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5 変装は基本!
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一度、図書室に戻って、図書委員の仕事を終わらせた。
そして、先輩に手を引かれて、連行された先は、西館の人気のない空き教室──ボランティア部の部室だった。
先に部室に入った先輩が、ぼくに振り返る。
「そういえば、名前を聞いてなかったね? ボクはサツキ」
名字は名乗ってくれなかった。
「神崎如月(かんざき きさらぎ)、です……」
「敬語はいらないよ」
「え、えぇと、サツキ先輩……」
「先輩も付けなくていい」
三年生……なんだよな?
あまりにフレンドリーな態度に、疑ってしまう。
とはいえ、逆らうわけにもいかないので、
「え、あ、じゃあ、サツキ、くん……?」
「うん!」
サツキくん、と呼ぶと、サツキくんは嬉しそうに笑った。
「ぼくは、何をすれば……」
「そうだね、じゃあ如月くん! さっそくだけど……」
言いながら、サツキくんは左手の壁に並んでいるロッカーに向かう。
ゴソゴソと取り出したそれは──うちの学校の制服。
ただし、男子用の学ランではなく、女子用のセーラー服だった。
「これを着てもらいます!」
「な、なんで!?」
「相手次第で相談しにくい人だっているんだから! 変装は基本!」
サツキくんは自信満々に言う。
あっという間に着ていた制服を脱がされて、セーラー服を着させられた。
ついでに鎖骨ぐらいの長さのカツラも被せられる。
ぼくの荷物やズボンはロッカーに片付けられてしまった。
スカートでスースーする足元をおさえる。
いつの間にか、サツキくんはロングヘアのカツラとセーラー服を着用して、堂々と仁王立ちしていた。
「それに、相談に来る人は女子が多いから、女子同士のほうが話しやすいの!」
「分かったよ……」
説明はこじつけにも思えたが、女装への抵抗はあきらめた。
きっと何を言ってもムダだろう。
この人に、口で勝てる気がしない。
ぼくは部室をぐるりと見渡す。
「女の子に気を遣うわりには、部室の中はシンプルだよね。飾り付けとかしないの?」
初めて占いに来たときに抱いた違和感を聞いてみる。
サツキくんはうつむいて、言いにくそうに口を開いた。
「可愛い飾り付けは苦手なんだよね……。ちょっとトラウマがあって」
……可愛い飾り付けに、トラウマ?
女装は平気なのに?
問いただしたくなる妙な価値観だと思った。
しかし、サツキくんは明らかに言いたくなさそうだ。
気まずくなって、ぼくは話題を変える。
「それで、女装の後は、何をすればいいの?」
「誰か来たらドアを開けて。ボクが悩みを聞いて占うから、適当に合わせてくれればいいよ」
適当に合わせる、なんておおざっぱなオーダーに言葉を失う。
「そんな無茶な……」
そのとき。
──トントン。
タイミングがいいのか悪いのか。
ノックの音が、部室にひびいた。
「ごめんください、占い師さん」
続けて放たれる合言葉。
聞き覚えのある声だった。
――イヤな予感がする。
「どうぞ」
サツキくんが応答して、ぼくの方を見た。
ドアを開けろということだろう。
イヤな感じにドキドキする心臓を無視して、ぼくはドアを開ける。
開けたドアの先に立っていたのは、一人の女子生徒。
ボブヘアに映えるピンク色のカチューシャ、ぼくより高い身長――松原さんが立っていた。
そして、先輩に手を引かれて、連行された先は、西館の人気のない空き教室──ボランティア部の部室だった。
先に部室に入った先輩が、ぼくに振り返る。
「そういえば、名前を聞いてなかったね? ボクはサツキ」
名字は名乗ってくれなかった。
「神崎如月(かんざき きさらぎ)、です……」
「敬語はいらないよ」
「え、えぇと、サツキ先輩……」
「先輩も付けなくていい」
三年生……なんだよな?
あまりにフレンドリーな態度に、疑ってしまう。
とはいえ、逆らうわけにもいかないので、
「え、あ、じゃあ、サツキ、くん……?」
「うん!」
サツキくん、と呼ぶと、サツキくんは嬉しそうに笑った。
「ぼくは、何をすれば……」
「そうだね、じゃあ如月くん! さっそくだけど……」
言いながら、サツキくんは左手の壁に並んでいるロッカーに向かう。
ゴソゴソと取り出したそれは──うちの学校の制服。
ただし、男子用の学ランではなく、女子用のセーラー服だった。
「これを着てもらいます!」
「な、なんで!?」
「相手次第で相談しにくい人だっているんだから! 変装は基本!」
サツキくんは自信満々に言う。
あっという間に着ていた制服を脱がされて、セーラー服を着させられた。
ついでに鎖骨ぐらいの長さのカツラも被せられる。
ぼくの荷物やズボンはロッカーに片付けられてしまった。
スカートでスースーする足元をおさえる。
いつの間にか、サツキくんはロングヘアのカツラとセーラー服を着用して、堂々と仁王立ちしていた。
「それに、相談に来る人は女子が多いから、女子同士のほうが話しやすいの!」
「分かったよ……」
説明はこじつけにも思えたが、女装への抵抗はあきらめた。
きっと何を言ってもムダだろう。
この人に、口で勝てる気がしない。
ぼくは部室をぐるりと見渡す。
「女の子に気を遣うわりには、部室の中はシンプルだよね。飾り付けとかしないの?」
初めて占いに来たときに抱いた違和感を聞いてみる。
サツキくんはうつむいて、言いにくそうに口を開いた。
「可愛い飾り付けは苦手なんだよね……。ちょっとトラウマがあって」
……可愛い飾り付けに、トラウマ?
女装は平気なのに?
問いただしたくなる妙な価値観だと思った。
しかし、サツキくんは明らかに言いたくなさそうだ。
気まずくなって、ぼくは話題を変える。
「それで、女装の後は、何をすればいいの?」
「誰か来たらドアを開けて。ボクが悩みを聞いて占うから、適当に合わせてくれればいいよ」
適当に合わせる、なんておおざっぱなオーダーに言葉を失う。
「そんな無茶な……」
そのとき。
──トントン。
タイミングがいいのか悪いのか。
ノックの音が、部室にひびいた。
「ごめんください、占い師さん」
続けて放たれる合言葉。
聞き覚えのある声だった。
――イヤな予感がする。
「どうぞ」
サツキくんが応答して、ぼくの方を見た。
ドアを開けろということだろう。
イヤな感じにドキドキする心臓を無視して、ぼくはドアを開ける。
開けたドアの先に立っていたのは、一人の女子生徒。
ボブヘアに映えるピンク色のカチューシャ、ぼくより高い身長――松原さんが立っていた。
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