遠い隣人との狂想曲(改訂版)

五味

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一章 遠い何処か

現在位置の完全喪失 2

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そもそも惑星に不時着したとして、周囲の状況はあまりに異質だ。
コーンほどのサイズの物体が、周囲に映る景観の一切に損害を与えず着陸できるはずもない。そしてあまりにも現在位置は都合がよすぎる。周囲は樹木がそこら中に生え、枝を伸ばしている。だというのに機体の周辺。この辺りだけそれらが無い。まるで、初めからここにおいてくれ、そうとでも言わんばかりに樹木の無い場所が突然にある。
都合がよすぎる。何もかもが。つまりは、あまりに不自然だ。
変わらずモニターに映る映像は、のびのびと枝葉を伸ばした樹木を映しているし、地面を覆う草花にも荒れた形跡がない。コーン、それだけの質量体が碌な制御もなく落下してきたというのに。最低限の安全対策は行われただろうが、惑星の持つ重力、それに重力子に依る操作を使わないとなれば、相応の被害が今ある場になくてはいけない。

「ここは、一体何処なんだ。」
「不明です。既知の人類居住可能惑星で、当機が通信機能を利用できなくなることは、あり得ません。
 逆説的に、この場は人類未踏宙域に存在する惑星と考えられます。」
「射手座方面から、マゼラン銀河まで移動したとでも?
 それとも、さらに遠い他の銀河系、銀河団に所属する惑星だとでも?
 若しくは、いつものように事前調査隊が見落とした惑星か。こちらで再調査を行い、既に近隣一光年に恒星系は存在しないと、そう結論付けているのに。」

そもそも宇宙空間で、それも他の恒星が観測の邪魔をすることも難しい銀河の果てで。恒星を見落とすことなど、万に一つもない。
そして形骸惑星であれば、どうしてこうも外部が明るいというのか。直前までの記録を正しいとしている。その時間では、こういった居住ユニット内部に、天野の機体を運ぶことは不可能だ。そもそもそうであれば、通信が可能なはずだと、直ぐにその考えを否定する。

「現状得られた情報からは、そのように推察するほかありません。」

そして、完全に天の川銀河ではない、そうであるなら。それこそ遥か昔。そこで行われた無作為転移、それを行った結果として別の銀河、通信すらできない何処かに来た。そうとしか判断ができない。
万が一、幸運を願えば、未だ人類が調査を終えていない、調査漏れが存在する天の川銀河内の何処か、そうなるのだろうが。それにしても、かなり苦しい希望的予測でしかない。

「この機体ほどの体積が出現したにしては、周辺の状況に一切損害がないことに関しては?」
「不明です。」

どうしたところで、転移を行えばその先にあったものを押しのける形となる。高さ72メートル。底面半径6メートル。そのような三角錐型の物体が出現し、こうも周囲に荒れた形跡がない。そんな事はそれこそ考えられない。
そう、結局のところ何もわかっていない。
確認を続けても、分からないことが分かっているということだけだ。

「レディ、コーンの航行機能は起動可能か?」
「いいえ。一部機体の機能が、不全を起こしています。自己走査、修復機能では問題が発見されません。しかし利用は不可。」

天野は痛みを増す頭痛に、頭を抱える。
周囲の状況は、それこそ最悪どれだけ不明でも構わない。だがそれが自分の装備にまで及んでいる、それは話が別だ。

「中尉。大丈夫ですか?
 申し訳ございませんが、現状のバイタルを回復させるための薬剤が利用できません。」
「大丈夫。大丈夫だ。」

天野は応えながら頭を振り、数度深呼吸を繰り返す。そう、既に薬剤について報告は受けている。不安事項、懸念事項、それを頭から外していた天野自身に起因するものだ。
正しく向かい合っていれば、ここまでの衝撃を受ける事は無かったのだから。

「レディ、当機の機能をすべて詳細に確認。
 利用可能なもの、不可能なものをそれぞれリスト化。
 優先順位は、損傷がないものから。損傷のあるものは、修復が終わり次第。」
「了解しました。現状のリストを作成。ご確認ください。」

天野は表示されたリストの項目を、一つ一つ確認していく。ここまでの事をするのは、それこそ長期任務の開始前、オーバーホール後位のものだ。
機内の機能は概ね利用可能、ベノワの機体とのあたり方がまずかったため、一部推進系、センサー類、武装が破損。
航行時に利用する重力作用系のシステムは、外部に対して原因不明のエラー。ただし、機体内の重力調整は問題なく働いている。
武装の大部分は先の戦闘で疲労が蓄積し、修理、調整が必須。加えて実弾兵器の残弾はすでに無い。
電装系も過度の連続使用、機体への負荷により破損しているものも多い。機体の評価は大破。
薬剤だけではなく、備蓄の食料も一部重量に異常がみられ、隔離中。核融合炉の燃料に使う水、機内での生活に使うための水、そのどちらも不明な重量増加が存在している。

