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そして
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そして、トモエからの約束を。
優先順位を利用した約束を、オユキが頷いて見せれば揃って扉を潜る。
扉の開閉位であれば、気配でわかりそうなものではあるのだが、互いに互いだけを瞳に移している間に、会話をしている間にいつの間にやら空いていたものであるらしい。
それこそ、さっさと入って来いと言わんばかりに。
そうして、潜った先は、何度となくこれまでに夢で訪れた場所と変わらぬ光景。
「此処は、そう言う事ですか」
夢の中、いつぞやに神殿でオユキの姿が確かに失われていたのだとトモエから聞いた。
だからこそ、そうした場を神々それぞれに持っているのだろう等とオユキは考えていたものだが。
「ええ。すべては、この私。この世界における創造を司る、この私の場に通ずるのですから」
「世迷い毎は、いえ、その」
「言い切っても構わないかと思いますよ、この方に対しても」
「あの、トモエさん、せっかくの場ですから」
主たる神々が揃って等と言う事は、勿論ない。
各神殿で、トモエとオユキでも見ることが出来る神像、その神々の全てがいると言う事は、勿論ない。
だが、やはりとでも言えばいいのだろうか。
関係の深い神々のことごとくが、今この場で、トモエとオユキの決断を見るためにとその影を落としている。
変わらず、中央には稚気に満ちた想像と創造。その両側に、月と安息と、戦と武技を従えて。月と安息の背後にはさらに冬と眠りに氷嵐と風雪、戦と武技の後ろには三狐神が控えている。そして、そこから並ぶ様に水と癒しに、華と恋。
並ぶ神々は、少し遠い記憶となりつつある、水と癒しの神殿を使って改めて婚姻の儀を執り行ったときに見た相手ばかり。その時からかけているのは、雷と輝きくらいだろうか。
「また、皆様、お揃いで、というのも可笑しくはありますが」
「我が巫女と伝道者は、先日以来となるが」
「ええ、その折には、どうにか私も本懐を遂げるための道筋を見出すことが出来ました」
「トモエだけであれば、斬術と殺法の名を知らしめさせたのは、想定外ではあったのだがな」
戦と武技から、トモエに与えられる、トモエが持っている冠が口にされる。
「我が巫女にしても、呼ぶべき名は知らねども」
「ええ、私の信仰は、基本としてトモエさんです」
そして、この流れは、実のところオユキにとって都合が良い流れでもある。
「ですから、是非とも私としては」
「流石に、それは時間がかかりそうです」
オユキはなにも望んで戦と武技の巫女等と言う位を得たわけではない。
選択肢が無いのであれば、まざそれも良いか等と考えていた。だが、ここ一年ほどの間で、気が付いたこともあった。どうやら、トモエという存在は、明確に異なる流れを持つことが出来そうだと。オユキが信仰を、オユキに向けられる感謝であったり、オユキという存在に向けられる畏敬をはじめとする多くの情念。
そうした物を、巫女として、間違いなくトモエの為に、トモエへと捧げているらしいと、そんな事に気が付いた。さらには、もとより合った疑念、それも含めて。
「戦と武技が、いやかと言われれば、ええ、それもあるのですが」
「その、この場であれば答えが得られそうなので」
「生憎と、我も手放す気は無い。ならば、今は我が伝道者よ、そこから先は分かるな」
オユキは、隠し事が得意ではない。
だというのに、このような事をよくもまぁ、隠し通したものだとトモエとしては苦笑い。
成程、出鼻をくじくどころではない、今後こちらに残るのだと決めたときに、冗談じみた困難を用意してくれたものだと。先ごろ出来たのも、己の半分とまではいわない、せいぜいがその半分程度。その程度にはこちらの神々とお暗示ようなものだというのは、理解が出来た。
つまりは、トモエには資格という物が、権利という物が与えられたと言う事でもある。
己の世界樹を育て、もって己の座を高らかに歌い上げる権利が。
そして、オユキからは、その果てに是非とも戦と武技等と言うよく知らぬ相手ではなく、トモエの、戦と武技が言うには斬術と殺法の名のもとに巫女と呼んで欲しいと、そうした話であるらしい。
つまりは、既に指名している相手から、トモエにとっては徐々に馴染んできて、トモエという存在からの認識を切欠に少しづつ過去の父に寄ってきている戦と武技から取り上げて見せてくれと、そうした話であるらしい。
