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11章 花舞台
老婆心
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オユキは生前から折に触れて考える事が有る。対応の速さ、それは良い事か悪い事か。
何かを起こした時、その反応。恐らくこの程度の期間を空けて返ってくるだろう。そういった目論見を持って行う事がしばしばある。そして対応の速さと言うのは、そうい時に厄介を感じてしまう。合わせて、こちらも急がねばならない、それが起こるのだ。
そして、朝、朝食後間もない時間。昨日の出来事は昼を過ぎたくらい、確かに動く時間はあったとはいえ。
「何か、申し開きはあるのかしら。」
「神々の配剤が働いた、それ以上の事は。」
「だからって、私に相談がないというのは。」
「あの、お二人とも、一先ずそこまでで。」
まだ早いというのに、既に公爵家の庭、そこにイマノルとクララ、加えて王妃が陣取っている。トモエたちは既に日々の狩猟にと向かっており、公爵夫妻は、城へとレジス侯爵を伴って、王太子に連行されていった。そして家主不在の別邸、それが今は痴話喧嘩の会場となっている。王妃は何故、そう言われれば今は見届け役、それに尽きるのだが。
これが終われば、次は祝祷、それを広く公開するものとして行う、その事前の折衝がある。
「オユキ、貴女も貴方よ。」
「戦と武技、その神の名のもとに頂いたくらいである以上、それに身を置く方の決意は蔑ろには出来ません。」
オユキは、侯爵の決意を正しいとした。なのでそこを責められたとて、譲ることは出来ない。相応の理由が無いのであれば。そこには異邦の価値観が根底にある。どうしてもと、そう望むのであれば騎士として、ただのクララとイマノルとして、その選択がある。そのように考えてしまう。
「そして、確かに彼の神から追認を得ました。故にこの件について、もしも望むのであれば。」
そう、もしクララがどうしてもと。それを望むのであれば、取れる道はもう一つある。オユキから預かり物を取り上げればよい。彼の神の名のもとに。それが示す物を使って。
「それも一つとは思うけれど、先輩が勝てないんですもの。何でもありなら勝てるでしょうけど。彼の神はそれをお認め下さるのかしら。」
「預けた方が違うというのであれば。」
「なら無理じゃない。愛に命を懸けて、そうしたところで意味がないのでは、ラスト子爵家、そこに生まれた者の責務が許さないわよ。」
捨て身であれ、加護が無いのであれば、オユキにすらクララは届かない。
「一応、今後どうなるか、それについては父が今話しているはずですから。」
「やっと話が進んだ、そのはずだったのに。どうしてこんなことに。」
さて、あまりに彼女の嘆きが募れば、それこそ他の、それを司る相手から釘を刺されそうではある。
「王妃様、王家として求める決着は。」
「オユキの譲歩もありました。しかしレジス侯爵家、ここは寄親の意向をとり合わない、そうなった以上は。」
「マリーア公爵の下に収まりますか。」
「ラスト子爵も召喚しています。伏せていた情報、それを明かし、この度の功績を持って認めさせることとなります。無論マリーア公爵には、新たな義務が増えますが。」
さて、そうであるなら他の領、そこの異邦人を使って、それぞれに動きも出てくるだろう。
既に制限はない、そういった話もあるのだ。ならば、武ではない、そう言った者たちも存分に動けるだろう。別の制限についても、会話の困難についても、今回の諸々が表に出れば、互いに気が付くだろう。そこで改めて、そうなるだけの信頼関係を気付いているかどうかは、これまでのそれぞれだろうが。
流石にそんなところまでは責任など取れる物では無い。補助をする気もない。それこそ公爵に面会を願って、その上でであれば、分かることを応えはするが。
手始めは、王と王太子、措置が抱えているという異邦人、そこからとなるだろうが。それもまだ先の話だ。結局のところ、与えられた使命、クエスト、それをその人物達が各々に進めなければ意味がない。
ただ、オユキとトモエがこちらに来て為したこと、それを理由になど許しはしないのだろうから。
ただ、そのような状況にあって、一国の国主に有用と認められる、そんな手合いが果たせていない使命など、とても一朝一夕で片付くものであるはずが無い。
「それと、マリーア伯爵家の第二子息は、ラスト子爵の息女と婚姻、そうなるでしょう。」
何か理由が無ければ、大きな変化が無ければ決定したものとして。
