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茜色の空と
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空に近い場所まで、自分の足で歩く。そう書けば随分と向上心に溢れ、上を向いて歩いてきたとそう聞こえるのだろう。
だが私は決してそのような者では無い。
ただそれらしく、周りと歩調を合わせて、そうして歩いてきただけの何処にでもいる人間だ。そのはずだった人間だ。私のこれまでは、ただ前に敷かれた道があり、それを周囲を見ながら歩く。それだけで事足りた。そして、それを疑うことなく歩き切れば、何一つ間違うことなく、ありきたりな終着駅が道の先に有る。そんな道を、周りの者たちと同じように、ただ歩いていただけの。そんな人間だった。
それが今となっては、こうして夜が混じり始めた赤い空、そこに近い所まで足を進めているのだから、何とも皮肉なものだ。
慣らされた道を歩くことに慣れ、空に近いと言った所で視線を僅かにでも下げれば周囲に灰色の影が見えるのだ。その程度道から外れて歩いただけで、こうして疲れて周囲を囲む影に紛れて、灰色に浮かぶシミの一部として背中を預けているのだ。確かに、怠惰と、そう言われても仕方がないのかもしれない。自嘲でしかない、そんな感傷に浸るにはこの場所は本当に丁度良い。地面から離れ、高所に登ってきた自分の内側が何処までも沈んでいる事が何やらおかしさを感じさせる。
最もそんなおかしさに気が付いたところで、笑うほどの体力も残ってはいないのだが。気の早い月と星が、朱色の空を飾っている。そして少し首を傾ければ迫る藍色。そしてここには、それを見たところで気分が浮かぶことのない私。
つまるところ、私が何故こうしているのか。そう聞かれてしまえば、歩いていた道を後ろから随分と早く進んできたものにはじき出されたから。周囲と同じ速度で歩いていたはずの私を。敷かれた道の上、一人分の幅しかないそれを歩いていた私を。後から来たものが随分と早く来て、周囲と同じ速度で歩く私を押しのけてただ先にと歩いて行ったのだ。そして、弾き飛ばされた私が戻るべき道などない。その道は何処までも一人用で、誰かが歩けば、そこをもう歩けるものはいない。そのはずなのに、後から来たものが。
意外でしか無い事が起きた。起きてはならない事が起きた。つられて数人、私と共に歩いていたはずの者達も足を踏み外した。起きるはずが無い事が起きたのだ。驚き、脚をもつれさせたとて、それが当然なのだ。そこで道に踏みとどまった、これまで歩いてきた者達を私は称賛した。乱暴にはじき出された私にしても、そうさせないだけの力があれば、寧ろ逆と出来たのだから。
そして、私と同じという訳ではないが、余波で、あまりの事に驚き道から外れた者達も、どうにか道に戻った者もいれば、戻るべきそれが無くなった者もいるが、私は確かに褒め、慰めた。結局私たちが歩いてきた道は、一人用であったはずのそれは、既に私たちの知らない誰かに占有され、急ぎ駆け抜ける乱暴な足取りで踏みつぶされている。もはや見る影もないほどに。
私たちが揃って、並んで歩いていたそこをまばらに駆け抜けた者達は、その先に何があると考えていたのだろうか。それすら私にはわからない。先にはただ終着駅が待っていて、私たちはそこについたら道から外れそのままそこに腰を下ろすだけだったというのに。先には何もないと知っている私たちだからこそ、互いに歩く速度を決めていたというのに。
ここまでの道を、足元に気を付けて、だからこその速度で急いできた者達だ。ともすれば、その先に有る終着駅すら踏みつぶし、瓦礫の山に変えてそこには何もないからとまたそこから見える誰かの道を後から進んでいくのだろうか。そして、その先でまた誰かを今私がそうなったように道からはじき出して、そうして道を壊しながら進んでいくのだろうか。灰色の世界、その申し子とでも言うように。
私の唯一の後悔という物は、恐らくそれを思い付きこうして考えるだけである事だろうか。今となっては、私は他に周りを歩いていた者たちに声をかける事も出来ない。
道から外れ、弾き飛ばされてしまった私は既にこれまで通りに歩く彼らの遥か後ろだ。これまでは、ゆっくりと歩いてきたつもりであったが私にしても、私たちにしてもそれなりの速さで歩いていたらしい。見上げた空の茜色が相色に染まっていくように。未知に残った者達の背中も既に夜の先に行ってしまったように見ることは出来ない。
そうしてつらつらと考えた私は、灰色から背を離し、何色でもない場所に多く触れる。足はまだ灰色の上にある。
それも、こうして歩みを進めれば、直ぐに離れる。私は何色でもない物に包まれながら、ただ視線を茜色に向ける。夜に追いかけられ、それまで一面を染めていたというのに、ただ追い立てられるようにその割合を減らしていく空を。追い立てられて塗りつぶされていくそれが、私がそこに一時とはいえ浮かんでいるからだろう。