何が一番良くないのかといえば、オユキ自身が、何処かそうした振る舞いに憧れを見出してしまっている処だろう。神々は、人の自由な歩みを保証する以上は、オユキがトモエの下でそのように呼ばれたいのだと言えば、それで話は終わるのだ。
だというのに、そうなっていない。
つまりは、またもオユキの難儀な部分というのが、こうして顕在化したと言えばいいのか。
「どちらにしても、いえ、結論としては」
「ええ」
こちらに残ると決めたのならば、オユキはそうした面倒をトモエに頼むことになるのだと、ここにきて初めて口にしたことになる。では、こちらに残らなければ、少なくとも辞任の上では、ごく一部以外の者たちにとっては、トモエとオユキという姿がこちらに残ったのだとしたらどうなるのか。
「ええ。トモエさんとオユキさんが、こちらに残ると決めたのならば、そうした話も起こるのでしょう。ですが、残らぬと決めたのであれば、改めてこの世界の礎に斬術と殺法を組み込みましょう、ほかならぬあなた方の願いの結果として」
「それは、私が」
「いいえ、他の従属神とそこまで変わりません。精神へと作用を行った複製をつくるだけです。座を持つまでの間は、基本としてその様な扱いですから」
「現世にある、それを考えれば」
「他の従属神にしても、祖霊と呼ばれるまでの間は」
そのあたりは、いよいよオユキがここまでの間に秘めていたこと。
この直後に、先ほどの約束もあり、オユキが口にする言葉があるのだとして。そこで、トモエの太刀を少しでも重たくしてくれようと、そうした策が見て取れる。
トモエにしても、これを秘境などとは決して言わない。
トモエの心が、傾くだけの、オユキの願い、オユキの思う所を最終的に叶えるための一手だと、その理解はある。
だからこそ。
「オユキさん、よもやとは思いますが」
「万が一のための手など、当然打つ物でしょう」
オユキにしても、元よりここでトモエに負けるつもりはない。
色々、不足があるのはオユキも理解している。
だからこそ、打っている手でしかない。
「さて、お二人とも、私たちがこうしていられる時間というのは、揃っていられる時間というのは、やはり長くありません」
「まぁ、お母様の言うとおりね。私が選んだ子達、願いが元の世界の輪廻に、ミズキリという今となっては使途を名乗る深謀と遠慮の思惑を離れたいと願うのならば」
「今この時を除いて、私たちが集まり、見ている、この時間以外では難しいと知りない」
トモエとオユキを絡めとろうというよりも、オユキを絡めとるための数多の策謀を巡らせる男。
何をそこまでと感がる物だが、やはりそうした言葉を聞くたびにトモエの機嫌という物が急変する。
あの男、最早名前を口にするのも、耳に入るのも煩わしいのだと隠しきれていない。
「では、オユキさん」
「はい」
だからこそ、これ以上話が続いて。
互いの大事な決断が、ここに至るまでの道筋の全てがあの男の掌中だなどとは聞きたくないからと。
この後の結末がどうなるのか、それにしてもあの男によってどちらになっても構わないのだとその道筋が引かれてしまっているからこそ。
「先ほどの約束の通りです。オユキさんは、この後の事を、これからの事を」
「私は」
そして、約束を使って、トモエが尋ねる。
オユキは、口に出したくないのだろう。一度、それこそ気軽に口にしようとしたのだろうが、失敗して。
それでも、どうにか、三度ほど、大きく息を吸って、吐いてを繰り返して。
手を握り、己の武器として選んだ、最期に選んだ形の武器を常よりも強く握りこんで。
「私は、最早、疲れました」
「そうでしょうとも」
オユキの言葉に、トモエはやはり頷くしかない。
そもそも、ここに至る直前に、オユキはもう持たぬとみて攫って逃げたのだ。
竜を討ちに行く、そのような建前は用意していた。今もこの場にいる、雷と輝きからの試練を超えに行くのだと、そう話して、事情を知る者たちを無理やりに納得させて。
トモエ自身を騙せてすらいない、只の建前としての言葉で。
その選択をするほどに、オユキが疲弊してしまったのだから。
「憧れの世界、過去の憧れ。それを、こうして今になって再び」
そう、オユキが語ったかつての、ゲーム歳う形でまさに異邦人として在った時には、このような事は無かったのだ。トモエに対して散々に語って聞かせた、かつての世界にはなかった風景、それを見て回る事だけが出来る環境ではない。
「どうにか、トモエさんが口にした願いを果たせました。私が、恐らく特にと紹介した風景ではあったのでしょう」
「ええ、私としても特に気になった風景は確かに見ることが叶いました」
最も、聞いていた話とは随分と異なりましたけど、そうトモエは付け加えて。