「全く。あの頃はそんなそぶり、一度も見せなかったのに。」
「正式に伺ったのは、後の事ですから。」
「良いわよ。団長もなんだか疲れているようだったし、正直助かる、そう言っていたんだもの。」
「ええ。随分お疲れの様子でしたし。この場の事として少しお伺いしても。」
「イマノル様、それよりも先に、すべき事が有るでしょう。」
その話の可否は、それこそこの場の最高権力者が判断するものである。ならば待つのが筋ではあるが、オユキはそれを止める。
この青年は、いよいよ足りない類の素性であるらしい。武に真摯であるからこその迷走。それを思えばオユキも理解はできる物だが。ただ、オユキは別の物であったし、それらしきものに気が付いてから、それ以前からも。トモエに対しては、側にいてくれたトモエには、殊更にとした事が有る。
そして、それ以前の事さえイマノルは行わない。ならばここでも先達として、正すべきであろう。
オユキの言葉に、何かあったかと、思案顔なのだから。そして、心中で願う。叶うならその名を戴く神にと。
便利に使っている、その自覚はあるが、そこはお互い様でしょうと。そうすれば、何やら苦笑いの気配は返ってくる。
「イマノル様、この度のクララ様、その不安を作ったのは。」
流石にオユキが真剣に語れば、彼も思い当たる。見目については女性に囲まれている、その気まずさもあるのだろうが。
「しかし、家同士の決めごとです。」
「その家は、こうして事が起これば揺らぐ、それは既にお判りいただけた物かと。」
そう、家同士、それに追われたのはミズキリだが、最後の決め手はルーリエラと同じだったのだ。そんなものは知らぬ、全てを投げ出す。そういって鞄一つ、詰め込んだのは数日の着替えと、思い出の品。それだけを両手でもって、彼の家を訪ねた女性、その姿に彼は諦めたと、そう言っていた。
では、これまで待たせただけのこの人物は、それに対して何か一つでも自分で行ったのだろうか。
「ですが、今も問題になっているように、その前提があって。」
「それしか前提を、基礎を積み上げなかった。その人物の言は聞くに及びません。」
クララも、王妃も、それこそ話に入って来そうなものだが。特にクララは、構わないのだ。今この場で、これを機会にとこれまでの彼を責めても。事ここに至って蔑ろにするのなら、その程度であるなら、それを伝えた上で。そうすればよかったのだ。そんな関係性もある。そしてトモエとオユキ、その二人にしても始まりは碌な物では無い。
「イマノル様、これまで一度でもあなたの意思を示したことはあるのでしょうか。ただ決まったからと、侯爵家への引け目があるからと、唯々諾々と。それはあまりに不実でしょう。ともに戦場を駆けた戦友、それに対してでさえ。」
オユキはただイマノルをまっすぐに見る。望まぬ関係、それならそうと告げればいい。そうであるならそれとして。確かにそこから互いに折り合いをつけ、積み上げられるものが有る。望むのであれば、そう告げて。互いに互いの大事、それを尊重して育めばよい。しかし、そのどちらでもない、無関心。そうであるならば許されない。己の隣を歩くものに対して、それは。町中でただすれ違うのとは、違うのだと。
「不実、確かに、私は不誠実だったのでしょう。始まりが逃げたから、それがあったのも事実。」
そもそも、クララ、何故彼女が騎士になったのか。その疑問もある。そして、その答えは。
「どこか、クララ、貴女の存在に根本から頼っていたのでしょうね。家から逃げ、騎士の道に身を投じ。そこに当たり前のようについて来てくれた貴女に。」
さて、今はオユキの視線、それではなくクララに向けて。
「そこで追いかけるべき背中、それを見つけた。そう考えた先にも。改めて元の道に、そう望んだ時にも。」
彼の迷走、それに只ついてきた女性がいたのだ。それこそ家から何を言われようとも。
「だから、幼い日の誓い、それが確かにあるのだと。それでさえ、あの少年に向き合うためにと投げ捨てたというのに。」
話を聞く彼女が流した涙、それは彼女と彼の間での事に。老婆心を働かせたものは、ただそこで話を聞き、恐らく取り持ってくれているだろう相手の目と耳として。
「私の隣に立つ相手、それはやはりクララであって欲しい。その願いは変わりません。あの日槍を捧げた誓い、それを投げ捨てた愚かな男ではありますが、それでも許されるのであれば。」
続く彼の誓いの言葉は、確かに楚の名を冠する神に届いた。その証は、華やかな輝きと共に、二人の前に置かれた輝く造花が証明する。
