キミと僕との7日間

五味

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「ただいま。」

時間は10時にそろそろ差し掛かろうかというころ、僕は祖父母の家に戻ってきた。
出たときには7時を少し回ったばかり。
もう少し長い時間いたかなとも思っていたけれど、そこまででもなかったようだ。

「はい、お帰りなさい。冷えたでしょう。」
「うん。思ったよりも寒かったよ。」
「そうでしょうとも。お風呂、入ったら寝てしまいなさい。」
「ありがとう。起きてなくても、良かったのに。」
「いつももう少し遅くまで起きていますよ。」

そういって笑う祖母に、そういえばここに来た時は、もっと早い時間に寝ていたと、今更そんなことを実感する。
これまで、僕が起きている間に、祖父母が寝ているのを見たことが無かった。
それこそ朝早く、僕が起きるときには起きているし、寝てからの事は分かるわけもない。

「ありがと。じーさんは、まだ起きてる。」
「ええ。起きていますよ。何かありましたか。」
「うん、まぁ。でも明日の朝でもいいかな。あまり遅くには悪いし。」
「そうですか。忘れないなら、それでいいでしょう。さ、とりあえず先に温まっていらっしゃい。」

そう言われて、僕は浴室へと向かい、そこで改めて今日の事を考える。
あの制服を着ていた子、一人でなかなかの大荷物だろう。
それをわざわざ、近くに止まれるからと言って、そこまで運んで、さらにそれを持って山を登って。
そこまでして、何かを見たいと、そう考えて来ていたのだろう。その割に、こちらを気にしてばかりで、手が止まっていたけれど。
僕にとって、此処に来ることが大事なのと同じように、彼女にとってそれは大事な事なのだろう。そうであるなら、祖父に駄目だと、そう言われなければいいな、そんなことを考えてしまう。残念ながら決めるのは僕ではないけれど、それでも祖父に許してもらえるように、頼んでみるくらいはしてもいいかなと、そんな事をぼんやりと考える。

自分勝手な考えだけれど、何となく祖父は許してくれそうな気がしている。
危ない事、例えば山の向こうその道に危険があるなら、それは断る理由になるだろうが、このあたりにはかぶれたり肌が切れる様な、そんな草が生えるのだ。
制服、それもスカートで、大荷物を持って。そんな事ができるくらいには向こうに続く、恐らく続いている道は安全な物なのだろう。なら、祖父はそれを理由にしないだろうと。
そして道があるなら、何となくだけれど、その向こうに何があるのか、祖父は知っている気がするのだ。
だから、まぁ僕が嫌だと、追い出したい、一人の場が欲しい、よほど強くそんなことを言わない限りは、祖父はきっと大丈夫。そんな風に思う。
ただ、どうだろう、僕がそんなことを言えば、それこそ祖父は、これまで見たことが無い、困った顔を浮かべるかもしれない。それを見てみたい、なんて少し子供っぽいことを考えてしまうが、それは流石に抑える。

一人で、元々いた場所から離れて、自分が求めた場所。
それをやっと見つけられたのだとしたら、それがいきなりなくなるのはかわいそうだな。
どうしても、そんなことを考えずにはいられない。
僕にしても、どうなのだろう。もし、あの日、子供の頃の、あの良く分からない衝動を覚えた日、祖父母の家、それを思いつかなかったら、どこに行ったのだろうか。
とにかくあの日は、それ以降もなんだかやけに疲れてしまって、そのたびにここに来た。
つまりここに来れば、その疲れが癒せると、そう考えて。
彼女もここに来れば、目的が果たせると、天体観測だろうけれど、それが果たせると、此処を探し当ててたどり着いた。
経緯は違うのだろうけれど、そこには何となく同じ。もともといる場所では無理だった何か、それを探して流れ着いた、そんな共通点があるのだから。

「許してもらえるといいけど。」

そう口に出してみれば、少々弱気な声が出てしまった。
頭の中で考えた祖父は、危ないのかそれを聞いて僕がいいやと答えれば、ならいいと、そういうのだが、実際にそれが分かるのは明日なのだから。

「それでも、ギターは弾きに行くんだけど。」

あの子にとって大事な場所かもしれないが、それは僕にとっても変わらない。
なるべく邪魔はしたくないが、それでも今回ここに来たのは、山を登って、のんびりと弦をはじく、それも目的の一つだったりするのだから。それが無ければ、ああも嵩張るギターケースを肩に担いできたりはしないのだし。
短い時間だから、そこは堪えて欲しい。
だがどうだろう、嫌いな、興味の無い曲であれば、それこそ彼女でなくとも不愉快に感じるだろう。
僕にだって、そう思う曲はあるわけだし。
なら、せめて引いている曲や音が嫌でないかくらいは、確認しようと、改めてそう思う。
サウンドホールカバーとミュートはつけてあるけれど、それでも音はある程度、特に虫の声とかすかな鳥の鳴き声、葉と枝がこすれる音、損な物しかしない場所ではよく響くだろうから。

そうして、つらつらと取り留めもないことを考えながら、暫く湯船に揺られてから、しっかり体を温めた後は、そのまま眠る。
話すのは明日の朝。いつものように、祖父と肩を並べて、お互いにお互いの鉢を整えながら、それでいいかと。
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