「開発者の方々が、ブラックボックスとしていた部分。進捗の数字、その低さが物語っていたのでしょうね」
「今になって、それを進めていると」
「それを考える事にも、最早私は疲れてしまったのです」
こちらに来て、その数字を、両親がきっと関わっていた作品だからと考えて、僅かでもいいから数字を増やそうと確かに考えていた。
その方針のもとに、こちらで決めた方策だったのだ、失われた神々の復権というのは。
「ご両親からの手紙は、まだ残っていますが」
「六つは手に入れました、残り四つ、ではないと分かってしまったので、やはり」
「最初に、全てでいくつあるのか、それを確認しておくべきでしたね」
「ええ」
そして、オユキの決定的な言葉を、トモエはただ待っている。
事ここに至って、最早トモエはオユキを説得する、言葉をもって考えを翻させようなどと考えていない。
この場は、白い空間を、まさにこの上に数多の物を書き上げるのだと言わんばかりの純白の床。そこに今この場にある柱が、それぞれに己の信仰の過多によって、世界を塗り替えて見せている。
最も力が強いとされている月と安息、この柱ですら、僅かに己の司る夜で空と思しき空間を染めている程度。
戦と武技の空間でまま見られる、煌々と輝く七つの月はかろうじてその姿を見せているのだが、夜は広がっていない。他の柱にしても、水と癒しもいくつかの水球がその柱が座す籍の周りに浮かんでいるだけ。いよいよ変わらぬのは、風も吹かぬというのに翻り、巻き上がり舞い落ちる花弁を共とする華と恋、剣に光を湛えてその場に座る戦と武技ばかり。
「ですから、憧れは、憧れのままにしておくべきだったのでしょう。失われたものを、思い出の中で美化しすぎてしまったのでしょう」
「それについては、また議論の余地がありそうなものですね」
「何にせよ、繰り返しますが、私は疲れてしまったのです。ですから」
オユキの疲労は、根深い。
だからこそ、オユキははっきりと口にする。
この世界では、初めて。
そして、周囲にどうしたところで耳目はあるのだが、トモエに向かって。
「ですから、トモエさん。もう、止めましょう。少なくとも、此処まで疲れている私は、もはやいなくなるでしょう。そして、残された、残った新たな私として、このような感情に揺られぬ私として、トモエさんを、トモエさんではないのだと疑う事のない私として、こちらにあれば、良いでしょう」
優先順位を利用した約束を、オユキが頷いて見せれば揃って扉を潜る。
扉の開閉位であれば、気配でわかりそうなものではあるのだが、互いに互いだけを瞳に移している間に、会話をしている間にいつの間にやら空いていたものであるらしい。
それこそ、さっさと入って来いと言わんばかりに。
そうして、潜った先は、何度となくこれまでに夢で訪れた場所と変わらぬ光景。
「此処は、そう言う事ですか」
夢の中、いつぞやに神殿でオユキの姿が確かに失われていたのだとトモエから聞いた。
だからこそ、そうした場を神々それぞれに持っているのだろう等とオユキは考えていたものだが。
「ええ。すべては、この私。この世界における創造を司る、この私の場に通ずるのですから」
「世迷い毎は、いえ、その」
「言い切っても構わないかと思いますよ、この方に対しても」
「あの、トモエさん、せっかくの場ですから」
主たる神々が揃って等と言う事は、勿論ない。
各神殿で、トモエとオユキでも見ることが出来る神像、その神々の全てがいると言う事は、勿論ない。
だが、やはりとでも言えばいいのだろうか。
関係の深い神々のことごとくが、今この場で、トモエとオユキの決断を見るためにとその影を落としている。
変わらず、中央には稚気に満ちた想像と創造。その両側に、月と安息と、戦と武技を従えて。月と安息の背後にはさらに冬と眠りに氷嵐と風雪、戦と武技の後ろには三狐神が控えている。そして、そこから並ぶ様に水と癒しに、華と恋。
並ぶ神々は、少し遠い記憶となりつつある、水と癒しの神殿を使って改めて婚姻の儀を執り行ったときに見た相手ばかり。その時からかけているのは、雷と輝きくらいだろうか。
「また、皆様、お揃いで、というのも可笑しくはありますが」
「我が巫女と伝道者は、先日以来となるが」
「ええ、その折には、どうにか私も本懐を遂げるための道筋を見出すことが出来ました」
「トモエだけであれば、斬術と殺法の名を知らしめさせたのは、想定外ではあったのだがな」
戦と武技から、トモエに与えられる、トモエが持っている冠が口にされる。
「我が巫女にしても、呼ぶべき名は知らねども」
「ええ、私の信仰は、基本としてトモエさんです」