そしてこの場面に立ち会って、印の切り方も知らぬ。王妃が当たり前とするそれも分からぬ当たり。オユキとしては合格点がもらえるのはいつになるのやらと、別の心配が胸中に去来する。
何かを起こした時、その反応。恐らくこの程度の期間を空けて返ってくるだろう。そういった目論見を持って行う事がしばしばある。そして対応の速さと言うのは、そうい時に厄介を感じてしまう。合わせて、こちらも急がねばならない、それが起こるのだ。
そして、朝、朝食後間もない時間。昨日の出来事は昼を過ぎたくらい、確かに動く時間はあったとはいえ。
「何か、申し開きはあるのかしら。」
「神々の配剤が働いた、それ以上の事は。」
「だからって、私に相談がないというのは。」
「あの、お二人とも、一先ずそこまでで。」
まだ早いというのに、既に公爵家の庭、そこにイマノルとクララ、加えて王妃が陣取っている。トモエたちは既に日々の狩猟にと向かっており、公爵夫妻は、城へとレジス侯爵を伴って、王太子に連行されていった。そして家主不在の別邸、それが今は痴話喧嘩の会場となっている。王妃は何故、そう言われれば今は見届け役、それに尽きるのだが。
これが終われば、次は祝祷、それを広く公開するものとして行う、その事前の折衝がある。
「オユキ、貴女も貴方よ。」
「戦と武技、その神の名のもとに頂いたくらいである以上、それに身を置く方の決意は蔑ろには出来ません。」
オユキは、侯爵の決意を正しいとした。なのでそこを責められたとて、譲ることは出来ない。相応の理由が無いのであれば。そこには異邦の価値観が根底にある。どうしてもと、そう望むのであれば騎士として、ただのクララとイマノルとして、その選択がある。そのように考えてしまう。
「そして、確かに彼の神から追認を得ました。故にこの件について、もしも望むのであれば。」
そう、もしクララがどうしてもと。それを望むのであれば、取れる道はもう一つある。オユキから預かり物を取り上げればよい。彼の神の名のもとに。それが示す物を使って。
「それも一つとは思うけれど、先輩が勝てないんですもの。何でもありなら勝てるでしょうけど。彼の神はそれをお認め下さるのかしら。」
「預けた方が違うというのであれば。」
「なら無理じゃない。愛に命を懸けて、そうしたところで意味がないのでは、ラスト子爵家、そこに生まれた者の責務が許さないわよ。」
捨て身であれ、加護が無いのであれば、オユキにすらクララは届かない。
「一応、今後どうなるか、それについては父が今話しているはずですから。」
「やっと話が進んだ、そのはずだったのに。どうしてこんなことに。」
さて、あまりに彼女の嘆きが募れば、それこそ他の、それを司る相手から釘を刺されそうではある。
「王妃様、王家として求める決着は。」
「オユキの譲歩もありました。しかしレジス侯爵家、ここは寄親の意向をとり合わない、そうなった以上は。」
「マリーア公爵の下に収まりますか。」
「ラスト子爵も召喚しています。伏せていた情報、それを明かし、この度の功績を持って認めさせることとなります。無論マリーア公爵には、新たな義務が増えますが。」
さて、そうであるなら他の領、そこの異邦人を使って、それぞれに動きも出てくるだろう。
既に制限はない、そういった話もあるのだ。ならば、武ではない、そう言った者たちも存分に動けるだろう。別の制限についても、会話の困難についても、今回の諸々が表に出れば、互いに気が付くだろう。そこで改めて、そうなるだけの信頼関係を気付いているかどうかは、これまでのそれぞれだろうが。
流石にそんなところまでは責任など取れる物では無い。補助をする気もない。それこそ公爵に面会を願って、その上でであれば、分かることを応えはするが。
手始めは、王と王太子、措置が抱えているという異邦人、そこからとなるだろうが。それもまだ先の話だ。結局のところ、与えられた使命、クエスト、それをその人物達が各々に進めなければ意味がない。
ただ、オユキとトモエがこちらに来て為したこと、それを理由になど許しはしないのだろうから。
ただ、そのような状況にあって、一国の国主に有用と認められる、そんな手合いが果たせていない使命など、とても一朝一夕で片付くものであるはずが無い。
「それと、マリーア伯爵家の第二子息は、ラスト子爵の息女と婚姻、そうなるでしょう。」
何か理由が無ければ、大きな変化が無ければ決定したものとして。
「全く。あの頃はそんなそぶり、一度も見せなかったのに。」
「正式に伺ったのは、後の事ですから。」
「良いわよ。団長もなんだか疲れているようだったし、正直助かる、そう言っていたんだもの。」
