手が招く

五味

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四章

それから

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そのあとは、直ぐに起きた伊澄が、女の子をこのまま放っておくつもりですかと、これまでよりも気安い調子で話しかけ、彼女を改めて、来客用のソファーに寝かせ、その間に彼は、達成感よりも疲労感に体を支配されたまま、いつもの仕事机に座って、煙草に火をつける。
受けた調査依頼、それに関しては、もう終わっている。
だから、これ以上この事件に関して、彼が何かすることもない。
それでも、まだ残っているいくつもの不可解な点に関しては、頭を何度もよぎる。
そうして、特に何をするでもなく、考え事にふける彼に、そっとマグカップが差し出される。
その光景に、改めて、片が付いたのだと、彼はそんな実感を覚えた。

その後は、起きるなり頭を下げ始めた彼女を、伊澄と共に自宅に送り、そこでこれまでのいきさつを話し、彼女の両親にも謝られる、そんな時間を過ごした。
彼女の両親は、何事もなかったかのように、中村菜緒、その人物が娘を助け、亡くなった、その事実を認識していた。
そして、中村の両親に会いに行きたいと、依頼人が言い出し、それに伊澄も便乗し。
集団で押しかけることとなった。
それでも、一度だけ顔を合わせた、あの気のいい人物は彼らを招き入れ、声を荒げるでもなく、ただ依頼人の謝罪を聞き、彼らの娘が死んだ、それをようやく受け入れられたことを喜んだ。
そして、伊澄の話を聞けば、大変だったと、涙を流した。
ここには、事件の関係者、その多くが集まっている。
その事実に、驚きながらも、やはり涙を流しながら、ただ亡くした人を悼んだ。

そうして、依頼人が泣きつかれてしまったのだろう、眠り始めたことをきっかけに、その場はお開きとなった。
その帰り道に、海斗は改めてお礼を言われ、申し訳ないと、そう謝られた。
そう言った、一通りを終えて、すっかり遅くなっていたこともあり、彼は、改めて伊澄と一緒に花家夫妻の墓参りへと足を運んでいた。
墓前は、彼女かそれとも他の親族か、きれいに整えられている。
それに手を合わせる、そんな彼女の後姿を見ながら、彼は、何処か申し訳なさを覚えながら手を合わせる。
重症ではあったが、それだけで済んでしまった。
その結果、こうなってしまったと、経緯を知った今、彼はどうしてもそんなことを考えてしまう。
それが意味のない、過程の話であったとしても。

そうして、二人で静かに墓前で過ごした後、彼はふと思い返す。
もう過ぎてしまってはいるが、そういえば、一緒に食事をとる約億をしていたなと。

「この後、時間はあるか。」
「知っているでしょう。仕事以外、特にやることのない、そんな人間ですから。」
「そうか。いや、食事でもと、そんな話があっただろう。」
「ええ、誘ってくれて嬉しかったです。ただ。」
「まぁ、確認したら予約もなかったことになっていたからな。
 時間があるなら、少し付き合ってもらえるか。」
「構いませんけど。」

なににとも、どこにとも、告げに彼に少し戸惑いながらも、彼女が頷く。
記憶にある彼女、それこそ昔の彼女は、やはり依頼人と重なるような、何処かおどおどと、常に引いた態度を見せるそんな様子だったが、時間が彼女にも流れ、やはり変わった部分もあるのだ、そんなことを彼は考えながら、携帯囮だし、電話をかける。

あまり時間を置かずに、通話がつながり、相手が何かを言うより早く、彼は話し始める。

「ああ。もしもし、久しぶり。」

そう言えば、相手からは、もっと頻繁に連絡しろだとか、そういった声が上がるが、それを無視して、彼は無理やり箸を続ける。

「分かったから。それで、母さん。今日これから、人を連れて行ってもいいかな。」

それに急すぎると、そういいながらも、大丈夫だけど、相手は誰か、そんな質問が投げかけられる。
彼が誰と話しているのか、呼びかけで気が付いたのだろう。
彼女は目を大きく開けて、驚いている。

「花家伊澄、って、覚えてるかな。」
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感想 14

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みんなの感想(14件)

さん
2021.03.28 さん

誤字だけが残念です。
作品は面白かったです。

解除
petil
2021.03.28 petil

楽しく読ませて頂きました。
終わり方がもやっとしますが、続いたりしますか?

解除
User_1192
2021.03.28 User_1192

完結、お疲れ様でした。

解除

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