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「おはよ。」
「ああ。」
なんだかんだと夜が遅かったせいで、どうにもいつも通りの時間に起き上がたというのに、眠気が強い。
朝の挨拶も、何処かあくびが混じってしまう。
「もう少し寝ててもいいぞ。朝食は先だからな。」
「こっちにいる間は、この子たちのお世話をしたいから。」
「昼からでも、問題ない。」
「でも、この時間が、一番いい気がするんだよね。なんか、こう、元気。」
よくわからないけど、そんな感じがする。
それに祖父が毎朝こうしているという事は、それが一番いい時間帯でもあるのだろうと、そんな考えもある。
「辛かったら、朝食の後に少し寝るといい。」
「うん。」
「それと、朝に水をやるのがいい。理由もある。」
「へー。」
祖父がこういうという事は、興味があるなら調べてみろと、そういう事なのだろう。
なんにせよそれは後にして、今は鉢植えに向き合う。
そうしてみれば、昨日の自分は何をしていたのか、思わずそんなことを思ってしまうほどに、鉢の中が荒れている。
きちんと、適当に見えるかもしれないが、自分が良いと、そう思うように置いていた石も転がっているし、植えていたよく知らない草や、苔もなんだか、散り散りで適当だ。
昨日の自分をほめるとしたら、枝葉に鋏を入れなかったことくらいだろう。
そう思えるほどに、ひどい有様だ。
「うーん。」
「今日は、やめておくか。」
「悪いって、そう分かるから、直すよ。」
「そうか。」
祖父の端的な言葉を聞いた後は、ただ手を入れる。
これまでのように良くしようと、そんな工夫ではなく、ただ戻す、そんな作業に、なんだか悲しさを覚える。
悪いことをしたなと、そう思ってしまう。
気が乗らない、それだけならまだしも、気もそぞろに、変にするくらいなら、そんなことを考えてしまう。
そうして、何となく、また気分が沈んでくると、頭に手を置かれる。
祖母だろうか、呼ばれても気が付かなかったのか、そう思うと、祖父が隣に立って、こちらに手を伸ばしていた。
「悲しいな。」
「うん。」
「だが、やり直しがきく。」
「でも、やらないほうが、良かったかなって。」
「そうだな。」
祖父の目から見ても、昨日の僕はあまりに気もそぞろに手を入れていたのだろう。
ただ、その声には咎める様な響きはない。
「だが、やり直せる。」
「時間、使っちゃうけど。」
「それの何が悪い。これまでと変わらないさ。良いと思ってやって、良くなかった、だから別に整える。
これまでと同じだよ。拾った石を置いて、気に入らなかったから取り替えた。何も変わらない。」
「そう、なのかな。」
「よく見るといい。枯れたか。」
「流石に、一日くらいじゃ。」
「何か、取り返しのつかないものがあるか。」
「時間、とか。」
そう言うと、祖父が珍しくくつくつと笑う。
「なんだ、時間を決めてやっていたのか。」
言われて少し考える。
確かに、ここにいる時間は決まっているけど、別にそれくらいだ。
昼から石拾いとか、草や苔を探したり、そっちに時間を使わなければ、それで済む。
何だったら、縁側で祖父と並んでお茶を飲む、その代わりに手を入れても別にいいのだし。
そういった時間も大事だけれど、別にやりくりできないようなものでもない。
「違う、かな。」
「なら、ゆっくりやればいい。」
「うん。」
頷けば、祖父の手が頭からどけられる。
それと一緒に、先ほどまでの、何処か落ち込んでいた気分もどこかに行った。
そして、改めて鉢植えに向き合いながら、後で散々なことになっているだろう、庭の一角も覗こうかと、そんなことを考ええる。
そうして、少し手直しをしていると、一番最初に育て始めた鉢植えが気になる。
成長が止まってしまっているそれ、調べれば、鉢の中が根で埋まるとそうなるらしい。
これまでは気にならなかったが、今見てみると、どうにも土の上にまで根が狭苦しそうに盛り上がっている
なんだか、これはこれで可哀そうだと、ふとそんなことを思う。
「じーさん。」
「どうかしたか。」
「これ、大きい鉢に移したら、どうなる。」
何を指しているのか、振り向かなくても分かっているのだろう、別の方向。
作業しやすいように少し背の高い棚に置かれた、小ぶりな鉢が並んでいる一角ではなく、その脇に置かれた、僕よりも背の高い鉢植えを指さす。
「ああなるな。ただ、根が駄目になってからでは、遅いが。」
「そっか。」
それは、少し大きすぎるように思うけど。
「窮屈そうか。」
「うん、何となくね。」
「いきなりあれは、大変だろうからな、二回りほど大きいのにまずは変えてみるか。」
「良いの。」
「今のそれを、全部崩さねばならんがな。」
「そっか。でも、良いなら、やってみたいかな。」
「では、昼からやるか。」
祖父がそう言えば、祖母が縁側からこちらを呼ぶ声が聞こえる。
「うん、昼からなんだ。」
「朝は寒いからな。先ほどの話にも関係あるが。」
僕には元気に見えるけれど、そうとは限らない。どうやらそんな話があるらしい。
「そっか。うん、わかった。」
「それに、少し顔が疲れている。寝て、起きて。それからにしなさい。」
「いつもより、遅かったからかな。」
「そうだろうな。ゆっくりやればいい。2時間ほどの作業だしな。」
「うん。」
そうして、いつものように手を洗って、食事をとる。
ただ、昨夜遅くに、少し食べたからか、今朝もいつもより食べることは出来なかった。
今日から、僕は夜に食べるのやめようか、そんなことを考えてしまうくらいには。
