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11 ストーカーされてない?

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 バッ!
 弥生くんと目を合わせたまま、サツキくんは不意にタロットカードたちを宙に放り投げた。
 サツキくんがバラバラと舞い散るカードを一つ、取り上げる。
 カードの絵柄を確認して、満足げに微笑んだ。
 そして、やはりというか、そのカードをぼくに押し付けてきた。
「あとはよろしく」
 ──またか。
 渡されたカードは、『影』を表す絵柄が描かれていた。
 ……うーん。
 ぼくは悩みながら、サツキくんと入れ替わり、弥生くんの正面の椅子に座る。
 サツキくんと向かい合っていたときの敵を見るような目つきから一転、飼い主が帰ってきた犬みたいな笑顔になる弥生くん。
 ぼくの恋愛対象が男の子で、イケメンにこんなあからさまな態度を取られたら、勘違いしちゃいそうだ。
 弥生くんが尋ねてくる。
「その適当に取ったカードで、何かわかんのか」
「うん、まぁ……」
 前回の占いを踏まえると、サツキくんはテキトーではなく、意味があってカードの絵柄を選んで、ぼくにヒントとして渡している。
『影』、といえばずっとついてくるもの。
 それとつなぎあわせて、昨日、違和感があったことといえば――
「これはぼくの想像なんだけど、聞いていい?」
「なんだ?」
 ぼくの問いかけに、弥生くんは「なんでも聞いてくれ」と言わんばかりに机に身を乗り出した。
 ……弥生くんのお尻から、ぶんぶんと振られている尻尾が生えているように見える。
 いやいや! そんなこと考えてる場合じゃなくて!
 ぼくは頭を横に振って、変な想像を吹き飛ばした。
 そして、一呼吸置いてから、言う。

「弥生くん、ストーカーされてない?」

 彼の切長のキレイなひとみが、まん丸になった。
「なんで知って……」
 ぼくは『影』のタロットカードをテーブルの上に置く。
 少しばかり不吉な絵柄に、弥生くんは複雑そうな表情になった。
「昨日の放課後、校門で誰かを待ってる、他校の女子を見かけたんだ。その人と帰り道に、たまたまぶつかって、スマホの画面が見えて――弥生くんの写真をアップしてる、SNSアカウントのホーム画面だったよ。……だから、もしかしたらと思って」
「…………」
 弥生くんは、答えない。
 無言のまま、サツキくんのほうに顔を向ける。
 それに気づいたサツキくんは、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「……二週間くらい前に、告白されて、断ったんだ。部活が忙しいからって」
 覚悟したように、ぽつりと弥生くんが語り出す。
「でも、それから学校や駅で俺のこと待つようになって、友達にも迷惑がかかってる。隠し撮りもしょっちゅう。やめろって言ったら『付き合ってくれたらやめる』って……」
 弥生くんは片手をおでこに当てて、ため息をつく。
「そんなことが……」
 ぼくは彼に同情した。
 確かにそれはお手上げだ。
 ストーキングをやめて欲しかったら付き合え、なんて誰も幸せにならないのに……。
「サツキくん……」
「ん?」
 ぼくは窓枠にもたれかかるサツキくんに振り返る。
 サツキくんは口角を上げたまま、首をかしげた。
「なんとかしてあげたいよ」
「その女の子の恋をあきらめさせればいいんじゃない?」
 サツキくんはさも簡単そうに言った。
 それができれば苦労はしない。
 困り果てるぼくに、サツキくんは「はは」とちょっと笑ってから、人差し指を立てた。
「その子は、弥生くんを見ていたいからストーキングしているわけで、弥生くんが他の女の子とイチャイチャしてるところは見たくないんじゃない?」
「なるほど……?」
 ぼくは考える。
 つまり、弥生くんが誰でもいいから女子といちゃついてみせればいいわけで……。
 でも、そんなことに協力してくれる都合のいい女子なんてどこにも――
 …………あ、そっか!
「弥生くん、そのストーカーの子、今も校門にいるよね、行こう」
 ぼくは立ち上がり、弥生くんの手を取る。
「あ、おい、如月!」
「行ってらっしゃ~い」
 サツキくんに手を振られ、ぼくと弥生くんはボランティア部――もとい、占い研究部を後にした。
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