ゲームのげぇむ

片桐百々人

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始まり

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「…マサ?」
 ぼんやりとした声がイヤホンから届く。どうやら、さっきまで寝息をたてていた通話相手は目を覚ましたらしい。…おかしい。
 先に寝付いていた通話相手…ユミは、普段はすぅーすぅーと気持ち良さそうに寝息をたてている。不眠症だった俺が何度それに誘われて一緒に寝たかは数え切れない。そして、ユミは1度寝ると滅多に起きない。朝になっても起きないことが多く、起こすのが大変なぐらいだ。そのユミが夜中に目を覚ましたことに眉を顰める。
 俺はユミにどうした?と声をかけた。ユミは眠そうに言った。
「ここ…どこ?」
 おそらく、ユミは寝惚けてるのだろう。完全に目覚めたわけではないようだ。俺は安心して少し笑った。
「自分の部屋だろ?ほら、まだ夜中だから寝てな?」
 うん、とか細く返事が返ってくる。やがて、すぅーすぅーと気持ち良さそうな寝息が聞こえ始める。その音を聴きながら、俺もゆっくりと眠りについた。



『ドンドンドンドンドンッ』
 うるさい。
『ドンドンドンドンドンッ』
 さっきからなんなんだ。
 俺がイライラしながら目を開けると、そこは自分の家ではなかった。目覚めたつもりだったが、まだ夢を見ているらしい。それにしてもあのドアの向こうがうるさい。はぁ、とため息をついて起き上がる。ボリボリと頭を掻きながらドアを開けた。
「あ、!マサさん?ですか?やっと起きたんですね!」
「…は?」
 ドアを開けた先には見知らぬ青年が立っていた。パッと見イケメンの部類の顔だ。身長は俺より少し低いぐらいだから170ちょいだろう。体格は細身だが、筋肉はありそうだった。
 やっぱり見たことの無い顔だ。夢なのに知らない人もでてくるんだな、と妙に感心しながら俺はドアを閉めようとした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!もう皆さん起きてるんです。あとはマサさんだけなので…着替えて広場に集まってもらえませんか?」
 ガッと間に足を挟み、その青年は無理やり部屋に身体をねじ込んできた。
 …皆さん?俺はその青年をマジマジと見つめた。青年は困った顔をしている。……そういえば、この声は聞いたことがある気がする。俺は自分の頬をつねってみた。
「痛いな」
 夢じゃないのか。その呟きに青年は苦笑いして、そうですよ、と言った。
「お前、アツシか?」
 急にその声をどこで聞いたか思い出した。ゲームだ。アツシは最近ハマっているFPSのギルドメンバーのひとりだ。昨日も一緒にやっていた。それを言うと、青年は頷いた。
「じゃあ、『皆さん』ってのはギルド……oskの奴らか?」
 アツシはまた頷く。頭には沢山の疑問が浮かんでいたが、とりあえず広場の場所を聞き、1度着替えに部屋に戻った。
 服を探して辺りを見回す。クローゼットの中を開けると、普段来ている服が入っていた。ふと気になり、ベッドの上を見る。そこにはイヤホンとスマホが置いてあった。俺はスマホの画面をつけてみた。ユミとの通話は切れてる。それどころか、左上には『圏外』の2文字。どうなっているんだ?