「ああ。」
なんだかんだと夜が遅かったせいで、どうにもいつも通りの時間に起き上がたというのに、眠気が強い。
朝の挨拶も、何処かあくびが混じってしまう。
「もう少し寝ててもいいぞ。朝食は先だからな。」
「こっちにいる間は、この子たちのお世話をしたいから。」
「昼からでも、問題ない。」
「でも、この時間が、一番いい気がするんだよね。なんか、こう、元気。」
よくわからないけど、そんな感じがする。
それに祖父が毎朝こうしているという事は、それが一番いい時間帯でもあるのだろうと、そんな考えもある。
「辛かったら、朝食の後に少し寝るといい。」
「うん。」
「それと、朝に水をやるのがいい。理由もある。」
「へー。」
祖父がこういうという事は、興味があるなら調べてみろと、そういう事なのだろう。
なんにせよそれは後にして、今は鉢植えに向き合う。
そうしてみれば、昨日の自分は何をしていたのか、思わずそんなことを思ってしまうほどに、鉢の中が荒れている。
きちんと、適当に見えるかもしれないが、自分が良いと、そう思うように置いていた石も転がっているし、植えていたよく知らない草や、苔もなんだか、散り散りで適当だ。
昨日の自分をほめるとしたら、枝葉に鋏を入れなかったことくらいだろう。
そう思えるほどに、ひどい有様だ。
「うーん。」
「今日は、やめておくか。」
「悪いって、そう分かるから、直すよ。」
「そうか。」
祖父の端的な言葉を聞いた後は、ただ手を入れる。
これまでのように良くしようと、そんな工夫ではなく、ただ戻す、そんな作業に、なんだか悲しさを覚える。
悪いことをしたなと、そう思ってしまう。
気が乗らない、それだけならまだしも、気もそぞろに、変にするくらいなら、そんなことを考えてしまう。
そうして、何となく、また気分が沈んでくると、頭に手を置かれる。
祖母だろうか、呼ばれても気が付かなかったのか、そう思うと、祖父が隣に立って、こちらに手を伸ばしていた。
「悲しいな。」
「うん。」
「だが、やり直しがきく。」
「でも、やらないほうが、良かったかなって。」
「そうだな。」
祖父の目から見ても、昨日の僕はあまりに気もそぞろに手を入れていたのだろう。
ただ、その声には咎める様な響きはない。
「だが、やり直せる。」
「時間、使っちゃうけど。」
「それの何が悪い。これまでと変わらないさ。良いと思ってやって、良くなかった、だから別に整える。
これまでと同じだよ。拾った石を置いて、気に入らなかったから取り替えた。何も変わらない。」
「そう、なのかな。」
「よく見るといい。枯れたか。」
「流石に、一日くらいじゃ。」
「何か、取り返しのつかないものがあるか。」
「時間、とか。」
そう言うと、祖父が珍しくくつくつと笑う。
「なんだ、時間を決めてやっていたのか。」
言われて少し考える。
確かに、ここにいる時間は決まっているけど、別にそれくらいだ。
昼から石拾いとか、草や苔を探したり、そっちに時間を使わなければ、それで済む。
何だったら、縁側で祖父と並んでお茶を飲む、その代わりに手を入れても別にいいのだし。
そういった時間も大事だけれど、別にやりくりできないようなものでもない。
「違う、かな。」
「なら、ゆっくりやればいい。」
「うん。」
頷けば、祖父の手が頭からどけられる。
それと一緒に、先ほどまでの、何処か落ち込んでいた気分もどこかに行った。
そして、改めて鉢植えに向き合いながら、後で散々なことになっているだろう、庭の一角も覗こうかと、そんなことを考ええる。
そうして、少し手直しをしていると、一番最初に育て始めた鉢植えが気になる。
成長が止まってしまっているそれ、調べれば、鉢の中が根で埋まるとそうなるらしい。
これまでは気にならなかったが、今見てみると、どうにも土の上にまで根が狭苦しそうに盛り上がっている
なんだか、これはこれで可哀そうだと、ふとそんなことを思う。
「じーさん。」
「どうかしたか。」
「これ、大きい鉢に移したら、どうなる。」
何を指しているのか、振り向かなくても分かっているのだろう、別の方向。
作業しやすいように少し背の高い棚に置かれた、小ぶりな鉢が並んでいる一角ではなく、その脇に置かれた、僕よりも背の高い鉢植えを指さす。
「ああなるな。ただ、根が駄目になってからでは、遅いが。」
「そっか。」
それは、少し大きすぎるように思うけど。
「窮屈そうか。」
「うん、何となくね。」
「いきなりあれは、大変だろうからな、二回りほど大きいのにまずは変えてみるか。」
「良いの。」
「今のそれを、全部崩さねばならんがな。」
「そっか。でも、良いなら、やってみたいかな。」
「では、昼からやるか。」
祖父がそう言えば、祖母が縁側からこちらを呼ぶ声が聞こえる。
「うん、昼からなんだ。」
「朝は寒いからな。先ほどの話にも関係あるが。」
僕には元気に見えるけれど、そうとは限らない。どうやらそんな話があるらしい。
「そっか。うん、わかった。」
「それに、少し顔が疲れている。寝て、起きて。それからにしなさい。」
「いつもより、遅かったからかな。」
「そうだろうな。ゆっくりやればいい。2時間ほどの作業だしな。」
「うん。」
そうして、いつものように手を洗って、食事をとる。
ただ、昨夜遅くに、少し食べたからか、今朝もいつもより食べることは出来なかった。
今日から、僕は夜に食べるのやめようか、そんなことを考えてしまうくらいには。
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