キミと僕との7日間

五味

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「運がいいって、そう言ったら、怒られるのかな。」
「それで感謝しない人なら、そうじゃないかな。」
「それは、私も同なのかなって思うよ。」

少し、僕と彼女の間にあった重たいものも軽くなって、今はこうしてちょっとした軽口くらいは言い合える。

「僕も、運がいいって、そう思ってるしさ。」
「いい、おじい様と、おばあ様なんだ。」
「うん。」

そう、彼女が幸運だというなら、僕だってそうだ。
たまたま祖父母がここに住んでいて、たまたまここに来ることを思いついて。
そして、それこそ幸運なことに、祖父母は受け入れてくれて。
いくつの偶然が重なったのか、数える気にもなれないけど、纏めてしまえばそう、運がよかった。
その一言しかないのだから。

「話は、もういいかな。」
「うん、今は。随分引き留めちゃったし。」
「気にしないけど。それに、食べてくれなきゃ、持って帰れないから。」
「明日、洗って返すよ。それくらいは出来るから。」
「そっか。」

昨日よりも、また長い時間外にいたことになる。
持ってきた懐炉は、既にその役目を終えて、なんだかぬるさしか感じない。

「それじゃ、また明日。」
「うん、また明日。」
「聞くだけだったけど、手紙、書けそう。」
「うん、明日、渡すね。」
「そっか。」

そういって僕はギターを片付ける。
とはいっても、少し弦を緩めて、ケースにしまうだけなのだけれど。

「次は、君の話も聞きたいかな。」
「僕。聞いてくれれば、話せることは話すけど。」
「そうじゃなくて、私に聞いてほしい事とか、あるかなって。
 私ばっかり話したから。」
「特にないかな。」

そう言われても、僕から彼女に話したいことは特にない。
いや、あったけど、それはもう話した。
だから、直ぐにそう答えると、彼女は何処かがっかりしたような表情を浮かべる。

「その、ここに来てる理由とか。」
「えっと、聞きたいなら話すよ。うん、また明日にでも。」
「あの、うん、そうじゃなくて。」

彼女がなにを悩んでいるのかはよく分からないけど、隠すような事でもない。
そう言えば、初めて来たときに、祖父に聞かれてぽつりと話して、それ以来彼女にさっきふわっとした理由を話したきりだな、そんなことを思う。
もっと詳しくとか、それともわざわざこんなところにギターの練習に来ている理由とかそういう事なのだろうか。

「えっと、私だけ、なんだか長々と話したから。」
「ああ、それを悪いと思うってことかな。別にギターの練習もしてたし。」

そう、彼女が気にすることはないのだ。
結局彼女が話している間に、僕だって手を止めなかったのだから。

「それで、気を悪くしたなら、ごめんね。」
「そういう事じゃないんだけど。」

何やら言いにくそうにしている彼女に、どうしたものだろうと、そんなことを考えているうちに片づけも終わってしまう。
何か一つくらい、明日話す事、そう考えて、ケースを担ぐと、どうにか一つ思い出せた。

「そうだ。」
「えっと、何かな。」

何処かこちらを非難するような、そんな目で見ている彼女が気になるけれど、思いついたことを聞いてみる。

「うん、うちに来てからでいいけど、勉強教えてよ。」

ちょっと見ただけで、僕の課題の間違いに気が付いた彼女、なら、教えてもらえること、聞きたいことはそのあたりならいくらでもある。
一年ここに来ない、そんなことを選ぶ程度には、僕は得意じゃない。

「ああ、うん。そう、だね。そんな事かなって、思ったんだよ。」

伝えた彼女は、やはり何かに落胆するようにこちらを見てため息をつく。
流石にそれは失礼じゃないかなと、少し思うところがあるけれど、なんだか彼女は何かに納得したように頷いて、僕に手を振る。

「うん、じゃあ、また、明日。
 色々してもらってるし、そのお礼に、私が分かる事なら、教えるよ。」

こう見えて、勉強はそれなりにできるから、そう彼女が言い切る。

「そっか。僕は苦手だから、助かるよ。ああ、でも聞きたいことなら、聞いてくれば答えるよ。それは本当。」

そう答えて、僕は一人で山道を下り始めようと、背を向けて歩き出す。
ここに来る時に持っていた、少し重たい荷物が無くなったから、足取りが随分と軽く感じる。
そこで呼び止められて振り返ると、彼女は改めてお皿に総菜を乗せてこちらに声をかけて来る。

「君は、私と一緒にいるの、嫌じゃないの。」
「さっきも言ったけど、嫌なら場所を変えるよ。」
「じゃぁ、さ。」

そう言うと彼女は、視線を望遠鏡の方に向ける。

「私が、一緒に、星を見ないって、そう、誘ったら。」
「んー。どうだろう。そんなに興味はないけど、とりあえずやってみるかな。」
「そう、なんだ。」
「うん、今はそんなに興味ないけど、見れば変わるかもしれないし。」

少し離れて、彼女の横顔も暗くてぼんやりとしか見えない。
何を考えてるかはよく分からない。
ただ、楽しいのかと、そう聞いたら祖父がやってみるかと、そう聞いてきたように。
誘われたら、とりあえず試す、それくらいはしてもいいだろう。
どのみち、ギターの練習にしても、急ぐ目標などはないのだから。

「ああ、そういえば。」

そこで、今日の話で一つ、気になったことを思い出す。

「全天21の1等星だっけ、春でも見えるのがあったよね。」
「えっと、うんあるけど。」
「見るなら、それを見てみたいかな。」

今日の話で気になったものと言えば、それくらい。
そんなことを言えば、彼女が笑いながら返事を返してくる。

「うん、わかった、明日見れるように準備しておくね。」
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