 一人で考え込んでも分からないものは分からない。俺はため息をついて、『皆さん』がいる広場へと向かった。
 行く途中の廊下には両側にドアが並んでいた。それぞれ、文字が書いてある。どうやら、oskのメンバーのハンドルネームが書いてあるようだった。いよいよ分からなくなってきた。
 広場に着くと、14人、俺以外のギルドメンバー全員が集まっていた。その中の一人が俺を見つけて手招きをする。アツシだ。周りの視線が一瞬集まり、散る。その中には数人、見知った顔もあった。よぅ、と声をかけながらアツシの横に腰を下ろし、辺りを見回す。
 正面には巨大なモニターがあった。入ってきた時にあったか?と不審に思ったが、あんな巨大な物、消えるはずもない。多分、見落としたのだろう。
 と、画面がパチンッと音を立てて明るくなった。人が写っている。ピエロのような姿をしていた。
 そのピエロはケタケタと笑っていた。
『ハァイoskの皆さん!全員揃いましたネ?それでは、げぇむのルール説明からいきましょーウ!』
 陽気にピエロが笑う。笑っているのに、怖い。げぇむとは何なのか、ここはどこなのか、聞きたいことは沢山あるのに、声が出ない。ピエロはそのまま喋り続けた。
『まズ、途中退出はイコール死。ギルドランキング下位はイコール死。TOP10のみ元の世界に帰れるヨ』
 ピエロの言葉に心の底からゾッとした。元の世界?じゃあ、ここはどこなんだ?
『後の質問にハ、人工知能であるメルダが答えてくれるヨ。それじゃあ皆!頑張ってネ』
 最後にウインクをして、そのピエロは消えた。一瞬の静寂の後、ザワザワと騒がしくなる。死ぬのか?元の世界?そんな言葉が断片的に聞こえてくる。
 俺はチラリと隣にいるアツシを伺った。アツシは真っ青な顔をして唇を噛み締めている。何か声をかけねば、と思い口を開きかけるがそれはすぐに遮られた。
「皆!1回落ち着こう!」
 凛としたよく通る声。この声もよく聞いたことがある。ギルドマスターの『魔柔』の声だ。すぐに場がシンッと静まり返る。
「事情を知らないメンツで不安がっていても仕方ないだろう?さっきのピエロが言っていたメルダを探してみないか?」
 魔柔は広場の後ろの方で立ち上がっていた。茶色い短髪。少し低めの身長。1度だけあったことのある彼女もやはりこの場にいた。
 空気が変わっていく。流石だな、と誰にも聞こえないように呟いた。元からカリスマ性はあると思っていたが、この場さえも変えてしまうのか、と。
(呼ビマシタカ?)
 突如、モニターがバチンッといった。全員、振り返る。モニターはバチンッバチンッと何度も点滅しながらゆっくりと画面が明るくなっていく。
(初メマシテ。私ハFPS系列ギルドosk担当ノ『メルダ』デス)
 モニターには文字が踊る。音声は男声だ。片言で喋るその口調は淡々としていた。
(質問ヲ述ベテ下サイ)
 魔柔は呆気にとられた顔でモニターを見つめていたが、すぐハッとなり、質問を口にした。
「ここはどこなんだ?」
 落ち着いた声色で言う。魔柔の隣にいる男がメモ帳を取り出していた。
(此処ハ『Calendar』ガ作リ上ゲタ仮想空間デス)