「ええ。随分お疲れの様子でしたし。この場の事として少しお伺いしても。」
「イマノル様、それよりも先に、すべき事が有るでしょう。」
その話の可否は、それこそこの場の最高権力者が判断するものである。ならば待つのが筋ではあるが、オユキはそれを止める。
この青年は、いよいよ足りない類の素性であるらしい。武に真摯であるからこその迷走。それを思えばオユキも理解はできる物だが。ただ、オユキは別の物であったし、それらしきものに気が付いてから、それ以前からも。トモエに対しては、側にいてくれたトモエには、殊更にとした事が有る。
そして、それ以前の事さえイマノルは行わない。ならばここでも先達として、正すべきであろう。
オユキの言葉に、何かあったかと、思案顔なのだから。そして、心中で願う。叶うならその名を戴く神にと。
便利に使っている、その自覚はあるが、そこはお互い様でしょうと。そうすれば、何やら苦笑いの気配は返ってくる。
「イマノル様、この度のクララ様、その不安を作ったのは。」
流石にオユキが真剣に語れば、彼も思い当たる。見目については女性に囲まれている、その気まずさもあるのだろうが。
「しかし、家同士の決めごとです。」
「その家は、こうして事が起これば揺らぐ、それは既にお判りいただけた物かと。」
そう、家同士、それに追われたのはミズキリだが、最後の決め手はルーリエラと同じだったのだ。そんなものは知らぬ、全てを投げ出す。そういって鞄一つ、詰め込んだのは数日の着替えと、思い出の品。それだけを両手でもって、彼の家を訪ねた女性、その姿に彼は諦めたと、そう言っていた。
では、これまで待たせただけのこの人物は、それに対して何か一つでも自分で行ったのだろうか。
「ですが、今も問題になっているように、その前提があって。」
「それしか前提を、基礎を積み上げなかった。その人物の言は聞くに及びません。」
クララも、王妃も、それこそ話に入って来そうなものだが。特にクララは、構わないのだ。今この場で、これを機会にとこれまでの彼を責めても。事ここに至って蔑ろにするのなら、その程度であるなら、それを伝えた上で。そうすればよかったのだ。そんな関係性もある。そしてトモエとオユキ、その二人にしても始まりは碌な物では無い。
「イマノル様、これまで一度でもあなたの意思を示したことはあるのでしょうか。ただ決まったからと、侯爵家への引け目があるからと、唯々諾々と。それはあまりに不実でしょう。ともに戦場を駆けた戦友、それに対してでさえ。」
オユキはただイマノルをまっすぐに見る。望まぬ関係、それならそうと告げればいい。そうであるならそれとして。確かにそこから互いに折り合いをつけ、積み上げられるものが有る。望むのであれば、そう告げて。互いに互いの大事、それを尊重して育めばよい。しかし、そのどちらでもない、無関心。そうであるならば許されない。己の隣を歩くものに対して、それは。町中でただすれ違うのとは、違うのだと。
「不実、確かに、私は不誠実だったのでしょう。始まりが逃げたから、それがあったのも事実。」
そもそも、クララ、何故彼女が騎士になったのか。その疑問もある。そして、その答えは。
「どこか、クララ、貴女の存在に根本から頼っていたのでしょうね。家から逃げ、騎士の道に身を投じ。そこに当たり前のようについて来てくれた貴女に。」
さて、今はオユキの視線、それではなくクララに向けて。
「そこで追いかけるべき背中、それを見つけた。そう考えた先にも。改めて元の道に、そう望んだ時にも。」
彼の迷走、それに只ついてきた女性がいたのだ。それこそ家から何を言われようとも。
「だから、幼い日の誓い、それが確かにあるのだと。それでさえ、あの少年に向き合うためにと投げ捨てたというのに。」
話を聞く彼女が流した涙、それは彼女と彼の間での事に。老婆心を働かせたものは、ただそこで話を聞き、恐らく取り持ってくれているだろう相手の目と耳として。
「私の隣に立つ相手、それはやはりクララであって欲しい。その願いは変わりません。あの日槍を捧げた誓い、それを投げ捨てた愚かな男ではありますが、それでも許されるのであれば。」
続く彼の誓いの言葉は、確かに楚の名を冠する神に届いた。その証は、華やかな輝きと共に、二人の前に置かれた輝く造花が証明する。
そしてこの場面に立ち会って、印の切り方も知らぬ。王妃が当たり前とするそれも分からぬ当たり。オユキとしては合格点がもらえるのはいつになるのやらと、別の心配が胸中に去来する。
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