そして、この流れは、実のところオユキにとって都合が良い流れでもある。
「ですから、是非とも私としては」
「流石に、それは時間がかかりそうです」
オユキはなにも望んで戦と武技の巫女等と言う位を得たわけではない。
選択肢が無いのであれば、まざそれも良いか等と考えていた。だが、ここ一年ほどの間で、気が付いたこともあった。どうやら、トモエという存在は、明確に異なる流れを持つことが出来そうだと。オユキが信仰を、オユキに向けられる感謝であったり、オユキという存在に向けられる畏敬をはじめとする多くの情念。
そうした物を、巫女として、間違いなくトモエの為に、トモエへと捧げているらしいと、そんな事に気が付いた。さらには、もとより合った疑念、それも含めて。
「戦と武技が、いやかと言われれば、ええ、それもあるのですが」
「その、この場であれば答えが得られそうなので」
「生憎と、我も手放す気は無い。ならば、今は我が伝道者よ、そこから先は分かるな」
オユキは、隠し事が得意ではない。
だというのに、このような事をよくもまぁ、隠し通したものだとトモエとしては苦笑い。
成程、出鼻をくじくどころではない、今後こちらに残るのだと決めたときに、冗談じみた困難を用意してくれたものだと。先ごろ出来たのも、己の半分とまではいわない、せいぜいがその半分程度。その程度にはこちらの神々とお暗示ようなものだというのは、理解が出来た。
つまりは、トモエには資格という物が、権利という物が与えられたと言う事でもある。
己の世界樹を育て、もって己の座を高らかに歌い上げる権利が。
そして、オユキからは、その果てに是非とも戦と武技等と言うよく知らぬ相手ではなく、トモエの、戦と武技が言うには斬術と殺法の名のもとに巫女と呼んで欲しいと、そうした話であるらしい。
つまりは、既に指名している相手から、トモエにとっては徐々に馴染んできて、トモエという存在からの認識を切欠に少しづつ過去の父に寄ってきている戦と武技から取り上げて見せてくれと、そうした話であるらしい。
何が一番良くないのかといえば、オユキ自身が、何処かそうした振る舞いに憧れを見出してしまっている処だろう。神々は、人の自由な歩みを保証する以上は、オユキがトモエの下でそのように呼ばれたいのだと言えば、それで話は終わるのだ。
だというのに、そうなっていない。
つまりは、またもオユキの難儀な部分というのが、こうして顕在化したと言えばいいのか。
「どちらにしても、いえ、結論としては」
「ええ」
こちらに残ると決めたのならば、オユキはそうした面倒をトモエに頼むことになるのだと、ここにきて初めて口にしたことになる。では、こちらに残らなければ、少なくとも辞任の上では、ごく一部以外の者たちにとっては、トモエとオユキという姿がこちらに残ったのだとしたらどうなるのか。
「ええ。トモエさんとオユキさんが、こちらに残ると決めたのならば、そうした話も起こるのでしょう。ですが、残らぬと決めたのであれば、改めてこの世界の礎に斬術と殺法を組み込みましょう、ほかならぬあなた方の願いの結果として」
「それは、私が」
「いいえ、他の従属神とそこまで変わりません。精神へと作用を行った複製をつくるだけです。座を持つまでの間は、基本としてその様な扱いですから」
「現世にある、それを考えれば」
「他の従属神にしても、祖霊と呼ばれるまでの間は」
そのあたりは、いよいよオユキがここまでの間に秘めていたこと。
この直後に、先ほどの約束もあり、オユキが口にする言葉があるのだとして。そこで、トモエの太刀を少しでも重たくしてくれようと、そうした策が見て取れる。
トモエにしても、これを秘境などとは決して言わない。
トモエの心が、傾くだけの、オユキの願い、オユキの思う所を最終的に叶えるための一手だと、その理解はある。
だからこそ。
「オユキさん、よもやとは思いますが」
「万が一のための手など、当然打つ物でしょう」
オユキにしても、元よりここでトモエに負けるつもりはない。
色々、不足があるのはオユキも理解している。
だからこそ、打っている手でしかない。
「さて、お二人とも、私たちがこうしていられる時間というのは、揃っていられる時間というのは、やはり長くありません」
「まぁ、お母様の言うとおりね。私が選んだ子達、願いが元の世界の輪廻に、ミズキリという今となっては使途を名乗る深謀と遠慮の思惑を離れたいと願うのならば」
「今この時を除いて、私たちが集まり、見ている、この時間以外では難しいと知りない」
トモエとオユキを絡めとろうというよりも、オユキを絡めとるための数多の策謀を巡らせる男。
