フェスタふたたび

風宮 秤

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フェスタふたたび

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 どうやら二匹目の泥鰌を狙っているようだ。実家に置いてきた裁縫道具に材料一式を持ってきたのが前回より力が入っている証拠だ。マジのようだ。それより、まだこんなにあったのかと驚きだ。確かに泊まり込みで道具をまとめる必要はある。
 今度は、あの友人は出展しないらしい。現実の厳しさを学習したのは良い事だ。しかし、真理子さんはテーブル一つ分の製品を作って並べないといけない。一個だけ作って鏡餅のように展示するのもありだと思うけど・・・、かなりの数を作る覚悟は出来ているようだ。
「猫の手はいらない」とピシャリと言われた。手伝うと考える前から言われてしまっては、部屋の隅で小説を書いているしかないではないか。

 と、驚いたあの日から数か月が経った。
 正直言って、真理子さんの技量だから細かい処まで作り込んでいるのに大量に出来上がった。だからと言って、今回も売れるとは限らない。それがフェスタの厳しい現実だよ。
 会場内をウロウロしているのは参加者だけではない。買いに来るのも参加者だけではない。
 一つ買ってコピーするのは良心的な方だ。インスタOKやツイッターOKなんて出しているとバチバチ写真を撮ってコピーするのもいる。
 見るからに休日出勤のオーラを出して物色しているのもいる。ロゴもそのまま型取りして適当に色づけしてコンテナ輸入。バレたら言い値のデザイン料で買い叩こうとするニュースもあった。デザインの配布会場と化していると言っても過言ではない。
 猛者になると、パクったデザインを隣で売る。席は籤だから本人は開き直るしかないのだろうがパクリと難癖付ける論外もいる。
 結局、劣化品しか作れない相手には勝てても、来場者が食傷気味となれば緩やかな衰退しかない。あのハリネズミのように。
 と、諭したが気にも留めずに作り続けて今日を迎えた。

「今日も休日になのに部長の我儘の所為で役に立たないつまらない会議になりました」
 と、真理子さんをチラチラ見ながら言ったもののフェスタの事で頭がいっぱいのようだ。フェスタが大事なのは分かるけど、これはこれで寂しい。
「いってきます。お客さんが待っているので」
 ガッツポーズで出かけていった。すかさず、忘れ物がないかチェックをする。忘れ物をするような真理子さんではないが万全で望んでほしいからだ。
「さてと。こちらも準備をせねば・・・」


 チケット売り場を横目にゲートに向かう。学生ぐらいが圧倒的に多いが見るからに年上がいるのは妙な安心感がある。カタログを貰い目的のブースを確認してから小説のネタを求めて全部回る事にした。
 我ながら美味しいものは最後に残すタイプだと思いながら見て回る。
 壁画? ライブペイントのようだ。絵具塗れで描いている所をみると、美大なのか? 常連なのか? 描きはじめでは何を描こうとしているのか分からない。
 この壁画に小説を書いたらウケるだろうか? 画面構成から縦書きかな? 改行や空白行を考えると三千文字ぐらいが読みやすい文字の大きさでボリュームになりそう。
「無理だ・・・・」
 手書きでは読める人がいないな。
 と、闇市があった。
「おーー」
 思わず感嘆のため息が漏れてしまった。
 ランプ売り場だ。小さいランプが心をくすぐる。棘のないウニのランプはピンポイントで需要がありそうだ。
「光るキノコがある」
 これはマズイ。足が動かない。あのヤコウタケは本物だろうか? 紅テングタケは光ったっけ? なるほど蓄光粘土だ。あの儚さは本物以上だ・・・。
 ミッションを忘れるところだった。

 真理子さんの売り場は、テーブルが並ぶ真ん中ら辺だ。隣近所が座って売っているのに立って売っている。これは目立つな。マネキン代わりに三角フラスコをデフォルメしたバレッタ。サイドには赤のバイオハザードマークのヘアピンは彼岸花みたいだ。
 テーブルの上は・・・・あんまりない。しょぼいな。
 ちょうどお客さんのようだ。
 胸元のブローチを指さしている。テスラコイルのブローチが気になるらしい。何を話しているのか聞こえないけど真理子さんは頷いてばかりだ。それなのにお客さんが惹き込まれていくのが良く分かる。そして嬉しそうに買っていった。
 真理子さんがこっちを見て固まっている・・・。
 このタイミングで会場が静かになる? みんな動かないし。おかしいでしょ。
「午前中に来てくれたら、色々残っていたのに」
 ご近所ブースの視線が、周りを何となく見てますよぉ・・・を装いながらコンマ数秒ガン見に変わる。
「あと、もう少しで完売なの」
 正面から見ると、テスラコイルのブローチまで綺麗に見える。
「俊くんが言ってたように似たデザインのお店があったよ。前回はなかったのにコピーされるの早いね」
 メガネのテンプルに心臓が付いてる・・・動いてる。
「すごいね・・・」
 フェスタの午前は一時間しかない。おやつの時間はまだまだ。なのに、もう少しで完売する? 前回より作った数も多い様にみえたけど???
「・・・、完売したら帰るの?」
「最後までいる。夕方にならないと来れないお客さんもいるから残してある」
「ホントに来るの?」
「分からない。でも、約束したから」
 なるほど、喜んで貰うためだから商品に魂が宿るんだ。お客さんもそれを感じるからブースの前で足が止まるんだ。
「お昼まだでしょ? 買ってくるよ」
 こんな事なら、先にキッチンカーで買っておけば良かった。お昼を持たずに出たのを知っていたのに買う余裕がないなんて考えてもみなかった。


 閉場時間を知らせるアナウンスが流れている。
 最後の最後まで会場の雰囲気を楽しもうとする来場者。一つでも多く売りたい出展者。半泣きのスーツ姿が足早に通り過ぎていく。満足そうに後片付けをしている出展者。既に帰ってしまった出展者。色々だ。
 二人で座って最後の客を待っている。
「あ! さっきのスーツ女子」
「お迎え出来たみたいね」
 また、閉場時間を知らせるアナウンスが流れた。
「なにか好いものあった?」
 ポケットから紙袋を取り出し短瓶の光るキノコを取り出した。
「ウソ・・・」
 予想外の反応にこちらが狼狽えてしまう。何をやっちまったのか?
 ポシェットから同じ紙袋を取り出すと短瓶の光るキノコを取り出した。
「うそ・・・」
「開場前に買ったの」
 同じデザインの青く光るキノコ。
「ツイッターで見つけて、現物見たら、お迎えしたくなったの」
 同じ物を尊いと思うのは、控えめに言ってかなり嬉しい。でも、口に出して言うのは控えめに言ってかなり恥ずかしい。話題を変える事にした。
「来なかったね?」
「休日出勤で会議だったかも?」
 と覗き込まれてしまった。けど、嬉しそうに言われると罪悪感の方が大きくなってしまう。
「ここに来られる事はとてもラッキーな事だと思う。前回も今回も色々な人から話を聞いたよ。社会人になって来れなくなる人。自分の楽しみを我慢する時もある。首都圏以外だとそもそもくる事が出来ない。だから思いを裏切りたくないよ」
「次は来てくれるかな?」
「他の会場で再会するかも」
 まさかの市場開拓宣言。
 閉場を知らせるアナウンスが流れた。
 テーブルクロスを仕舞うと、出口に急いだ。
「天ぷらの時より売れたのよ」
「二匹目の泥鰌は大漁のようですね」
 閃いたものは同じだった。
「柳川鍋!」
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