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そうしていつものように夕方ごろまであちこちをふらふらと。良さげな物が目の端に止まればその場にしゃがみこんで。そうして拾い上げた石を手の中で転がしてみたり、日に掲げてみたり。
後は適当な草やそこらに落ちている枝で、良さげなものが有ればそれにも手を伸ばして。
いつものようにそんなことをしていれば、早いもので直ぐに日が傾き始める。
それこそ冬場に比べればかなりゆっくりとしたものなのだろうけれど、それでもいつもこうして気が付いた時にはいい時間になっている。
冬場、両親がついて来ている時は、たまに両親もこうしてうろつく僕について来たりもするけれど、二人は大体あの家に、僕も好きな縁側でのんびりとしている。
最初の頃は、面白い趣味だななんて言っていた父も、気が付けば祖父の隣で並んで鉢植えをつついていることも有るし、家には僕の物では無い鉢植えだってある。
手に持てるだけ、そんなに多くはないし、5つ程の石と、2本の枝、そんな物を拾って戻ってみれば、彼女は既に起き上がっていたようだ。
僕も良く座ってのんびりしている縁側で、お茶を飲みながら庭先をぼんやり見ていたようだ。
「おはよ。」
「えっと、こんばんは。外、行ってたんだ。」
「うん。石拾ってた。」
「えっと、そうなんだ。聞いてはいたけど。」
「僕、これ置いてくるから。」
もう少し話していてもいいかなとは思うけど、流石に地面に落ちているものをあれこれと触るから手は汚れているし、何か手に持ったままというのもあれだし。
「あ、うん。ごめんね呼び止めて。」
「いいよ。」
そういっていつものように鉢植えに直ぐには置かずに、石を集めている場所に置いておく。
並べて確かめるのは、明日の朝で良いのだから。
そして手を洗ったら玄関に回って、改めて家に入って、縁側でなんとなく彼女と並んで座る。
「あれが、君の言ってた鉢植え。」
「うん。」
夕日が少し不思議な彩を鉢に植えられた木々に加えている。
毎度悩んでしまうのだけど、どの時間に一番よく見えるようにするのが良いのだろうか。
何となく祖父はそれぞれ分けているようで、夕日、西から指す茜色、それが当たる場所にはそれが様になるような、朝日に映えるものはそちらの方にと、そう並べている気がする。
「僕も、並べ替えようかな。」
「え、何の話。」
「あ、ごめんちょっと考えてた。」
「あ、私の話、聞いてなかったんだ。」
どうやら僕が鉢植えに夢中になっている間に、彼女は何かを言っていたらしい。
「ごめん。全く。」
「もう。勉強、見てほしいって言ってたでしょ。」
「ああ、そういえば。でも、もう晩御飯になるよ。」
「え、早いんだね。」
確かに、時間はそろそろ6時になろうかというころだけど、いつもならその時間にはご飯に呼ばれるのだ。
僕も家ではだいたいその時間に食べてしまうし。
「えっと、普段もこれくらいに起きるの。」
「今日はちょっと寝過ごしちゃったけど、普段はもう少し早いよ。」
「じゃ、明日でいいや。一応課題も終わってるし。」
「なんだか間違えたままになってそうで、気になるけど。」
まぁ、そうだろう。僕は勉強はそこまで得意ではないし、好きでもない。
明日一日、それが最終日。明後日は、僕は昼前にはここを出るから、機会はそこだけとなってしまったけど。
彼女と会って、さて、何日たっただろうか。
こうしてここに来て、自分以外の、家族以外の誰かとこうして並んで縁側を眺めるなんて、想像もしたことが無かった。
「今夜も、山上るの。」
「うん。」
「へー。」
「キミも、来るんだよね。」
「うん。練習しに。でも、どうだろう。僕はゆっくり出るけど。」
「私も一緒でいいよ。これまでだったら、もう今頃山道を歩いてたけど、此処からなら近いから。」
祖父が荷物を取りに行くのに車で。勿論、僕らが歩くような山道を車で進んだ訳ではないだろうが、そうしなければならないほどに遠いのだろう。
何度聞いても、よくもまぁ、そんな事を思ってしまう。
「そっか。じゃ、少しくらいは荷物持つよ。」
「うん、ありがとう。それにしても、此処いいところだね。」
「うん。好きなんだ。」
「こうして家の中からもう星が見えるし。」
「綺麗だよ。冬とか。家の中からのんびり見ると。」
「ちょっとうらやましいかも。」
「また来ればいいんじゃない。」
僕は気軽にそんなことを口にする。
「いいのかな。」
「祖父母がいいって言うなら、良いんじゃないかな。」
「君は良いんだ。」
「良いから、そう言ってるからね。」
そう告げて彼女を改めて見る。
どうにも基本的に夜、月の下ばかりで見ていたけど、こうして改めて見るとなんというか大人っぽく見える。
短く切りそろえてる髪にしても、制服をきっちりと着込んでいる姿にしても。
「髪、短いのが似合うのは羨ましいかな。」
「なにそれ。」
「前、切った時に変だったから。もっと短くすれば似合いそうだったけど。」
「今の長いのも似合ってるよ。」
「邪魔なんだよね。」
「分かるかも。私もなんだかんだで山歩きに邪魔だから切っちゃってるし。」
「僕もそうしたいんだよね。」
そうして何でもないことを彼女と話す。
正直、人を羨ましい、そんな事を口にしたのは初めてかもしれない。
「えっと、括ったりしないの。」
「跡が付くから。それで変な癖がついても嫌だし。」