何をそこまでと感がる物だが、やはりそうした言葉を聞くたびにトモエの機嫌という物が急変する。
あの男、最早名前を口にするのも、耳に入るのも煩わしいのだと隠しきれていない。
「では、オユキさん」
「はい」
だからこそ、これ以上話が続いて。
互いの大事な決断が、ここに至るまでの道筋の全てがあの男の掌中だなどとは聞きたくないからと。
この後の結末がどうなるのか、それにしてもあの男によってどちらになっても構わないのだとその道筋が引かれてしまっているからこそ。
「先ほどの約束の通りです。オユキさんは、この後の事を、これからの事を」
「私は」
そして、約束を使って、トモエが尋ねる。
オユキは、口に出したくないのだろう。一度、それこそ気軽に口にしようとしたのだろうが、失敗して。
それでも、どうにか、三度ほど、大きく息を吸って、吐いてを繰り返して。
手を握り、己の武器として選んだ、最期に選んだ形の武器を常よりも強く握りこんで。
「私は、最早、疲れました」
「そうでしょうとも」
オユキの言葉に、トモエはやはり頷くしかない。
そもそも、ここに至る直前に、オユキはもう持たぬとみて攫って逃げたのだ。
竜を討ちに行く、そのような建前は用意していた。今もこの場にいる、雷と輝きからの試練を超えに行くのだと、そう話して、事情を知る者たちを無理やりに納得させて。
トモエ自身を騙せてすらいない、只の建前としての言葉で。
その選択をするほどに、オユキが疲弊してしまったのだから。
「憧れの世界、過去の憧れ。それを、こうして今になって再び」
そう、オユキが語ったかつての、ゲーム歳う形でまさに異邦人として在った時には、このような事は無かったのだ。トモエに対して散々に語って聞かせた、かつての世界にはなかった風景、それを見て回る事だけが出来る環境ではない。
「どうにか、トモエさんが口にした願いを果たせました。私が、恐らく特にと紹介した風景ではあったのでしょう」
「ええ、私としても特に気になった風景は確かに見ることが叶いました」
最も、聞いていた話とは随分と異なりましたけど、そうトモエは付け加えて。
「開発者の方々が、ブラックボックスとしていた部分。進捗の数字、その低さが物語っていたのでしょうね」
「今になって、それを進めていると」
「それを考える事にも、最早私は疲れてしまったのです」
こちらに来て、その数字を、両親がきっと関わっていた作品だからと考えて、僅かでもいいから数字を増やそうと確かに考えていた。
その方針のもとに、こちらで決めた方策だったのだ、失われた神々の復権というのは。
「ご両親からの手紙は、まだ残っていますが」
「六つは手に入れました、残り四つ、ではないと分かってしまったので、やはり」
「最初に、全てでいくつあるのか、それを確認しておくべきでしたね」
「ええ」
そして、オユキの決定的な言葉を、トモエはただ待っている。
事ここに至って、最早トモエはオユキを説得する、言葉をもって考えを翻させようなどと考えていない。
この場は、白い空間を、まさにこの上に数多の物を書き上げるのだと言わんばかりの純白の床。そこに今この場にある柱が、それぞれに己の信仰の過多によって、世界を塗り替えて見せている。
最も力が強いとされている月と安息、この柱ですら、僅かに己の司る夜で空と思しき空間を染めている程度。
戦と武技の空間でまま見られる、煌々と輝く七つの月はかろうじてその姿を見せているのだが、夜は広がっていない。他の柱にしても、水と癒しもいくつかの水球がその柱が座す籍の周りに浮かんでいるだけ。いよいよ変わらぬのは、風も吹かぬというのに翻り、巻き上がり舞い落ちる花弁を共とする華と恋、剣に光を湛えてその場に座る戦と武技ばかり。
「ですから、憧れは、憧れのままにしておくべきだったのでしょう。失われたものを、思い出の中で美化しすぎてしまったのでしょう」
「それについては、また議論の余地がありそうなものですね」
「何にせよ、繰り返しますが、私は疲れてしまったのです。ですから」
オユキの疲労は、根深い。
だからこそ、オユキははっきりと口にする。
この世界では、初めて。
そして、周囲にどうしたところで耳目はあるのだが、トモエに向かって。
「ですから、トモエさん。もう、止めましょう。少なくとも、此処まで疲れている私は、もはやいなくなるでしょう。そして、残された、残った新たな私として、このような感情に揺られぬ私として、トモエさんを、トモエさんではないのだと疑う事のない私として、こちらにあれば、良いでしょう」
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