ただ、同じものに思えた。
だが私は決してそのような者では無い。
ただそれらしく、周りと歩調を合わせて、そうして歩いてきただけの何処にでもいる人間だ。そのはずだった人間だ。私のこれまでは、ただ前に敷かれた道があり、それを周囲を見ながら歩く。それだけで事足りた。そして、それを疑うことなく歩き切れば、何一つ間違うことなく、ありきたりな終着駅が道の先に有る。そんな道を、周りの者たちと同じように、ただ歩いていただけの。そんな人間だった。
それが今となっては、こうして夜が混じり始めた赤い空、そこに近い所まで足を進めているのだから、何とも皮肉なものだ。
慣らされた道を歩くことに慣れ、空に近いと言った所で視線を僅かにでも下げれば周囲に灰色の影が見えるのだ。その程度道から外れて歩いただけで、こうして疲れて周囲を囲む影に紛れて、灰色に浮かぶシミの一部として背中を預けているのだ。確かに、怠惰と、そう言われても仕方がないのかもしれない。自嘲でしかない、そんな感傷に浸るにはこの場所は本当に丁度良い。地面から離れ、高所に登ってきた自分の内側が何処までも沈んでいる事が何やらおかしさを感じさせる。
最もそんなおかしさに気が付いたところで、笑うほどの体力も残ってはいないのだが。気の早い月と星が、朱色の空を飾っている。そして少し首を傾ければ迫る藍色。そしてここには、それを見たところで気分が浮かぶことのない私。
つまるところ、私が何故こうしているのか。そう聞かれてしまえば、歩いていた道を後ろから随分と早く進んできたものにはじき出されたから。周囲と同じ速度で歩いていたはずの私を。敷かれた道の上、一人分の幅しかないそれを歩いていた私を。後から来たものが随分と早く来て、周囲と同じ速度で歩く私を押しのけてただ先にと歩いて行ったのだ。そして、弾き飛ばされた私が戻るべき道などない。その道は何処までも一人用で、誰かが歩けば、そこをもう歩けるものはいない。そのはずなのに、後から来たものが。
意外でしか無い事が起きた。起きてはならない事が起きた。つられて数人、私と共に歩いていたはずの者達も足を踏み外した。起きるはずが無い事が起きたのだ。驚き、脚をもつれさせたとて、それが当然なのだ。そこで道に踏みとどまった、これまで歩いてきた者達を私は称賛した。乱暴にはじき出された私にしても、そうさせないだけの力があれば、寧ろ逆と出来たのだから。
そして、私と同じという訳ではないが、余波で、あまりの事に驚き道から外れた者達も、どうにか道に戻った者もいれば、戻るべきそれが無くなった者もいるが、私は確かに褒め、慰めた。結局私たちが歩いてきた道は、一人用であったはずのそれは、既に私たちの知らない誰かに占有され、急ぎ駆け抜ける乱暴な足取りで踏みつぶされている。もはや見る影もないほどに。
私たちが揃って、並んで歩いていたそこをまばらに駆け抜けた者達は、その先に何があると考えていたのだろうか。それすら私にはわからない。先にはただ終着駅が待っていて、私たちはそこについたら道から外れそのままそこに腰を下ろすだけだったというのに。先には何もないと知っている私たちだからこそ、互いに歩く速度を決めていたというのに。
ここまでの道を、足元に気を付けて、だからこその速度で急いできた者達だ。ともすれば、その先に有る終着駅すら踏みつぶし、瓦礫の山に変えてそこには何もないからとまたそこから見える誰かの道を後から進んでいくのだろうか。そして、その先でまた誰かを今私がそうなったように道からはじき出して、そうして道を壊しながら進んでいくのだろうか。灰色の世界、その申し子とでも言うように。
私の唯一の後悔という物は、恐らくそれを思い付きこうして考えるだけである事だろうか。今となっては、私は他に周りを歩いていた者たちに声をかける事も出来ない。
道から外れ、弾き飛ばされてしまった私は既にこれまで通りに歩く彼らの遥か後ろだ。これまでは、ゆっくりと歩いてきたつもりであったが私にしても、私たちにしてもそれなりの速さで歩いていたらしい。見上げた空の茜色が相色に染まっていくように。未知に残った者達の背中も既に夜の先に行ってしまったように見ることは出来ない。
そうしてつらつらと考えた私は、灰色から背を離し、何色でもない場所に多く触れる。足はまだ灰色の上にある。
それも、こうして歩みを進めれば、直ぐに離れる。私は何色でもない物に包まれながら、ただ視線を茜色に向ける。夜に追いかけられ、それまで一面を染めていたというのに、ただ追い立てられるようにその割合を減らしていく空を。追い立てられて塗りつぶされていくそれが、私がそこに一時とはいえ浮かんでいるからだろう。
ただ、同じものに思えた。
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