天野にとって、特に問題になるのが最後の二つ項目だろう。
一部は機械に置き換えるとはいえ、生体を維持するために食料と水は必要不可欠。
このままでは2週間ほどで食料はつき、あとは餓死を待つだけとなるだろう。
そしてこのような状況で、機体の燃料迄失ってしまえば、帰還どころか生存も不可能だ。

「レディ、2週間以内に帰還、または救援が来る可能性は。」
「現状で得られている情報では、0です。」
「だろうな。推進システム、航行機能の修復の見込みは?」
「原因が特定できないため、不可能です。中尉による、新規での修復指示があれば、実行後検討することは可能です。」

天野はため息をつく。
つまり、生存のために必要な行動は一つということだ。
このままでは、時間がたてば死ぬ。そして、ここは何故だかあまりに都合が良い事に、惑星の上。それも確認できる範囲では、テラフォーミングが終わった後の様な。

「レディ、外部の大気組成、気温が、活動可能なものか確認。機外活動ユニットの準備。」
「了解です。機外活動ユニットの状態確認。問題なし。機体外活動ユニットを装備してください。
 外部センサーによる、組成評価、気温の評価を実行。
 不明な物質の存在を検知。検査ユニットを使用。テスト合格。
 装備を用いず、人類が活動可能です。しかし、大気に未知の成分が含まれています。」

天野は思う、ここまで来たらもう、想定外の事態が発生することこそが、想定内だと。

「不明な成分は、薬品の重量が増えた原因となりうるものか?」
「不明です。現状の成分分析能力では、重量増加の原因となるものは発見できません。
 しかしながら、現状に至るまで当機は完全に密閉されており、外部の待機が混入することはあり得ません。」

その返答に、天野は少し考えて追加の指示を出す。

「レディ、機内の空気も検査。」
「了解です。」

そして、少し待てば結果が出る。

「中尉、当機内部の機体にも、未知の重量増加成分が存在しています。」

それについては、そうなるだろう。そうとしか天野は言えない。密閉されている機体内部、そこにある薬剤を始めとした一部の物が、その絵饗を受けているのだから。

「レディ、身体のモニタリングを可能な限り行ってくれ。機体に含まれている物については、既に摂取している。現状問題が見られない以上、許容せざるを得ない。
 私の体調に問題が発見されていないという事は、生体に害がないとも判断ができる。」
「はい。検査ユニットのテスト結果に、人体への問題は無しと結果が。」
「長期的な影響が発生する可能性は?」
「断言はできませんが、外部の大気成分が、既存の物質のまま変質をしていない以上、可能性は非常に低いと考えられます。より詳細な検査が必要であれば、外部の植物など、この環境下で生育した物を採取してください。」
「それを解析して、より詳細にということだな。」

どのみち天野に選択肢はないのだ。
AIとの会話を続けながら、操縦席との接続ケーブルを外し、機体外活動ユニットを装備するため、保管場所に移動し、装着する。

「中尉。不明な重量増加を検知。中尉からです。」

装備を身に着けた段階で、報告がある。装備には積載重量をはかるためのセンサーがあるため、それ経由だろう。流石に、どこかしこにそんなものは設置していないのだから。

「だろうな。薬剤、食品の重量が増えていたんだ、想定内だ。
 重量増加による、装備の問題の有無は?」
「装備に直近で問題はありません。しかし継続的な使用を行う場合、摩耗速度が上がります。中尉の健康状態も直前まで取得されていた情報から、過剰な精神的負荷を除けば見受けられません。」
「ならば、現状の活動に支障はないということだな。」

装備を終えた天野は、機体外への脱出口に向けて移動を始める。
機体外での活動は、あくまで宇宙空間、極環境の惑星での活動を想定しているため、全身を覆う装備となっている。生身の部分は、やはり呼吸を行う必要が必要もある。それ以上に生体に有害な物が、宇宙空間には多すぎる。
加えて、行動をアシストするための増力機能、通信装備、軍属でもあるため最低限の武装等、相応の重量となっている。

「ハッチ開放。船外活動を開始する。」
「了解です。」

天野が考えることは一つだけ。
帰るのだ。
こんなわけのわからない場所で、ただただ朽ちていってたまるものか。
何としても、あの気のいい連中がいる場所に。
まだ数時間もたっていないのに、なぜか無性に郷愁を感じた。
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