

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 ずいと矢面に立つナトゥーラ。

 そこに襲いかかる漆黒の影と、闇に滲む赤い光。

「むんっ!」

 腰を落とし身構えるも、しかしそこには緊張感も何もない。どこからどう見ても素人然としか映らない格好。

 ただ、それでも身体能力は極上の筈。さっきだって、彼女は小指を軽くピンとしただけでこの俺に結構なダメージを与えてみせた。ナイトハウンドなんて敵じゃない。

「むうっ……うむむっ……!」

 敵じゃないに決まっている……んですけど。

「むっ、やっぱゴメン無理ぃっ!?」

 突如。ナトゥーラは身を翻し、ナイトハウンドの群れの突進を軽やかに回避して見せた。

「テメー避けてんじゃねーッ! 攻撃すんだよ、攻撃ィ!」

「だあってぇ、目とか赤いしぃ~っ」

「いつもアホみてーにトッピングしてる木イチゴと変わんねーだろうが!」

「ぜんぜんちがうっ! ちょー怖いんですけどォ!?」

 ――あ、そうだった。

 そこで俺は、ようやく気付くのだった。

 この子、フツーの子じゃん……って。

 今までクーザ村からロクに出たことのない、ちょっと意地っ張りな……ただの田舎の女の子。そりゃ超絶スーパーパワー持ってた所で、いきなり自在に使いこなすとか無理じゃん。

 言ってみれば、そう。ある日突然『何されても絶対死なねーから、ヤ○ザの事務所にドス一本でカチコミしてこい』って言われても、『そんならやってやっか』とやる気満々で向かえないのと同じこと。だって、ヤク○ちょー怖ぇーもん。目が赤かったりしたら、余計に。

 うひー。なんて言いながらも見事に逃げ惑うナトゥーラを眺めながら、俺はそんな事を思う。ナイトハウンド数体の攻撃から余裕で回避決めまくっていること自体、その特異さを十分に表している気がしなくもないのだけれども、今の彼女にそれを言ったところですぐに理解はしてくれないだろう。

 そしてナトゥーラを攻撃対象としなかったナイトハウンド二体は、唸り声を上げながらこちらへとにじり寄って来る。どうやら殊勝なことに俺に狙いを定め直したようだった。

 これって、要するにどういうことかと言うと。

「……詰んだな、これ。へへっ」

 満天の星空を仰ぎながら、思わず乾いた笑いが口を突く。

 せめて最期に見る景色くらい、美しくあっても良いじゃないか。

「……あのぅ。もう早いトコこの戦闘終わらせません?」

「あぁん?」

 ここで声を挟むは、水差し妖精さんことピリカであった。

 きゅるるん。と翅をはためかせながら、俺の頭に乗る。っつーかテメェ勝手に人の頭に乗るんじゃねぇ。そこは将来、モデルでハーフの妻から産まれた俺の愛娘が予約してるんだよ。

『うーん。貴方のしょうらいが最終的にどうなろうと、ぶっちゃけ私にはあんまし関係ないんですけど……でも、流石に今死なれると困るんですよね。せめて中間報告地点までは生きていて頂かないと、管理担当者である私にペナルティが』

『……中韓某国? なんじゃそらキナ臭ぇ。まぁなんでもいいけどさ、アンタ俺のHP知ってる? あとツーポイントよ? バスケだったら一発ネット揺らしただけで即試合終了よ? そうなったら諦める暇もクソも無いんですけど』

『いや、だから回復スキルあるじゃないですか。勿体ぶってないでさっさと使って下さいよ。こんなんなるまで使わないとか、ドMなんですか?』

「――ふぁっ!?」

 素で、変な声が出た。

 そうだよ俺、回復スキル持ってたんじゃん。確か『ヒールライト』っていうの。

『え。まさか今まで忘れてたんですか? どんだけRPGヘタクソなんですか』

「チッ、こうなっちゃ仕方ねぇ……ヒールライトゥ!」

『あ、誤魔化しましたね』

 咄嗟にポーズが思い付かなかったので、『ディテクト』の時と同じ……ちょっと恥ずかしいポーズ。

 それでも本人の気合必死さが大事だという言葉通り、ヒールライトは無事に発動する。

「おぉ……これはっ」

 身体が暖かな光に包まれ、身体に刻まれた傷や痛みが引いてゆく。頭にけたたましく響いていたアラート音も消えて静かになる。

 ここでステータスを確認すると、HPは『47』まで回復。逆にMPは減少し『16』になっていた。先に使用していたディテクト分の消費MPを考慮するに、ヒールライトにはMPを『5』消費するスキルのようだ。