「『Calendar』とは何?」
(世界ノ学生ガ集イ作ッタ組織デス)

「どうして私達はここにいる?」
(『げぇむ』ニ参加シテ貰ウ為デス)

「『げぇむ』とは何?」
(ギルド同士ノバトルガ主デス)

「バトルはどんなことをするの?」
(貴女達ガ普段ゲームトシテ楽シンデイル事デス)

「どうして私達なの?」
(特定ノゲームヲ、プレイシテ居タカラデス)

「目的は何?」
(……解ナシデス)

 魔柔が隣の男からメモをもらう。険しい顔をしている。それもそうだろう。俺達が普段ゲームとして楽しんでいる事と言えば、殺し合いだ。それをリアルでしろ、だなんて到底無理だ。俺はパニックになりそうになる自分を必死で抑えた。
 魔柔はどう出るのだろうか。周りもその出方を伺っている。皆、この状況をどうすれば良いのか分からないのだ。
「…ギルド同士ってことは、他にも私達みたいなのが居るってことだよな?そこと同盟のようなものは組めないのか?」
(一部ノギルドトハ同盟ヲ組ム事ガ可能デス。他のギルドの情報ヲ表示シマスカ?y/n)

「yで」
 ブゥンと音が鳴り、画面が切り替わる。それぞれのギルドに番号が振ってあり、1から100まである。俺達のギルドは21番だった。ギルド名の下にはそれぞれ説明文が書いてあるようだ。文字が小さくてここからは見えない。
 皆が画面をよく見ようとモニターに集まる。アツシも立ち上がったので付いて行くことにした。
(1カラ80迄ノギルドトハ吸収合併ガ可能デス。81カラ100ノギルドトハ同盟ガ組メマス)
 何故、区切りが80なのだろう、と一瞬疑問に思ったが、それはすぐに解消された。1から80までのギルドの説明文にはFPS系列と書いてあったが、81からのギルドにはそれがない。代わりに、それぞれの特徴が書いてあった。
「…異能力集団?」
 思わず、その一文を読み上げてしまう。96番のギルドがあまりにも特異だった。いや、他のもかなり変わっているものが多いが、これの比ではない。
(No.96『March』Calendarノ出身者ガ中心ノギルドデス。メンバーノ多数ハ普通ノ社会デ生ラレナイ外見ヤ能力ヲ保持シテイマス。リーダーMarchハ現在、Calendarト敵対中。尚、コノ中デ最モ総合力ガ高イギルドデス)
 どうやら、俺の独り言が聞こえていたらしく、メルダがそのギルドを解説した。
「つまり、そのギルドと同盟が組めれば他より優位に立てるんだな?」
 そんな魔柔の質問に俺は少し引っ掛かりを感じる。もう魔柔は他と戦う覚悟を決めたのだろうか。
(ハイ。No.96ニ接触シマスカ?y/n)
「nだ。皆でこれを元に話し合いたい」
 魔柔はそう言ってぐるりと見回す。
「ここから逃げる方法を探すか、戦って戻る道を獲得するか決めよう。二手に分かれるのもアリだ。まずは目的を決めないと話し合うのも無理だろう?」
 確かにその通りだ。俺は同意を示すために、その場に腰を下ろした。釣られるように周りも座っていく。魔柔はホッとした顔をしていた。それもそうだろう。魔柔だって俺達と同じ立場なはずだ。何も分からないまま、ここに連れてこられた一人。不安なのは彼女も同じだ。
 魔柔が全員座ったのを確認し、話し始める。
「じゃあ、先に起きていた私達としての意見から。…正直、私達は逃げることは無理だと思ってる」
 どうやら、魔柔と相方のトレント、そして一番俺と仲の良いロイドが早朝から起きて合流していたようだ。
 魔柔達は、他の部屋も見てきたこと。キッチンなどもあり、住める環境は整っていたこと。そして、玄関から先には橋があり、途中で途切れていたこと。橋の下には文字通り何も無かったことを俺達に報告していく。
「さっき、メルダが言っていた仮想空間ってのは本当だと思う。だとすると、中から自力で出るのは不可能な気がする。だから私は戦う道を選ぼうと思う」
 魔柔はそう言って締めくくり、座った。入れ替わりにトレントが立ち上がる。
「俺も魔柔と同じ光景を見てきた。俺は、橋から皿を一つ落としてみたんだ。どれだけ待っても何の音もしなかった。あそこから降りるのは不可能だ」
 トレントは顔を歪めていた。そういえば、こいつは子持ちだったな。戻れない、ということを認めるのは苦痛だっただろうに。
 トレントは少し間を置いて、また口を開く。
「俺は魔柔と同じ選択をするつもりだ。だが、逃げる道を否定するつもりもない。俺は戦うぞ、という決意表明だ」
 トレントもどっかりと座り、場が静まり返る。今、ここで決めろということなのだろうか?
 チラリとロイドを見ると、ロイドもこちらを見ていた。俺が口パクで今か?と言うと、だよなぁ、と返してきた。ひょい、ロイドが立ち上がり
 「一度、自分の目で見てから決めたいだろう」
 と口を挟んだ。魔柔も頷き、また夜に集まることになった。
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