そうしてのんびりと、年頃らしい会話をしていればすぐに祖母に呼ばれる。
後は適当な草やそこらに落ちている枝で、良さげなものが有ればそれにも手を伸ばして。
いつものようにそんなことをしていれば、早いもので直ぐに日が傾き始める。
それこそ冬場に比べればかなりゆっくりとしたものなのだろうけれど、それでもいつもこうして気が付いた時にはいい時間になっている。
冬場、両親がついて来ている時は、たまに両親もこうしてうろつく僕について来たりもするけれど、二人は大体あの家に、僕も好きな縁側でのんびりとしている。
最初の頃は、面白い趣味だななんて言っていた父も、気が付けば祖父の隣で並んで鉢植えをつついていることも有るし、家には僕の物では無い鉢植えだってある。
手に持てるだけ、そんなに多くはないし、5つ程の石と、2本の枝、そんな物を拾って戻ってみれば、彼女は既に起き上がっていたようだ。
僕も良く座ってのんびりしている縁側で、お茶を飲みながら庭先をぼんやり見ていたようだ。
「おはよ。」
「えっと、こんばんは。外、行ってたんだ。」
「うん。石拾ってた。」
「えっと、そうなんだ。聞いてはいたけど。」
「僕、これ置いてくるから。」
もう少し話していてもいいかなとは思うけど、流石に地面に落ちているものをあれこれと触るから手は汚れているし、何か手に持ったままというのもあれだし。
「あ、うん。ごめんね呼び止めて。」
「いいよ。」
そういっていつものように鉢植えに直ぐには置かずに、石を集めている場所に置いておく。
並べて確かめるのは、明日の朝で良いのだから。
そして手を洗ったら玄関に回って、改めて家に入って、縁側でなんとなく彼女と並んで座る。
「あれが、君の言ってた鉢植え。」
「うん。」
夕日が少し不思議な彩を鉢に植えられた木々に加えている。
毎度悩んでしまうのだけど、どの時間に一番よく見えるようにするのが良いのだろうか。
何となく祖父はそれぞれ分けているようで、夕日、西から指す茜色、それが当たる場所にはそれが様になるような、朝日に映えるものはそちらの方にと、そう並べている気がする。
「僕も、並べ替えようかな。」
「え、何の話。」
「あ、ごめんちょっと考えてた。」
「あ、私の話、聞いてなかったんだ。」
どうやら僕が鉢植えに夢中になっている間に、彼女は何かを言っていたらしい。
「ごめん。全く。」
「もう。勉強、見てほしいって言ってたでしょ。」
「ああ、そういえば。でも、もう晩御飯になるよ。」
「え、早いんだね。」
確かに、時間はそろそろ6時になろうかというころだけど、いつもならその時間にはご飯に呼ばれるのだ。
僕も家ではだいたいその時間に食べてしまうし。
「えっと、普段もこれくらいに起きるの。」
「今日はちょっと寝過ごしちゃったけど、普段はもう少し早いよ。」
「じゃ、明日でいいや。一応課題も終わってるし。」
「なんだか間違えたままになってそうで、気になるけど。」
まぁ、そうだろう。僕は勉強はそこまで得意ではないし、好きでもない。
明日一日、それが最終日。明後日は、僕は昼前にはここを出るから、機会はそこだけとなってしまったけど。
彼女と会って、さて、何日たっただろうか。
こうしてここに来て、自分以外の、家族以外の誰かとこうして並んで縁側を眺めるなんて、想像もしたことが無かった。
「今夜も、山上るの。」
「うん。」
「へー。」
「キミも、来るんだよね。」
「うん。練習しに。でも、どうだろう。僕はゆっくり出るけど。」
「私も一緒でいいよ。これまでだったら、もう今頃山道を歩いてたけど、此処からなら近いから。」
祖父が荷物を取りに行くのに車で。勿論、僕らが歩くような山道を車で進んだ訳ではないだろうが、そうしなければならないほどに遠いのだろう。
何度聞いても、よくもまぁ、そんな事を思ってしまう。
「そっか。じゃ、少しくらいは荷物持つよ。」
「うん、ありがとう。それにしても、此処いいところだね。」
「うん。好きなんだ。」
「こうして家の中からもう星が見えるし。」
「綺麗だよ。冬とか。家の中からのんびり見ると。」
「ちょっとうらやましいかも。」
「また来ればいいんじゃない。」
僕は気軽にそんなことを口にする。
「いいのかな。」
「祖父母がいいって言うなら、良いんじゃないかな。」
「君は良いんだ。」
「良いから、そう言ってるからね。」
そう告げて彼女を改めて見る。
どうにも基本的に夜、月の下ばかりで見ていたけど、こうして改めて見るとなんというか大人っぽく見える。
短く切りそろえてる髪にしても、制服をきっちりと着込んでいる姿にしても。
「髪、短いのが似合うのは羨ましいかな。」
「なにそれ。」
「前、切った時に変だったから。もっと短くすれば似合いそうだったけど。」
「今の長いのも似合ってるよ。」
「邪魔なんだよね。」
「分かるかも。私もなんだかんだで山歩きに邪魔だから切っちゃってるし。」
「僕もそうしたいんだよね。」
そうして何でもないことを彼女と話す。
正直、人を羨ましい、そんな事を口にしたのは初めてかもしれない。
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そうしてのんびりと、年頃らしい会話をしていればすぐに祖母に呼ばれる。
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