「よ、よし……だがまだだ、追いヒールライト!」

 もう一度、恥ずかしいポーズ……もとい、ヒールライト。すると今度はHPが『89』まで回復した。どうやらこのスキル、HPを40ちょっとは回復してくれるらしい。

『……でも、これで残りMPは11ですか。回復もあと二回しか使えませんね』

『二回……か』 

 ヒールライト二回で回復出来る分を『80』だと考えると、今のHPと合わせて耐久限界となるHPはおおよそ『170』となる。ナイトハウンドの攻撃で受けるダメージが今までの経験上『6』前後だという計算をやると、攻撃を受けられる回数は『28回』程度となる。

『え、楽勝じゃね? そんだけ喰らえるんなら』

『……はぁ、本当に短絡的ですね。いいですか、敵は全部で5体は居るんですよ? その全ての攻撃が回避できずにヒットしたと考えてみてください』

 つまり、『28』をさらに『5』で割ると……。

『え。ちょっと待てよ……それだと六回も耐えらんねーじゃねーかよ!? 何だよコレ、理不尽か!? 数字のマジックか!?』

『そんな大したもんじゃないですって。言ってみれば、理不尽の逆ですね。理路整然とした計算です。貴方、ちゃんと脳味噌入ってるんですか?』

『くっそ、テメェ……しれっとそこまで言うからには、何か勝てる見込みがあるんだろうなぁ? おぉ? 俺より頭良いんだろコラ』

『それが人にモノを頼む態度……』

『――あれぇ!? でもピリカちゃんは、何だっけ? 重患投獄? まで俺に生きていて欲しいんでしょお? だったらもう協力しかできないよねぇ?』

「こっ、この男はッ」

 思わず実声が漏れてしまうピリカさん。へへ、してやったぜ。

『やっぱりこの人に生きている価値なんてもはや……』

『決して損はさせません。必ずお役に立ってみましょう』

 びしっと親指を立て、俺は誠心誠意をアピールするのだった。

『ちょ、調子いいですね……ほんと…………』

 まぁともかく。と、ピリカは溜息と共に吐き捨てる。

『別に難しいことじゃないです。今装備してるブロンズアックスを手放して戦えばいいだけの話です』

『は、それだけ?』

『はい、それだけです。武器の装備で素早さが下がっているので、それを解消すれば命中・回避ともに向上が見込めます。もちろん攻撃力は下がってしまいますが、その分向こうの防御力も低下している今ならさほど問題にはならないでしょう』

『お、おぉう……』

 確かに、理屈は通っている。っていうか、装備外せたのか……。その発想がまず無かった。

 いやしかし、仮にブロンズアックスを外したとしても、上がるのは素早さ2ポイントのみ。その『2』という数字がどれほど劇的な変化を与えるのか、分かったもんじゃない。

『そりゃ分かりませんよ。でも5回全部ヒットしていた攻撃のうち、二回は回避できると考えてみてください』

 つまり『28』を『3』で割ると……。

『うお、九回っ!? 回復具合によっちゃ十回耐えられんじゃねぇか!? な、なんかすっげえやれる気がしてきた……!』

「……単純」

「あぁ!? 何か言ったか!?」

「言ってません。――来ますよ」

 体当たりを仕掛けてきたナイトハウンドは、二体。見える動きは先程とそう違わない。

 ――が。

 ブロンズアックスを投げ捨てた俺は、その瞬間から身体の軽さを実感していた。そして身を捩りナイトハウンド一体の突進を寸での所で回避すると、そのままナイトハウンドの腹部目がけて右の拳を叩き込んだ。

 どりゅっ……!

 右手を伝わる、生温かな肉感。飛び出す『10』というダメージ表記。苦しそうな魔獣の叫びが耳を劈き、そして離れて行く。

「――ッし!」

 しかし油断を挟む間もなく、すぐさま二体目を警戒する。すると体良く、真正面に飛び込んでくるナイトハウンドの姿があった。俺は……いや、それは『カムイの身体』が反応したと言って良いだろう。

 飛び込んでくる身体に合わせる形で、今度は左の肘鉄を突き刺す。与えたダメージは『13』。さっきの一体も合わせて、仕留めきれてはいない。

「油断しないで! やっぱり攻撃力が落ちています!」

「みたいだな!」

 ピリカの言う通り、ブロンズアックスを装備した時と同じく一撃必殺という風には行かないようだ。

 けれども、もう俺に不安は無い。避けられる。反撃も出来るし、何より攻撃が当たる。たった一度の攻防とはいえ、ノーダメージでやり過ごせたという事実が俺に確固たる自信を築かせていた。

「悪ィが今度こそ―――――」



 ――――蹴散らしてくれる!




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